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35話 久しぶりの手合わせ (ギルバート)
しおりを挟む「ギルはいいなぁ、僕もそろそろ魔物退治に出たいよ。」
あれから1ヶ月半、まだクラウス様はクリスを前線に出していない。
俺も、クリスを少しでも危険な目に遭わせたくないと思うし、他の騎士団メンバーと出来るだけ関わって欲しくないという、自分勝手な理由でクラウス様の元にいてくれた方が安心出来る。
だけど、森の奥地、強い魔物の巣食う中に入って行こうとしているクリスをいつまでも甘やかすのもクリスの想いを無視しているようで、心が痛い。
「クリスこそ、クラウス様から直接手解きしてもらってるんだろ? お前の方が腕上がってるんじゃないのか? 」
クリスは半月ほど前から、クラウス様の時間が空いている時に手合わせをしてもらっている。
俺がいる時は、俺も来ていいとクラウス様が言ってくれたけど、クラウス様とクリスの二人だけの時間を邪魔するのも気が引けて行っていない。
夜は俺が同部屋でずっと一緒なんだ。たまの二人の練習時間くらい譲ってもいいかと、何となくそんなことを思ってしまって行っていない。
「クラウス様の教え方は確かに上手で、僕も上達してる気はするけど、ギルに敵わないよ。」
最近、魔物と対峙してないからそんなことを言うのか、クリスはどうも自信なさげにため息を着く。
もっと自信もっていいと思うんだけどな・・・
「じゃあ、今日は俺と久しぶりに手合わせするか? 」
俺がそう言うと、クリスは嬉しそうに笑う。
「うん、やろう! 」
俺達は夕飯前のわずかな時間を利用して、外に出た。
正直、クリスの体が何処まで戻っているのか分からなかったので、最初は自然と手を抜いてしまっていた。
「ギル! 手抜いてるでしょ! 僕もう全然平気だから、もっと本気でやってくれないと、僕ギルを叩きのめしちゃうよ? 」
俺の動きに敏感に反応してクリスが怒り出す。
「ごめん、でも本当に大丈夫か? 」
俺が確認の為にもう一度聞くと、クリスは頬を膨らませて怒る。
「だから、大丈夫だって言ってるじゃん! まだクラウス様に手解きしてもらった成果が見せられてないよ? 見ないままでいいの? 」
「いや、見たい、見せてくれ! 」
俺はそういうと共に、剣のスピードを早める。
しばらく剣を混じえてみて、確かにクリスは上達している。
今までも、自らの軽い剣を補うために、体術と身のこなしの軽さでカバーしている所があったけど、今はそれにキレが加わって、より洗練された動きになっている。
さすがクラウス様、クリスの長所を上手く伸ばしている。
完全に俺と互角に渡り会っている。
最後は俺の剣が弾き飛ばされて、俺は両手を上げた。
「参った。クリス凄いな。」
正直に褒めると嬉しそうな顔をしながら俺の剣を拾って渡してくれる。
「クラウス様とばかりやってると、いつも僕が負けて終わっちゃうから全然実感がなかったんだけど、僕強くなれてる? 」
「ああ、驚いた。この半月でこれだけ伸びてると思わなかったよ。」
「本当はね、クラウス様も最初手を抜いてたんだ。僕そんなにヤワじゃないって何度も言って、やっと本気で剣を交えてくれるようになったんだけど、クラウス様にはやっぱり勝てないね。」
「やっぱり俺もクラウス様に教えてもらおうかな。」
「うん、ギルも絶対まだ伸びるよ! 」
クリスは自信満々に俺に言ってくれる。
そうだな、クリスを守るためには遠慮なんてしてられないな・・・
今度は俺も一緒に教えてもらおう。
そう思ってクリスを見ると、穏やかに俺を見るクリスと目が合った。
ん? 俺の事を見ていたのか?
「どうしたんだ? 」
俺の言葉に、クリスは少し恥ずかしそうに俯く。
何かあったんだろうか?
「ギルも、クラウス様も変わらなくて良かった。」
「何が?」
「僕、前に二人の前で思いっきり泣いちゃったから、恥ずかしくて・・・最近はなんか腫れ物に触るみたいに扱われてる気がして居心地悪くて・・・もしかしたら僕は役立たずだって思われたんじゃないかなって、不安だったんだ。」
「バカ、そんなこと思うわけないだろ? 」
クリスは今まで一人で頑張ろうとしすぎていたと思う。
なので、俺とクラウス様が大切に思うあまり甘やかしているのを、そんなふうに受け取ったんだろう。
・・・バカだな・・・、逆なのに。
「俺はクリスの事が一番大事だ、クリスが大怪我するくらいなら、俺が変わってやる。クリスを守りたいと思うから、つい甘やかしてしまうけど、クリスはそれを望んでいないよな? だから俺はクリスの隣に並んでいられるように強くいる。いつでもクリスが俺を頼れるように、いつまでも俺は変わらない。お前の相棒は俺だし、俺の相棒はお前だ。」
クリスの頭を撫でながら、心配要らないと言うように微笑んでみせると、クリスが笑い出す。
「ふふっ、なんか告白みたいだよ? ギル、僕そんな趣味ないから、ごめんね? 」
笑いを堪えながら言い終えてから、耐えられなくなったのか、笑い出す。
「クリス、そんな冗談笑えないわ、俺もそんな趣味ないから勘弁してくれ。」
「だよね! 」
そう言うと、俺の背中に手を回して可笑しそうに背中をバンバン叩く。
「痛てっ、痛いって! 」
「今日の夕飯何かな? お腹空いたー。」
「そうだな。」
そうして俺達はじゃれ合いながら寮へ入っていった。
さっきのクリスの言葉に、悪気がないのは分かる。
照れ隠しで言った言葉だ、だから俺も俺の本当の気持ちは隠したまま、クリスの冗談に付き合う。
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