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明希の場合 8.
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「明希、入ってもいい?」
しばらく放心したままでいた俺にしびれを切らしたのか、再びノックとともに聞こえてきた声。
俺ははっとして、ドアを開く。
そこにいたのは、今日もイケメンの俺の友人。
俺と同じようにインフルエンザで寝込んでいたはずだけど、その輝きは微塵も薄れていない。そのご尊顔をぼうっと見上げていた俺にとどめを刺すように、翔は神々しいほどまばゆい微笑みをこぼした。
「元気そうでよかった」
いや、お前のせいでまた熱が上がりそうだよ。
気を取り直して。どうぞと招き入れると、翔はこれまた嬉しそうに俺の部屋を見渡している。
おかしい、なぜ翔はこんなにも上機嫌なのか。
休む前、最後に学校で会った時、俺たちは明らかに気まずい空気だった。それも、確実に俺に非がある形で、だ。
翔の考えていることを測り損ねているうちに、気が付けば翔は俺のベッドに座っていた。
俺の狭い部屋には、勉強机とベッドが無理やりおさめられていて、床には座るスペースもない。だから、ベッドに座るのはまぁいいのだけれど。
なぜだか、イケメンが自分のベッドに座っているというシチュエーションにもぞもぞとする。女子でもあるまいし、気にすることなんて何もないはずなのに直視できない。
ただただベッドに座って本をパラパラとめくっているだけの姿がなんと絵になることか。
ん? 本?
「うわぁぁぁぁ!!!!」
「えっなに、びっくりした」
慌てて翔の手から取り上げたのは、孝太郎が暇つぶしにと押し付けていった例のアレ。
「違う! 俺のじゃないから!!」
キョトンとする翔は、ちらりとまたベッドの上に視線を移す。そこには積まれたソレ。
俺はその時、今までにないくらい早く動いたと思う。
さっとソレらを回収し、勉強机の引き出しの中に放り込んだ。
「あー、えっと、翔はもう具合はいいのか?」
「えっ、あぁうん。今日から登校してる。明希に移したの、確実に俺だよな。ごめん」
「いや、しょうがないよ、こういうのは」
当たり障りのない会話。その後すぐ沈黙。
でも、本来はこの空気感が正しい。その重たい雰囲気に俺は逆にほっとした。
そして、背を伸ばす。
「謝らないといけないのは、俺のほうだ」
すべて正直に話す。もともとそう決めていた。友人を失う覚悟をしてた。
それでも震える手を俯いたままぎゅっと握りしめる。
「察してると思うけど、孝太郎……三星と俺はここで一緒に住んでる」
「うん」
「俺の親のことは知ってると思うけど、孝た…三星のとこも父子家庭で、」
「三星くんのこと、孝太郎って呼んでんだ」
「あっ、うん、そう」
「三星くんは、明希のこと『明希ちゃん』って言ってたね」
かけられた声はなぜか楽し気で。顔を上げれば、まぶしいくらいに優しいまなざしが俺を見つめていた。
それは、あまりに今の俺の心境と不釣り合いで。
許されるんじゃないか。そんな浅ましい思いがよぎって、見つめ返すことなんてできない。
「黙ってて、ごめん」
俯いたまま震える声。なんて臆病で、なんて情けない。
「明希」
それなのに、そんな優しい声をかけないでくれ。
沈黙が落ちた部屋にギシリと俺の安いベッドがきしむ音がして、立ち上がった翔の気配が俯く俺に近づく。
ふわりと翔がいつもつけているシトラス系の香水の香りがいつもより鮮明に感じると思ったら、俺は翔に抱きしめられていた。
「しょ、翔?!」
俺よりも高い背、無駄のない、たくましい体。いつも見ていたのに、その温度は初めて知る。
途端にバクバクと脈打ち始めた心臓の音が翔にも聞こえてしまいそうで。俺が身じろぐと、背に回された腕にさらに力がこもった。
「明希」
耳元に直接流し込まれた低音にビクンと体が跳ねる。本当に、リアルに、腰が砕ける……!
「俺ね、隠し事もだけど、明希がごまかそうとしたの、結構ショックだったよ」
そう、だよね。でもね、この状態だと混乱しすぎて頭がシリアスモードに入れない。
「わ、わかった。ちゃんと話すし、とりあえず離れてくれ」
「だめ」
なぜだ。汗だくの男を抱きしめるなんて、そっちだって気持ち悪いだろうよ。
それなのに、なんで背中を撫でる?!
翔の大きな手が俺の背で動くたびに、ぞわぞわと汗が噴き出して止まらない。
「傷ついたなぁ」
いつもは張りのある低音ボイスに悲しみがこもる。
すでに混乱を極めていた俺は、あろうことか行き場をなくしていた腕で、咄嗟に翔を抱きしめ返した。
「ごめん! もう絶対に隠し事はしないし、嘘もつかない!!」
「ん。約束ね」
翔の腕から力が抜け、ようやく解放されたとほっと息をついたのも束の間。
はちみつのようにとびっきり甘くとろけるようなまなざしと、するりと頬をなでていった長い指の冷たさに、俺は膝から崩れ落ちた。
そんな俺を見て翔は笑う。
「あっ、さっきの本、もう一回見せて」
もう、きっと立ち上がれない。
しばらく放心したままでいた俺にしびれを切らしたのか、再びノックとともに聞こえてきた声。
俺ははっとして、ドアを開く。
そこにいたのは、今日もイケメンの俺の友人。
俺と同じようにインフルエンザで寝込んでいたはずだけど、その輝きは微塵も薄れていない。そのご尊顔をぼうっと見上げていた俺にとどめを刺すように、翔は神々しいほどまばゆい微笑みをこぼした。
「元気そうでよかった」
いや、お前のせいでまた熱が上がりそうだよ。
気を取り直して。どうぞと招き入れると、翔はこれまた嬉しそうに俺の部屋を見渡している。
おかしい、なぜ翔はこんなにも上機嫌なのか。
休む前、最後に学校で会った時、俺たちは明らかに気まずい空気だった。それも、確実に俺に非がある形で、だ。
翔の考えていることを測り損ねているうちに、気が付けば翔は俺のベッドに座っていた。
俺の狭い部屋には、勉強机とベッドが無理やりおさめられていて、床には座るスペースもない。だから、ベッドに座るのはまぁいいのだけれど。
なぜだか、イケメンが自分のベッドに座っているというシチュエーションにもぞもぞとする。女子でもあるまいし、気にすることなんて何もないはずなのに直視できない。
ただただベッドに座って本をパラパラとめくっているだけの姿がなんと絵になることか。
ん? 本?
「うわぁぁぁぁ!!!!」
「えっなに、びっくりした」
慌てて翔の手から取り上げたのは、孝太郎が暇つぶしにと押し付けていった例のアレ。
「違う! 俺のじゃないから!!」
キョトンとする翔は、ちらりとまたベッドの上に視線を移す。そこには積まれたソレ。
俺はその時、今までにないくらい早く動いたと思う。
さっとソレらを回収し、勉強机の引き出しの中に放り込んだ。
「あー、えっと、翔はもう具合はいいのか?」
「えっ、あぁうん。今日から登校してる。明希に移したの、確実に俺だよな。ごめん」
「いや、しょうがないよ、こういうのは」
当たり障りのない会話。その後すぐ沈黙。
でも、本来はこの空気感が正しい。その重たい雰囲気に俺は逆にほっとした。
そして、背を伸ばす。
「謝らないといけないのは、俺のほうだ」
すべて正直に話す。もともとそう決めていた。友人を失う覚悟をしてた。
それでも震える手を俯いたままぎゅっと握りしめる。
「察してると思うけど、孝太郎……三星と俺はここで一緒に住んでる」
「うん」
「俺の親のことは知ってると思うけど、孝た…三星のとこも父子家庭で、」
「三星くんのこと、孝太郎って呼んでんだ」
「あっ、うん、そう」
「三星くんは、明希のこと『明希ちゃん』って言ってたね」
かけられた声はなぜか楽し気で。顔を上げれば、まぶしいくらいに優しいまなざしが俺を見つめていた。
それは、あまりに今の俺の心境と不釣り合いで。
許されるんじゃないか。そんな浅ましい思いがよぎって、見つめ返すことなんてできない。
「黙ってて、ごめん」
俯いたまま震える声。なんて臆病で、なんて情けない。
「明希」
それなのに、そんな優しい声をかけないでくれ。
沈黙が落ちた部屋にギシリと俺の安いベッドがきしむ音がして、立ち上がった翔の気配が俯く俺に近づく。
ふわりと翔がいつもつけているシトラス系の香水の香りがいつもより鮮明に感じると思ったら、俺は翔に抱きしめられていた。
「しょ、翔?!」
俺よりも高い背、無駄のない、たくましい体。いつも見ていたのに、その温度は初めて知る。
途端にバクバクと脈打ち始めた心臓の音が翔にも聞こえてしまいそうで。俺が身じろぐと、背に回された腕にさらに力がこもった。
「明希」
耳元に直接流し込まれた低音にビクンと体が跳ねる。本当に、リアルに、腰が砕ける……!
「俺ね、隠し事もだけど、明希がごまかそうとしたの、結構ショックだったよ」
そう、だよね。でもね、この状態だと混乱しすぎて頭がシリアスモードに入れない。
「わ、わかった。ちゃんと話すし、とりあえず離れてくれ」
「だめ」
なぜだ。汗だくの男を抱きしめるなんて、そっちだって気持ち悪いだろうよ。
それなのに、なんで背中を撫でる?!
翔の大きな手が俺の背で動くたびに、ぞわぞわと汗が噴き出して止まらない。
「傷ついたなぁ」
いつもは張りのある低音ボイスに悲しみがこもる。
すでに混乱を極めていた俺は、あろうことか行き場をなくしていた腕で、咄嗟に翔を抱きしめ返した。
「ごめん! もう絶対に隠し事はしないし、嘘もつかない!!」
「ん。約束ね」
翔の腕から力が抜け、ようやく解放されたとほっと息をついたのも束の間。
はちみつのようにとびっきり甘くとろけるようなまなざしと、するりと頬をなでていった長い指の冷たさに、俺は膝から崩れ落ちた。
そんな俺を見て翔は笑う。
「あっ、さっきの本、もう一回見せて」
もう、きっと立ち上がれない。
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