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76話 僕に出来る事(クリストファー)
しおりを挟む夕食の後、ギルを部屋に送り届けてから、僕はレイと部屋に戻った。
「ねぇ、レイ、レティシアは僕をずっと探してくれていたんだ、9年前ここに連れてこられた時からずっと・・・」
「ああ、クリスは嬉しかっただろう。」
そう言ってレイが僕の頭を撫でてくれる。
「うん、めちゃくちゃ嬉しかったんだ。・・・僕は早くに諦めちゃったのにね・・・」
僕も最初はここを何とか抜け出せないか、戻ることは出来ないかってずっと考えてた。
だから、優しく接してくれてたレイに、戦い方を教えて貰って、自力で帰る術を探してた。
なのに、月日が経つにつれて、僕はここでの暮らしに慣れてしまって、帰る事も忘れてた。
何より、何年も経ってしまって、誰も僕の事なんて覚えていない、忘れてしまっただろうと思っていた。
レイと想いが通じた時も、僕はレティシアの事を思い出しもなかった。
自分が幸せになれた事が嬉しくて、自分の事しか考えていなかった。
なのに、レティシアはずっと、僕を失った責任を感じてた。
自分のせいだと思い、自分の女としての幸せを捨てて、僕を見つけることだけに9年間を費やして来たとギルに聞いた。
そして、本当に僕を見つけ出してくれた。
この広い世界で、たった1人の僕を見つける確率がどれほど馬鹿げた確率か・・・それでもレティシアは成し遂げたんだ。
僕はレティシアが大好きだ。
小さい時から、臆病な癖に、僕の前に立って僕を守ってくれる強い存在だった。
いつも笑顔で、僕の嫌な事も進んで自分から引き受けてくれた。
だから、僕はいつも笑顔で、少しでもレティシアの役に立てるよう、本当は臆病なレティシアを男として護るんだって、心の中では思ってた。
だから、あの時、レティシアの代わりに僕が攫われて良かったと思っていた。
臆病なレティシアなら泣いちゃう。
僕は大丈夫、男なんだから平気、そう思った。
レティシアが僕を忘れずに探してくれてたことはとても嬉しかった。
レティシアのおかげでこうしてまた会えることが出来たんだ。
レティシアには幸せになって欲しい。その為なら何でもしてあげたい。
「・・・・・・レイ・・・僕どうしたらいいかな、このままじゃ、シアが女性に戻るのは無理がある。」
問いかける僕に、レイは優しく微笑む。
「クリスのしたいようにすればいい。もう心は決まってるんだろう? 」
そう言って僕の髪をすくい上げて、愛おしそうに眺める。
レイには僕の考えていることなんてお見通しだったみたい。
「うん・・・レイが綺麗だって褒めてくれた髪、嬉しくて、もっと褒めて欲しくて、ずっと伸ばしてたけど、シアにあげてもいいかな。」
そう言って、レイを見上げると、僕の髪にそっとキスをした。
「レティシアの為なら自分の髪も惜しくないって思ってるんだろ? 髪が短くなってもクリスに変わりはない。俺が愛してるのはクリスだ、そんな些細な事で俺は怒らないよ。」
レイはいつも僕が欲しい言葉をくれる。
そんでいちいちカッコイイ。
「・・・レイ・・・ありがとう・・・また惚れ直しちゃったよ・・・」
レイを見上げる僕の頬を流れた涙を、レイはそっと掬い取ってから、僕の目じりの涙を拭うように、目元にそっとキスをした。
翌日、きっとギルは僕とカルロス様の試合を見たいだろうと思って、レイと2人で迎えに行った。
「おはよう、ギル、起きてる? 」
「ああ、おはよう。」
僕が入ると、ギルは既に起きていて、着替えを済ませてベッドに腰掛けていた。
そして、僕達を真剣な表情で見ていた。
「レイ、クリス、ちょうど良かった。少し話があるんだけどいいか? 」
ギルの真剣な表情、なんだろう?
「ああ、いいけど? 」
レイが答えると、ギルはレイの赤い瞳を見つめる。
「レイ、お願いがある。」
「なんだ? 」
「俺は怪我が治るまで帰れない。あの長旅は耐えれないだろう。だから、クラウス様達には俺を置いて帰ってもらうつもりだ。」
まぁ、そうだろうね、みんなでギルの完治待ってたら後1ヶ月は居ないといけない。
さすがに王子様達は帰らないといけないよね。
「ああ、それは分かった。で? お願いと言うのだからそれだけではないだろう? 」
レイの言葉に、ギルは頷いてレイを見た後、僕を見る。
「俺を2年間、ここで鍛えてくれないか? 」
ギルの言葉に、僕はすぐに反応した。
「ちょっと待って? シアは? シアはどうするの? 」
「シアにはクラウス様達と帰ってもらう。」
「はあ? 何言ってるの?せっかく想いが通じたのに、シアを捨てるの? 」
「誰もそんなことは言ってない。シアには・・・待って貰えるなら2年待っていていてもらいたい・・・」
何それ! 自分勝手じゃない?
シアはやっと女性に戻れて、普通の幸せを手に入れられたと思ったのに、今まで頑張ってきたシアをまた我慢させるの?
「ギル・・・自分勝手だよ、僕は反対、教えない! 」
「クリス、落ち着け。」
怒る僕の肩に、レイが手を置いて話しかけてきた。
「これが落ち着いていられる? 僕はレティシアの幸せの為なら何でもする。ギルの事を好きなレティシアに、また待てって言うことなんて出来ないよ!」
「まぁ、待て、ギルも何か考えがあるんだろ? 」
レイはギルの味方なの? なんか面白くない。
「俺は・・・この中の誰よりも弱い。レティシアを好きな男はみんな強いんだ。クラウス様も、カルロス様も、そして、クリス・・・お前も・・・今の俺ではレティシアを守れる自信が無い。他の奴に頼ってばかりは嫌なんだ。すぐに無茶をするレティシアを、自分の手で守れるようになりたい。これは俺の傲慢だってわかってる。だけど、他の奴に大好きなシアを守ってもらうなんてしたくないんだ。」
そう言われて、ギルはシアの事を本当に愛しているからこそ、これからずっと一緒に居られるように、強さを求めているんだと思った。
ギルもきっとかなり悩んだんだ。
やっとシアと想いが通じたんだもんね、離れるなんてしたくないだろうし、離れるのは不安だろう。
だけど、ギルはこの決断をしたんだ。
「・・・僕はレティシアの幸せを邪魔するやつは許さない。シアが反対したら教えない。だけど、シアが覚悟するなら、ギルを最強にしてあげる。」
僕はシアなら、僕を探してくれたシアなら、2年も簡単に待つと言うだろうと思った。
だったら、ギルに、僕が安心して姉を任せられるくらいになってもらう。
「クリス、ありがとう。もちろん、俺が幸せにしてみせるつもりだけど、2年の間にシアが心変わりしても、俺はシアを責めない。受け入れる覚悟は出来てる。」
ギルの覚悟は聞いた。
シアがなんて言うか・・・可哀想だけど、僕はシアの意思に従おう。
そう思っていたけど、結果は想像通り、シアは待つと言った。
なら、僕はギルを鍛えてあげる。
覚悟してよね!
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