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破滅の足音
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スタンピードの脅威が過ぎ去ってから十日ほどが過ぎた。
シャリアータの町は日常を取り戻し、ダンジョンの機能も回復していた。
これまでと違うことといえば、ダンジョンコアが完全にドロンズの支配下にあるということだ。
特に指示のない時には、ダンジョンは通常運転でいつもと変わらない。
しかし、ドロンズがダンジョンコアに指示を出せば、ダンジョンで生まれた魔物達はコアの命じるままに、ドロンズの指示を実行する。
ドロンズは、ダンジョンコアを通じて、魔物の軍勢を手に入れたも同然であった。
そのような圧倒的な力を手に入れたドロンズであるが、シャリアータの人々の反応はそれほど変わらなかった。
元々ドロンズは神として信仰の対象であったし、ドロンズと接した人々からしたら、常識外の感覚の持ち主ではあるが、無闇に人に危害を加えるような神ではないと理解していたからだ。
特に今回のスタンピードは、ドロンズ達二柱のおかげでほとんど死人を出さずに済んだのだ。
シャリアータの人々は二柱に感謝し、その信仰心はうなぎ登りであった。
だからこそ、ドロンズに対して人々の反応は感謝の気持ちで良くなりこそすれ、変わらなかったのである。
……いや、よく見るとドロンズ達を見る目がこれまでより、妙に生暖かい。
ダンジョン調査以来、冒険していなかったので、暇潰しに依頼を受けようと、冒険者ギルドに向かっていたドロンズとクリソックスは、道行く人々の意味ありげな視線を受けて、揃(そろ)って首を傾げた。
「最近、わしら、人らから注目されておる気がするのう」
「ドロンズもそう思う?私も、やたら信者にドロンズとの馴れ初めを聞かれるんだよねー」
「わしは、やたら尻を心配されるのじゃ。なんなんじゃろうなあ?」
「人の子の考えることは、私達には理解できないからねえ」
そんなことを話しながら二柱はてくてくと歩みを進め、冒険者ギルドの扉の前にたどり着いた。
ギィ、と扉を開けて中に入る。
ギルド内の視線が、一斉に二柱に集まった。
「おいおいー!今日も爺神同士で仲良く登場かあー!?」
「おいおい、尻が痛くて依頼失敗すんじゃね?今日は大丈夫かよお?!」
「爺なんだから、腰を大事にしろよなあ!いい軟膏やろうか!?」
「ギャハハハハハッ!!」
ギルドに居着いている優しきヤジ妖精のいつもの声援である。
ドロンズとクリソックスは顔を見合わせた。
「相変わらず親切な者どもよ。わしらの腰を心配してくれておるようじゃな」
「私達、見た目がこんなだしねえ」
「わしらの姿は人のイメージだから、老いた人と同じように衰えているわけではないのだがのう」
ドロンズは、ヤジ妖精達に手を振った。
「おーい!わしは尻も腰も大丈夫だ。どんなに激しい動きにも、耐えられるぞ!」
「「「は、『激しい動き』にも……!?」」」
ギルド内が騒然となる。
「クリソックス様、そんなに激しいのか……」
「え?え?神様って、同性とか普通にアリなの?」
「正直、火の神アグラー様と鍛冶の神ガットラ様は、アヤシイと思ってたんだ」
「お前も?ガットラ様の像って、大体アグラー様と絡んでるもんな……」
この世界の既存の神、アグラーさんとガットラさんが盛大に巻き込まれている!
だが、ドロンズとクリソックスはそんな人間達の勘違いなど気にせずに、依頼書の貼り付けてあるボードの前に立って、面白そうな依頼がないか物色を始めた。
その時である。
ギルドの扉が音を立てて乱暴に開かれた。
全員の目が二柱から入口へと向けられる。
そこには、全身ボロボロの格好で転がり込んだ冒険者達の姿があった。
「た、大変だ!!シャリアータは……、シャリアータは、もうすぐ滅亡する!!!」
ギルド内が一瞬静まりかえる。
そしてその後、皆の声が一つになった。
「「「「「な、なんだってーーー!!?」」」」」
シャリアータに再び、破滅の足音が迫っていた。
ギルドの騒ぎを聞きつけて階下に降りてきたギルドマスターのナックは、何が起こったのか簡単に把握すると、先ほど飛び込んできた冒険者達を別室に連れていって話を聞き、その冒険者と、ついでにそこにいた神二柱を連れて、ハビット城へと駆け込んだ。
ルイドート・ハビットの執務室に通されたナックは、室内に入るや興奮したようにルイドートに話しかけた。
「やはり、あの情報は本当でした。王国軍が、ここを攻めてまいります!」
「そうか……」
ルイドートは渋面を隠さず、ため息を吐いた。
「間違いであればよいと思っていたが……」
未だはっきりと事情を呑み込めていないクリソックス達が、ルイドートに尋ねた。
「どういうこと?さっき、馬車の中で『王国軍が来る』って話は聞いたけど、もしかしてルイドートは知っていたの?」
ルイドートは頷いた。
「フッツメーン様があのように戻られたから、何かろくでもない報告をしかねないとは思っていました。その結果、王家がどう動くか、ナック・ケラーニや手の者に情報を探らせていました」
ナックはルイドートに続けて言った。
「向こうも情報統制を敷いて、通信魔法士に厳しいの制限をかけていたし、シャリアータ方面の町の出入りを封鎖しているようで、情報はほとんど入ってこなかった。ただ、この明らかに不穏な状況で、どこからか王国軍がシャリアータに向かったという噂が立ったのです。まさか、とは思いましたが、この冒険者が実際に、ノイエ村の向こうで王国軍を見た」
ナックは、冒険者達に視線を向けた。
その視線を受けて、冒険者の一人が話し始める。
「あの、公爵閣下。私達は『雷起こし』という名でパーティーを組んでおりまして、私はリーダー役のクサーサと申します。その時の状況を説明致します」
ルイドートは、「ふむ。続けよ」と促す。
クサーサは、緊張しながら語り始めた。
「私達はB級とC級から成るパーティーです。十日前に、ノイエ村近くのコレン山に出る『はぐれホオーク』退治の依頼を受けて向かったのです」
ルイドートとナックは、思わず二柱を見て、気まずげに目を逸らした。
クサーサは気にせず続けた。
「私達は尻を守りきり、恐怖のホオーク退治をなんとか成功させました。そして、ノイエ村に戻る道すがら、私達は見てしまったのです。……進軍する王国軍を!数は五千~六千といった所でしょうか。街道筋をシャリアータ方面に向かっていました。実はコレン山に向かう前、村に立ち寄った時、封鎖された王都からギリギリで脱出した商人がいまして。彼が言うには、『シャリアータへ進軍するために王都を封鎖する』という噂があったため慌てて王都を出たと聞いていたので慌てて王都を出たとか。それを聞いていたので、できるだけ早くこちらに知らせようと、ほとんど休まずこちらへ駆け戻りました」
ルイドートは、計算して言った。
「ノイエ村はここから馬車で三日ほどの距離だ。軍勢を率いていることを考えると、こちらに着くまで四日はかかるだろうな。クサーサとやら、お前達がノイエ村を出たのは、いつだ?」
「二日前です。馬車では遅くなると思い、パーティーの人数分の馬をノイエ村で借りて、皆でひたすら駆けてまいりました」
ナックが緊張を孕んだ様子で、呟いた。
「二日前か。つまり、早くても二日後の町に王国軍が到着するのか」
ドロンズがルイドートに尋ねる。
「二日で王国軍を迎え撃つ準備などできるのか?」
ルイドートは、ニヤリと笑った。
「実はわりと早い段階で、他の町のギルドから、噂として連絡を受けていたのです。その後は何も連絡がないので、王国軍が町に到着し、情報統制が敷かれたのだと思いますが」
「てことは、もしかして準備済み?」
「はい。一応。杞憂に終わればと思っていましたが、進軍の目撃があった以上、確定としてことに当たります」
ルイドートは、覚悟を決めたような眼で、二柱を見据えた。
そして、跪き、クリスマス柄靴下をまとった頭を垂れた。
「神よ。どうか、スタンピードの時と同様に、我らをお助け願えませぬか?」
クリソックスとドロンズは、元気よく答えた。
「「よろしい、信じる者よ。その願い、聞き届けた!」」
シャリアータの町は日常を取り戻し、ダンジョンの機能も回復していた。
これまでと違うことといえば、ダンジョンコアが完全にドロンズの支配下にあるということだ。
特に指示のない時には、ダンジョンは通常運転でいつもと変わらない。
しかし、ドロンズがダンジョンコアに指示を出せば、ダンジョンで生まれた魔物達はコアの命じるままに、ドロンズの指示を実行する。
ドロンズは、ダンジョンコアを通じて、魔物の軍勢を手に入れたも同然であった。
そのような圧倒的な力を手に入れたドロンズであるが、シャリアータの人々の反応はそれほど変わらなかった。
元々ドロンズは神として信仰の対象であったし、ドロンズと接した人々からしたら、常識外の感覚の持ち主ではあるが、無闇に人に危害を加えるような神ではないと理解していたからだ。
特に今回のスタンピードは、ドロンズ達二柱のおかげでほとんど死人を出さずに済んだのだ。
シャリアータの人々は二柱に感謝し、その信仰心はうなぎ登りであった。
だからこそ、ドロンズに対して人々の反応は感謝の気持ちで良くなりこそすれ、変わらなかったのである。
……いや、よく見るとドロンズ達を見る目がこれまでより、妙に生暖かい。
ダンジョン調査以来、冒険していなかったので、暇潰しに依頼を受けようと、冒険者ギルドに向かっていたドロンズとクリソックスは、道行く人々の意味ありげな視線を受けて、揃(そろ)って首を傾げた。
「最近、わしら、人らから注目されておる気がするのう」
「ドロンズもそう思う?私も、やたら信者にドロンズとの馴れ初めを聞かれるんだよねー」
「わしは、やたら尻を心配されるのじゃ。なんなんじゃろうなあ?」
「人の子の考えることは、私達には理解できないからねえ」
そんなことを話しながら二柱はてくてくと歩みを進め、冒険者ギルドの扉の前にたどり着いた。
ギィ、と扉を開けて中に入る。
ギルド内の視線が、一斉に二柱に集まった。
「おいおいー!今日も爺神同士で仲良く登場かあー!?」
「おいおい、尻が痛くて依頼失敗すんじゃね?今日は大丈夫かよお?!」
「爺なんだから、腰を大事にしろよなあ!いい軟膏やろうか!?」
「ギャハハハハハッ!!」
ギルドに居着いている優しきヤジ妖精のいつもの声援である。
ドロンズとクリソックスは顔を見合わせた。
「相変わらず親切な者どもよ。わしらの腰を心配してくれておるようじゃな」
「私達、見た目がこんなだしねえ」
「わしらの姿は人のイメージだから、老いた人と同じように衰えているわけではないのだがのう」
ドロンズは、ヤジ妖精達に手を振った。
「おーい!わしは尻も腰も大丈夫だ。どんなに激しい動きにも、耐えられるぞ!」
「「「は、『激しい動き』にも……!?」」」
ギルド内が騒然となる。
「クリソックス様、そんなに激しいのか……」
「え?え?神様って、同性とか普通にアリなの?」
「正直、火の神アグラー様と鍛冶の神ガットラ様は、アヤシイと思ってたんだ」
「お前も?ガットラ様の像って、大体アグラー様と絡んでるもんな……」
この世界の既存の神、アグラーさんとガットラさんが盛大に巻き込まれている!
だが、ドロンズとクリソックスはそんな人間達の勘違いなど気にせずに、依頼書の貼り付けてあるボードの前に立って、面白そうな依頼がないか物色を始めた。
その時である。
ギルドの扉が音を立てて乱暴に開かれた。
全員の目が二柱から入口へと向けられる。
そこには、全身ボロボロの格好で転がり込んだ冒険者達の姿があった。
「た、大変だ!!シャリアータは……、シャリアータは、もうすぐ滅亡する!!!」
ギルド内が一瞬静まりかえる。
そしてその後、皆の声が一つになった。
「「「「「な、なんだってーーー!!?」」」」」
シャリアータに再び、破滅の足音が迫っていた。
ギルドの騒ぎを聞きつけて階下に降りてきたギルドマスターのナックは、何が起こったのか簡単に把握すると、先ほど飛び込んできた冒険者達を別室に連れていって話を聞き、その冒険者と、ついでにそこにいた神二柱を連れて、ハビット城へと駆け込んだ。
ルイドート・ハビットの執務室に通されたナックは、室内に入るや興奮したようにルイドートに話しかけた。
「やはり、あの情報は本当でした。王国軍が、ここを攻めてまいります!」
「そうか……」
ルイドートは渋面を隠さず、ため息を吐いた。
「間違いであればよいと思っていたが……」
未だはっきりと事情を呑み込めていないクリソックス達が、ルイドートに尋ねた。
「どういうこと?さっき、馬車の中で『王国軍が来る』って話は聞いたけど、もしかしてルイドートは知っていたの?」
ルイドートは頷いた。
「フッツメーン様があのように戻られたから、何かろくでもない報告をしかねないとは思っていました。その結果、王家がどう動くか、ナック・ケラーニや手の者に情報を探らせていました」
ナックはルイドートに続けて言った。
「向こうも情報統制を敷いて、通信魔法士に厳しいの制限をかけていたし、シャリアータ方面の町の出入りを封鎖しているようで、情報はほとんど入ってこなかった。ただ、この明らかに不穏な状況で、どこからか王国軍がシャリアータに向かったという噂が立ったのです。まさか、とは思いましたが、この冒険者が実際に、ノイエ村の向こうで王国軍を見た」
ナックは、冒険者達に視線を向けた。
その視線を受けて、冒険者の一人が話し始める。
「あの、公爵閣下。私達は『雷起こし』という名でパーティーを組んでおりまして、私はリーダー役のクサーサと申します。その時の状況を説明致します」
ルイドートは、「ふむ。続けよ」と促す。
クサーサは、緊張しながら語り始めた。
「私達はB級とC級から成るパーティーです。十日前に、ノイエ村近くのコレン山に出る『はぐれホオーク』退治の依頼を受けて向かったのです」
ルイドートとナックは、思わず二柱を見て、気まずげに目を逸らした。
クサーサは気にせず続けた。
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ルイドートは、計算して言った。
「ノイエ村はここから馬車で三日ほどの距離だ。軍勢を率いていることを考えると、こちらに着くまで四日はかかるだろうな。クサーサとやら、お前達がノイエ村を出たのは、いつだ?」
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ナックが緊張を孕んだ様子で、呟いた。
「二日前か。つまり、早くても二日後の町に王国軍が到着するのか」
ドロンズがルイドートに尋ねる。
「二日で王国軍を迎え撃つ準備などできるのか?」
ルイドートは、ニヤリと笑った。
「実はわりと早い段階で、他の町のギルドから、噂として連絡を受けていたのです。その後は何も連絡がないので、王国軍が町に到着し、情報統制が敷かれたのだと思いますが」
「てことは、もしかして準備済み?」
「はい。一応。杞憂に終わればと思っていましたが、進軍の目撃があった以上、確定としてことに当たります」
ルイドートは、覚悟を決めたような眼で、二柱を見据えた。
そして、跪き、クリスマス柄靴下をまとった頭を垂れた。
「神よ。どうか、スタンピードの時と同様に、我らをお助け願えませぬか?」
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