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53話 2人のお供

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カルロス様は部屋に入ると、すぐに僕を抱くクラウス様を見る。

「そんなに警戒しなくても、何にもしないよ。」

カルロス様の何時ものギラギラした目が今日は少し落ち着いて見える。

「兄上は油断なりませんからね。」

そう言うクラウス様を見てふっと笑ってから僕を見る。

「俺も、クリスに怖がられてるって聞いて、さすがにやり過ぎたと反省してるんだ。少しは信用しろ。」

カルロス様はどうやら、僕がカルロス様を怖がっているのを聞いたみたいだ。

「クリス、ギルの事は聞いた。お前が行方不明の姉を探していることも。そして、洞窟の存在、見逃す訳にはいかない。俺も協力する。姉探しに、俺も同行させてくれ。」

真剣に僕を見て話すカルロス様。
こんな表情は初めて見る。
何時もはふざけてる感じなのに、きっと団長としてみんなの前に立つ時はこんな感じなんだろう。

僕はクラウス様の鼓動を聴きながら落ち着いてカルロス様を見る。

「カルロス様、有難いのですが、姉探しは僕の個人的な事です。第一の団長であるカルロス様に同行いただくなんて出来ません。」

「俺の第一目的は洞窟の調査だ。」

「なら、僕の許可は要らないのでは? 」

「第一目的はそうだけど、俺はクリスの願いも叶えてやりたい。」

「兄上と旅なんて、クリスが危険すぎます。」

僕を抱えるクラウス様がカルロス様を否定する。
クラウス様が話すと、胸に押し付けてる耳に声が反響してなんだかくすぐったい気持ちと、安心を与えてくれる。

「俺はこれ以上クリスに嫌われるようなことはしないさ、まして、ギルを失って傷心のクリスに酷いことはしない。それに、恋人の事はクラウス、お前が守るんだろ? 」

そう言うカルロス様は普通の人に見える。
今までどんな人に見えてたんだって感じだけど、とにかく、怖かった。

「もちろん、私はクリスを離さない。」

クラウス様はそう言うと、抱き寄せた腕に力を入れる。
そういえば、僕はクラウス様の恋人って事になってたんだ。

カルロス様の後ろでそれを知らなかったリオさんが目を丸くして驚いている。
ゴメンね、リオさん。後で嘘だって言っておかなきゃ。

「第一の事は俺の副官に任せれば大丈夫だ、リオとも連携してくれる。クリスが姉を探すというのなら、俺は役に立つぞ。」

カルロス様はにっと笑う。

カルロス様の事は怖い。
突然何をするか分からない。
でも、頼りになるのは確かだ。
すぐにでもギルを探しに行きたい。
あの森を抜けて、洞窟も抜けるには実力者が一緒でなければ無理だと思う。森よりも洞窟の中の方が魔物のレベルが高かった。
少数で移動するならカルロス様は最適だと思う。

カルロス様には気を許さないように、僕が気を付けていればいい。

「分かりました。お願いします。」

僕が、了解すると、カルロス様は
「任せろ」
と言い、クラウス様は
「クリス、私から離れないように」
と今からさらに警戒し、リオさんが、

「お供が王子2人って豪華だね」
と茶化した。

「お供って、僕がお供だよ! 」

慌てて言い直す僕を、2人はくくっと笑う。

「俺はクリスのお供でいいぞ、なんなら従者でも構わん。」

カルロス様が言う。

「私も、クリスのお供で良いですよ、正しくはクリスの事を愛している恋人ですがね。」

クラウス様がウインクしながらクスクスと話す。

もう! なんでみんな僕をからかうんだよ!

膨れる僕を見て、みんながさらに笑っていたのは言うまでもない。


「決まったらお前はもう少し休め、体調を整えたら出発しよう。」

カルロス様はそう言うと部屋を出て行った。
カルロス様が本当に普通だった。



「・・・え? お前ら付き合ってたの? クラウス様、とうとう告っちゃったんだ。 」

カルロス様が居なくなってからリオさんが間髪入れずに聞いてくる。
・・・ん? 告った? 誰が? 誰に?

「いや、兄上からクリスを守るための嘘だよ。」

そう言うクラウス様に、リオさんが口に手を当ててしまったという表情になる。

「クラウス様、ごめん! 」

リオさんが謝っているんだけど・・・ひょっとして、クラウス様が僕に告白したと思ったの?

「リオさん、そんな事あるわけないでしょ、クラウス様が優しいからそういう事にしてくれてるだけですよ。」

笑って言った僕を、リオさんは微妙な顔で見る。

「クリス・・・本当にそう思ってるのか? 」

「え? 」

「いや、気にしなくていいよ、クラウス様優しいもんな。」

何故かリオさんが焦って取り消したけど、さっきの言葉はどういう意味?

「クリス、私は一度着替えに自室に戻るけど、一人で大丈夫か? 」

クラウス様が、僕の考えを遮るように自分の胸にいる僕を覗き込んでくる。

「あ、はい、大丈夫です。」

僕、ずっとクラウス様の腕の中だった。
恥ずかしくなって慌てて手から離れる。

「じゃあ、ゆっくり休んでいなさい。 」

そう言うと、リオさんを連れて出ていってしまった。






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