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崩れたケーキ、ぺしゃんこの心
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深夜、飽きるほど身体を重ねた末に昴はこてんと眠りこけてしまった。睦月は自分と恋人の身なりを整え、そっと布団を出た。
僕、昴君とエッチしちゃった。
睦月は何度しても、どれだけ身体が昴のものに慣れていても、セックスをした翌日は生まれ変わったような心地になる。
「あ~……、あったま痛え……」
翌日の早朝、リビングで布団に丸まりながら昴はうんうん呻いた。睦月はいつもより緊張した面持ちで「シジミのお味噌汁出来てるよ」と声を掛ける。のっそりと起き上がり寝ぼけ眼で味噌汁をすする昴。睦月はゆかりを混ぜ込んだ小さなおにぎりとウサギりんごを昴の前に置き、さっとその場を離れた。
昨日は恥ずかしかったけど、久々に求められて、たくさん触れてもらえて、嬉しかった。睦月は台所の隅で一人、にやにやしながら自分用に握った大きなおにぎりに齧り付いた。
四歳年下の昴。彼自身のコミュニティの中で自由に過ごせる時間が必要なのは分かっていた。けれど、長い間「昴が誰かにとられたら」と不安で、若い彼を自分の傍に縛り付けてしまっていて……。
横目で昴を見やれば、いつもより表情が緩んでいた。昴君、友達と飲みに行けたのが嬉しかったのかな。睦月は胸が少し痛んで、けれど、それ以上に嬉しかった。嫉妬や束縛から昴を解放してあげられれば、昴だってこちらを求めてくれる。昴が必要としているのは、嫉妬せず、おおらかに見守ってくれる恋人。それがどれだけ本当の睦月からかけ離れていても、そういう恋人になれなければ、昴との未来は潰えてしまう。
大丈夫。僕、ちょっとずつだけど変わってる。
睦月は昨晩の源城の言葉を思い起こし深く頷いた。「女の子の香水の匂いがしたよ。女の子と飲んでたの?」その疑問を喉の奥へしまい、厳重に蓋をして南京錠をいくつもかける。昴の顔を見たら簡単に鍵が開いてしまいそうで、睦月は昴から視線を逸らし続けた。
「すご~く……嬉しかった……」
カウンターで頬杖を突きうっとりしている睦月を源城は微笑みで受け止めた。「ボクからすれば二か月ぶりって方が驚きだ」どれだけ隙の無い着こなしをしても源城はたっぷりと色気を身に纏っている。
「源城君なんか五人も恋人がいた時あったもんねえ」
「いやだな。二十代の頃の話じゃないか。今はたった一匹と愛し合う幸せを噛みしめてるよ」
訳知り顔で頷き合い、睦月は温かい緑茶を淹れた。ランチを食べ終わって一息ついているお客さんの為のものだ。
「でもね、一つだけ気になることがあって。帰って来た昴君に女の子の香水がうつってたの」
「バーで女性と隣り合っただけじゃないのかい?」
「昴君、匂いに敏感だから。服の柔軟剤にもうるさいくらいで……」
「ああ、彼の嫌いな匂いだったんだね」
「そう。なのに、帰って来てからも香るくらいにうつってて。女の子と一緒に飲んでたのかなって、心配になっちゃった」
思い思いに寛いでいるお客さんに緑茶とおやつを出し、いつも来てくれる初老のサラリーマンの会計を終わらせた時だった。丸窓から昴が見え、睦月は扉へ駆け寄った。
「すば」
昴君、珍しいね、来てくれて嬉しい。
そう言おうとした睦月の喉がきゅっと栓をしたようになってしまった。
昴の背後からひょっこりと顔を出すロングヘアの女の子。この間、サロンで見かけた女の子だった。彼女の髪が風に揺れるたびに、あのサロンのトリートメントの香りが漂った。ああ、僕が行けなくなった場所に、この子は。いとも簡単に嫉妬に火がつきそうになって、睦月は頭を振り立てた。
「いらっしゃいませ!カウンター席とテーブル席、どちらにされますか?」
店主は当たり障りのない笑みを浮かべて二人を店内に迎え入れた。昴はそんな睦月の旋毛に軽いチョップを落とす。「なに店員ごっこしてんの。テーブル席お願い」睦月は頬を熱くしつつ、瞳をくりくりさせている女の子に会釈する。女の子は可愛らしい笑みを浮かべて「素敵なお店ですね」と店主をねぎらった。
「ああ、君がスバル君か」
カウンターで長い脚を組んでいた源城が表情を明るくして睦月を確かめる。以前、源城との顔合わせを昴に断られた睦月は、どぎまぎしながら「こちら、僕の友達の源城一誠君……」と昴に源城を紹介した。
「どうぞよろしく。源城一誠です」
源城が手を差し出せば昴もそれに応える。二人はごく軽い握手を交わした。
「どうです、今度三人で食事でも?」
「すみません。仕事柄、世間が休みの時が忙しくて……」
「そう。残念だ。……でも気にしないで。僕も今はフリーランスみたいなもので、予定がなかなか立てられないつらさはよく分かってるつもりだ。いつも気まぐれに君の大事な人を連れ去ってしまってすまないね」
「いえ。構いませんよ。いつでもどうぞ」
昴は仕事の顔をして他人行儀に源城に接した。「親友」だと、「たった一人の友人」だと話したはずなのに、まるでサロンのお客さんにするようにされて、睦月は表情を曇らせた。……僕って我儘なのかな。源城とすぐに仲良くなって欲しいわけじゃない。けれど、心から打ち解けようとしてほしかった。
睦月と源城はカウンターで、昴と女の子は丸窓から海を臨むテーブル席でそれぞれの時を持った。よかった、これだけ離れていたら二人の会話は聞こえて来ない。睦月は椅子に座って背を丸め、グラスを熱心に磨いた。
「じゃあボクはこれでお暇しようかな」
源城が立ち上がれば、睦月は寄る辺のない心地になって椅子から腰を上げた。
「源城君、行っちゃうの」
思わず縋るような声が出てしまい、睦月は口元を抑えた。源城は優しく微笑み「大丈夫だよムツキ」と肩に触れてくれた。
「またワインでも飲みながら話そう。ああそうだ。よさそうなバーを見つけたからまた数日の内にお誘いするよ」
「バー?そういえばあんまり行ったことないかも」
「たまにはこういうのもいいだろう?一人じゃ入りづらい場所にも二人なら入れる。これも“友達”のいいところだな」
「ふふ。そうだね。楽しみにしてる。きっと連絡してね、絶対だよ」
二人はきつく抱きしめ合い別れを惜しんだ。喫茶店の窓から互いが見えなくなるまで手を振り続ける。源城が見えなくなると、睦月は崖の上に立たされたような気分になった。丸窓の傍ではブレンドコーヒーを傾けている昴がアフォガードをつついている女の子と楽しそうに話している。睦月はとうとう二人に背を向けてシンクを掃除し始めた。……こういう時は掃除に限る。
「みゃー、会計頼む」
山木さんが立ち上がるのを見て、睦月は古びたレジの前に立ちモーニングとランチの代金を精算した。「いつもありがとうございますっ。これ、朝焼いた試作品のチーズケーキ!よかったら山木さんも一切れ持って帰る?」紙袋に包んだそれをお釣りと共に差し出せば、山木さんは片眉を上げてニヤリと笑った。
「みゃー、誰にでも愛情深いのはいいことだけどな。“そういうもの”は今度から周りを見渡してから配るといい。女の嫉妬ほどじゃないが、男の嫉妬だってそれなりに怖いぞ」
瞳をぱちくりさせている睦月を置いて山木さんは「いつもありがとうな」とケーキを受け取り去って行った。それに続いて、昴と女の子も席を立ち会計に並んだ。
「お待たせいたしました、次の方どうぞ」
朗らかな店長スマイルを浮かべ昴から差し出された伝票に触れる。片手をレジのキーに伸ばして睦月ははたとした。昴がどうしてか伝票を離そうとしない。睦月は伝票に触れたまま昴を見つめた。
昴の眼差しはひんやりとしているのに熱かった。じりじりと肌が焼けるように痺れて、睦月は咄嗟に眼差しを伏せた。
「……」
どうしたの、とも、やだもういたずらしないでよ、とも言えず、睦月は伝票から離れてくれない昴の指先を見つめた。頭一つ分背の高い彼の眼差しが眉と瞳の間を刺すように落ちて来る。こちらから手を離そうとしたその時、伝票がパタンと小さな音を立ててトレイの上に落ちてしまった。
「し、失礼いたしました」
慌てて伝票を手に取り清算を済ませる。トレイにお釣りとレシートを置き、睦月は一歩下がって二人に微笑んだ。知り合いのはずなのに無言のままの二人に耐えかねてか、女の子が沈黙を破ってくれた。
「ここのアフォガード、美味しかったです。今度ランチ食べに来ます」
「ありがとうございます!僕一人でやってる店なので待たせてしまうこともあるんですけど、その分うんとサービスしますからまたいらしてください。あの、よかったら、」
紙袋に包んだチーズケーキを差し出そうとすると、昴の手がぱっと紙袋を払ってしまった。……レジの手前と睦月のスニーカーの間に転がる紙袋。睦月は大きく見開いた瞳を瞬かせた。
「珈琲美味しかった。じゃあね」
コロンコロンと寂しげに揺れるドアベル。睦月はレジの前に呆然と立ち尽くし、足元に落ちてしまった紙袋を見下ろした。
昨日は昴と裸で抱き合って、あんなに温かかったのに。この間までどんな小さな変化にも気付けていたのに、彼の小さなシグナルをちゃんと受け取ることが出来ていたのに。今は、昴が何を考えているのか、全く分からない。
もしかして、昴君はもう、僕のことすきじゃないのかな。
今まで考えないようにして来たことが突然に目の前へ立ちふさがり、睦月の感情を迷子にしてしまう。一緒に住んでいても、恋人というラベルを一生懸命貼っても、中身は――。
睦月はしゃがみ紙袋を拾い上げた。中のケーキはきっと、崩れているだろう。
僕、昴君とエッチしちゃった。
睦月は何度しても、どれだけ身体が昴のものに慣れていても、セックスをした翌日は生まれ変わったような心地になる。
「あ~……、あったま痛え……」
翌日の早朝、リビングで布団に丸まりながら昴はうんうん呻いた。睦月はいつもより緊張した面持ちで「シジミのお味噌汁出来てるよ」と声を掛ける。のっそりと起き上がり寝ぼけ眼で味噌汁をすする昴。睦月はゆかりを混ぜ込んだ小さなおにぎりとウサギりんごを昴の前に置き、さっとその場を離れた。
昨日は恥ずかしかったけど、久々に求められて、たくさん触れてもらえて、嬉しかった。睦月は台所の隅で一人、にやにやしながら自分用に握った大きなおにぎりに齧り付いた。
四歳年下の昴。彼自身のコミュニティの中で自由に過ごせる時間が必要なのは分かっていた。けれど、長い間「昴が誰かにとられたら」と不安で、若い彼を自分の傍に縛り付けてしまっていて……。
横目で昴を見やれば、いつもより表情が緩んでいた。昴君、友達と飲みに行けたのが嬉しかったのかな。睦月は胸が少し痛んで、けれど、それ以上に嬉しかった。嫉妬や束縛から昴を解放してあげられれば、昴だってこちらを求めてくれる。昴が必要としているのは、嫉妬せず、おおらかに見守ってくれる恋人。それがどれだけ本当の睦月からかけ離れていても、そういう恋人になれなければ、昴との未来は潰えてしまう。
大丈夫。僕、ちょっとずつだけど変わってる。
睦月は昨晩の源城の言葉を思い起こし深く頷いた。「女の子の香水の匂いがしたよ。女の子と飲んでたの?」その疑問を喉の奥へしまい、厳重に蓋をして南京錠をいくつもかける。昴の顔を見たら簡単に鍵が開いてしまいそうで、睦月は昴から視線を逸らし続けた。
「すご~く……嬉しかった……」
カウンターで頬杖を突きうっとりしている睦月を源城は微笑みで受け止めた。「ボクからすれば二か月ぶりって方が驚きだ」どれだけ隙の無い着こなしをしても源城はたっぷりと色気を身に纏っている。
「源城君なんか五人も恋人がいた時あったもんねえ」
「いやだな。二十代の頃の話じゃないか。今はたった一匹と愛し合う幸せを噛みしめてるよ」
訳知り顔で頷き合い、睦月は温かい緑茶を淹れた。ランチを食べ終わって一息ついているお客さんの為のものだ。
「でもね、一つだけ気になることがあって。帰って来た昴君に女の子の香水がうつってたの」
「バーで女性と隣り合っただけじゃないのかい?」
「昴君、匂いに敏感だから。服の柔軟剤にもうるさいくらいで……」
「ああ、彼の嫌いな匂いだったんだね」
「そう。なのに、帰って来てからも香るくらいにうつってて。女の子と一緒に飲んでたのかなって、心配になっちゃった」
思い思いに寛いでいるお客さんに緑茶とおやつを出し、いつも来てくれる初老のサラリーマンの会計を終わらせた時だった。丸窓から昴が見え、睦月は扉へ駆け寄った。
「すば」
昴君、珍しいね、来てくれて嬉しい。
そう言おうとした睦月の喉がきゅっと栓をしたようになってしまった。
昴の背後からひょっこりと顔を出すロングヘアの女の子。この間、サロンで見かけた女の子だった。彼女の髪が風に揺れるたびに、あのサロンのトリートメントの香りが漂った。ああ、僕が行けなくなった場所に、この子は。いとも簡単に嫉妬に火がつきそうになって、睦月は頭を振り立てた。
「いらっしゃいませ!カウンター席とテーブル席、どちらにされますか?」
店主は当たり障りのない笑みを浮かべて二人を店内に迎え入れた。昴はそんな睦月の旋毛に軽いチョップを落とす。「なに店員ごっこしてんの。テーブル席お願い」睦月は頬を熱くしつつ、瞳をくりくりさせている女の子に会釈する。女の子は可愛らしい笑みを浮かべて「素敵なお店ですね」と店主をねぎらった。
「ああ、君がスバル君か」
カウンターで長い脚を組んでいた源城が表情を明るくして睦月を確かめる。以前、源城との顔合わせを昴に断られた睦月は、どぎまぎしながら「こちら、僕の友達の源城一誠君……」と昴に源城を紹介した。
「どうぞよろしく。源城一誠です」
源城が手を差し出せば昴もそれに応える。二人はごく軽い握手を交わした。
「どうです、今度三人で食事でも?」
「すみません。仕事柄、世間が休みの時が忙しくて……」
「そう。残念だ。……でも気にしないで。僕も今はフリーランスみたいなもので、予定がなかなか立てられないつらさはよく分かってるつもりだ。いつも気まぐれに君の大事な人を連れ去ってしまってすまないね」
「いえ。構いませんよ。いつでもどうぞ」
昴は仕事の顔をして他人行儀に源城に接した。「親友」だと、「たった一人の友人」だと話したはずなのに、まるでサロンのお客さんにするようにされて、睦月は表情を曇らせた。……僕って我儘なのかな。源城とすぐに仲良くなって欲しいわけじゃない。けれど、心から打ち解けようとしてほしかった。
睦月と源城はカウンターで、昴と女の子は丸窓から海を臨むテーブル席でそれぞれの時を持った。よかった、これだけ離れていたら二人の会話は聞こえて来ない。睦月は椅子に座って背を丸め、グラスを熱心に磨いた。
「じゃあボクはこれでお暇しようかな」
源城が立ち上がれば、睦月は寄る辺のない心地になって椅子から腰を上げた。
「源城君、行っちゃうの」
思わず縋るような声が出てしまい、睦月は口元を抑えた。源城は優しく微笑み「大丈夫だよムツキ」と肩に触れてくれた。
「またワインでも飲みながら話そう。ああそうだ。よさそうなバーを見つけたからまた数日の内にお誘いするよ」
「バー?そういえばあんまり行ったことないかも」
「たまにはこういうのもいいだろう?一人じゃ入りづらい場所にも二人なら入れる。これも“友達”のいいところだな」
「ふふ。そうだね。楽しみにしてる。きっと連絡してね、絶対だよ」
二人はきつく抱きしめ合い別れを惜しんだ。喫茶店の窓から互いが見えなくなるまで手を振り続ける。源城が見えなくなると、睦月は崖の上に立たされたような気分になった。丸窓の傍ではブレンドコーヒーを傾けている昴がアフォガードをつついている女の子と楽しそうに話している。睦月はとうとう二人に背を向けてシンクを掃除し始めた。……こういう時は掃除に限る。
「みゃー、会計頼む」
山木さんが立ち上がるのを見て、睦月は古びたレジの前に立ちモーニングとランチの代金を精算した。「いつもありがとうございますっ。これ、朝焼いた試作品のチーズケーキ!よかったら山木さんも一切れ持って帰る?」紙袋に包んだそれをお釣りと共に差し出せば、山木さんは片眉を上げてニヤリと笑った。
「みゃー、誰にでも愛情深いのはいいことだけどな。“そういうもの”は今度から周りを見渡してから配るといい。女の嫉妬ほどじゃないが、男の嫉妬だってそれなりに怖いぞ」
瞳をぱちくりさせている睦月を置いて山木さんは「いつもありがとうな」とケーキを受け取り去って行った。それに続いて、昴と女の子も席を立ち会計に並んだ。
「お待たせいたしました、次の方どうぞ」
朗らかな店長スマイルを浮かべ昴から差し出された伝票に触れる。片手をレジのキーに伸ばして睦月ははたとした。昴がどうしてか伝票を離そうとしない。睦月は伝票に触れたまま昴を見つめた。
昴の眼差しはひんやりとしているのに熱かった。じりじりと肌が焼けるように痺れて、睦月は咄嗟に眼差しを伏せた。
「……」
どうしたの、とも、やだもういたずらしないでよ、とも言えず、睦月は伝票から離れてくれない昴の指先を見つめた。頭一つ分背の高い彼の眼差しが眉と瞳の間を刺すように落ちて来る。こちらから手を離そうとしたその時、伝票がパタンと小さな音を立ててトレイの上に落ちてしまった。
「し、失礼いたしました」
慌てて伝票を手に取り清算を済ませる。トレイにお釣りとレシートを置き、睦月は一歩下がって二人に微笑んだ。知り合いのはずなのに無言のままの二人に耐えかねてか、女の子が沈黙を破ってくれた。
「ここのアフォガード、美味しかったです。今度ランチ食べに来ます」
「ありがとうございます!僕一人でやってる店なので待たせてしまうこともあるんですけど、その分うんとサービスしますからまたいらしてください。あの、よかったら、」
紙袋に包んだチーズケーキを差し出そうとすると、昴の手がぱっと紙袋を払ってしまった。……レジの手前と睦月のスニーカーの間に転がる紙袋。睦月は大きく見開いた瞳を瞬かせた。
「珈琲美味しかった。じゃあね」
コロンコロンと寂しげに揺れるドアベル。睦月はレジの前に呆然と立ち尽くし、足元に落ちてしまった紙袋を見下ろした。
昨日は昴と裸で抱き合って、あんなに温かかったのに。この間までどんな小さな変化にも気付けていたのに、彼の小さなシグナルをちゃんと受け取ることが出来ていたのに。今は、昴が何を考えているのか、全く分からない。
もしかして、昴君はもう、僕のことすきじゃないのかな。
今まで考えないようにして来たことが突然に目の前へ立ちふさがり、睦月の感情を迷子にしてしまう。一緒に住んでいても、恋人というラベルを一生懸命貼っても、中身は――。
睦月はしゃがみ紙袋を拾い上げた。中のケーキはきっと、崩れているだろう。
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