悪服す時、義を掲ぐ

羽田トモ

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第一章

第6話 闘技場×牛

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 静寂で満たされた暗闇の中、彼が独りで座っている。 

 彼はここ最近、この場所にやって来た。 

 来たばかりの頃は、叫び声を上げたり、暴れたりしてた。だけど、日を追うごとに大人しくなっていって、今では虚空を見つめるだけ。抜け殻のようになった。 

「……あ」 

 彼に異変が起こる。 

 不自然な動作で立ち上がると、迷ない足取りで暗闇の中を歩み出したのだ。 

「実験の時間だ」 

 これまでに彼がされたことを思い出すと、身震いがする。 

 暗闇を進む、彼を追った。 
  

  


 ◇◇◇◇◇ 


  

  
 意識が覚醒すると、地面の上に一人で立っていた。 

「ここは……」 

 いつもの場所ではない。 

 拘束もされていない。 

「どこだ?」 

 見知らぬ場所だったが、一先ず、自分の体を確認する。 

 連れて来られた時に着替えさせられた、一枚の布で作られた簡易的な衣服。袖や丈が短いせいで肌が剥き出しになっているが、傷は無く、異常も感じられない。 

 何もされていないと判断し、周囲に意識を向ける。 

(……ちッ、やっぱり居やがった) 

 周囲に意識を向けてすぐに、見つけた。 

「…………」 

 見たくないと、本心から思う。だが同時に、そのまま無視し続けるのも気味が悪い。嫌悪感を隠すことなく顔に出し、見つけた方へ顔を向ける。 


 ――すると、 

  
「ヒャッヒャッヒャッ、直ぐに居場所を把握できたようじゃな」 

 低く、割れた濁声が木霊する。不愉快極まりないが、今は気にしていられない。すぐに視線を切って、周囲を見回す。 

「クソッ」 

 視線を切りはしたが、決して油断はできない。常に存在を意識し、何かあれば瞬時に動けるように備えておく。 

 見知らぬ場所は、野球のグラウンド程の広さ。剥き出しの地面には、石一つ落ちていない。周囲には高い壁が聳え立ち、中からは逃げられないようになっている。 
  
 まるで、古代ローマの円形闘技場コロッセオのようだった。 

 壁の外側は暗闇に包まれているが、内側は煌々とした光に照らされていて明るい。そのため、壁の上に立っている魔族の姿も鮮明に確認できた。 

 黒紫色の皮膚をし、笑う度に肩にかかった白髪が揺れる。背が低く、手足は枯れ枝のように細い。距離が離れていても、薬品のような刺激臭が香ってくる。 

「当り前じゃ、ワシが造ったんじゃぞ! 馬鹿がッ!」 
「ワシのおかげじゃな! 感謝せい、貴様ら!」 
「さすがは、ワシの傑作じゃ!」 

 魔族。それが、いる。 

「ヒャッヒャッヒャッ、混乱しとる、混乱しとる」 
「さっさと始めんか! うすのろがッ!」 
「ワシの成果を貴様らに拝ませてやる!」 
「傑作の性能と機能美を早くワシに見せるのじゃ!」 

 魔族たちは各々が好き勝手に喋り、会話は成立していない。それでも、今から何かをさせられるという事は分かった。 

 身構えていると、魔族がいる場所とは違う方向から以外なものを感じ取る。 
  
「……熱?」 

 不思議な感覚だった。 

 例えるなら、遠くに置かれた暖房の熱が伝わってくるような感覚。壁の向こう側から熱を感じ取るなど、あり得ない。実際、壁のせいで匂いも音も聞こえないでいた。 だが、熱だけが壁を通過して感じ取れる。 

「なんだ?」 

 俺は険しい表情をしたまま、固唾を呑んで壁を見つめる。すると、地響きを鳴らしながら壁が割れ始めた。 

「うッ?!」 

 壁が割れた瞬間、濃い獣臭と饐《す》えた匂いが流れ込んで来た。堪らず鼻を押さえながら、壁を見続ける。すると、壁の奥から巨大な影が見え、地面を揺らす足音が鳴り出す。

「なッ」 

 闘技場に現れたモノを目にした瞬間、全身の産毛が逆立つ。

 現れたのはそれは、六メートルは有りそうな牛の化け物。 

「うわぁああああああああ!!!」 

 数秒先に起こるであろう未来を想像し、叫んだ。が――、 
  
「あ?」 

 想像した未来は、訪れなかった。それどころか、信じられない出来事に思わず気の抜けた声を漏らす。 

 化け物はこちらに顔を向けた途端、脱兎の如く逃げ出したのだ。 そして、闘技場の壁際まで駆けると、腹這いに寝そべってしまった。 

「な、なんなんだ……?」 

 化け物の行動が理解できず呆然と立ち尽くしていると、魔族はさも当然かのような声を上げる。 

「ヒャッヒャッヒャッ、さすがは畜生。格の違いを察したか」 
「当然じゃ、ボケがッ! ワシが造った最強の生物じゃぞ!」 
「ワシが造ったんじゃからな、格が違うわい! 感謝せい貴様ら!」 
「牛畜生と一緒にするでない! ワシが造った傑作じゃぞ!」 

 声に釣られて魔族に目を向けるが、言っていることの意味が分からなかった。 

(格が違う? 俺と、あの化け物が?) 

 再び化け物に視線を向けるが、腹這いに寝そべったまま動こうとしない。 

 異形の姿をした化け物が自分を見ただけで逃亡し、地に伏した。俺は信じられず、 両の掌を見つめる。

「ヒャッヒャッヒャッ、実験にならんのう」 
「それが分かっとるなら、さっさとせい! 愚図がっ!」 
「貴様らも猿畜生の真似をせい! そうすればワシがやってやらんでもないぞぉ?」  
「とっととあの牛畜生を操れ! ワシの傑作の動きが見れんだろ!」 

 喧しい魔族たちの声が闘技場に木霊する中、突然、地を揺らす爆発音が鳴り響いた。 

(今度は一体、なん――) 

 音がした方へ顔を向けようとした瞬間、全身に電流が走る。それは先ほど感じ取った気配とは別。より明確で、より切迫した感覚だった。 

 振り向くことを止め、その場から全力で飛び退く。直後、入れ替わるように巨大な黒い塊が飛び込んできた。 

「うわぁッ!」 

 塊が地面に着弾すると、闘技場全体を揺るがすほどの轟音と衝撃が起こる。その衝撃は凄まじく、躱したにもかかわらず体が吹き飛ばされた。 

 天地がひっくり返る中、俺は懸命に手足を動かし、空中で体勢を立て直す。 

「はぁ……はぁ……」 

 間一髪、片膝立ちの姿勢で着地することができた。そのことに一瞬安堵したが、すぐに数秒動くのが遅れていたら直撃していたという事実に戦慄し、鼓動が高鳴る。 

「何が起こった?」 

 土煙に目をやる。濛々もうもうと立ち込める土煙の中心、陥没した地面に巨影が佇んでいた。 

「なんだ、あ――」 

 土煙に佇む黒い影を注視していると、僅かに動いた。それを目にした俺は、反射的に後ろへ飛ぶ。直後、黒い影が弾丸のような速度で再び俺に向かって迫ってきた。

「クソッ!」 

 俺は自身の失敗に嘆く。膝立ちの状態から跳躍したせいで、大して勢いが付いていないのだ。

(ギリギリ間に合う!) 

 だが自棄にならず、差し迫る巨影を躱す猶予があるかを見極める。少しでも早く地面に降りようと、足先を延ばす。そして足先が地面に触れた瞬間、そのまま足先を軸に九十度体を回転させ、射線から外れるように横へ飛ぶ。 

 俺の動きに反応した黒い影は、腕を伸ばしてきた。 

 追撃されるだろうとは予想していた。そのため、体格差を利用するべく、地面すれすれに低く飛んだのだ。しかし――、 

「長いッ?!」 

 予想以上に、黒い影の腕は長かった。それに加え、黒い影は地面を抉りながら迫ってきたのだ。 

 想定外の長さ、そして動きに対応できず、俺は腹部を掴まれてしまう。 
  
「クソッ! 離せッ!」 

 大声を上げるが、巨影は何の反応も返さぬままゆっくりと腕を持ち上げる。両足が地面から離れると、タイミング良く土煙が晴れて巨影の正体が露わになった。 

「ッ!? こいつッ!?」 

 巨影の正体は、壁際で腹這いに寝そべっていた牛の化け物だった。 

「格が違うんじゃなかったのかよッ!」 

 魔族たちを信用しているわけではないが、化け物が自分を避けたのは事実。それが、何の前触れのなしに自分へ襲い掛かって来た。 

 化け物の不自然な行動に、疑問を抱く。 

(何でだ? アレは油断させるためだったのか? ……ん? こいつ?) 

 思考を巡らせていると、化け物の様子がおかしいことに気が付く。化け物は、目に光が無く、唸り声の一つも発していないのだ。 

(生気が無くなった……。クソっ! 今は兎に角、腕を振り解くのが先か! 強く握られてない今なら、振り解け――) 

「は?」 

 化け物の顔を見た後、右腕を辿って掴まれている腹部を見た。 

 黒毛が生えていない掌は岩肌のようであり、指は女性の腕のように太い。その内の一本。一際太く、歪に尖った親指の爪が腹部に深く突き刺さっていた。 

「あぁああああああああああ!!!」 

 満身の力を込めた左拳を、化け物の腕へ振り落とす。拳を通して、骨の折れる感触が伝わる。すると、化け物の腕がこと切れたように地面へ落ち、体が解放された。 

「…………」

 普通なら、一目散に化け物から距離を取っただろう。 しかし、とある異変を前にして身動き一つ取れなかった。 
  
 腹部に大穴が空いたのにもかかわらず、痛みを感じないのだ。 

(なんで何も感じない……)  

 狼狽えながら腹部を見ていると、更なる異変が起こる。 

「あッ……」 

 爪が刺さっていた腹部は、化け物の腕を力づくで外したせいで肉が抉れていた。 

 その箇所に、芋虫が群がっている。  

「ひッ!?」 

 気持ち悪いと思った俺は、急いで小虫を払おうとした。だが、寸でのところで手が止まった。 

 虫など、一匹もいない。 

 動いていたのは虫ではなく、自分の筋繊維が絡み合い、再生をしていたのだ。 

「ッ!? うッおえぇ」 

 吐き気が込上げ、堪らず嘔吐する。 

 腹部は、瞬く間に再生を終えた。傷跡は残っておらず、痛みを感じなかったせいで怪我を負っていたのが嘘のようだった。 


 ――だが、確かに見た。 

  
 を。 

  
「ヒャッヒャッヒャッ、うまく操れんのう」 
「うむ、黒肉が再生したな。それより、もっと上手く操らんか、脳無しがッ!」 
「ワシは上手いぞ。凄いじゃろ、貴様ら」 
「牛畜生なぞ使い潰せ! これっぽちも傑作の性能が見れんぞ」 

 望んでいたものが見られなかったのか、魔族たちが騒ぎ出す。 

「お前ら俺に何をしたッ!!!」 

 物寂しい闘技場に、俺の響き渡る怒声。 

 魔族たちは面を食らったような顔になり、こちらに視線を向ける。 

「黙ってないで答えろッ!! 俺に何をしたッ!!」 

 俺は激情の赴くまま睨みつけるが、魔族たちは何の反応も返してこない。その無反応が、より一層俺の怒りを昂らせた。 

「何したかって聞いてんだろッ!!!」 

 何度も怒声を上げると、ようやく魔族たちが反応を見せる。ただし、それはこちらが望むものではなかった。 

 寧ろ、逆。閉ざした口を今まで以上に吊り上げ、醜悪な笑みを作った。 

「ッ!」 

 笑みを見た瞬間、我を失う。 

 闘技場を駆け、壁の上にいる魔族たちの元へ肉迫せんとする。 

  
 ――ところが、 


 頭の中で何かが響いたと思うと、意識が薄れ始める。 

「クソッ! ふざけるなッ! 俺は……――」  

  

  

 意識が覚醒をする。 

「――……暗闇に戻されたんじゃないのか?」 

 まだ自分が、闘技場にいることに驚く。しかしそれも束の間、すぐに意識を失う前のことを思い出す。 

「ヒャッヒャッヒャッ、少しは冷静になったか。これで畜生に打ち込めるのぉ」 
「くっちゃべってないで、手を動かせッ! 痴呆がッ!」 
「貴様ら、ワシがいないと本当にダメじゃのう」 
「やっと、やっとだ! ワシの傑作の性能がやっと見れる!」 

 意識を取り戻したことに気が付いたのか、騒ぎ出す魔族たち。 

 視線を向けると、いくつか変化があった。まず、魔族たちが立っている壁。そこだけが、化け物と同じ高さに下がっていた。さらに、化け物が魔族たちの前に移動しており、生気の無い顔をこちらに向けて座っている。 

「お前ら俺に何をした!」 

 ただ、そんなことはどうでもよかった。それよりも、魔族たちが俺に何をしたのか聞き出す方が重要だった。 

「答えろッ!」 

 先ほどの繰り返し。いくら怒声を浴びせても、魔族たちは楽し気に嗤うだけだった。 

「あいつ等ッ」 

 再燃する怒り。しかし、首の皮一枚のところでどうにか踏み止まる。 

(ダメだ、落ち着け。今また突っ込めば、さっきと同じにことになる) 

 歯を食いしばり、心を落ち着かせるように努める。 

「ん?」 

 ごく僅かではあるが冷静になったことで、魔族が赤黒い液体の入った注射器を持っていることに気付いた。 

「なんだ?」 

 魔族が、その注射器を化け物に打ち込む。注射器の中身を全て打ち込み終えると、壁がせり上がり出した。 

「逃がすか」 

 壁が元の高さに戻れば、手が出せなくなる。また意識を失わされるかもしれないが、今を逃すと二度と好機は訪れないかもしれない。 

 全速力で疾走し、一体でもいいから捕らえる。 

 だが足を一歩踏み出した瞬間、また全身に電流が走った。慌てて視線を魔族から化け物へ移す。しかし、化け物は石像のように固まったままだった。 

「ならッ」 

 振り返って何もないことを確認した後、すぐに上下左右に視線を動かす。ところが、闘技場には何もいなかった。 

「勘違いだったの……ん?」 

 俺は、極々小さな音に気付く。咄嗟に耳を澄ますと、それはまるで脈打っているような音だった。 

「何の音だ?」 

 音は、魔族たちの方から聞こえる。音のする方へ顔を向ける最中、二つの影が目に入った。一つは俺の影、もう一つは化け物の影。俺の影は普段と変わらないが、化け物の影だけが幽かに揺らいでいた。 

「なッ!?」 

 化け物へ視線を向け、思わず息を吞む。化け物の顔には、無数の血管が浮き上がっていたのだ。血管が一本、また一本と浮き上がり、激しく脈打つ。さらによく見ると、首筋の血管も浮き上がり脈打っていた。 

「ヒャッヒャッヒャッ、さあ第二ラウンドの始まりじゃッ」 
「喧しいわ、黙ってろ老いぼれッ!!!!」 
「今からワシの実験体が貴様らを楽しませてくれるわい、よお見ておけい」 
「さあ傑作よッ! ワシにその性能を美を見せてくれ!!!!」 

 そして、壁が元の高さに戻ったタイミングで――、 

「グォオオオオオオオオオ!!!」 

 闘技場を震撼させるほどの雄叫びが上がった。 

「あッ?!」 

 咆哮を一身に浴び、体が竦む。 

 その隙に、化け物が先ほど以上の速度で迫って来た。 

 視界が一瞬にして、黒色で埋め尽くされる。 

 体が硬直した俺は、そのまま化け物の突進を食らった。衝撃を感じた直後、体が凄まじい勢いで後方へ吹き飛ぶ。数メートル程吹き飛ばされた後、地面の上を何度も転がり、ようやく体が止まった。 

 土に塗れた上体を起こすと、眼前には追撃を加えようと既に化け物が迫っていた。 

「グォオオオオオオオオオ!」 

 拳を横向きに倒し、払うように振るわれる左腕。荒々しい暴力が迫ってくる中、俺は躱すことも、防ぐこともせず、あろうことか傍観した。 

 固い感触と共に、胸部に重い衝撃が走る。次の瞬間、目に映る光景が物凄い速度で流れていく。激しい風切り音を鳴らしながら、先ほどと同じように体が吹き飛ぶ。 

 化け物の猛攻は止まらない。 

 巨体とは思えぬ程の跳躍をみせ、全体重をかけて踏み潰さんとする。 

「グゥ、オ、オォオオオオオオオオオオオオ!!!」 

 飛来した化け物が降り立つと、地面を砕く轟音と地響きが闘技場に鳴り響く。 

 化け物の猛攻は続く。 

 左腕を限界まで振りかぶると、渾身の力を込めて振り下ろす。 

 何度も、何度も。 

 やがて体力の限界を超えたのか、化け物の動きを止めた。 

 闘技場に、静寂が訪れる。 

(……血の匂い?) 

 陥没した地面。その中心で俺は土を払いながら立ち上がると、化け物の気配を探る。 

 自分でも信じられない程に、心が平静だった。 

 雄叫びを聞いた時は、確かに驚いた。 しかし、化け物に吹き飛ばされたことでその緊張は解かれた。 

 そして、体の異変。常人であれば、最初の一撃を食らった時点で死んでいただろう。だが、俺の五体には傷一つ無く、痛みすら感じなかった。 

 化け物は俺を殺せない。 

 そのことを理解した途端、化け物に抱いていた感情が霧散した。 

 それだけではない。 

 魔族たちに向けていた激情も収まった。消えたわけではない。今尚、心の底で燻っている。それでも、激情に駆られて行動を起こさない程度には冷静さを取り戻せた。 

(まさか、殴られたことを感謝するとはな) 

 自身の心境に驚きながら、土煙が晴れるのを待つ。 

「グゥ、グルルルルル」 

 化け物もこちらの気配を感じ取ったのか、息苦しそうにしながら唸り声を上げた。 

 やがて土煙が晴れ、化け物と相対する。 

「なッ」 

 俺は化け物の姿を目にし、思わず目を見開く。化け物の体が、緑色の液体に塗れていたのだ。 

「なんだ? 血なのか……?」  

 色は緑色だが、確かに血の匂いがする。よく見れば、緑色の液体は浮き上がった血管から流れ出ていた。 

(この世界だと、緑色が普通なのか?) 

 俺の中にある常識を疑っていると、化け物の呼吸の不自然さに気付いた。始めは、ただ息が上がっていると思っていたが違う。いつまで経っても呼吸は整わず、むしろ、時間が経つほどに酷くなっていく。 

「こいつ……」 

 化け物に意識を向ける。すると轟々と燃え盛っていた大火が、魔族たち並みに弱弱しくなっていた。 

「グォ、オ、オォオオオオオオオ、グォォォォォ!!!」 

 振り絞るような雄叫びを上げ、化け物が再び攻撃を仕掛けてきた。 

 俺は、振り降ろされる拳を他人事のように眺める。そして拳が頭部に触れる直前、後に飛び退いて躱す。振り降ろされた拳は、止まらずにそのまま地面を殴った。 

「グギャァァァァァァァァァァァ!!!」 

 化け物が地面を殴ると、血管から勢い良く血が噴き出す。 

「グ……グゥ、ガァアア……」 

 化け物が、地面に倒れ込んだ。いつの間にか足元には、緑色の血溜まりが出来ていた。巨体が浸かれる程の大きな血溜まり。その中で、血に塗れながら化け物が藻掻く。 

「もう動くな……」 

 口を衝いて出た言葉。 

「ガ……、グゥル、ルル……」 

 しかし言葉が通じるはずもなく、化け物は藻掻き続ける。ひどく緩慢な動作で腕を地面に付き、支えにして起き上がろうとした。 

 その瞬間、血管が裂け、おびただしい量の血を噴出す。 

 再び、化け物が血溜まりに崩れ落ちる。 

「……ガ、……ァ……」 

 やがて、身動ぎ一つしなくなった。数秒後、水の入った袋が破裂するような音が化け物の体内で鳴り、青い火が消えた。 

「ヒャッヒャッヒャッ、時間切れじゃな」 
「役立たずのゴミめッ! もう少しやれたじゃろッ!」 
「ワシが造ったばかりに格が違い過ぎたか、悪いのう貴様ら」 
「何故じゃッ! 何故ワシが授けた力を使わんのじゃッ!」 

 一部始終を眺めていた魔族たち。 

「「「「次じゃッ!!!」」」」 

 魔族たちがそう言った直後、壁の奥から複数の大火を感じ取った。
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