12 / 14
一生愛し合いたいのは、最愛の君だけ
しおりを挟む
家の鍵を開ける昴。泣き止んだ睦月は昴の背中をじいと見つめ、彼が中に入れば自分も慌てて玄関をくぐった。
部屋の中はひどい有様だった。机やその周囲にはペットボトルや食べかけのコンビニ弁当が散乱して、ソファーには脱いだ服が何枚も掛けられている。呆然としている睦月の傍に、ぼすんと旅行鞄が投げつけられた。
「お、怒ってるの?」
「……」
昴は襟足を乱暴に掻き、小鼻をぴくぴくさせた。じろりと睨みつけられると、睦月の肩が勝手に縮み上がった。
二人はしばし睨み合って、それから昴がじりじりとこちらへにじり寄った。けれどやや距離を残したところで二人はまた膠着状態に陥ってしまう。睦月は眼差しを伏せた昴を見つめ、彼に歩み寄った。
「すばるくん」
出来るだけ穏やかに、静かに声を掛ける。するとやっぱり睨まれて、睦月は緊張しながらも彼の腕にそっと触れた。
肩に手を添え、愛しい昴をおずおずと抱き寄せる。突き飛ばされるかな、と内心びくびくしていたけれど、昴は睦月を突っぱねなかった。よく知った温みの後に、昴の匂いが訪れる。睦月は頬を緩ませて、昴の胸に耳を当てた。
「昴君の心臓の音、久しぶりに聞いた……」
とくん、とくん、とくん、と、優しく鼓動を刻む心臓。睦月はほうと息を吐いてその音に耳と心を傾けた。
気が付くと昴の腕も睦月の背に回っていて、柔らかく身体を抱いてくれている。睦月は一層きつく昴の身体を抱きしめ、「すばるくん」とくもぐった声で愛しい人を求めた。
「昴君、僕、別れたくない」
「何度も同じこと言わせないでよ。お前が勝手にそう思い込んでただけだろ」
「すきだから別れたりしないよ」そう言ってくれれば心から安心できるのに、昴はそんな甘いことは言わない。だからどうしたって睦月は「本当に?別れない?」と繰り返し尋ねる羽目になり、昴の苛立ちを誘ってしまう。
いつもだったらこんな睦月を無視で済ませる昴だが、今日は小さく頷きを返してくれた。睦月は飛び上がりたいほど嬉しくなって、昴の胸へぐりぐりと面を擦り寄せた。
「仲直りのチューして」
脳天にチョップでも落ちてくるかもしれない。そう思いながらも欲張って呟くと、昴は抱いていた背を離して睦月を見つめた。……潤んで光を取り込んだ瞳には睦月しか映っていない。
羨ましい、僕もそこに居たいのに。
昴の瞳の中に居る自分にまで嫉妬してしまい、睦月は唇を歪めた。
頬に温かな手のひらが触れる。瞳は閉じずに、けれど視線は伏せて、睦月は昴の口づけを受け止めた。
「ふふ」
嬉しさを隠せずに微笑むと、昴は溜息を吐いた。
「笑うな。仲直りも何も、お前が一人で勝手に……」
言いかけ、彼は押し黙ってしまう。睦月は新しい涙を浮かべて昴を見つめた。昴が愛おしかった。
「昴君、一人にしてごめんね。勝手に出て行ってごめんね。あいしてるよ、大すきだよ」
首に腕を回し、今度は自分から口づける。昴は顔を顰めたけれど、睦月を邪険にするようなことはしなかった。「あいしてる」「すきだよ」「昴君がすき」「ずっと一緒にいたい」囁きながら何度も唇を押し付けて、睦月は愛を紡ぎ続けた。
「誰にも昴君をとられたくない。僕、変われないかもしれないけど、その分、いっぱい昴君を大切にする。こんなこともう二度としない。いらないって言われるまで傍に居る。だからお願い、昴君、僕を捨てないで。お願い……」
昴の前ではネガティブなことなんか言いたくなかったのに、本音が言葉端に漏れてしまう。睦月はハッとして顔を歪めた。
「その言葉、一生忘れるなよ」
背を抱いていた昴の両手がするりと腰まで落ちて来て、睦月は思わず目の前の両肩を掴んだ。探るように視線を絡めれば、昴の唇が睦月の唇に重なった。「あっ……」首筋を啄ばみながら野暮ったいネルシャツのボタンを外していく昴は、ほんの少しだけ微笑んでいた。
「すばるくん」
呼べば、「うるさい」と言われ唇を深く奪われた。リビングから昴の自室まで押しやられ、最後にはベッドに組み敷かれてしまった。
愛しい人の匂いに満たされた部屋。睦月は昴のベッドにはめったに上がらない。疲れて帰って来る昴の眠りを妨げたくなかったし、彼には一人の時間が人一倍必要だということが睦月にはよく分かっているから。
綺麗な灰色のシーツを自分のもので汚したくなくて、睦月は視線を彷徨わせた。せめて、タオルがあれば。昴はそんな睦月の両頬を片手でぶにりと挟み「よそ見するな」と一喝した。
「あのね、昴君、シーツ汚れちゃう。バスタオル持ってくるから待ってて」
「別にいい。汚れるようなことするんだし、汚れたらお前の布団で寝ればいいだろ」
「僕のお布団ちっちゃいよ。昴君、ゆっくり眠れないよ」
「……この間寝たから知ってる」
睦月の両手首を掴んでシーツに縫い付け、昴は「それからさ、俺が寝てる間に布団から出るの止めて。寒いから」とぶっきらぼうに言った。
「一緒に寝てもいいの?僕も、ぎゅーってして寝たい。昴君が翌日休みの時だけでいい、そうしたい」
「誰も一緒に寝たくないとか言ってないだろ。お前、自分の頭の中で勝手に俺を組み立てるな。それから、抱きしめて寝るとも言ってない。そんなん無理。腕しびれる」
「うん、いい、それでいい、一緒のお布団で朝まで寝たい!」
「……んな調子のいいこと言って、お前、やったら絶対布団から出るくせに。俺には分かってる」
意地悪く言われて睦月は頬を熱くした。昴が言っていたのは事後の話だったのだ。睦月はもにょもにょと何かを言いかけて黙り込む。その内にシャツやインナーをはぎ取られ、昴の唇や指が胸の突起にいたずらに触れた。
「う、」
睦月は眉根を寄せて唇を噛んだ。昴の唇が突起をやわやわと食み、手のひらは無い胸を下から寄せるように揉んでいる。胸を大きく上下させているのに声一つ漏らさなくなってしまった睦月を見て昴は笑った。
「俺にめちゃくちゃ触ってくるくせに、触られるのは嫌がるよね。全身で愛情押し付けてくんのに、セックスは嫌いなんだよね。お前って本当、なんていうか……」
手首から昴の手が離れ、睦月はぱっと唇をほどいた。
「やだ、昴君、離さないで」
首に腕を回し腰に脚を絡める。溶けそうに熱くなった視界の向こうで、昴は瞳を丸くしていた。
「き、嫌いじゃない。苦手だけど、嫌いじゃない。昴君に触られるの、すき。昴君の手で触られると、気持ちよくて、どうしようもなくなって、恥ずかしくて……。昴君とエッチするのもすき。大すき。途中からぐちゃぐちゃになって、わけ分かんなくなっちゃうから、上手に出来ないから、声とか気持ち悪いの出ちゃうから、こうなっちゃうだけ……」
一息で捲し立てるように言い、睦月はふうふうと息を弾ませた。「ふ」そんな睦月を見つめ、昴は眉根を寄せてほどけたように笑った。
「そっか」
裸の肩に温かなキスが落ちる。睦月は昴の肩を叩いて表情を覗き込んだ。
「昴君は?僕、昴君のこと気持ちよく出来てる?中、ちゃんと気持ちいい?僕、上手に出来てる?」
「上手にかは分かんないけど、毎回出るもん出てるでしょ。……お前が嫌そうな顔ばっかりするから、したくないのかなって気ぃ遣ってあげてたのに」
「え、あ」
太ももに押し付けられた熱に睦月は固まった。にやりと笑った昴が「ちゃんと固くなってるか触って確かめてもいいよ?」と意地悪く囁く。睦月は咥内に滲んだ唾液をコクンと飲み下し、指先で彼の熱に触れた。
本当にそうするとは思っていなかったのだろう。昴はぴくりと肩を震わせ睦月を睨んだ後、熱に触れた手をその上から握り込んだ。手の内に昴の熱を感じながら耳殻を食まれ、睦月は瞳を堅く閉じた。
「あいつとはホントになんもなかったの?」
ハッとして瞼を上げると、昴は「あいつとはホントに友達?」と問いを重ねた。源城のことだと気が付いて、睦月は「なんもない!なんも!」と頭を振り立てた。
「お互いに友達がいたことなかったから距離感が分かんなくて。でも、なんにもなかったよ!源城君は友達として大すきなの!僕があいしてるのは昴君だけっ!一生愛し合いたいって思うのは昴君だけっ!」
鼻息荒く宣言すれば、昴は「ぶは」と噴き出した。うくく、と喉で笑いながら、睦月の鎖骨に額をついて体重をかけてくる昴。睦月はその温かな重みを両腕で受け止めた。
「一生はヤバい。重い」
「ヤバくない!一生愛しますって最初に誓ったじゃない!僕の一生をかけてそうするんだから、重いに決まってるでしょ!」
昴は心底可笑しそうに明るい声を立てて笑った。夜なのに、なぜか、朝日が昇ったような気分になって、睦月は瞳を瞬かせた。
「重いの……嫌い?ウザい?」
「重いのは無理だしウザい」
即答され睦月は少なからず傷ついた。そうだ、この子は上っている梯子をひょいと外すのが得意な子だった。睦月は唇を尖らせ昴の胸を押し返す。昴は切なげに微笑み、つんと上を向いた唇に軽いキスを重ねた。
「多分、お前のがうつった」
昴がしなければセットもケアもしない睦月の短髪を掻き上げるように撫で、昴は目を細めた。数日の内に灰みがかった青色が抜け、オリーブ色になっている。光に透けるとパチパチ光るこの髪を昴が心から愛していることを、睦月はよく知っている。
「五年で、俺もだいぶ重くなった。お前のこと言えない」
じゅわ、と涙も熱も面に滲んで、睦月はもう何も言えなくなった。
昴の大きな手が素肌の凹凸を確かめるように滑っていく。熱くて、吸い付くようで、気持ちいい。触られるだけで、心臓から熱が伝播して、狂おしい気持ちになっていく。瞳を閉じて昴の唇と温みに心を集中させると涙が幾筋も伝った。
「はあ、……は、……ふ……っ、」
心が通うと、身体が疼く。睦月は闇の中で身を捩らせ唇を堅く結んだ。昴の手が睦月の履いているチノパンのチャックを下ろし、下着ごと攫って行く。睦月は咄嗟に傍にあった掛け布団を引き寄せ寝返りを打った。昴に男の部分を見られるのが恥ずかしい。昴を慰められる場所だけを見つめていて欲しい。だって自分の身体でここだけが、昴と深く繋がれる場所なのだから。
昴はすぼまりに指を伸ばし何かを確かめるように触れた。「んっ……」中指が縁をくぐったかと思えば、そのまま根元まで埋められてしまう。睦月はシーツを握りしめて硬直した。
「俺によく見えるようにケツ上げて」
何を確かめたいのだろう、昴は睦月の尻臀を軽く叩いて尻を上げろと急かした。睦月は躊躇い、けれど結局、項まで熱くしながら膝を立てて腰を反らした。
中指を何度か行き来させジェルの潤いをまぶした後に、薬指も一緒に中へ入っていく。手首を捻りながら抜き挿しされ、睦月は額をシーツに擦りつけた。
「いつやっても柔いから、よく分かんねー……」
二本の指を中で開いたり閉じたりしながら独り言つ昴。入口ぎりぎりまで抜かれた指先がぱかんと開き、睦月は「昴君!」と声を荒げた。
「も、なに?止めて、そんな風にしないで、恥ずかしいからっ」
「や、いつもより柔かったらあいつとやってる証拠かなって」
「源城君とするわけないでしょ!こんなこと、昴君としかしない!」
振り返り睨みながらきゃんきゃん叫ぶと、今度は三本の指で中を貫かれた。「んあっ!」感じる場所を急に穿つように擦られ、睦月は喉を反らした。
「はじめは指一本、それも真ん中までしか入んなかったのにね」
「く、う、……うう、ん~っ……」
「今は根元まで三本、簡単に入る」
ぐりぐりと中を拡げるように指を動かされ、睦月は枕に面を埋めた。すると前にまで昴の手が伸びて来て、反り返ったそこを扱き始めた。声を出したくないのに、たまりかねたように鼻から上ずった息が抜けてしまう。
「お前、もう女抱けないでしょ。こんな身体になっちゃったら元には戻れない。お前ってなんかちょっとかわいそうだよね」
昴を好きになるまで、睦月はヘテロセクシャルだった。自分の性的嗜好や性自認についてなど、考えたこともなかった。なのに昴を好きになって、彼に捧げられるものはと懸命に自分の心や身体を探って、こんなところまで来てしまった。
「別に、いいもん」
睦月は涙を浮かべてシーツを握りしめた。
「昴君以外、誰ともしないもん。だから、いいっ。別に、それで、いいんだもん。かわいそうなんかじゃない。僕はこれでいい」
昴の言葉に心が揺さぶられて、大きな悔しさに涙があふれた。昴にだけは、そんなことを言われたくなかった。ただここで気持ちよくなって欲しいだけなのに。昴に憐れまれると、つらい。
「睦月」
宥めるように伸びて来た手を、睦月は後ろ手で払った。勝手に体勢を変えて指を引き抜く。睦月は無言でこちらを見つめて来る昴を睨んだ。
「今のは、ちょっとグッときた」
「うるさいっ。昴君の無神経。昴君のばか!」
傍にあった枕で昴を叩こうとすると、それよりも先に昴の手が伸びて睦月をシーツの上へ押し倒してしまった。
「やっぱお前ってかわいそうだよ」
真正面から言われ、睦月は脚をばたばたさせて意を唱えた。昴に体重をかけて乗り上げられ睦月の身体は半ばベッドに沈み込んだ。
「かわいそうだから、お前の面倒は最後の最後まで見てあげる」
スパイスのたっぷりかかったイチゴのショートケーキのような言葉に、睦月は瞳をぱちくりさせた。見つめ合っているうちに、柔らかく温かい唇が重なって、まろやかなキスになる。昴のキスに応えながら彼の羽織ったカーディガンを脱がせシャツの下に手を這わせる。「昴君も、」脱いで。瞳でそう訴えれば、昴は上半身を起こして服を脱いでくれた。
部屋の中はひどい有様だった。机やその周囲にはペットボトルや食べかけのコンビニ弁当が散乱して、ソファーには脱いだ服が何枚も掛けられている。呆然としている睦月の傍に、ぼすんと旅行鞄が投げつけられた。
「お、怒ってるの?」
「……」
昴は襟足を乱暴に掻き、小鼻をぴくぴくさせた。じろりと睨みつけられると、睦月の肩が勝手に縮み上がった。
二人はしばし睨み合って、それから昴がじりじりとこちらへにじり寄った。けれどやや距離を残したところで二人はまた膠着状態に陥ってしまう。睦月は眼差しを伏せた昴を見つめ、彼に歩み寄った。
「すばるくん」
出来るだけ穏やかに、静かに声を掛ける。するとやっぱり睨まれて、睦月は緊張しながらも彼の腕にそっと触れた。
肩に手を添え、愛しい昴をおずおずと抱き寄せる。突き飛ばされるかな、と内心びくびくしていたけれど、昴は睦月を突っぱねなかった。よく知った温みの後に、昴の匂いが訪れる。睦月は頬を緩ませて、昴の胸に耳を当てた。
「昴君の心臓の音、久しぶりに聞いた……」
とくん、とくん、とくん、と、優しく鼓動を刻む心臓。睦月はほうと息を吐いてその音に耳と心を傾けた。
気が付くと昴の腕も睦月の背に回っていて、柔らかく身体を抱いてくれている。睦月は一層きつく昴の身体を抱きしめ、「すばるくん」とくもぐった声で愛しい人を求めた。
「昴君、僕、別れたくない」
「何度も同じこと言わせないでよ。お前が勝手にそう思い込んでただけだろ」
「すきだから別れたりしないよ」そう言ってくれれば心から安心できるのに、昴はそんな甘いことは言わない。だからどうしたって睦月は「本当に?別れない?」と繰り返し尋ねる羽目になり、昴の苛立ちを誘ってしまう。
いつもだったらこんな睦月を無視で済ませる昴だが、今日は小さく頷きを返してくれた。睦月は飛び上がりたいほど嬉しくなって、昴の胸へぐりぐりと面を擦り寄せた。
「仲直りのチューして」
脳天にチョップでも落ちてくるかもしれない。そう思いながらも欲張って呟くと、昴は抱いていた背を離して睦月を見つめた。……潤んで光を取り込んだ瞳には睦月しか映っていない。
羨ましい、僕もそこに居たいのに。
昴の瞳の中に居る自分にまで嫉妬してしまい、睦月は唇を歪めた。
頬に温かな手のひらが触れる。瞳は閉じずに、けれど視線は伏せて、睦月は昴の口づけを受け止めた。
「ふふ」
嬉しさを隠せずに微笑むと、昴は溜息を吐いた。
「笑うな。仲直りも何も、お前が一人で勝手に……」
言いかけ、彼は押し黙ってしまう。睦月は新しい涙を浮かべて昴を見つめた。昴が愛おしかった。
「昴君、一人にしてごめんね。勝手に出て行ってごめんね。あいしてるよ、大すきだよ」
首に腕を回し、今度は自分から口づける。昴は顔を顰めたけれど、睦月を邪険にするようなことはしなかった。「あいしてる」「すきだよ」「昴君がすき」「ずっと一緒にいたい」囁きながら何度も唇を押し付けて、睦月は愛を紡ぎ続けた。
「誰にも昴君をとられたくない。僕、変われないかもしれないけど、その分、いっぱい昴君を大切にする。こんなこともう二度としない。いらないって言われるまで傍に居る。だからお願い、昴君、僕を捨てないで。お願い……」
昴の前ではネガティブなことなんか言いたくなかったのに、本音が言葉端に漏れてしまう。睦月はハッとして顔を歪めた。
「その言葉、一生忘れるなよ」
背を抱いていた昴の両手がするりと腰まで落ちて来て、睦月は思わず目の前の両肩を掴んだ。探るように視線を絡めれば、昴の唇が睦月の唇に重なった。「あっ……」首筋を啄ばみながら野暮ったいネルシャツのボタンを外していく昴は、ほんの少しだけ微笑んでいた。
「すばるくん」
呼べば、「うるさい」と言われ唇を深く奪われた。リビングから昴の自室まで押しやられ、最後にはベッドに組み敷かれてしまった。
愛しい人の匂いに満たされた部屋。睦月は昴のベッドにはめったに上がらない。疲れて帰って来る昴の眠りを妨げたくなかったし、彼には一人の時間が人一倍必要だということが睦月にはよく分かっているから。
綺麗な灰色のシーツを自分のもので汚したくなくて、睦月は視線を彷徨わせた。せめて、タオルがあれば。昴はそんな睦月の両頬を片手でぶにりと挟み「よそ見するな」と一喝した。
「あのね、昴君、シーツ汚れちゃう。バスタオル持ってくるから待ってて」
「別にいい。汚れるようなことするんだし、汚れたらお前の布団で寝ればいいだろ」
「僕のお布団ちっちゃいよ。昴君、ゆっくり眠れないよ」
「……この間寝たから知ってる」
睦月の両手首を掴んでシーツに縫い付け、昴は「それからさ、俺が寝てる間に布団から出るの止めて。寒いから」とぶっきらぼうに言った。
「一緒に寝てもいいの?僕も、ぎゅーってして寝たい。昴君が翌日休みの時だけでいい、そうしたい」
「誰も一緒に寝たくないとか言ってないだろ。お前、自分の頭の中で勝手に俺を組み立てるな。それから、抱きしめて寝るとも言ってない。そんなん無理。腕しびれる」
「うん、いい、それでいい、一緒のお布団で朝まで寝たい!」
「……んな調子のいいこと言って、お前、やったら絶対布団から出るくせに。俺には分かってる」
意地悪く言われて睦月は頬を熱くした。昴が言っていたのは事後の話だったのだ。睦月はもにょもにょと何かを言いかけて黙り込む。その内にシャツやインナーをはぎ取られ、昴の唇や指が胸の突起にいたずらに触れた。
「う、」
睦月は眉根を寄せて唇を噛んだ。昴の唇が突起をやわやわと食み、手のひらは無い胸を下から寄せるように揉んでいる。胸を大きく上下させているのに声一つ漏らさなくなってしまった睦月を見て昴は笑った。
「俺にめちゃくちゃ触ってくるくせに、触られるのは嫌がるよね。全身で愛情押し付けてくんのに、セックスは嫌いなんだよね。お前って本当、なんていうか……」
手首から昴の手が離れ、睦月はぱっと唇をほどいた。
「やだ、昴君、離さないで」
首に腕を回し腰に脚を絡める。溶けそうに熱くなった視界の向こうで、昴は瞳を丸くしていた。
「き、嫌いじゃない。苦手だけど、嫌いじゃない。昴君に触られるの、すき。昴君の手で触られると、気持ちよくて、どうしようもなくなって、恥ずかしくて……。昴君とエッチするのもすき。大すき。途中からぐちゃぐちゃになって、わけ分かんなくなっちゃうから、上手に出来ないから、声とか気持ち悪いの出ちゃうから、こうなっちゃうだけ……」
一息で捲し立てるように言い、睦月はふうふうと息を弾ませた。「ふ」そんな睦月を見つめ、昴は眉根を寄せてほどけたように笑った。
「そっか」
裸の肩に温かなキスが落ちる。睦月は昴の肩を叩いて表情を覗き込んだ。
「昴君は?僕、昴君のこと気持ちよく出来てる?中、ちゃんと気持ちいい?僕、上手に出来てる?」
「上手にかは分かんないけど、毎回出るもん出てるでしょ。……お前が嫌そうな顔ばっかりするから、したくないのかなって気ぃ遣ってあげてたのに」
「え、あ」
太ももに押し付けられた熱に睦月は固まった。にやりと笑った昴が「ちゃんと固くなってるか触って確かめてもいいよ?」と意地悪く囁く。睦月は咥内に滲んだ唾液をコクンと飲み下し、指先で彼の熱に触れた。
本当にそうするとは思っていなかったのだろう。昴はぴくりと肩を震わせ睦月を睨んだ後、熱に触れた手をその上から握り込んだ。手の内に昴の熱を感じながら耳殻を食まれ、睦月は瞳を堅く閉じた。
「あいつとはホントになんもなかったの?」
ハッとして瞼を上げると、昴は「あいつとはホントに友達?」と問いを重ねた。源城のことだと気が付いて、睦月は「なんもない!なんも!」と頭を振り立てた。
「お互いに友達がいたことなかったから距離感が分かんなくて。でも、なんにもなかったよ!源城君は友達として大すきなの!僕があいしてるのは昴君だけっ!一生愛し合いたいって思うのは昴君だけっ!」
鼻息荒く宣言すれば、昴は「ぶは」と噴き出した。うくく、と喉で笑いながら、睦月の鎖骨に額をついて体重をかけてくる昴。睦月はその温かな重みを両腕で受け止めた。
「一生はヤバい。重い」
「ヤバくない!一生愛しますって最初に誓ったじゃない!僕の一生をかけてそうするんだから、重いに決まってるでしょ!」
昴は心底可笑しそうに明るい声を立てて笑った。夜なのに、なぜか、朝日が昇ったような気分になって、睦月は瞳を瞬かせた。
「重いの……嫌い?ウザい?」
「重いのは無理だしウザい」
即答され睦月は少なからず傷ついた。そうだ、この子は上っている梯子をひょいと外すのが得意な子だった。睦月は唇を尖らせ昴の胸を押し返す。昴は切なげに微笑み、つんと上を向いた唇に軽いキスを重ねた。
「多分、お前のがうつった」
昴がしなければセットもケアもしない睦月の短髪を掻き上げるように撫で、昴は目を細めた。数日の内に灰みがかった青色が抜け、オリーブ色になっている。光に透けるとパチパチ光るこの髪を昴が心から愛していることを、睦月はよく知っている。
「五年で、俺もだいぶ重くなった。お前のこと言えない」
じゅわ、と涙も熱も面に滲んで、睦月はもう何も言えなくなった。
昴の大きな手が素肌の凹凸を確かめるように滑っていく。熱くて、吸い付くようで、気持ちいい。触られるだけで、心臓から熱が伝播して、狂おしい気持ちになっていく。瞳を閉じて昴の唇と温みに心を集中させると涙が幾筋も伝った。
「はあ、……は、……ふ……っ、」
心が通うと、身体が疼く。睦月は闇の中で身を捩らせ唇を堅く結んだ。昴の手が睦月の履いているチノパンのチャックを下ろし、下着ごと攫って行く。睦月は咄嗟に傍にあった掛け布団を引き寄せ寝返りを打った。昴に男の部分を見られるのが恥ずかしい。昴を慰められる場所だけを見つめていて欲しい。だって自分の身体でここだけが、昴と深く繋がれる場所なのだから。
昴はすぼまりに指を伸ばし何かを確かめるように触れた。「んっ……」中指が縁をくぐったかと思えば、そのまま根元まで埋められてしまう。睦月はシーツを握りしめて硬直した。
「俺によく見えるようにケツ上げて」
何を確かめたいのだろう、昴は睦月の尻臀を軽く叩いて尻を上げろと急かした。睦月は躊躇い、けれど結局、項まで熱くしながら膝を立てて腰を反らした。
中指を何度か行き来させジェルの潤いをまぶした後に、薬指も一緒に中へ入っていく。手首を捻りながら抜き挿しされ、睦月は額をシーツに擦りつけた。
「いつやっても柔いから、よく分かんねー……」
二本の指を中で開いたり閉じたりしながら独り言つ昴。入口ぎりぎりまで抜かれた指先がぱかんと開き、睦月は「昴君!」と声を荒げた。
「も、なに?止めて、そんな風にしないで、恥ずかしいからっ」
「や、いつもより柔かったらあいつとやってる証拠かなって」
「源城君とするわけないでしょ!こんなこと、昴君としかしない!」
振り返り睨みながらきゃんきゃん叫ぶと、今度は三本の指で中を貫かれた。「んあっ!」感じる場所を急に穿つように擦られ、睦月は喉を反らした。
「はじめは指一本、それも真ん中までしか入んなかったのにね」
「く、う、……うう、ん~っ……」
「今は根元まで三本、簡単に入る」
ぐりぐりと中を拡げるように指を動かされ、睦月は枕に面を埋めた。すると前にまで昴の手が伸びて来て、反り返ったそこを扱き始めた。声を出したくないのに、たまりかねたように鼻から上ずった息が抜けてしまう。
「お前、もう女抱けないでしょ。こんな身体になっちゃったら元には戻れない。お前ってなんかちょっとかわいそうだよね」
昴を好きになるまで、睦月はヘテロセクシャルだった。自分の性的嗜好や性自認についてなど、考えたこともなかった。なのに昴を好きになって、彼に捧げられるものはと懸命に自分の心や身体を探って、こんなところまで来てしまった。
「別に、いいもん」
睦月は涙を浮かべてシーツを握りしめた。
「昴君以外、誰ともしないもん。だから、いいっ。別に、それで、いいんだもん。かわいそうなんかじゃない。僕はこれでいい」
昴の言葉に心が揺さぶられて、大きな悔しさに涙があふれた。昴にだけは、そんなことを言われたくなかった。ただここで気持ちよくなって欲しいだけなのに。昴に憐れまれると、つらい。
「睦月」
宥めるように伸びて来た手を、睦月は後ろ手で払った。勝手に体勢を変えて指を引き抜く。睦月は無言でこちらを見つめて来る昴を睨んだ。
「今のは、ちょっとグッときた」
「うるさいっ。昴君の無神経。昴君のばか!」
傍にあった枕で昴を叩こうとすると、それよりも先に昴の手が伸びて睦月をシーツの上へ押し倒してしまった。
「やっぱお前ってかわいそうだよ」
真正面から言われ、睦月は脚をばたばたさせて意を唱えた。昴に体重をかけて乗り上げられ睦月の身体は半ばベッドに沈み込んだ。
「かわいそうだから、お前の面倒は最後の最後まで見てあげる」
スパイスのたっぷりかかったイチゴのショートケーキのような言葉に、睦月は瞳をぱちくりさせた。見つめ合っているうちに、柔らかく温かい唇が重なって、まろやかなキスになる。昴のキスに応えながら彼の羽織ったカーディガンを脱がせシャツの下に手を這わせる。「昴君も、」脱いで。瞳でそう訴えれば、昴は上半身を起こして服を脱いでくれた。
36
あなたにおすすめの小説
泣き虫だったはずの幼なじみが再会したら僕を守るために完璧超人になっていた話。
ネギマ
BL
気弱で泣き虫な高校生、日比野千明は、昔からいじめられっ子体質だった。
高校生になればマシになるかと期待したが状況は変わらず、クラスメイトから雑用を押し付けられる毎日を送っていた。
そんなある日、いつものように雑用を押し付けられそうになっている千明を助けたのは、学校中が恐れる“完璧超人”の男子生徒、山吹史郎だった。
文武両道、眉目秀麗、近寄りがたい雰囲気を纏う一匹狼の生徒だったが、実は二人は、幼い頃に離れ離れになった幼なじみだった――。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
若頭の溺愛は、今日も平常運転です
なの
BL
『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』続編!
過保護すぎる若頭・鷹臣との同棲生活にツッコミが追いつかない毎日を送る幼なじみの相良悠真。
ホットミルクに外出禁止、舎弟たちのニヤニヤ見守り付き(?)ラブコメ生活はいつだって騒がしく、でもどこかあったかい。
だけどそんな日常の中で、鷹臣の覚悟に触れ、悠真は気づく。
……俺も、ちゃんと応えたい。
笑って泣けて、めいっぱい甘い!
騒がしくて幸せすぎる、ヤクザとツッコミ男子の結婚一直線ラブストーリー!
※前作『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』を読んでからの方が、より深く楽しめます。
病弱の花
雨水林檎
BL
痩せた身体の病弱な青年遠野空音は資産家の男、藤篠清月に望まれて単身東京に向かうことになる。清月は彼をぜひ跡継ぎにしたいのだと言う。明らかに怪しい話に乗ったのは空音が引き取られた遠縁の家に住んでいたからだった。できそこないとも言えるほど、寝込んでばかりいる空音を彼らは厄介払いしたのだ。そして空音は清月の家で同居生活を始めることになる。そんな空音の願いは一つ、誰よりも痩せていることだった。誰もが眉をひそめるようなそんな願いを、清月は何故か肯定する……。
どうせ全部、知ってるくせに。
楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】
親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。
飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。
※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。
【完結】君の手を取り、紡ぐ言葉は
綾瀬
BL
図書委員の佐倉遥希は、クラスの人気者である葉山綾に密かに想いを寄せていた。しかし、イケメンでスポーツ万能な彼と、地味で取り柄のない自分は住む世界が違うと感じ、遠くから眺める日々を過ごしていた。
ある放課後、遥希は葉山が数学の課題に苦戦しているのを見かける。戸惑いながらも思い切って声をかけると、葉山は「気になる人にバカだと思われるのが恥ずかしい」と打ち明ける。「気になる人」その一言に胸を高鳴らせながら、二人の勉強会が始まることになった。
成績優秀な遥希と、勉強が苦手な葉山。正反対の二人だが、共に過ごす時間の中で少しずつ距離を縮めていく。
不器用な二人の淡くも甘酸っぱい恋の行方を描く、学園青春ラブストーリー。
【爽やか人気者溺愛攻め×勉強だけが取り柄の天然鈍感平凡受け】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる