上 下
76 / 155
第八章

第一話 真剣勝負

しおりを挟む
 ドスを右手に構える削げ鼻と、ナイフを左手に構える車輪は数秒

睨み合った。ハッキリ言って車輪に左手でのナイフで闘った経験は

無い。だが右手で闘う訓練と、戦場で潜んで不意打ちにて敵を斬った

事はある。右手も左手も使い方は理論上同じだ。問題はその理屈が

実戦においてはどうなるかである。


 「死ねやァーっ!」、、先に動いたのは削げ鼻だった。斜めに斬り

掛かり、すぐに逆の斜めから斬り掛かる。Xの時を描いてきたのに

対し車輪は避けたと思った瞬間、足の方を突いてこられた。最初の

X斬りはフェイントだったのだ。「上だけじゃねえ、下もあるんだぜっ」

、、だが浅かった為、ズボンを斬られただけで済んだ様だ。


 車輪もすかさず反撃に転ずる。削げ鼻の眼前にジャブの如く素早く

突きを繰り出すやいきなり腹を目がけて突く。が、削げ鼻も見事な

半身が出来ていた為シャツをかすった程度でギリギリ躱せた。「コイツ、

銃だけで無く刃物の闘いも基本が出来ていて且つ場数も踏んでいる」、、

車輪は心の中でそう思い、お互い再度睨み合う。


 「やっぱ中々やるじゃねーかっ」、、「お前も自己流にしては上手い

なっ!」、、そう言ったが早いか両者同時に踏み出し一気に攻めるが、

武器を弾き飛ばされたのは車輪の方だった。カァンッ、、刃と刃が互い

にぶつかる音がした瞬間、車輪のナイフはクルクル回転して数m先まで

飛ばされたのだ。「俺の勝ちだな」、、


 車輪の額から汗が流れ落ちる。左手に慣れていないとは言え、正直

暴力集団ごときがここまで刃物の闘いで強いとは思っていなかった。

プロの軍人として、犯罪者のチンピラ相手に不覚を取ったのは事実だ。

「これが真剣勝負ってヤツだ。トドメ刺させてもらうゼ、悪く思うな

兵隊さんよォっ」、、物凄い速さで削げ鼻のドスが迫る。
しおりを挟む

処理中です...