転生して、推し王子の家庭教師になりました!

公爵 麗子

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推しが尊い!

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コンコン
王子様のお部屋をノックする。
「ルシウス様、お勉強のお時間です」
「いや、今日は体調がすぐれない」
いつもの返事が返ってくる。本当にこの人は……。
「本日はダンスのレッスンも入っております。早く着替えましょう?」
私は強引に中に入った。
「おわっ!なんで入ってくるんだよ!」
ルシウス様は驚いたような照れたような顔をしている。少し顔が赤い気がするが気のせいだろうか?
「王子……また夜更かしでもしたのですか?まったくこの怠け者さんは……」
ルシウス様はいつも夜遅くまで起きて何かをしている。それを問いただしても「いや、勉強だよ」と言うのだ。
私はルシウスの机に置かれた本を見る。
「まったく……こんなに夜遅くまで起きて、これだからお子様は……」
その瞬間、ルシウスは机に置かれた本をベッドの下に隠した。
「うわっ!勝手に見るなよ!」
ルシウスはそう言って恥ずかしそうに顔を隠した。
(あら……?)
少し違和感を覚えるが、それよりもルシウスのダンスレッスンの方が大事だ。
「とにかく早く着替えてダンスのレッスンをしますよ!今日はあのワガママで有名なアリーネ王女ともご一緒なんですからね」
「えぇ……あいつも来るのか……」
ルシウスは見るからに嫌そうな顔をした。ダンスレッスンはいつもサボっているから仕方ないのかもしれないが、ルシウスはアリーネ王女にいつも振り回されているのだ。
(本当に困ったものね……)
私は大きくため息をついた。

***
ダンスのレッスンが行われている部屋に入った瞬間、悲鳴があがった。
「きゃあっ!」
いきなり現れた人影に私は驚いた。そこには全身真っ黒で黒い帽子に黒いマント、黒い靴を履き、全身真っ黒の格好をした人がいた。
「何者ですか!」
私は慌てて剣に手を伸ばした。その瞬間、ルシウス様が叫んだ。
「アンナ!」
私はその声ではっとして動きを止めた。
(今……私の名前を呼んだ?)
黒い人はルシウス様に向かってニヤリと笑うとすぐに部屋から消えてしまった。
(なんなのかしら……?)
呆然とする私にルシウス様は安堵の表情で声をかけてきた。
「よかった……無事で」
そう言ってルシウス様は私を強く抱きしめた。
「あ、あの……ルシウス様……」
私は慌てて声をかけた。するとルシウスはハッと我に帰ったように私の体から手を離した。
(な、なに?さっきの反応)
私はいきなりのことに戸惑いを隠せない。顔が熱くなってきた気がするが気のせいだろうか……?
「ごめん……」
そう言ってルシウスもなぜか顔を真っ赤にして目を逸らした。
(な、なんなの?この反応は!?)
私が焦っていると部屋の外からアリーネ王女の声が聞こえてきた。
「ちょっと!早く入るわよ!」
私は慌ててドアを開けた。
「アリーネ様!お着替えもまだですよ!」
そう言ってお付きの者がアリーネ王女を着替え部屋の中に押し込んだ。
「あら、ルシウス様とアンナ様ではございませんか」
部屋に入った瞬間、アリーネ王女は勝ち誇ったような顔をなさった。
(本当にこの子は……)
私が呆れて何も言えないでいるとルシウス様が口を開いた。
「どうしたんだ?今日はずいぶんと早いじゃないか?」
(珍しいわね……)
私が黙ってやりとりを聞いているとアリーネ王女が答えた。
「ふふん!今日は2人に話したいことがあったのですわ!」
そういうとアリーネ王女は私の方を見た。
「アンナ様!わたくし、ルシウス様をお慕いしておりますわ!!」
(な、なに?いきなりどうしたの!?)
私は動揺を隠すように質問した。
「えっと……それはどういう意味で?」
私の言葉を聞くとアリーネ王女は勝ち誇ったような顔をした。
「あら?お分かりになりませんか?恋仲になりたいという意味でしてよ!」
「っ……!」
(なんなの!?この王女!)
私は萌えを隠せないでいるとルシウス様が口を開いた。
「アリーネ……俺がアンナのことを好きなの知ってるだろ?」
(な、なんですって!?)
私は動揺を隠せないでいるとアリーネ王女は得意げな顔で言った。
「知っていますわ。でもわたくしには自信がありますの」
(自信……?なんの自信なの?)
アリーネ王女は私の方を見るとニコリと微笑んだ。
「わたくしはルシウス様に『愛されし者』なのですわ!」
私は目を見開いた。
(なにそれ……尊すぎるんですけど!?)
そんな私の気持ちも知らず、アリーネ王女は自信満々に言った。
「ねぇアンナ様。わたくしとルシウス様のために応援してくださらない?」
私は少し考えた後、ゆっくりと口を開いた。
「そ、そうですね……アリーネ様のお気持ちもわかりますし、それに私はただの家庭教師ですので。私も応援させていただきます!」
「まあ!嬉しいわ!ありがとうございます!」
(ふぅ……なんとか解決したわね)
私が安堵しているとルシウス様が口を開いた。
「アンナ、いいのか?」
私は笑顔で言った。
「もちろんです!私はアリーネ様たちの恋を応援しますわ」
こうしてアリーネ王女とルシウス様の恋を応援することが決まったのだった。
(私も萌えさせてもらいますね……!)

***
そして夕方になり、ついに婚約パーティーが開かれた。会場にはたくさんの人が集まっている。
(さすがに緊張するわね……)
私がソワソワしているとアリーネ王女が近づいてきた。
「アンナ様、なんだか落ち着きませんわね?」
私は苦笑いを浮かべた。
「はい……緊張してしまって……」
アリーネ王女は得意げな顔で言った。
「大丈夫ですわ!私たちが付いておりますもの!」
(本当にこの自信はどこから来るのかしら?)
そんなことを考えているとルシウス様がこちらに向かってきた。
「アリーネ!そろそろ時間だ!」
(わぁ~!ルシウス様かっこいい!)
私は心の中でガッツポーズをした。
(そしてアリーネ様はさすが『愛されし者』ね!)
アリーネ王女はルシウス様にエスコートされて会場へ向かった。私もその後に続く。
「アンナ、今日は俺の側にいてくれ」
そう言って微笑むルシウス様を見て私は思わず胸がキュンとしたのだった。
(きゃー!!推しの笑顔よ!!尊いすぎるわ!!!)

***
パーティーが始まるとすぐにアリーネ王女はルシウス様の元を離れていった。そしてすぐに大勢の貴族に囲まれてしまった。
私はアリーネ王女を目で追った。
(さすが『愛されし者』だわ……)
たくさんの男の人に囲まれて楽しそうに笑っているアリーネ王女を見て少し羨ましくなった。
(私も『愛されし者』だったら……)
そんなことを考えていると急にルシウス様が私の手首をつかんだ。
「えっ……?」驚いて見上げるとルシウス様は真剣な眼差しでこちらを見下ろしていた。
「アンナ、こっちに来い」
そう言って手を引っ張るので私は慌ててついていく。人混みを縫うようにしてルシウス様は私の手を引いて歩く。
「あ、あの……どこに行くんですか?」
私が戸惑いながら尋ねるとルシウス様は答えた。
「バルコニーだ」
(えっ?そんなところで一体何をするのかしら?)
私はドキドキしながらついていくとバルコニーについた。
ルシウス様は私の方を向いて言った。
「アンナ、お前には感謝している」
私は首を傾げた。
(感謝……?どうして私に?)
私が呆然としているとルシウス様が言った。
「いつも俺の側にいてくれて……お前の笑顔を見ていると元気が出るんだ」
(ええぇぇぇ!推しの微笑みよ!!)
私は悶えそうになるのを必死に抑えた。
「えっと……それはつまり……」
私が言い淀んでいるとルシウス様はさらに続けた。
「アンナ、好きだ」
(えっ!?うそっ!?これって告白よね!?)
(ちょっとまって!いきなりすぎるでしょ!心の準備が……)
私は思わず動揺してしまった。顔が熱くなるのがわかる。
「えっと……」私が言葉に詰まっているとルシウス様はさらに続けた。
「ずっと俺の家庭教師を続けてくれないか?」
(えっ?)
私は一瞬頭が真っ白になった。
(もしかして……好きって家庭教師としてってこと?)
私が呆然としているとルシウス様は続けた。
「俺はずっとお前が側にいてほしいんだ」
(推しが……私を求めてくれている……?)
私は顔が熱くなるのを感じた。心臓の鼓動が速くなる。
「もちろんです!これからもずっと一緒にいます!」
(推しの萌えをください!!)
そんな私をルシウスはぎゅっと抱きしめた。
「ありがとう、アンナ」そう言って微笑んだ彼の顔はとても美しかった。
(この微笑みを独り占めできるなんて……生きててよかった!)
私が幸せに浸っていると、どこからか視線を感じた。
(ん?何かしら……?)
視線の方に目を向けるとアリーネ王女がこちらを見ていた。
(なるほど……そういうことね!)
私はアリーネ王女に向かってグッと親指を立てた。するとアリーネ王女は察したように微笑んで頷いてくれたのだった。
(まあ、いっか!推しの萌えをいただけたんですもの!!)

***
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