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二章
ボーイミーツガール パート3
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ソウザはつむっていた目をゆっくり開き空の青色を見やる。
今日見た夢を忘れるためにここまで足を運んでみてみたが効果のほどは薄かった。
こうやって無心を促しても、夢の内容が頭から離れない。
むしろ自分の体を再確認したことで余計気分が悪くなる始末であった。
生前はもうすこし大雑把に物を考えて生きていたはずなのに、
たかだか夢にここまで動揺する自分に、ソウザは自分で自分が恥ずかしくなった。
肉体に精神が引きづられているのかどうなのかはわからない。
だが明らかによくない傾向ではある。
夢の中のソウザは明らかに女性である自分を肯定していた。
ありえない話だ。そうありえない話。今はそうやって否定できる。
だがこれから10年、20年、年をとっていったとして、果たして自分は鉄廻のソウザであったことを覚えているのだろうか。
いやむしろ、今の状態が普通ではないのであれば、年をとり正常に戻ってしまうというのが正しいのだろうか。
「冗談じゃないぜ、まったく」
ソウザは空に向かって憎しみをぶつけた。
時間にしては10分ほど。
水場で浮かぶことに意義を見出せぬまま、ソウザはそろそろ帰るかと、ゆっくり起き上がった。
今の心持ちとしては家に帰ることも億劫ではあるが、あまりここに長居して家族にバレる方がよっぽど億劫であることはよくわかっているからだ。
ソウザは水に濡れた自身の髪を肩におき、雑巾のように絞ると、髪先をスンとにおった。
汗臭いわけではないが、汗の油がすこし染みているのがわかる。
どうせ農作業で汚すもので、普段は気にしないのだが、今日は文字通り鼻についた。
「……髪も、まっついでに体もしっかり洗っとくか」
そういってソウザは足元にある卵ほどの大きさの石を足指で挟みこみ、そのまま器用に自身の手元まで持ってくる。
「大きさは申し分ないが_質が悪ぃな……まぁ川の砂利に文句言っても仕方ねぇがな、っと」
ソウザは石を眺めながらそう呟くとその石を強く握りこんだ。
すると握りこんだ手から光が漏れ始める。
ソウザが手のひらを開くと光っていたのは先ほどの石。
小さく光るその石を水に落とすと、石は底に沈むわけでもなく、水に浮かぶ木の葉の如く、
それが当たり前だというかのように水面に張り付いた。
石は水面の上で、まるで野生動物が息をひそめてるかのように静かに佇んでいたが、
次第に小刻みに揺れはじめ、石を中心として右巻きに水面へ小さな波紋を発生させた。
揺れる波紋は水場を広がり、川辺まで到達した後、打ち上げられる波が押し帰るように、
今度は水辺から石にいまや水流となった波紋を返す。
そして四方八方から石に合流し、石にまとわりつき子供一人分程度の水の塊になった。
ソウザは顎で石に命令すると、その石は彼女の目線までフワリと浮いた。
これがソウザが生前会得した、“鉄廻”の力である。
端的に言えば鉱物を操作する能力。
基本的に鉱物であれば、変形、体積操作、質量操作、目標に向けての投擲、など、どんな風にでも作用できる。
この力はソウザが触れ念じることで発現し、プロセスを組むことで多種多様な効果をもたらす。
また媒介とした鉱物を中心に右に力を巻きながら能力を発現させるという特徴があり、
不思議なことにどんな能力を発現させるにせよ、力を与えれば与えるほど鉱物は自身を中心とした重力場を発生させるのだ。
そしてある一定まで力を与えると、鉱物は周りの物体を巻き込んで、惑星のように自転し始め自身の重力で"天体"を作り始める。
これが今ソウザの目の前にある石に起きている現象であり、石を振動させ水を巻き込んで一つの小さな小さな惑星のようなものを作っているというわけだ。
正直なところソウザにはこの能力がなんなのか、
なぜこのようなことが起きるのかは生まれ変わる前ですら理解はしていない。
ただ幼少の頃からそういうことが出来るという確信だけがあった。
この能力は生前の彼にとって、親に捨てられる原因を作ったが、その一方で妖怪との闘争において彼の身を大いに助けることになった。
これがナニモノでなんの力であろうとも、それだけが彼と彼女にとっての真実である。
生まれ変わったあとでもその認識は変わっていない。
「昔はもうちょいでけぇのも作れたんだがなぁ……まぁ体が縮んだぶん体洗うくらいならこれでも十分だが…」
水の塊をみやりながらソウザはそうつぶやく。
生まれ変わったあと、ソウザはすぐ親の目を盗んで"鉄廻"の使用を行った。
結果としては彼女の使えなくなっているかもしれないという懸念は杞憂に終わった。
だが生まれ変わる前にあった無限とも思えた力強さは鳴りを潜め、
今現在はこうやって水の塊を宙に浮かすことぐらいしかできない。
この極端な能力低下は、
生まれ変わったことに加え、この手の甲に刻まれた『右巻きの印章』が、
この"鉄廻"をこの世界で使うための縛りになっているのだと推測した。
おそらくこの世界で生前“鉄廻”として悟りを得たこの能力は、
今いるこの世界では異端であり、禁忌なのだろう。
生まれ変わった際、代替である"印章"という装置を組むことで能力の顕現を可能にしたが、
そもそもの"印章"が神の力を行使する出力装置であるため、神の力を介してないのに"印章"を使うというその矛盾が、
能力の出力低下を引き起こしているのだというのがソウザの考えだ。
ソウザは水の塊に拳をつっこむと、そのままゆっくり引き抜く動作を行う。
すると引き抜いた手に合わせて水の塊の一部がぐにょんと音を立ててついてくる。
ソウザは肩にかけた髪に水がついてきた手で触ると、今度は髪先に水が移った。
移った水の塊は髪先をつたいソウザの全身を覆っていく。
最終的にはソウザの体はすっぽりと水の塊に収まった。
ソウザは体が水に覆われたのを確認すると、目をつむりながら何かを念じる。
瞬間、水の塊はソウザを中心としてまるで洗濯機のように高速で回転し始めた。
これがソウザ流の体の洗い方。
ほどよい大きさに作った水の塊を自身に移し、
今度は自分を鉱石と見立てることで同様の現象を引き起こすことでできる応用技だ。
少量だが細かな砂利が混ざる水を高速で回転することで、ソウザの体の汚れを落としていく。
これを30秒ほど回せば、ピカピカのツルツルになるという寸法だ。
回されてる間、多少肌がチクチクするのが欠点ではあるが。
ちょうど30秒ほどで、水の塊は勢いそのままソウザの体から上へ上と離れていく。
そしてソウザの体から離れ頭上まで上がった水の塊は、その制御を失いおおきく爆ぜた。
はぜた塊は雨のように水場に降り注ぎ、小さな虹を作ったのであった。
「はぁ~……さっぱりした。毎日風呂に入れりゃあこんなどうでもいいことに能力なんか使わないんだがなぁ……」
ソウザはうーんと体を伸ばし、川辺に向かいながらそうひとりごちる。
この世界の風呂は釜炊きとなるため、火をおこす事から始めないといけないため重労働である。
また火事の原因にもなるため入れても週に3回ほど。
入れない日は川や井戸の水で行水するか、いまさっきのように体を洗うか、
それか香水でごまかすかのどれかであった。
「ま、毎日風呂に入りたいなら温泉でも掘り当てるしかねぇなぁ……
幸いココらへんの水は軟水だし、この山も休火山ってんならワンチャンあるかも……ってうん?」
そんなどうでもいいことをつぶやきながら、川辺においた麻袋からタオルをとりだしたソウザはなにかの視線を感じた。
間違いないこちらを覗いている。
なんかの動物か?と一瞬ソウザは考えたが、
鹿やクマなどにみられる独特の警戒のストレスによる視線の揺らぎとも、また狼に見られる獲物を見据える際のひりつきをかんじるような視線とも違う。
――人間か。
ソウザは見られてることに気づいてないふりをしながら服を掴む一方で石を拾う。
管理が行き届いていない山の常ではあるのだが、コミュニティから追い出されたものがいつく先としてこれ以上の好条件はない。
人がめったに寄り付かないということは荒くれ者や盗賊の住処にもってこいという意味でもある。
視線は右斜め前方20メートルほどの茂みから。
それ以外の視線を感じないところからどうやら複数ではないらしい。
一人だけ、または斥候で、複数どこかに紛れているのか。
――まぁどちらにしろ逃がす手はないな。
ソウザはそう決断した瞬間、下手で思いっきり持っていた石を投げつけた。
「ギャンッ!!!!!!」
ゴスっと鈍い音と同時に甲高い情けない声があたり一帯に響き渡る。
どうやらしっかり命中したらしい。
「アットピンボールってな、さて、覗き野郎の顔でも拝みに行くかな」
ソウザは指を鳴らしながら、裸で茂みへと近づいていく。
盗賊や不逞の輩であるのなら、その場でふんじばって素性をはかす。
もし知り合いや領地の人間なら、とりあえず口封じのためにふんじばってから説得する。
彼女の中でのプランは決まっていた。
茂みを分け、相手の顔を覗く。
するとそこには、
「…………誰だこいつ」
ソウザは本気でわからないという顔を作ってその倒れている男を見てそうつぶやく。
頭に石を当てられ目を回している男は、正確に言うならソウザと同い年か、それか少し上ぐらいの黒髪の少年であった。
身なりはここまでの道中で汚した泥がいくらかはねていたが、
この山奥に相応しくない気立ての良い服で明らかに身分のいいところの子供だというのがわかる。
「……どっかの貴族様のガキか? それにしたってなんでこんな山奥で覗きとか……
筋金入りのエロガキかなにか?気合入ってんな……って、なんだこりゃ」
ソウザは気を失っていることには特に興味もないという素振りで、少年の身元を探るために衣服を漁っていると、
少年の手では余るであろう、ごつい真鍮の懐中時計が出てきた。
意匠には大きく翼が生えた獅子が彫られている。
「おいおいマジかよ……」
ソウザはそれを見て、自分のしでかしたことに冷や汗をかく。
それは蛇獅子の印章をモチーフにした意匠。
セルベスの授業にも出てきたし、自身でも生まれ変わりのことを調べた際にも印象に深かった意匠は、
つまりは王家を象徴する意匠に他ならない。
ソウザはそこで間抜けな顔で目を回している少年が、とんでもない爆弾であることを自覚し、
「……冗談じゃないぜ、まったく」
と再度空に向かって憎しみをぶつけたのであった。
今日見た夢を忘れるためにここまで足を運んでみてみたが効果のほどは薄かった。
こうやって無心を促しても、夢の内容が頭から離れない。
むしろ自分の体を再確認したことで余計気分が悪くなる始末であった。
生前はもうすこし大雑把に物を考えて生きていたはずなのに、
たかだか夢にここまで動揺する自分に、ソウザは自分で自分が恥ずかしくなった。
肉体に精神が引きづられているのかどうなのかはわからない。
だが明らかによくない傾向ではある。
夢の中のソウザは明らかに女性である自分を肯定していた。
ありえない話だ。そうありえない話。今はそうやって否定できる。
だがこれから10年、20年、年をとっていったとして、果たして自分は鉄廻のソウザであったことを覚えているのだろうか。
いやむしろ、今の状態が普通ではないのであれば、年をとり正常に戻ってしまうというのが正しいのだろうか。
「冗談じゃないぜ、まったく」
ソウザは空に向かって憎しみをぶつけた。
時間にしては10分ほど。
水場で浮かぶことに意義を見出せぬまま、ソウザはそろそろ帰るかと、ゆっくり起き上がった。
今の心持ちとしては家に帰ることも億劫ではあるが、あまりここに長居して家族にバレる方がよっぽど億劫であることはよくわかっているからだ。
ソウザは水に濡れた自身の髪を肩におき、雑巾のように絞ると、髪先をスンとにおった。
汗臭いわけではないが、汗の油がすこし染みているのがわかる。
どうせ農作業で汚すもので、普段は気にしないのだが、今日は文字通り鼻についた。
「……髪も、まっついでに体もしっかり洗っとくか」
そういってソウザは足元にある卵ほどの大きさの石を足指で挟みこみ、そのまま器用に自身の手元まで持ってくる。
「大きさは申し分ないが_質が悪ぃな……まぁ川の砂利に文句言っても仕方ねぇがな、っと」
ソウザは石を眺めながらそう呟くとその石を強く握りこんだ。
すると握りこんだ手から光が漏れ始める。
ソウザが手のひらを開くと光っていたのは先ほどの石。
小さく光るその石を水に落とすと、石は底に沈むわけでもなく、水に浮かぶ木の葉の如く、
それが当たり前だというかのように水面に張り付いた。
石は水面の上で、まるで野生動物が息をひそめてるかのように静かに佇んでいたが、
次第に小刻みに揺れはじめ、石を中心として右巻きに水面へ小さな波紋を発生させた。
揺れる波紋は水場を広がり、川辺まで到達した後、打ち上げられる波が押し帰るように、
今度は水辺から石にいまや水流となった波紋を返す。
そして四方八方から石に合流し、石にまとわりつき子供一人分程度の水の塊になった。
ソウザは顎で石に命令すると、その石は彼女の目線までフワリと浮いた。
これがソウザが生前会得した、“鉄廻”の力である。
端的に言えば鉱物を操作する能力。
基本的に鉱物であれば、変形、体積操作、質量操作、目標に向けての投擲、など、どんな風にでも作用できる。
この力はソウザが触れ念じることで発現し、プロセスを組むことで多種多様な効果をもたらす。
また媒介とした鉱物を中心に右に力を巻きながら能力を発現させるという特徴があり、
不思議なことにどんな能力を発現させるにせよ、力を与えれば与えるほど鉱物は自身を中心とした重力場を発生させるのだ。
そしてある一定まで力を与えると、鉱物は周りの物体を巻き込んで、惑星のように自転し始め自身の重力で"天体"を作り始める。
これが今ソウザの目の前にある石に起きている現象であり、石を振動させ水を巻き込んで一つの小さな小さな惑星のようなものを作っているというわけだ。
正直なところソウザにはこの能力がなんなのか、
なぜこのようなことが起きるのかは生まれ変わる前ですら理解はしていない。
ただ幼少の頃からそういうことが出来るという確信だけがあった。
この能力は生前の彼にとって、親に捨てられる原因を作ったが、その一方で妖怪との闘争において彼の身を大いに助けることになった。
これがナニモノでなんの力であろうとも、それだけが彼と彼女にとっての真実である。
生まれ変わったあとでもその認識は変わっていない。
「昔はもうちょいでけぇのも作れたんだがなぁ……まぁ体が縮んだぶん体洗うくらいならこれでも十分だが…」
水の塊をみやりながらソウザはそうつぶやく。
生まれ変わったあと、ソウザはすぐ親の目を盗んで"鉄廻"の使用を行った。
結果としては彼女の使えなくなっているかもしれないという懸念は杞憂に終わった。
だが生まれ変わる前にあった無限とも思えた力強さは鳴りを潜め、
今現在はこうやって水の塊を宙に浮かすことぐらいしかできない。
この極端な能力低下は、
生まれ変わったことに加え、この手の甲に刻まれた『右巻きの印章』が、
この"鉄廻"をこの世界で使うための縛りになっているのだと推測した。
おそらくこの世界で生前“鉄廻”として悟りを得たこの能力は、
今いるこの世界では異端であり、禁忌なのだろう。
生まれ変わった際、代替である"印章"という装置を組むことで能力の顕現を可能にしたが、
そもそもの"印章"が神の力を行使する出力装置であるため、神の力を介してないのに"印章"を使うというその矛盾が、
能力の出力低下を引き起こしているのだというのがソウザの考えだ。
ソウザは水の塊に拳をつっこむと、そのままゆっくり引き抜く動作を行う。
すると引き抜いた手に合わせて水の塊の一部がぐにょんと音を立ててついてくる。
ソウザは肩にかけた髪に水がついてきた手で触ると、今度は髪先に水が移った。
移った水の塊は髪先をつたいソウザの全身を覆っていく。
最終的にはソウザの体はすっぽりと水の塊に収まった。
ソウザは体が水に覆われたのを確認すると、目をつむりながら何かを念じる。
瞬間、水の塊はソウザを中心としてまるで洗濯機のように高速で回転し始めた。
これがソウザ流の体の洗い方。
ほどよい大きさに作った水の塊を自身に移し、
今度は自分を鉱石と見立てることで同様の現象を引き起こすことでできる応用技だ。
少量だが細かな砂利が混ざる水を高速で回転することで、ソウザの体の汚れを落としていく。
これを30秒ほど回せば、ピカピカのツルツルになるという寸法だ。
回されてる間、多少肌がチクチクするのが欠点ではあるが。
ちょうど30秒ほどで、水の塊は勢いそのままソウザの体から上へ上と離れていく。
そしてソウザの体から離れ頭上まで上がった水の塊は、その制御を失いおおきく爆ぜた。
はぜた塊は雨のように水場に降り注ぎ、小さな虹を作ったのであった。
「はぁ~……さっぱりした。毎日風呂に入れりゃあこんなどうでもいいことに能力なんか使わないんだがなぁ……」
ソウザはうーんと体を伸ばし、川辺に向かいながらそうひとりごちる。
この世界の風呂は釜炊きとなるため、火をおこす事から始めないといけないため重労働である。
また火事の原因にもなるため入れても週に3回ほど。
入れない日は川や井戸の水で行水するか、いまさっきのように体を洗うか、
それか香水でごまかすかのどれかであった。
「ま、毎日風呂に入りたいなら温泉でも掘り当てるしかねぇなぁ……
幸いココらへんの水は軟水だし、この山も休火山ってんならワンチャンあるかも……ってうん?」
そんなどうでもいいことをつぶやきながら、川辺においた麻袋からタオルをとりだしたソウザはなにかの視線を感じた。
間違いないこちらを覗いている。
なんかの動物か?と一瞬ソウザは考えたが、
鹿やクマなどにみられる独特の警戒のストレスによる視線の揺らぎとも、また狼に見られる獲物を見据える際のひりつきをかんじるような視線とも違う。
――人間か。
ソウザは見られてることに気づいてないふりをしながら服を掴む一方で石を拾う。
管理が行き届いていない山の常ではあるのだが、コミュニティから追い出されたものがいつく先としてこれ以上の好条件はない。
人がめったに寄り付かないということは荒くれ者や盗賊の住処にもってこいという意味でもある。
視線は右斜め前方20メートルほどの茂みから。
それ以外の視線を感じないところからどうやら複数ではないらしい。
一人だけ、または斥候で、複数どこかに紛れているのか。
――まぁどちらにしろ逃がす手はないな。
ソウザはそう決断した瞬間、下手で思いっきり持っていた石を投げつけた。
「ギャンッ!!!!!!」
ゴスっと鈍い音と同時に甲高い情けない声があたり一帯に響き渡る。
どうやらしっかり命中したらしい。
「アットピンボールってな、さて、覗き野郎の顔でも拝みに行くかな」
ソウザは指を鳴らしながら、裸で茂みへと近づいていく。
盗賊や不逞の輩であるのなら、その場でふんじばって素性をはかす。
もし知り合いや領地の人間なら、とりあえず口封じのためにふんじばってから説得する。
彼女の中でのプランは決まっていた。
茂みを分け、相手の顔を覗く。
するとそこには、
「…………誰だこいつ」
ソウザは本気でわからないという顔を作ってその倒れている男を見てそうつぶやく。
頭に石を当てられ目を回している男は、正確に言うならソウザと同い年か、それか少し上ぐらいの黒髪の少年であった。
身なりはここまでの道中で汚した泥がいくらかはねていたが、
この山奥に相応しくない気立ての良い服で明らかに身分のいいところの子供だというのがわかる。
「……どっかの貴族様のガキか? それにしたってなんでこんな山奥で覗きとか……
筋金入りのエロガキかなにか?気合入ってんな……って、なんだこりゃ」
ソウザは気を失っていることには特に興味もないという素振りで、少年の身元を探るために衣服を漁っていると、
少年の手では余るであろう、ごつい真鍮の懐中時計が出てきた。
意匠には大きく翼が生えた獅子が彫られている。
「おいおいマジかよ……」
ソウザはそれを見て、自分のしでかしたことに冷や汗をかく。
それは蛇獅子の印章をモチーフにした意匠。
セルベスの授業にも出てきたし、自身でも生まれ変わりのことを調べた際にも印象に深かった意匠は、
つまりは王家を象徴する意匠に他ならない。
ソウザはそこで間抜けな顔で目を回している少年が、とんでもない爆弾であることを自覚し、
「……冗談じゃないぜ、まったく」
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