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第一章
第5話 嘘×真実
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窓から朝陽が射し込む。光を辿り空を見上げれば、太陽の周りに獅子の鬣を彷彿とさせる日暈がかかっている。異世界レオガルド。初めて迎えた朝は、晴天だった。
「土雲様が失踪いたしました」
談話室を訪れたパトリシア様が発した第一声。鈴音のような声は鈍く、顔には晴々しい天気とは裏腹に暗い影が差していた。
「「「……は?」」」
みんな、パトリシア様の言った言葉の意味を理解できなかった。
それ程、突拍子もない発言。だが、パトリシア様の表情と口調、侍従たちや護衛たちが放つただならぬ空気が物語っていた。
パトリシア様の言葉が嘘ではないということを。
「……どういうことですか?」
パトリシア様の言葉が事実であるということを理解し始めたことで生徒たちが騒然とする中、中村がパトリシア様に尋ねる。
その顔は、困惑の色に染まっていた。
隣にいる春見さんも手を握りしめ、表情を曇らせながらパトリシア様に顔を向けている。
「中村様。そして、皆様。私の言葉足らずの発言で困惑させてしまい、申し訳ございません。全てをご説明いたします」
「お願いします」
中村や春見さんは勿論のこと、皆も固唾を呑みながらパトリシア様に視線を送る。
――しかし、
口を堅く閉ざし、パトリシア様はいっこうに話を始めない。それどころか、徐々に顔色が悪くなっていき、体を微かに震わせ始めた。
「あ、あの……」
目に見えて様子がおかしいパトリシア様に、中村は声をかけようとする。が――、
「皇太子妃殿下、ご無理をなさらずに。お辛いようでしたら、私に皆様へのご説明をお任せください。私自身もこの件に関係していますので、代理を務めることは可能でございます」
パトリシア様の後方。横一列に並び控えていた側近の一人が、中村よりも早くパトリシア様の様子を察し、説明の代理を申し出た。
「レフ。……そうね、お願いするわ」
「かしこまりました」
始めは躊躇う素振りを見せたパトリシア様だったが、側近の申し出を受け入れる。
自身の申し出を受け入れられた側近は、パトリシア様に流麗な所作で一礼した後、静かに歩み出した。そして中村の前まで進むと、恭しく頭を下げた。
「朝の子であられる日本の皆様、お初にお目にかかります。私は皇太子妃殿下の側近を務めておりますレフ・プティパ・ビュワーと申します。僭越ながら、私が皇太子妃殿下の代理として皆様にご説明をさせていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」
パトリシア様から代理を許可された側近は、次に自分たちにも代理の賛否を伺う。ただ、この場での代表は中村と判断したのか、側近は中村を見ながら話していた。
中村もそのことに気付き、みんなの顔を見回す。当惑した表情を浮かべてはいたが、反対する者はいなかった。
中村は側近に向き直ると、返答する。
「説明してもらえれば、問題ありません。ですけど……その、パトリシア様は大丈夫ですか? 体調が優れないようですけど? もし体調が悪いなら、先に医者に見せるなり、呼ぶなりしたほうが……」
中村は、パトリシア様のことを気にかけていた。確かに、パトリシア様の顔色は悪い。しかし――、
「中村様。お心遣いありがとうございます。ですが、皇太子妃殿下はこの場におらねばならない理由がございます」
「それも、セツと関係があるんですか?」
「はい。その事も含め、全てご説明させていただきます。話は昨夜の事です。土雲様が、階下に待機している侍従の元へ訪ねて来られました。そのご理由は、本当に天賜を授かっていないのか、もう一度皇太子妃殿下にお尋ねしたいとのことでした。その願い出を受け、土雲様を皇太子妃殿下の元へお連れしたのが私でございます」
抑揚のない声で淡々と語る側近。
「皇太子妃殿下は、土雲様と成世様がなぜ天賜を授からなかったのか原因を調べておられていたため、起きていらっしゃいました。しかしながら、数時間調べた程度では判明することなどほとんどございません。すると……」
淡々と語っていた側近が、突然言い淀む。さらには、纏う雰囲気が険しいものへと変わった。
「すると、どうしたんですか?」
中村が、先を促す。しかし、側近もパトリシア様と同じように口を閉ざしてしまった。
談話室に沈黙が流れる。
太陽に雲が被さったのか、部屋の中を薄闇が包み込む。
「一体、何があったんですかッ!」
中村が、声を荒らげてもう一度|側近に尋ねた。すると側近は、表情は覚悟を決めた顔付きに変わった。
そして、静かな口調で続きを語り出す。
「土雲様は次第に感情を露わにされ、そして……皇太子妃殿下に暴行を働いたのです」
「な……」
驚愕のあまり、中村は言葉を失う。そんな中村を他所に、側近は語り続ける。
「話し合いの場に私はおりませんでした。土雲様が、皇太子妃殿下と二人で話したいと、そうおっしゃったからです。そのため、私は話し合いが終わるまで外で待機していました」
「ちょ、ちょっと待ってください! 部屋に居なかったなら、セツが皇女様に暴行をしたかどうか分からないじゃないですかっ!?」
呆然としていた中村が、側近の言葉に反応し問い質す。話を中断させられた側近は中村に顔を向け、問われたことに答えた。
「中村様の仰る通り、私は実際に起こった出来事を見てはおりません。私が扉を開けた時には、すでに皇太子妃殿下は床に倒れておられました」
「じゃ、じゃあ、何もなかったということも……?」
「いいえ。そもそも、話し合いが行われている最中に私が扉を開けたのは、皇太子妃殿下の叫び声が聞こえたからです。そして何より、この出来事は皇太子妃殿下から直接聞かされたことでございます」
中村は、パトリシア様に視線を向ける。
パトリシア様は先ほど以上に顔色が悪くしており、手を組み、肩を震わせながら俯いていた。
中村がパトリシア様に顔を向けている中、問いに答えた側近は中断していた話を再開させる。
「私が部屋に入ると、土雲様は弁明を始められました。しかしながら、話されることは支離滅裂で、要領を得られませんでした。おそらく、混乱なされていたのだと思います。ですが、皇太子妃殿下の叫び声を聞きつけた衛兵達が近づいてくるのに気付かれた土雲様は、部屋から飛び出されていかれました。これが昨夜に起こった全てでございます。皇太子妃殿下、私の説明にどこか間違いはございますでしょうか?」
全てを語り終えた側近は、自分の説明に間違いがないかパトリシア様に確認を取る。
「……い、いえ」
声をかけられたパトリシア様は、ゆっくりと側近の方へ顔を向ける。そして中村や他の生徒たちに顔を向けると、再び顔を伏せ、か細い声で肯定した。
「そ、そんな、セツが……。パトリシア様。本当なんですか? 本当にセツがそんなことをしたんですか? 何かの勘違いじゃないですか?」
話に納得できない中村が直接、パトリシア様に尋ねる。
「……」
尋ねられたパトリシア様は答えようと口を動かすが、声は出ていなかった。
「パトリシア様、本当に事実なんですかッ?!」
何も答えてくれないパトリシア様に、中村は詰め寄ろうと一歩踏み出す。
「秋人落ち着いて!」
鬼気迫る様相の中村を見て、隣にいた春見さんが腕を掴んで止める。
「舞ッ?! 落ち着けるわけないだろ! セツはそんなことしない! 舞も分かってるだろ!」
「分かってる。だけど今は落ち着いて!」
止められた中村は振り返り、春見さんに大声を上げる。しかし、春見さんは一切怯まず、真っ直ぐに中村の目を見てもう一度落ち着くよう呼びかける。
「『冷静に』、でしょ秋人……」
「ッ!?」
中村が、春見さん言葉を聞いた途端、脱力した。
「……悪い、もう大丈夫だ」
表面上は平静を取り戻した中村が、一言呟く。
それを見た春見さんは、掴んでいた腕を離す。
「ごめん……」
「ううん、気にしないで」
中村は、憑き物が落ちたように静かになる。
突然聞かされた上、その本人が失踪。
真相を確かめるため、興奮するのも仕方がない。
寧ろ、そんな状況にもかかわらず、自制をした中村に感心した。
「パトリシア様、本当に―――」
今度は、春見さんがパトリシア様に声をかけようとした。
――だが、
「春見様。昨夜の出来事からあまり時間が経っておりません。同じ女性として、皇太子妃殿下のお気持ちをお察ししていただけませんでしょうか?」
春見さんの言葉を遮るように、側近が口早にそう言った。
それ以上、誰も何も聞くことができなくなった。
(……違う。土雲は、パトリシア様に消されたんだ……)
「土雲様が失踪いたしました」
談話室を訪れたパトリシア様が発した第一声。鈴音のような声は鈍く、顔には晴々しい天気とは裏腹に暗い影が差していた。
「「「……は?」」」
みんな、パトリシア様の言った言葉の意味を理解できなかった。
それ程、突拍子もない発言。だが、パトリシア様の表情と口調、侍従たちや護衛たちが放つただならぬ空気が物語っていた。
パトリシア様の言葉が嘘ではないということを。
「……どういうことですか?」
パトリシア様の言葉が事実であるということを理解し始めたことで生徒たちが騒然とする中、中村がパトリシア様に尋ねる。
その顔は、困惑の色に染まっていた。
隣にいる春見さんも手を握りしめ、表情を曇らせながらパトリシア様に顔を向けている。
「中村様。そして、皆様。私の言葉足らずの発言で困惑させてしまい、申し訳ございません。全てをご説明いたします」
「お願いします」
中村や春見さんは勿論のこと、皆も固唾を呑みながらパトリシア様に視線を送る。
――しかし、
口を堅く閉ざし、パトリシア様はいっこうに話を始めない。それどころか、徐々に顔色が悪くなっていき、体を微かに震わせ始めた。
「あ、あの……」
目に見えて様子がおかしいパトリシア様に、中村は声をかけようとする。が――、
「皇太子妃殿下、ご無理をなさらずに。お辛いようでしたら、私に皆様へのご説明をお任せください。私自身もこの件に関係していますので、代理を務めることは可能でございます」
パトリシア様の後方。横一列に並び控えていた側近の一人が、中村よりも早くパトリシア様の様子を察し、説明の代理を申し出た。
「レフ。……そうね、お願いするわ」
「かしこまりました」
始めは躊躇う素振りを見せたパトリシア様だったが、側近の申し出を受け入れる。
自身の申し出を受け入れられた側近は、パトリシア様に流麗な所作で一礼した後、静かに歩み出した。そして中村の前まで進むと、恭しく頭を下げた。
「朝の子であられる日本の皆様、お初にお目にかかります。私は皇太子妃殿下の側近を務めておりますレフ・プティパ・ビュワーと申します。僭越ながら、私が皇太子妃殿下の代理として皆様にご説明をさせていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」
パトリシア様から代理を許可された側近は、次に自分たちにも代理の賛否を伺う。ただ、この場での代表は中村と判断したのか、側近は中村を見ながら話していた。
中村もそのことに気付き、みんなの顔を見回す。当惑した表情を浮かべてはいたが、反対する者はいなかった。
中村は側近に向き直ると、返答する。
「説明してもらえれば、問題ありません。ですけど……その、パトリシア様は大丈夫ですか? 体調が優れないようですけど? もし体調が悪いなら、先に医者に見せるなり、呼ぶなりしたほうが……」
中村は、パトリシア様のことを気にかけていた。確かに、パトリシア様の顔色は悪い。しかし――、
「中村様。お心遣いありがとうございます。ですが、皇太子妃殿下はこの場におらねばならない理由がございます」
「それも、セツと関係があるんですか?」
「はい。その事も含め、全てご説明させていただきます。話は昨夜の事です。土雲様が、階下に待機している侍従の元へ訪ねて来られました。そのご理由は、本当に天賜を授かっていないのか、もう一度皇太子妃殿下にお尋ねしたいとのことでした。その願い出を受け、土雲様を皇太子妃殿下の元へお連れしたのが私でございます」
抑揚のない声で淡々と語る側近。
「皇太子妃殿下は、土雲様と成世様がなぜ天賜を授からなかったのか原因を調べておられていたため、起きていらっしゃいました。しかしながら、数時間調べた程度では判明することなどほとんどございません。すると……」
淡々と語っていた側近が、突然言い淀む。さらには、纏う雰囲気が険しいものへと変わった。
「すると、どうしたんですか?」
中村が、先を促す。しかし、側近もパトリシア様と同じように口を閉ざしてしまった。
談話室に沈黙が流れる。
太陽に雲が被さったのか、部屋の中を薄闇が包み込む。
「一体、何があったんですかッ!」
中村が、声を荒らげてもう一度|側近に尋ねた。すると側近は、表情は覚悟を決めた顔付きに変わった。
そして、静かな口調で続きを語り出す。
「土雲様は次第に感情を露わにされ、そして……皇太子妃殿下に暴行を働いたのです」
「な……」
驚愕のあまり、中村は言葉を失う。そんな中村を他所に、側近は語り続ける。
「話し合いの場に私はおりませんでした。土雲様が、皇太子妃殿下と二人で話したいと、そうおっしゃったからです。そのため、私は話し合いが終わるまで外で待機していました」
「ちょ、ちょっと待ってください! 部屋に居なかったなら、セツが皇女様に暴行をしたかどうか分からないじゃないですかっ!?」
呆然としていた中村が、側近の言葉に反応し問い質す。話を中断させられた側近は中村に顔を向け、問われたことに答えた。
「中村様の仰る通り、私は実際に起こった出来事を見てはおりません。私が扉を開けた時には、すでに皇太子妃殿下は床に倒れておられました」
「じゃ、じゃあ、何もなかったということも……?」
「いいえ。そもそも、話し合いが行われている最中に私が扉を開けたのは、皇太子妃殿下の叫び声が聞こえたからです。そして何より、この出来事は皇太子妃殿下から直接聞かされたことでございます」
中村は、パトリシア様に視線を向ける。
パトリシア様は先ほど以上に顔色が悪くしており、手を組み、肩を震わせながら俯いていた。
中村がパトリシア様に顔を向けている中、問いに答えた側近は中断していた話を再開させる。
「私が部屋に入ると、土雲様は弁明を始められました。しかしながら、話されることは支離滅裂で、要領を得られませんでした。おそらく、混乱なされていたのだと思います。ですが、皇太子妃殿下の叫び声を聞きつけた衛兵達が近づいてくるのに気付かれた土雲様は、部屋から飛び出されていかれました。これが昨夜に起こった全てでございます。皇太子妃殿下、私の説明にどこか間違いはございますでしょうか?」
全てを語り終えた側近は、自分の説明に間違いがないかパトリシア様に確認を取る。
「……い、いえ」
声をかけられたパトリシア様は、ゆっくりと側近の方へ顔を向ける。そして中村や他の生徒たちに顔を向けると、再び顔を伏せ、か細い声で肯定した。
「そ、そんな、セツが……。パトリシア様。本当なんですか? 本当にセツがそんなことをしたんですか? 何かの勘違いじゃないですか?」
話に納得できない中村が直接、パトリシア様に尋ねる。
「……」
尋ねられたパトリシア様は答えようと口を動かすが、声は出ていなかった。
「パトリシア様、本当に事実なんですかッ?!」
何も答えてくれないパトリシア様に、中村は詰め寄ろうと一歩踏み出す。
「秋人落ち着いて!」
鬼気迫る様相の中村を見て、隣にいた春見さんが腕を掴んで止める。
「舞ッ?! 落ち着けるわけないだろ! セツはそんなことしない! 舞も分かってるだろ!」
「分かってる。だけど今は落ち着いて!」
止められた中村は振り返り、春見さんに大声を上げる。しかし、春見さんは一切怯まず、真っ直ぐに中村の目を見てもう一度落ち着くよう呼びかける。
「『冷静に』、でしょ秋人……」
「ッ!?」
中村が、春見さん言葉を聞いた途端、脱力した。
「……悪い、もう大丈夫だ」
表面上は平静を取り戻した中村が、一言呟く。
それを見た春見さんは、掴んでいた腕を離す。
「ごめん……」
「ううん、気にしないで」
中村は、憑き物が落ちたように静かになる。
突然聞かされた上、その本人が失踪。
真相を確かめるため、興奮するのも仕方がない。
寧ろ、そんな状況にもかかわらず、自制をした中村に感心した。
「パトリシア様、本当に―――」
今度は、春見さんがパトリシア様に声をかけようとした。
――だが、
「春見様。昨夜の出来事からあまり時間が経っておりません。同じ女性として、皇太子妃殿下のお気持ちをお察ししていただけませんでしょうか?」
春見さんの言葉を遮るように、側近が口早にそう言った。
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