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明希の場合 23.
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それは国際通りでたまたま目を惹かれたお店で見つけた、青いガラスが埋め込まれたイヤーカフ。沖縄の海を詰め込んだような青がすごくきれいで。一度は手に取っただけでお店を離れたけど、やっぱり忘れられなくって。翔が他を見ているうちにこっそり戻って買ってきたものだ。
俺としては結構奮発した買い物だけど、翔からすればきっと大した値段じゃない。それでも、渡したいなと思って、つい買ってしまった。いろいろ迷惑かけたし、世話にもなったから、お礼もかねて、ね。
でも、人へのプレゼントなんて初めて買ったから、どうやって渡すのが正解か全然わからない。星空観賞はガイドさんの説明も終わって、自由時間も残りもうあと少し。翔は結局ずっと俺と一緒にいてくれた。部屋で渡してもいいんだけど。せっかくなら、今渡したいし。
なんて切り出そうかと考えながら、波打ち際のギリギリにしゃがんで、引いていく波を見つめる。
「明希、濡れるよ」
「うわわっ、あっぶな!」
翔に腕を引かれて慌てて立ち上がる。二人で笑いあって、空を見上げた。今の時期はそれほどきれいに星が見えるわけではないらしいが、それでも地元と比べたら差は歴然。
こんなにも星ってあるんだと感動してしまうくらいに空一面に輝いている。いつもは強い光にかき消されてしまう小さな星も、ここではちゃんと見つけてもらえるから。
俺は覚悟を決めてぎゅっと口を引き結び、翔と向かい合った。
「翔の話を聞く前に、ちょっとだけ俺から話ししてもいいか?」
「うん」
俺は一度深く息を吐く。いつの間にか近くから人はいなくなっていて。まるでここだけ切り取られた空間かのように、波の音だけが響いている。
「修学旅行ほんとに楽しかった。来てよかった。全部翔のおかげだ。ありがとう」
「うん」
「今も、俺が、俺なんかが翔と一緒にてもいいのかなって思ってるし、これからも多分また、たくさん間違えると思う。でも、俺、がんばるから。だから、」
俺は、ポケットからイヤーカフの入った小さな箱を取り出して、ずいっと翔の前に差し出した。
「これからも一緒にいてくれないか?」
過去一と言っていいほど心臓はバクバクと脈打っていて、緊張で箱を持つ手が震えている。かっこ悪いなと思いながらも、ここで目をそらすわけにはいかないから。
目の前にいる翔は驚いて目を丸めながら、俺を見つめていた。でも、その顔はすぐに緩んでいく。そして、翔はそっと両手で箱を持つ俺の手を包んだ。
「プロポーズみたいだね」
「はっ?! えっ、ちが、こ、これは、お礼というか、感謝の気持ちというか、」
「ふっ、そっか」
焦る俺から翔は箱を受け取り、さっそくふたを開けると、中に入っているものを取り出して星に照らすように掲げた。明るいところでみると青いガラスも、今は黒く光って見える。
「イヤーカフ?」
「うん、前に着けてるみたから」
今のところピアスはあけていないが、イヤーカフは一緒に出掛けたときに着けているのを見たことがある。そのとき、よく似合ってるなと思ったんだよね。翔ならきっと何をつけても似合うんだろうけど。その中で、俺が渡したそれも身に着けるものの一つの選択肢くらいにしてくれたら嬉しい。
「ありがとう、毎日つける」
「ははっ、たまにでいいって」
「ん-ん、絶対毎日つける」
そんな大げさな、って笑ってみたけど。左耳の上のほうに着けたイヤーカフをそっと撫でる指先があまりにも優しくて。喜んでくれていることが照れてしまうくらいにストレートに伝わってくる。恋人でもないのにアクセサリーを贈るなんてちょっと図々しいだろうかと不安に思っていた気持ちが一気に飛んでいった。
「先、越されちゃったな」
「えっ?」
翔がごそごそとポケットから取り出したのは俺が渡したものと同じブランドロゴの入った箱だった。俺が渡したものよりも少し大きい。いつの間に買っていたのか。全く気が付かなかった。
渡されたものを開けてみると、そこに入っていたのは編み込まれた黒の細い革ひもに、シルバーの金具で縁取られた青いガラスがついたブレスレットだった。
「ちょっと早いけど、誕生日プレゼント」
俺の誕生日は来週だ。でも、翔にはこの間スマホをもらったばかりで。これまでもらうのは申し訳なさすぎる。そう言うよりも先に、くぎを刺されてしまった。
「返品は受け付けてないからね」
翔は俺が手に持っている箱からブレスレットを取り出すと、俺の左手に通した。さっき翔がやったみたいに上に掲げてみる。すると、黒く見えていたガラスが星の光を反射してきらりと青く光った。すごくきれいだ。
「こんなおしゃれなやつ、俺に似合うかな」
「大丈夫だよ、よく似合ってる」
互いにはにかんで、かなり照れくさい。でも、いつの間にか心臓は落ち着いていて、波の音が耳に届くようになっていた。
俺はこれから先ずっと、今日のことを忘れないだろう。
満天の星空も、波の音も、海の匂いも、翔の笑顔も。
「ありがとう、俺も毎日つける」
「うん、毎日つけて」
「そこは遠慮しないのかよ」
「しないよ。言ったでしょ、もう遠慮はしないって」
だけど、俺はまだまだ翔のことを全然わかってなかったみたいだ。
そろそろ部屋に戻ろうと歩き出すと、翔は突然俺の腕を引いた。
「えっ?」
驚いて振り向いたときにはもう、翔の唇が俺の唇に重なっていて。
「ずっと一緒にいようね、明希」
スローモーションのように離れていく翔の唇を目で追って。そこで俺の脳は思考を停止した。キャパオーバーとも言う。
翔に腕を引かれて戻ったホテルの部屋の前で遭遇した孝太郎が俺を見て何か騒いでいたけど。
それ以降はもうダイジェストのように工程をこなし、気が付いたら、家に帰って来てて。
なぜか宅配便で送られてきたジンベイザメのぬいぐるみ(Lサイズ)を抱えていた。
俺としては結構奮発した買い物だけど、翔からすればきっと大した値段じゃない。それでも、渡したいなと思って、つい買ってしまった。いろいろ迷惑かけたし、世話にもなったから、お礼もかねて、ね。
でも、人へのプレゼントなんて初めて買ったから、どうやって渡すのが正解か全然わからない。星空観賞はガイドさんの説明も終わって、自由時間も残りもうあと少し。翔は結局ずっと俺と一緒にいてくれた。部屋で渡してもいいんだけど。せっかくなら、今渡したいし。
なんて切り出そうかと考えながら、波打ち際のギリギリにしゃがんで、引いていく波を見つめる。
「明希、濡れるよ」
「うわわっ、あっぶな!」
翔に腕を引かれて慌てて立ち上がる。二人で笑いあって、空を見上げた。今の時期はそれほどきれいに星が見えるわけではないらしいが、それでも地元と比べたら差は歴然。
こんなにも星ってあるんだと感動してしまうくらいに空一面に輝いている。いつもは強い光にかき消されてしまう小さな星も、ここではちゃんと見つけてもらえるから。
俺は覚悟を決めてぎゅっと口を引き結び、翔と向かい合った。
「翔の話を聞く前に、ちょっとだけ俺から話ししてもいいか?」
「うん」
俺は一度深く息を吐く。いつの間にか近くから人はいなくなっていて。まるでここだけ切り取られた空間かのように、波の音だけが響いている。
「修学旅行ほんとに楽しかった。来てよかった。全部翔のおかげだ。ありがとう」
「うん」
「今も、俺が、俺なんかが翔と一緒にてもいいのかなって思ってるし、これからも多分また、たくさん間違えると思う。でも、俺、がんばるから。だから、」
俺は、ポケットからイヤーカフの入った小さな箱を取り出して、ずいっと翔の前に差し出した。
「これからも一緒にいてくれないか?」
過去一と言っていいほど心臓はバクバクと脈打っていて、緊張で箱を持つ手が震えている。かっこ悪いなと思いながらも、ここで目をそらすわけにはいかないから。
目の前にいる翔は驚いて目を丸めながら、俺を見つめていた。でも、その顔はすぐに緩んでいく。そして、翔はそっと両手で箱を持つ俺の手を包んだ。
「プロポーズみたいだね」
「はっ?! えっ、ちが、こ、これは、お礼というか、感謝の気持ちというか、」
「ふっ、そっか」
焦る俺から翔は箱を受け取り、さっそくふたを開けると、中に入っているものを取り出して星に照らすように掲げた。明るいところでみると青いガラスも、今は黒く光って見える。
「イヤーカフ?」
「うん、前に着けてるみたから」
今のところピアスはあけていないが、イヤーカフは一緒に出掛けたときに着けているのを見たことがある。そのとき、よく似合ってるなと思ったんだよね。翔ならきっと何をつけても似合うんだろうけど。その中で、俺が渡したそれも身に着けるものの一つの選択肢くらいにしてくれたら嬉しい。
「ありがとう、毎日つける」
「ははっ、たまにでいいって」
「ん-ん、絶対毎日つける」
そんな大げさな、って笑ってみたけど。左耳の上のほうに着けたイヤーカフをそっと撫でる指先があまりにも優しくて。喜んでくれていることが照れてしまうくらいにストレートに伝わってくる。恋人でもないのにアクセサリーを贈るなんてちょっと図々しいだろうかと不安に思っていた気持ちが一気に飛んでいった。
「先、越されちゃったな」
「えっ?」
翔がごそごそとポケットから取り出したのは俺が渡したものと同じブランドロゴの入った箱だった。俺が渡したものよりも少し大きい。いつの間に買っていたのか。全く気が付かなかった。
渡されたものを開けてみると、そこに入っていたのは編み込まれた黒の細い革ひもに、シルバーの金具で縁取られた青いガラスがついたブレスレットだった。
「ちょっと早いけど、誕生日プレゼント」
俺の誕生日は来週だ。でも、翔にはこの間スマホをもらったばかりで。これまでもらうのは申し訳なさすぎる。そう言うよりも先に、くぎを刺されてしまった。
「返品は受け付けてないからね」
翔は俺が手に持っている箱からブレスレットを取り出すと、俺の左手に通した。さっき翔がやったみたいに上に掲げてみる。すると、黒く見えていたガラスが星の光を反射してきらりと青く光った。すごくきれいだ。
「こんなおしゃれなやつ、俺に似合うかな」
「大丈夫だよ、よく似合ってる」
互いにはにかんで、かなり照れくさい。でも、いつの間にか心臓は落ち着いていて、波の音が耳に届くようになっていた。
俺はこれから先ずっと、今日のことを忘れないだろう。
満天の星空も、波の音も、海の匂いも、翔の笑顔も。
「ありがとう、俺も毎日つける」
「うん、毎日つけて」
「そこは遠慮しないのかよ」
「しないよ。言ったでしょ、もう遠慮はしないって」
だけど、俺はまだまだ翔のことを全然わかってなかったみたいだ。
そろそろ部屋に戻ろうと歩き出すと、翔は突然俺の腕を引いた。
「えっ?」
驚いて振り向いたときにはもう、翔の唇が俺の唇に重なっていて。
「ずっと一緒にいようね、明希」
スローモーションのように離れていく翔の唇を目で追って。そこで俺の脳は思考を停止した。キャパオーバーとも言う。
翔に腕を引かれて戻ったホテルの部屋の前で遭遇した孝太郎が俺を見て何か騒いでいたけど。
それ以降はもうダイジェストのように工程をこなし、気が付いたら、家に帰って来てて。
なぜか宅配便で送られてきたジンベイザメのぬいぐるみ(Lサイズ)を抱えていた。
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