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73話 双子の入れ替わり
しおりを挟む和やかな夕食の後、ギルはまたレイに連れられて部屋に戻った。
レイは本当に気さくだし、優しいし、魔王には見えない。
「そう言えば、聞きそびれたけど、クリスがレイの伴侶って・・・どういう事? 」
僕とクリスはギルとレイの後をついて行きながら話していた。
「言葉の通りだよ。」
にこにこと笑うクリスは幸せそうだけど・・・
伴侶って、妻夫って事だよね?
「・・・男同志で結婚なんてあるの? 」
「ああ、魔族の間では自由恋愛が普通で、男同志、女同士も結構いるよ。」
軽く言うけど、クリスはそれでいいんだろうか?
魔王様の伴侶ってのは凄いけど、跡継ぎとかどうするんだろう?
・・・って僕が心配する事じゃないか・・・
「くすくす、シアは考えを隠すの下手だね、大丈夫みたいだよ? レイがなんか手があるって言ってたし。」
「そうなんだ。」
「ああ、それは俺たち夫婦の問題だ、深く聞くなよ。」
レイにそう言われて一気に恥ずかしくなる。
夫婦の問題・・・深く聞くなって・・・なんか僕とんでもない事聞いちゃったかも・・・
「くすくす、シアは純粋だね、真っ赤になってる。可愛いなー。」
「おい! あんまりシアをからかうなよ、そいつは本当に純粋なんだから。」
ギルがクリスに注意してるけど、僕はそんなに純粋に見られてるのか・・・なんか複雑。
「そっか、ギルは純粋なシアをずっと守ってくれてたんだね、・・・エロイね。」
「何でそうなるんだよ! 」
ギルが真っ赤になって怒ったけど、僕も怒りたい、何でエロいの?
「あはは、ごめんごめん、」
クリスはふざけて笑ってる。
僕をからかって遊んでるんだ、なんか天使は成長して小悪魔になってましたって感じだな・・・
でも、この関係、楽しいな・・・
ずっとこのまま居られたらいいのに・・・
ギルを部屋まで送り届けて、その日は解散した。
翌日、約束通りカルロス様とクリスの手合わせが始まった。
カルロス様が強いのは知ってる。
だから、最初はクリスを心配したけど、クリスも凄い。カルロス様と渡り合っている。
「レティシアもやると思ってたけど、やるな! 」
「僕もレイに鍛えられたからね! 」
そう言いながら2人は楽しそうに手合わせを続ける。
互角?
そう思ってしばらく見ていると、クリスが魔法を使ったことで決着が着いた。
カルロス様の持つ剣が弾き飛ばされたんだ。
「なっ? 魔法? 」
カルロス様もびっくりしている。
「うん、卑怯な手を使ってごめんなさい。」
ぺろっと舌を出しながら謝るクリスに、カルロス様は笑った。
「いや、それもお前の実力だろう、見せてくれてありがとう。参ったよ。」
カルロス様は負けた後も悔しそうな感じは見せず、平然としている。
さすが、大人だな・・・
僕達が2人に近寄ると、カルロス様がクリスを見てにっと笑った。
「クリス・・・我が騎士団に是非欲しいな。」
その申し出に、クリスもにっこり笑う。
「お誘いは有難いのですが、僕はこの国を捨てるつもりはありません。」
クリスの言葉に、分かっていたことなのに、胸が締め付けられる。
「だろうな。」
カルロス様も分かってて言ったみたい。
クリスの回答に簡単に引下がった。
だけど、僕は聞きたくなかった言葉・・・
「クリス・・・」
「シア、ごめんね、せっかく僕を探しに来てくれたのに、僕はここを・・・レイを捨てることは出来ない。」
クリスが、そう言うだろうということは想像はしてた。
レイの伴侶になったってことは、もう戻らないと覚悟してたからだろう。
「ううん・・・クリスにもう一度会えて、ここで幸せだって分かって良かった。」
クリスにとってはここでの暮らしの方が、僕といた頃よりも長くなってしまっている。
そう簡単に帰るなんて出来ないのは分かる。
だから、僕は最後まで笑顔でいよう。
「君が戻らないと、レティシアがこの先もクリスとして生きる事になってしまう。」
クラウス様が僕の今後を心配して言ってくれる。
確かに、髪が少し伸びるまで、僕は何処かに隠れてて入れ替わればいいかと思ってたけど、クリスが戻らないと、僕はクリスのままでないといけない。
「その点は・・・クリスはレティシアを探し出して、魔物の群れから助ける時に死んだ事にしてください。そして、シアはレティシアに・・・自分に戻ってクラウス様達に助けられたと言って帰ればいい。」
クリスは今までの騎士団のクリスは死んだことにして、僕が助け出されたレティシアだと言って戻ればいいと言っているんだ。
「でも、僕のことはみんな知ってるし、こんな髪型で帰っても誰も僕をレティシアだって信じないよ・・・」
そういう僕を見て、クリスはゆっくりと微笑んだ。
「シア、心配いらないよ。」
そう言った後、クリスは手に持った剣で自分の髪を・・・長くキラキラと光る金糸の髪を切り落とした。
「!!っ、クリス!! 」
思わず叫んだけど、おしりまであった長い髪をバッサリと切り離されて、クリスの髪は肩より上でなびいていた。
何で? とても綺麗な髪を、ずっと伸ばしてたって言ってたのに、何で突然切り落としちゃうの?
理由が分からない僕に、クリスはにっこり笑って、今切り落とした髪を差し出す。
「僕の髪を使ってカツラを作ればいい。」
「・・・・・・っ・・・・・・クリス・・・・・・っ」
その言葉に、僕の泣かないと決めていた涙腺はあっけなく崩壊した。
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