こんなスパダリが義弟のワケない

筒井

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17.夏の始まり

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 近頃めっきり暑くなった。しかし俺の部屋は以前より快適だ。なんといってもエアコンが自室にあるのだ。室内に居ても熱中集になる昨今、夜もクーラーを付けて寝てね、と秀子さんは言う。

 おかげで七月に入ってもこうして朝ゆっくり寝れる……ゆっくり……。

――ゆっくり?

「うわ、やべっ……! 寝坊した……!」

 俺は時計を見るなり跳ね起きると、Tシャツを脱いで慌てて制服に着替えた。パリッとしたワイシャツは、ほんの数日前に衣替えが行われたばかりのものだ。
 そのまま洗面所に行って洗顔と歯磨きを済ませた俺は、慌てて玄関へ向かう。――と、背中に心地良いバリトンが投げかけられる。

「おはよう誠二さん。もう学校行くの?」
「今日、美化委員の集団清掃!」
「朝ごはんは?」
「いらない!」

 スニーカーを履いて立ち上がった俺は勢いのままにドアを開けようとしたが、ぐっと腕を引かれて振り返った。

「だと思って、はいこれ。ホームルーム前に食べて」

 渡されたのは、まだ熱を持った水色の紙ナプキンにくるまれた何か。

「おう、サンキュな。じゃあいってきます!」
「いってらっしゃい」

 扉を背に、俺は通学路を走り出した。

 一連のやり取りが、いわゆる『母親』であれば、きっと俺は普通の高校生ということになるのだろう。だが、そうではない。朝ごはんを持たせてくれたのも、登校を見送ってくれたのも、全て義弟である秀一だ。

 親父が再婚してから、俺の生活は変わった。主に、食生活だ。
 今までは男所帯だったため「カロリー重視」と言わんばかりのメニューだったが、女性である秀子さんと、彼女に育てられた秀一の作る食事によってそれは大幅に改善された。栄養とか、彩りとか、オシャレ感とか、そういうものだ。渡された朝食も、きっと小洒落た何かだろう。

 ひとつ屋根の下に住むにあたって、俺たち家族はいくつかのルールを作った。まず、洗濯は自分ですること。これは秀子さんが女性ひとりだから、下着なんかを考慮してだ。
 あとは、朝早い親父と、夜が遅い秀子さんのために、食事は秀一と俺で交代で作ること。それから、週に一回は兄弟の部屋をまるっと掃除すること。

 始めこそごたつくだろうと思っていたそれらのルールは、全くもって滞りなく遂行された。なんといっても、秀一の手際がいいのだ。
 元々家事に手が回らなかった秀子さんを手伝っていたとはいえ、男所帯で適当に済ませていた俺とはクオリティが違った。

(最初に料理したとき、オリーブオイルとかさらっと使ってたもんなあ)

 今まで使ったことのある油といえばサラダ油かごま油、という俺とは根本的に違う。料理中の姿はさながら奥様向けの料理番組か何かのようだった。

 ピッと改札を通ってようやく電車に乗り込んだ俺は、ふうと大きく息を吐いた。こんな風に少し変わった――けれど嫌ではない――朝を迎えるのにも、そろそろ慣れた。
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