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SS 『とある世界』での旅
生けるトランプ達
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「説明が足りず、申し訳ございませんでした。」
『ダイヤの4』の店員が、サービスの紅茶を持って来て謝罪する。良い香りが辺りに漂う。出された紅茶を啜り、クリスタルは『ハートの10のトランプ』を出した。
「さっき『ハートの10』の店員が、俺が『引っ込め』って言ったらこのカードになった。これは一体なんだ?」
『ダイヤの4』は申し訳なさそうに説明をする。
「まず、ここでは身分が絶対です。その身分は『数字』と『マーク』によって表わされます。『数字』は1から13まであり、2が最弱でエースが最強です。『マーク』はクラブが最弱、ダイヤ、ハートと続き、スペードが最強です。つまり、『スペードのエース様』が『数字』と『マーク』のある中で一番偉いのです。」
「それは予想が出来る。差し詰め『ジョーカー』はその『スペードのエース』を上回る身分・強さであるってことだな?」
「仰る通りです。そして、11以上の身分のものは、身分の低いものに『命令』を出すことができます。」
『ダイヤの4』はお茶のおかわりを入れながら続ける。
「先ほど『ジョーカー様』が『ハートの10』さんに『引っ込め』とご命令いたしましたよね? その命令通りハートの10の『トランプになって引っ込んだ』のです。」
「『トランプになって引っ込んだ』? どういう事だ?」
「この『トランプカード』は我々にとって『本来の姿』であり『心臓』なのです。普段我々は人間の姿を模して過ごしておりますが、本来はこの『トランプカード』です。」
クリスタルが『ハートの10のトランプ』をひらひらと裏表を見る。
「これが『本来の姿』なのか。確かに破れたら死ぬな。カードとして。」
「ちなみに、水濡れは大丈夫なのか?」
「『本来の姿』であれば、水は致命傷になりかねません。ですが、こうして人の身を模している間は平気です。」
そう話をしていると、コックが慌てて出てくる。そのエプロンの横には『クラブの11』の柄が描かれている。『クラブの11』は帽子を取ると、クリスタルとルーグに頭を下げた。
「この度は『ハートの10』がご無礼を働き、大変申し訳ございませんでした。どうがご容赦を。」
「いや、貴方には落ち度はないですよ。ただ『ハートの10』のせいなだけです。」
「ですが、そのものを管理していた私の落ち度です。お許しを。」
「それは構わないが、コレどうしたらいいんだ?」
クリスタルが『ハートの10のトランプ』を『クラブの11』に渡す。『クラブの11』はカードを恭しく受け取る。
「この姿になった以上、如何なる処罰も受けさせて構いません。ご命令とあらば、私が『処分』いたします。如何なさいますか?」
「『処分』とは? 具体的にはどのような対応をするのですか?」
「破り捨てます。」
『クラブの11』が、はっきりと言う。その目は真剣そのものだ。ルーグが慌てて止める。
「そのカード破り捨てるって……。」
「即ち『死ぬ』という事です。」
「そこまでしなくていいです!」
「しかし、このモノは『ジョーカー様』と『エース様』に無礼を見せました。何かしらの処分をされるべきかと。」
今にも『ハートの10のトランプ』を破りそうな『クラブの11』を、クリスタルが止める。
「では『ジョーカー』たる俺が処罰を与えよう。それでいいな?」
「はい。お願い致します、『ジョーカー様』。」
クリスタルが顎に指をあて考える。暫くした後、こう言った。
「では命じる。『お前は今後、低い身分のトランプを見下してはならない。破れば即座にクラブの2になれ』。それともう『出て来い』。」
クリスタルの『出て来い』の声に伴い、『ハートの10のトランプ』はみるみるうちに人型を作り、先程の『ハートの10の店員』になる。『ハートの10』は出てくるなり膝を折って放心している。その様子を見てルーグが『ダイヤの4』に聞く。
「なぁ、今の命令って重たい処罰なのか?」
「そうですね……。身分が全てのこの世界で、身分を落とされる可能性があるのは厳しい処罰でございます。」
青ざめながら答える『ダイヤの4』に、クリスタルが声を掛ける。
「だが、これでお前はアイツから見下されるような事は言われないぞ? 俺はそれが気に食わなかったし、いいんじゃないか?」
「私の為にわざわざ……! ありがとうございます!」
感極まり涙声で礼を言い、『ダイヤの4』は頭を下げる。それと一緒に『クラブの11』も頭を下げる。
「私の店の『ダイヤの4』のための処遇、本当にありがとうございます。命を取らない寛大な処遇で感謝しております。」
「そこにいる『ハートの10』が命令を守れればいいな。ではそろそろお暇しよう。」
「そうしようか。ご馳走様でした。」
クリスタルとルーグが店を出ようとする。その時放心状態だった『ハートの10』がルーグに縋りつく。
「お願い致します! どうかご命令を撤回しては頂けませんか!? 身分を落とされる恐怖に、とても耐えられません!」
それを見たルーグが冷ややかな声で『命令』を下す。
「なら、命令を下そう。『今この場からお前はクラブの2となれ』。」
すると『ハートの10』だった装いが、『クラブの2』に変わっていく。それに動揺する『元ハートの10』に、ルーグはニヤリと笑って言った。
「恐怖が無くなって、良かったな?」
絶望に染まった『クラブの2』をそのままに、クリスタルとルーグは店を出ていく。その後ろから、『クラブの11』と『ダイヤの4』の声が聞こえる。
「今までよくも虐めてくれたわね! 『クラブの11様』、この『クラブの2』に今までの仕返しをさせて下さい!」
「せっかくの『ジョーカー様』と『エース様』の御慈悲だ。しっかり思い知らせなさい。」
それを聞き、クリスタルとルーグは路地裏に回り、『空間移動の門』で世界を出て行った。
『ダイヤの4』の店員が、サービスの紅茶を持って来て謝罪する。良い香りが辺りに漂う。出された紅茶を啜り、クリスタルは『ハートの10のトランプ』を出した。
「さっき『ハートの10』の店員が、俺が『引っ込め』って言ったらこのカードになった。これは一体なんだ?」
『ダイヤの4』は申し訳なさそうに説明をする。
「まず、ここでは身分が絶対です。その身分は『数字』と『マーク』によって表わされます。『数字』は1から13まであり、2が最弱でエースが最強です。『マーク』はクラブが最弱、ダイヤ、ハートと続き、スペードが最強です。つまり、『スペードのエース様』が『数字』と『マーク』のある中で一番偉いのです。」
「それは予想が出来る。差し詰め『ジョーカー』はその『スペードのエース』を上回る身分・強さであるってことだな?」
「仰る通りです。そして、11以上の身分のものは、身分の低いものに『命令』を出すことができます。」
『ダイヤの4』はお茶のおかわりを入れながら続ける。
「先ほど『ジョーカー様』が『ハートの10』さんに『引っ込め』とご命令いたしましたよね? その命令通りハートの10の『トランプになって引っ込んだ』のです。」
「『トランプになって引っ込んだ』? どういう事だ?」
「この『トランプカード』は我々にとって『本来の姿』であり『心臓』なのです。普段我々は人間の姿を模して過ごしておりますが、本来はこの『トランプカード』です。」
クリスタルが『ハートの10のトランプ』をひらひらと裏表を見る。
「これが『本来の姿』なのか。確かに破れたら死ぬな。カードとして。」
「ちなみに、水濡れは大丈夫なのか?」
「『本来の姿』であれば、水は致命傷になりかねません。ですが、こうして人の身を模している間は平気です。」
そう話をしていると、コックが慌てて出てくる。そのエプロンの横には『クラブの11』の柄が描かれている。『クラブの11』は帽子を取ると、クリスタルとルーグに頭を下げた。
「この度は『ハートの10』がご無礼を働き、大変申し訳ございませんでした。どうがご容赦を。」
「いや、貴方には落ち度はないですよ。ただ『ハートの10』のせいなだけです。」
「ですが、そのものを管理していた私の落ち度です。お許しを。」
「それは構わないが、コレどうしたらいいんだ?」
クリスタルが『ハートの10のトランプ』を『クラブの11』に渡す。『クラブの11』はカードを恭しく受け取る。
「この姿になった以上、如何なる処罰も受けさせて構いません。ご命令とあらば、私が『処分』いたします。如何なさいますか?」
「『処分』とは? 具体的にはどのような対応をするのですか?」
「破り捨てます。」
『クラブの11』が、はっきりと言う。その目は真剣そのものだ。ルーグが慌てて止める。
「そのカード破り捨てるって……。」
「即ち『死ぬ』という事です。」
「そこまでしなくていいです!」
「しかし、このモノは『ジョーカー様』と『エース様』に無礼を見せました。何かしらの処分をされるべきかと。」
今にも『ハートの10のトランプ』を破りそうな『クラブの11』を、クリスタルが止める。
「では『ジョーカー』たる俺が処罰を与えよう。それでいいな?」
「はい。お願い致します、『ジョーカー様』。」
クリスタルが顎に指をあて考える。暫くした後、こう言った。
「では命じる。『お前は今後、低い身分のトランプを見下してはならない。破れば即座にクラブの2になれ』。それともう『出て来い』。」
クリスタルの『出て来い』の声に伴い、『ハートの10のトランプ』はみるみるうちに人型を作り、先程の『ハートの10の店員』になる。『ハートの10』は出てくるなり膝を折って放心している。その様子を見てルーグが『ダイヤの4』に聞く。
「なぁ、今の命令って重たい処罰なのか?」
「そうですね……。身分が全てのこの世界で、身分を落とされる可能性があるのは厳しい処罰でございます。」
青ざめながら答える『ダイヤの4』に、クリスタルが声を掛ける。
「だが、これでお前はアイツから見下されるような事は言われないぞ? 俺はそれが気に食わなかったし、いいんじゃないか?」
「私の為にわざわざ……! ありがとうございます!」
感極まり涙声で礼を言い、『ダイヤの4』は頭を下げる。それと一緒に『クラブの11』も頭を下げる。
「私の店の『ダイヤの4』のための処遇、本当にありがとうございます。命を取らない寛大な処遇で感謝しております。」
「そこにいる『ハートの10』が命令を守れればいいな。ではそろそろお暇しよう。」
「そうしようか。ご馳走様でした。」
クリスタルとルーグが店を出ようとする。その時放心状態だった『ハートの10』がルーグに縋りつく。
「お願い致します! どうかご命令を撤回しては頂けませんか!? 身分を落とされる恐怖に、とても耐えられません!」
それを見たルーグが冷ややかな声で『命令』を下す。
「なら、命令を下そう。『今この場からお前はクラブの2となれ』。」
すると『ハートの10』だった装いが、『クラブの2』に変わっていく。それに動揺する『元ハートの10』に、ルーグはニヤリと笑って言った。
「恐怖が無くなって、良かったな?」
絶望に染まった『クラブの2』をそのままに、クリスタルとルーグは店を出ていく。その後ろから、『クラブの11』と『ダイヤの4』の声が聞こえる。
「今までよくも虐めてくれたわね! 『クラブの11様』、この『クラブの2』に今までの仕返しをさせて下さい!」
「せっかくの『ジョーカー様』と『エース様』の御慈悲だ。しっかり思い知らせなさい。」
それを聞き、クリスタルとルーグは路地裏に回り、『空間移動の門』で世界を出て行った。
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