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ケーキの僕は王弟殿下に食べられたい!

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 幼いころに見たあの光景を未だに忘れられないでいる。
 夕焼けが染め忘れた影の中で、どう猛な捕食者に喰らわれるがあまりにも幸せそうで。

 それからずっと、僕は『食べられたい』。



 ◇◇◇◇
「そろそろ僕を食べる気になりましたか、叔父上」
 夜も更けた王宮の一室。月明かりに光る美しいピンクブロンドの髪を白いシーツの上に惜しげもなく乱れさせながら、ギッと僕を睨みつける深緑の瞳を見下ろした。
「私はそんなこと絶対にしない。何度も言わせるな」
 息は上がり、こらえきれない興奮で顔を赤らめているのに、相変わらず強情な人だ。
 そこがまたいいのだけれど。
 何とか荒がる呼吸を零すまいと唇を噛むアーデベルトの口内へと僕は親指をねじ込んだ。
「そんな顔で言われても説得力ありませんよ」
 そのまま上あごを撫で、舌の上をなぞっていく。
 指に纏っていたうっすらとかいた汗が今、この舌先を侵している。
 そう考えるだけで、体中を熱が迸る。
「ねぇ叔父上。僕は、どんな味がしますか?」


 この世界に住まう人の中に、捕食者フォーク被食者ケーキという二次性を持つ者がいるということ知らしめたのは、かれこれ十数年以上前に他の世界からこの地に招かれた『世界樹の客人』だった。
 それ以来、国は二次性を持つ者の調査を行い、併せてその特性発現の報告を義務化、二次性保持者を保護対象とする法律を制定した。
 今ではその概念も浸透し、フォークとケーキがパートナー契約を結ぶことで、不幸な事故、事件の発生を防いでいる。

 捕食者性の発現は後天的なものだが、被食者性は生まれ持ったものだと言われている。
 しかし"味覚を失う"という明確な特性があるフォークと違い、ケーキは自覚できる特性を持たず、二次性を持たないノーマルと呼ばれる人々と表面的には何も変わらない。
 その違いが判るのは、フォークだけ。
 なぜなら、フォークにとってケーキの涙、唾液、汗などの体液、そして血肉こそ、唯一"味"を感じることができるものだからだ。
 その体から香しく甘い香りを漂わせるケーキは、フォークにとってまさに極限の空腹時に目の前に並べられたご馳走なのだという。

 ケーキの特性であるフォークだけが感知できる"甘い香り"は二次性徴に伴って強くなることが多く、僕もケーキであることが分かったのは、思春期を迎えた頃だった。
 気が付いたのはフォークであるこの国の王弟、アーデベルト・フォン・キルシェ。僕の叔父でもある。
 幼い頃は幾分か交流があったが、僕が成長するに連れ、騎士団長として多忙な日々を送るアーデベルトと会う機会は減り、式典で顔を合わせるくらいになっていた。だから、特性が顕著になるで気が付かなかったらしい。

 自分がケーキであると知った時、僕は嬉しかった。
『食べられたい』
 僕の中にずっとあったその欲望にはきちんと理由があったのだと。

 とは言え、王太子という立場である僕は、軽々しく誰かに「食べてくれ」などとは言えない。
 だから近しい身内であるアーデベルトにパートナー契約を提案したのだが、ひたすらにそれを拒まれている。
 パートナー契約はフォークの方がメリットが大きいというにも関わらずだ。
 しかも、拒む理由が、未成年だから、とか、甥だから、とか、年が離れてるからとか。どれもそれらしいけれど、取ってつけたようなものばかり。
 だから僕が成人した今でもパートナー契約は結べぬまま。

「いい加減にしろヴィクトル。フォークならば私の他にもいるだろう」
 アーデベルトの言う通り、他者とパートナー契約を結ぶことも一応考えたし、学友にもフォークはいる。
 でも、もう一度言うが僕は王太子。「そんな畏れ多いことできません…!」なんて怯えた顔で言われたら、食べられる気も起きない。
 僕が求めてているのはそう、こうやって拒絶しながらも、隠しきれない本能を宿した捕食者の鋭い瞳。
 これを僕に向けられるのはアーデベルトの他にいない。
「僕はあなたがいいのです、叔父上」
 甥という立場を利用してアーデベルトが何とかほだされてくれないかとも考えたが、自分にも他人にも厳しい王弟殿下にはこの"甥"という立場は不利にしかならないことをここ数年で悟った。
 それならば、と僕はついに強硬手段に打って出て、今に至るというわけだ。


 深緑の瞳に睨みあげられ、体の奥底からゾクゾクとせりあがる興奮に熱されたケーキの体はフォークを誘う甘い香りを発しているだろう。
 その証拠に、アーデベルトの口端から飲み込み切れなかった唾液が流れている。
 僕はそれをべろりと舌で舐めとった。
「叔父上はフォークなのに、甘いですね」
 一気に顔を赤らめたアーデベルトは、上に覆いかぶさる僕を引きはがそうと腕を伸ばしてきた。でも、難なくそれを掴み、アーデベルトの頭上に片腕で抑え込む。
 アーデベルトは騎士としては痩身で、力も強くはないが、戦闘時にはそれを逆手にとったスピード勝負で右に出るものはいない。
 とは言え、単純な体格から来る力だけで言えば今や僕の方に利がある。だから"抑え込む"だけなら、大した苦はない。
「離せ」
 怒気を込めた声に、さらに鋭くなった深緑の瞳。
 あぁ堪らない。
 恍惚とする僕の視線から逃れるようにアーデベルトは顔をそむけてしまった。
 代わりに細く、白い首筋が露わになっている。そこに唇を落とせば、当然驚いたのだろう。アーデベルトはビクンと体を跳ねさせた。
「首、弱いんですね?」
 顔を上げると、唇を戦慄かせ、顔を真っ赤にするアーデベルトの視線は困惑に満ちている。
 その顔もとてもいい。
 今、アーデベルトは三十代後半。それなのに『桜の王子様』などという二つ名で呼ばれた青年期からその美貌はまるで衰えず、それどころか大人の色気のようなものが加わってさらに輝きを増しているほどだ。
 夜会では男女問わず誰もがため息をつき、彼の目に留まろうとする。
 でもアーデベルトがその誰かの手を取ることはない。

 アーデベルトが僕を、いや、どのケーキともパートナー契約を断る本当の理由。
 それは彼の心に住まうのが、初めて出合った被食者である『世界樹の客人』、ハスミ サクただ一人だからだ。
 出会って数日で婚約者から奪おうとするほど、強烈に惹かれたのだという。そして理性を溶かすほど求めたと……。
 でも、結局サクはアーデベルトを選ぶことはなく、当時はまだ婚約者であったオスマンサス公爵と今も仲睦まじく暮らしている。
「叔父上はまだ、サクのことを想っていらっしゃるのですか?」
 僕の言葉にアーデベルトは深く眉間にしわを寄せた。そしてまた、プイっと横を向く。
「何をバカなことを」
 本当にそう思っているのならば、こちらを向いたままその強い瞳で否定して欲しかった。
 俺は横を向いたままのアーデベルトの顎を掴み、無理やり正面を向かせうる。
「では、僕になさってください」
 そうして、唇を重ねた。
 抑え込んだままの腕が何とか拘束から逃れようともがいている。
 重ねた唇を離し、深緑の瞳を赤く染め、息を荒げているアーデベルトを再び見下ろした。
「お嫌なら僕を蹴り飛ばせばいいのです。あなたならできるでしょう?」
 そう、本当は抑え込んだだけのこんな拘束、アーデベルトならば簡単に外せる。
 でもアーデベルトはグッと唇を噛むだけで、何も言わない。
 だから僕は抑えていた腕を外した。
「叔父上、僕はケーキですからフォークであるあなたに食べられたくて仕方がありません。ですが、それだけではないのです」
 白いシーツに乱れ広がるピンクブロンドの長い髪を一房すくい上げ口付ける。
 色は僕と同じなのに、アーデベルトの髪は柔らかく、滑らかだ。
 この髪に触れたいと思うようになったのはいつだったか。
「僕はずっとあなたに憧れていました。でも、それはいつしか恋心に変わり、今ではあなたに触れたくて仕方がありません」
 強く気高く、美しいアーデベルトは幼いころから僕の憧れの存在だった。だから、ケーキだとわかったときに真っ先にパートナー契約を申し出たのだ。まさか拒否されるなどとは思いもせずに。
 それからはもう毎日のように追い回した。
 だからこそ、知ってしまった。つらさも、弱さも、一人で抱え込み、耐える姿を。寄りかかるすべを知らない、哀しい心を。
 笑ってほしい。でも他の人に笑顔など向けないでほしい。
 泣かないでほしい。でも僕にだけは涙を見せてほしい。
 そのすべてを見たい。そのすべてを僕だけのものにしたい。
「あなたを愛しているのです、アデル」
 幼いころ、"アーデベルト"という名をうまく発音できなかった僕が、僕だけが呼んでいた名。
 その名でもう一度呼ばせてほしい。
「どうか、僕を受け入れていただけませんか」
 アーデベルトのどんな表情もみたい、そう思っているのに今は顔があげられない。
 もし、拒絶の目で見られていたら、怒りをぶつけられたら。そう思うとアーデベルトの髪に触れる手が震えた。

 どれほどそうしていただろう。
 流れた沈黙が一瞬なのか、数分なのか、それすらわからないほどに早鐘を打つ心臓の音だけが響いていた耳に、アーデベルトのため息の音が聞こえた。

 ――やはり、だめか……。

 すくい上げたアーデベルトの髪が指も間から零れ落ちていく。
 その様を目で追うと、体を起こしたアーデベルトと視線が合った。
 その深緑の瞳は優しく僕を見つめていた。幼い僕を見つめていたころのように。
 拒絶はされていない。怒ってもいない。
 でも、結局はアーデベルトにとって僕は幼い子供のままなのだろうか。
 その瞳の意味が分からず困惑の色を浮かべていると、アーデベルトはそっと僕の頬に触れた。
「お前には勝てないな、ヴィー」
「えっ?」
 アーデベルトの言葉が咄嗟に理解できず、ポカンと口を開けたままの僕を見て、アーデベルトはいつも厳しく前を向くその美しい相貌を崩し、フフっと微笑んだ。それにまた見とれてしまう。
「私はお前がかわいい。だからこそ、離れなければならないと思っていた」
 実はな、とアーデベルトが続けた言葉は予想もしていない事実だった。

 僕がケーキだということを聞かされたのは思春期の頃。
 ところが、アーデベルトはそれよりもずっと前から僕がケーキであることに気が付いていたという。
「二次性について聞かされた時、すぐにお前はケーキなのだと思った」
 その頃はまだ強い特性は出ていなかったが、それでも抱き上げるなどして近づいた時に僕から甘い香りを感じていたのだという。まだ幼子だったということもあって、それは子供特有のものなのだろうと思っていたらしい。
 ところが、二次性のことを聞き、それが御し難い本能であることを知ったアーデベルトは、僕を危険にさらさないためにも、僕と距離をとると決めたのだという。
 そして、特性が強くなるころ、他のフォークから危険な目に合わないために知らせたのだ。
 そのあと私にパートナー契約を申し出るとは思ってもみなかったが、とアーデベルトは呆れたように笑った。
「こんなにお前が執念深いとは思ってもみなかった。だが、それもこれもただ本能に引きずられているだけだと思っていたんだ。ただの興味本位だと。だからずっと拒んでいたのだが……」
 途中で言葉を止めたアーデベルトはうつむき、目を伏せた。
 長いまつげが頬に影を落としている。その頬は、少し赤らんでいるように見えた。
「私は……お前の叔父で、年も随分と離れている。それでも……いいのか?」
 心臓がドクンと大きな音を立てた。
 いいに決まっている。いけないはずがない。
 そんなこと、
「今更ですよ」
 そう、わかり切ったことだ。
「僕はあなたがいいのです」
 関係など、年など、どうでもいい。僕はケーキとしても、男としても、アーデベルトが欲しい。
 そうか、とはにかみながら頷くと、アーデベルトは僕の肩に頭を乗せた。
「では、よろしく頼む」

 ――まさか、まさか、まさか……!

 叫びだしそうな心と走り出しそうな体を何とか抑え、僕にもたれかかるアーデベルトを震える手で抱き寄せる。
 こうしたいとずっと思っていた。でも、こうなるとは思っていなかった。
 それなのに、今、アーデベルトは確かに僕の腕の中にいる。抱き寄せた腕に力を込めた。
「苦しいぞ、ヴィー」
 腕の中でくすくすと笑うアーデベルトがたまらなく愛しい。興奮で目が回りそうだ。
 暴走しかける本能を何とかなだめ、腕を緩める。もちろん離したりはしない。
 背に片腕を回したまま、もう片方の手でそっとアーデベルトの頬を撫でる。少し唇を尖らせてためらいを見せた後、アーデベルトは僕の肩に乗せていた頭を持ち上げ、静かに目を閉じた。
 そうして、唇を重ねた。
 さっき、身勝手にしたキスとは違う。柔らかくて、暖かい。
 もっと、と言わんばかりに何度も唇をついばみ、緩く開いた口の中へとたっぷりと唾液を纏わせた舌を入れる。遠慮がちに絡められた舌を引き寄せ、さらに絡ませると、アーデベルトは小さく体を震わせた。
 フォークにとってケーキの体液は他に変わりのないご馳走。
 初めは恐る恐るだったアーデベルトも、すぐに僕の口内を貪り始めた。

 ――あぁ、食べられている。

 離れた唇から名残惜しそうに引いた銀の糸まで舐めとったアーデベルトの瞳は、幼いころに見た、まさに捕食者の瞳だった。

 あの日、僕が見たのはこの世界で最初の捕食者と被食者のパートナーとなった『世界樹の客人』、ハスミ サクと、その伴侶であるオスマンサス公爵がキスを交わす姿だった。
 夕焼けに包まれる中庭の木々たちに隠されながら、いつも穏やかな公爵はどう猛な獣のようにサクの唇を奪い、それを覗き見る僕を鋭い視線で射抜いた。
 サクは誰にも渡さないという強い意志のこめられた瞳と、その内に囲われ、幸せそうにサクの姿から目をそらせなくて。
 "羨ましい"と、体の奥底が疼いたのを覚えている。
 今思えばそれは、僕の中にあるケーキの本能だったんだろう。
 それが今、僕に向けられている。もう正直それだけで達してしまいそうだ。
 頭の中にある理性が溶けていく。本能の赴くままに僕はアーデベルトを押し倒した。


「あっ、あぁ、まてっ、待ってくれヴィー、こらっ、待てヴィクトル!」
 体中に口づけ、口に咥えたアーデベルトの雄芯から白濁を受け止めるところまでは何も言われなかった。でも、それを掌に出し、後孔へと塗りこめようとしたらなぜか叱られた。
「何かダメでしたか?」
 どうして止められたのか分からず、口を尖らせ、不満げな顔をしてみせると、アーデベルトはうっと困ったように眉を下げる。
「……ずるいぞ、そういう顔をするのは」
 どうやらアーデベルトが僕のことを"かわいい"と思っているのは本当のようで、今みたいに子供っぽく甘えた態度を取られると弱いらしい。
 成人した身で可愛こぶるのは正直恥ずかくはあるが、アーデベルトの内側に入り込むためならそんなものいくらでも捨てられる。
 だから僕はわざと甘えた声を出した。
「あなたのに入りたいのです。お嫌ですか?」
 そう言って、そこを指の腹でくっと押してやると、アーデベルトは息を震わせた。
「嫌というか…食べられたいというからには、その…私に抱かれたいのだと思っていたから……」
 どうすればいいのかわからない、とアーデベルトは目を泳がせる。
「かわっ……」
 その思いがけない愛らしさに思わず口を覆った。鼻血、出るかと思った。
 一旦落ち着こう。
 息を吸って、ニッコリと笑顔を作る。ニヤけないよう、細心の注意を払って。
「大丈夫、僕に任せて下さい」
 実際の経験はないが、シュミレーションなら数え切れないほどした。
 それこそ頭の中で何度アーデベルトを抱いたか…。だからどんなプレイもちゃんと妄想、いや、想定済みだ。
 そんなこと、僕のことをまだ『かわいい甥』だと思っているアーデベルトが知ったら、二度と顔を合わせてくれなくなるかもしれないから、言わないが。
 ところが、起き上がっていたアーデベルトを再び倒そうとすると、「でも、」と戸惑ったままのアーデベルトが、上目遣いでこちらをちらりと見た。
 普段、凛とした人の上目遣いは破壊力がえげつない。さっきからアーデベルトの一挙一動に心臓が止まりそうになる。
「っ!!」
 心の中で悶えていると、唐突に下半身に刺激を得た。アーデベルトが僕の雄芯にそっと触れたのだ。驚きすぎてビクリと体を震わせてしまった。
 しかも、アーデベルトはその手で固く張り詰める僕の雄芯をぎゅっと握り、こすり始めたではないか。
「あ、アデル、そんなことをされては堪りません」
「私だってお前に触れたい。私に食べて欲しいのだろう? を……味わわせてはくれないのか?」
 それは、とってもしてほしいです。
 とは言え、僕がアーデベルトに抱かれるという選択肢は正直ない。だから、アーデベルトに主導権を渡すわけにはいかない。
 どうしようか、と考えた末、アーデベルトと上下を入れ替わり、反対を向くように言った。そして、僕は枕を背もたれにベッドのヘッドボードにもたれかかり、目の前に差し出されたアーデベルトの尻たぶを両手でがしりとつかんだ。
 もちろん、アーデベルトの尻が僕の前にあるのだから、アーデベルトの眼前には僕の雄芯がいきり立っている。
 これなら、僕はアーデベルトの後を堪能できるし、アーデベルトは僕を味わえるだろう。
 それにしても、アーデベルトの尻は小さく、筋肉でキュッとしまっていて、弾力がある。これは永遠と揉んでいられる。
 そうやって、尻を揉みしだいていると、アーデベルトは恥ずかしそうに振り向いた。
「あまり揉まないでくれ……」
 尻を僕に向け、揉まれていることが思っていた以上に恥ずかしかったのだろう。そんなことを真っ赤な顔で言われて、やめる男はいるのだろうか。
 いや、いない。
 だからやめません。にこりとだけしておく。
 するといきり立ったまま放置されていた僕の雄芯がふるりと震えた。構ってほしくその存在を自ら主張するなんてまるで拗ねた子供のようだ。わがままな息子で困る。
 アーデベルトもそれに気が付いたのだろう、うぅっと恥じらいを隠せしきれないうめき声をあげると、しぶしぶと前へと向き直った。

 それからはもう互いに夢中だった。
 特にアーデベルトは途中からもう恥じらいなんてどこへやら。まるで飴玉を舐めるかのようにねっとりと僕の雄芯を舐り、しゃぶり、初めて口にする"ケーキ"を味わっていた。その時の顔が見えなかったことだけが心残りだ。次はちゃんとこちらを向いてしてもらおう。
 僕もアーデベルトが夢中になっている隙にアーデベルトの後孔に舌を這わせ、しっかりと堪能させてもらった。もちろん前を擦ることも忘れずに。
 たっぷりと唾液でも濡らし、柔らかくほぐしたそこは思っていた以上にすんなりと僕の指を食んだ。下半身に与えられる快感を享受しつつも、隠し持っていた香油も足しながら指を増やしていけば、僕が達したときには、指を三本も咥えられるようになっていた。
 僕が咥内に放った白濁をごくりと飲み込んだアーデベルトも、僕の腹に一度目よりは少し薄いものを零して、そのままぐったりと倒れこんだ。
「アデル、僕はおいしいですか?」
 そう尋ねると、アーデベルトは顔を隠すように手で覆いながら「ん」と小さく頷いた。
「どんな味がします?」
 精液は特に甘味を強く感じると聞いた。それに自分からするという"味"にも興味がある。
 僕はまだ息を荒げたままぐったりとベッドに沈み込んでいるアーデベルトの顔の横に手を突いて覆いかぶさった。でも、なかなか返事がない。
 まさか寝てしまったのかと慌てて顔を覆っている手をはがすと、隠されていた白い肌は高揚して赤く火照り、薄く張った涙の膜で潤む深緑の瞳は壮絶な程に色気を孕んでいた。
 困ったことに出したばかりのはずの僕の雄があっという間に芯を取り戻していく。
 飛び出そうとする本能を何とか唾液と一緒にゴクリと飲み込んだのに、汗で頬に張り付いているピンクブロンドの髪をそっと払ったら、少しくすぐったそうにはにかむから、結局なけなしの理性はあっという間に吹っ飛んでいった。
「挿れたい。いいですか?」
 ここでだめだと言われたら暴れる自信がある。抑えきれない興奮を荒く吐き出し、肩を上下させる様はまるで獣のようだ。これではどちらが捕食者なのかわからない。
 掴んでいた手をシーツに縫い止め、眼下の愛しい人をじっと見やって答えを待てば、チラリとこちらを見てから視線を落とし、また「ん」と小さく頷いてくれた。
「ありがとうございます、アデル」
 少しでも負担を減らすために腰の下に枕を差し込み、足を持ち上げる。さっき指で丁寧に拓いたアーデベルトの秘部に、香油をたっぷりと塗り込んだ雄芯をあてがうと、そこは柔らかく口を開き、僕を迎え入れてくれた。
「うぅ、んっ……」
 腰を進めた先はやはりまだ狭い。苦しげに呻くアーデベルトの顔にキスを落として気を紛らわせながら、更に奥を暴いていく。
 焦らないように、ゆっくりと。
 そうは思っていても、口淫とはまた違う絡め取られるような快感に体が言うことを聞かなくなっていく。
 全てをアーデベルトの中に収めるころにはもう達してしまいそうで、それをこらえるのに必死だった。
「せん、ぶ、入った……?」
 その苦しげな声にはっとして、ようやくアーデベルトから目を離してしまっていたことに気が付いた。初めてとはいえ、なんとも情けない。
 でも、こんなになんて、想定外だった。やはり、シミュレーションは所詮、シミュレーションに過ぎないということだ。
 だって、あれほど妄想したアーデベルトがいやらしく乱れる姿なんかより、今目の前にいる息も絶え絶えに顔をゆがめる姿のなんと愛しいことか。
 暴発しそうな息子殿を何とかなだめ、アーデベルトの額にキスをする。
「はい、全部入りました。ようやく、あなたに食べてもらえた」
「なんだ、『食べられたい』というのは意味だったのか?」
「ふふっ、、ですよ」
 そう、僕が持つケーキとしての本能も、人としての本質も、求めるものは同じ。
 愛する人と一つになりたい。
 それだけなのだ。
「愛しています、アデル」
「あぁ私も愛しているよヴィー」
 きっとまだアーデベルトの持つ想いは、僕と同じものではないだろう。
 それでも、絶対に僕以外を食べたいなどと思わせたりはしない。
 この美しい捕食者フォークは僕のものなのだから。

 囲うようにアーデベルトの背に腕を回して腰を引き、またゆっくりと中へと押し入る。
 徐々に抽挿を早めていけば、あっという間に絶頂へとたどり着いてしまう。
「アデル、すみません。僕、もう……あっ!」
 弱音を漏らしたと同時に、アーデベルトがぎゅっと僕の腰を両足で絞めるもんだから、そんなの絶えられるわけがない。
 あっという間に果ててしまった情けなさと恥ずかしさをぶつけるように、口を尖らせアーデベルトをグッと睨みあげると、唐突に唇を舐められた。
「もっと、食べさせてくれるんだろう?」
 欲を纏った扇情的なその深緑の瞳はまさに捕食者そのもので、ゾクリと背が疼いた。

 ――あぁ、最高。

 僕はもう一度アーデベルトにキスをし、あっという間に復活した雄芯をぐっと奥に突き立てた。
「お望みのままに。いくらでも召し上がれ」

 そうして、足腰の立たなくなったアーデベルトに枯れた声で叱られるのは翌朝の話。
 アーデベルトに変わって騎士団の仕事に出向いた僕は、「ついに!」とか、「おめでとうございます」とか、「やりましたね!」とか、たくさんの祝福の言葉をかけてもらい、父からは「ほどほどにな」と笑い飛ばされた。
 と話したら、部屋に入れてくれなくなったのはその翌日の話。
 だから、部屋に押し入ったのはまたさらにその次の日の夜の話。

 もう絶対、逃がしてなんかやらない。
 だって、
『ケーキの僕は王弟殿下に食べられたい!』

 ~Fin~
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