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画面に表示された名前は――『佐久間 晃成』。
俺は慌てて、通話ボタンを押した。
「は、はい!」
『……あっ、先輩。すみません、こんな遅い時間に』
電話越しだからか、晃成の声がいつもより頼りなく聞こえる。久々に声を聞けた嬉しさと、どうかしたのだろうかという不安が同時にこみあげて、心臓が痛い。
「だ、大丈夫。どうかした?」
『…………』
晃成が何も答えないまま、どれほど時間がたったのか。
沈黙を破ったのは、絞り出したような、あまりにも小さな声だった。
『……先輩に、会いたい……』
体中の血が沸騰したように一気に熱を帯びて、視界がにじむ。
「俺も、俺も会いたい……!」
気づいた時にはベッドから勢いよく起き上がり、そのまま家を飛び出していた。
今、会わないと後悔する。そう思ったから、俺は走った。
電話の向こうからも、俺と同じように荒い息遣いが聞こえてくる。
そして、たどり着いたのはいつも朝、待ち合わせをしていた駅だった。
終電はすでに終わり、深夜の駅には人影もない。
でも、冬の冷たい空気を暖めるように灯る街灯の下には、ずっと避けていたのに、会いたくてたまらない人の姿があった。
「晃成……」
「智也先輩」
俺に気が付いた途端、晃成はふにゃりと情けなく笑った。嬉しさと、不安が混ざったような、今にも泣き出しそうな顔。
そんな顔をさせてしまったのは――俺だ。
「ごめん、晃成」
「……それは、なんの『ごめん』ですか?」
「えっと……避けてて……」
「やっぱり避けてたんだ」
「ご、ごめん」
「今日、学校来てたんですもんね」
「っ! なんで?!」
「瀬良先輩が教えてくれました」
「瀬良ぁぁ!!!」
思わず叫ぶと、晃成はくすっと、少しだけ笑った。
本当に瀬良はおせっかいだ。あとで、連絡しておこう。「ありがとう」って。
「……俺、急に怖くなっちゃって。この先のことも、晃成との関係も……」
「はい。……俺が、いきなり攻めすぎましたね」
「えっ、それは……そう、かも」
あの日、もし晃成のあんな顔を見なければ、俺は晃成への気持ちを自覚しないままだっただろうか。いや、きっとそんなことはない。遅かれ早かれ、絶対に気づいていた。
だって、たとえ知らないままだったとしても、俺は晃成がいない日々に耐えられなかっただろうから。
「焦ってたんです。先輩、全然気づいてくれないから」
結構アピールしてたのに。なんて晃成が言うから、俺はいたたまれなくて顔を両手で覆った。
すると、足音が近づく気配がして、気づいた時には俺の顔から両手が離されていた。
「好きです、智也先輩。俺と付き合ってください」
その真っすぐな視線に、自然と涙があふれ出す。
両手を掴まれているから、拭えないのに、次から次へとあふれ出して、止まらない。
息が詰まって苦しい。でも、俺は必死で、声を上げた。
「うん、うん! 俺も、晃成が好き。恋人になりたい!」
「やったーー!!!!」
「わぁ!!!」
次の瞬間、ふわりと体が浮いた。
まさかこの年で、抱き上げられ、くるくると回される日が来るなんて思ってもみなかった。
驚きながらも俺はしっかりと晃成の首に手を回す。
二人で笑っていると、ボーンと低い時計の音が駅に響いた。視線を上げれば、毎朝見ていたその時計が深夜の2時を指していた。
「さっむ!」
気持ちが落ち着くと、俺は上着も着ないまま家を飛び出してきていたことに気が付いた。
一月の寒さに、パジャマ一枚ではさすがに太刀打ちできない。
「帰ろっか」
晃成に下ろしてもらい、今度は手をつなぐ。
ぎゅっと握り合って、二人並んで歩き出した。
これから先、どうなるかはまだわからない。
寂しさや不安に押しつぶされそうになる日もきっと来る。
でもそんなときは二人で一緒に考えていけば、絶対に大丈夫。
「……今補導されたら、先輩の推薦取り消しになる……?」
「怖いこと言わないで?! 早く帰るよ!」
「え~~」
「……これからだって、いつでも会えるだろ」
「先輩……! 大好きです!」
「あーもう! 走って!」
俺は晃成の手を引いて夜道をまた走り出した。つないだ手だけは離さないよう、ぎゅっと握って。
後ろからは楽しげに笑う声が聞こえた。
《終わり》
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
俺は慌てて、通話ボタンを押した。
「は、はい!」
『……あっ、先輩。すみません、こんな遅い時間に』
電話越しだからか、晃成の声がいつもより頼りなく聞こえる。久々に声を聞けた嬉しさと、どうかしたのだろうかという不安が同時にこみあげて、心臓が痛い。
「だ、大丈夫。どうかした?」
『…………』
晃成が何も答えないまま、どれほど時間がたったのか。
沈黙を破ったのは、絞り出したような、あまりにも小さな声だった。
『……先輩に、会いたい……』
体中の血が沸騰したように一気に熱を帯びて、視界がにじむ。
「俺も、俺も会いたい……!」
気づいた時にはベッドから勢いよく起き上がり、そのまま家を飛び出していた。
今、会わないと後悔する。そう思ったから、俺は走った。
電話の向こうからも、俺と同じように荒い息遣いが聞こえてくる。
そして、たどり着いたのはいつも朝、待ち合わせをしていた駅だった。
終電はすでに終わり、深夜の駅には人影もない。
でも、冬の冷たい空気を暖めるように灯る街灯の下には、ずっと避けていたのに、会いたくてたまらない人の姿があった。
「晃成……」
「智也先輩」
俺に気が付いた途端、晃成はふにゃりと情けなく笑った。嬉しさと、不安が混ざったような、今にも泣き出しそうな顔。
そんな顔をさせてしまったのは――俺だ。
「ごめん、晃成」
「……それは、なんの『ごめん』ですか?」
「えっと……避けてて……」
「やっぱり避けてたんだ」
「ご、ごめん」
「今日、学校来てたんですもんね」
「っ! なんで?!」
「瀬良先輩が教えてくれました」
「瀬良ぁぁ!!!」
思わず叫ぶと、晃成はくすっと、少しだけ笑った。
本当に瀬良はおせっかいだ。あとで、連絡しておこう。「ありがとう」って。
「……俺、急に怖くなっちゃって。この先のことも、晃成との関係も……」
「はい。……俺が、いきなり攻めすぎましたね」
「えっ、それは……そう、かも」
あの日、もし晃成のあんな顔を見なければ、俺は晃成への気持ちを自覚しないままだっただろうか。いや、きっとそんなことはない。遅かれ早かれ、絶対に気づいていた。
だって、たとえ知らないままだったとしても、俺は晃成がいない日々に耐えられなかっただろうから。
「焦ってたんです。先輩、全然気づいてくれないから」
結構アピールしてたのに。なんて晃成が言うから、俺はいたたまれなくて顔を両手で覆った。
すると、足音が近づく気配がして、気づいた時には俺の顔から両手が離されていた。
「好きです、智也先輩。俺と付き合ってください」
その真っすぐな視線に、自然と涙があふれ出す。
両手を掴まれているから、拭えないのに、次から次へとあふれ出して、止まらない。
息が詰まって苦しい。でも、俺は必死で、声を上げた。
「うん、うん! 俺も、晃成が好き。恋人になりたい!」
「やったーー!!!!」
「わぁ!!!」
次の瞬間、ふわりと体が浮いた。
まさかこの年で、抱き上げられ、くるくると回される日が来るなんて思ってもみなかった。
驚きながらも俺はしっかりと晃成の首に手を回す。
二人で笑っていると、ボーンと低い時計の音が駅に響いた。視線を上げれば、毎朝見ていたその時計が深夜の2時を指していた。
「さっむ!」
気持ちが落ち着くと、俺は上着も着ないまま家を飛び出してきていたことに気が付いた。
一月の寒さに、パジャマ一枚ではさすがに太刀打ちできない。
「帰ろっか」
晃成に下ろしてもらい、今度は手をつなぐ。
ぎゅっと握り合って、二人並んで歩き出した。
これから先、どうなるかはまだわからない。
寂しさや不安に押しつぶされそうになる日もきっと来る。
でもそんなときは二人で一緒に考えていけば、絶対に大丈夫。
「……今補導されたら、先輩の推薦取り消しになる……?」
「怖いこと言わないで?! 早く帰るよ!」
「え~~」
「……これからだって、いつでも会えるだろ」
「先輩……! 大好きです!」
「あーもう! 走って!」
俺は晃成の手を引いて夜道をまた走り出した。つないだ手だけは離さないよう、ぎゅっと握って。
後ろからは楽しげに笑う声が聞こえた。
《終わり》
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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