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49話 絶望と後悔

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「嫌だ!、ギル、ギルーーーー!!!!」

僕は慌てて絶壁から下を覗いた。
遥か下で水しぶきが上がるのが見えた。

「ギル、ギル、嫌だ、嘘だ! 」

「クリス! 辞めろ! 」

僕も下へ行こうとするのを肩を引いて止められる。
見ると、魔物を全て退治し終えたクラウス様が剣を片手に僕の肩を掴んでいた。

「ギルが! ギルが! 助けに行かないと! 」

僕はクラウス様に縋り付くように見上げた。
だけど、クラウス様は首を横に振る。

「クリス・・・この断崖を下へ降りるすべはない。しかも下はかなり流れの早い川だ。下へ降りれたとしても、この場所にギルは居ない。流されてしまっているよ・・・」

「そんな・・・! ギルは? ギルはどうなるの? 」

「・・・この高さを落ちたんだ、・・・水面に叩きつけられて助からないだろう・・・」

「クラウス様、何言ってるの?水面なんだから助かるよ?きっとギルは生きてる、助けに行かないと!」

クラウス様の言ってることがよく分からない。ギルが死ぬはずない。
さっきまで普通に隣にいたんだよ?

「ねぇ、クラウス様! 」

取り乱す僕を、クラウス様が優しく抱きしめる。

「クリス・・・」

その優しい温もりに、一気に涙が溢れる。

「ギル、ギル! 嫌だ!! 何で?・・・・・・うっ・・・わぁーーっ! 」


クラウス様の胸に顔を埋めながらしばらく思いっきり泣いた。
泣き叫ぶ僕を、クラウス様はそっと包んでくれていた。

「ぼく・・・僕ギルに何も伝えてない・・・!」

自分が落ちる瞬間でさえ、僕に微笑んでくれた。
いつも優しいギル、ずっとそばに居てくれる当たり前の存在だと思っていた。
だから、男として生きると決めて、恋する心に蓋をしていた僕には、ギルが僕を好きだと言ってくれるまで、自分の気持ちにも気付けなかった。

やっと自分の気持ちに気付けたのに、僕に勇気がなかったから、ギルに僕の気持ちを伝えることが出来なかった。

居なくなってから後悔するなんて、
8年前と何も変わらない・・・

「僕・・・ギルが好きだ・・・どうしてあの時言わなかったんだ・・・」

クラウス様の胸の中で叫ぶ僕を、クラウス様は強く抱きしめた。
その温もりに、また涙があふれる。


「クリス・・・一度引き返そう。」

クラウス様の腕の中で泣き叫んでいた僕が落ち着くまで、クラウス様はぎゅっと抱きしめていてくれた。
泣き疲れて落ち着いた頃、クラウス様が言うその言葉に、僕は我に返る。

「嫌だ、クラウス様、ギルが生きていたら? 川を流されて何処かで助けを呼んでいるかもしれない。このまま帰るなんて出来ない! 」

訴える僕をクラウス様は優しく見つめる。

「この先私とクリスの2人で切り抜けられると思うか? 今のクリスは平常心じゃない。 私は・・・今のお前を守れる自信が無い。」

クラウス様が悲しそうに僕を見る。

「でも、このままギルを置いて帰れない! 」

もしかしたら生きているかもしれない。きっと大怪我をしている。
僕が行かなかったらギルはどうなる?
もし・・・本当にこの洞窟が魔族の住む国まで繋がっていて、そこまで流されていたら・・・

「僕は1人でもギルを探しに行きます! 」

「ダメだ! 」

「どうして?! 」

「ここまで来れたのも3人の連携があったからだ、クリス1人で何が出来る! 」

クラウス様はそう言ったあと、また僕を強く抱き締めた。

「私にはクリスの安全が最優先だ。ギルは・・・生きている可能性は低い・・・」

絞り出すように言うクラウス様に、クラウス様も辛いのだと理解した。
ギルのことも心配だけど、僕のことも考えてくれてる。
今の僕はきっと何をするか分からない。
ギルが居るなら危険に自ら飛び込んででも行ってしまいそうだ。
それを分かっているから、クラウス様は僕を止めようとしている。

それは団長として正しい判断だと思う。
僕の我儘でクラウス様を困らせる訳にはいかない。
まして、僕が1人で居なくなったらクラウス様も危険になる。
王子であるクラウス様を危険な目に合わせる訳にはいかない・・・

そう思うと、一気に身体の力が抜けて、クラウス様の腕の中で、呆然とくうを見ていた。

ギル・・・僕はどうすればいいの?


「クリス、今は自分が無事帰ることだけを考えろ! 」

クラウス様にそう言われて、目の前に居るクラウス様に視点が定まる。

そうだ、進むのも大変だけど、戻るのも大変だ。
ここまで3人だから進んで来られた。
この道のりをクラウス様と2人で戻らなければいけない。
いつまでもクヨクヨしていられない。
クラウス様を守らなきゃ。


「クラウス様、我儘を言ってごめんなさい。もう大丈夫です。」





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