悪服す時、義を掲ぐ

羽田トモ

文字の大きさ
19 / 33
第一章

第18話 魔族×残穢

しおりを挟む
「魔族……」 

 突如として現れた三体の魔族。 

 闘技場が、一瞬にして緊張感に包まれる。 

「雑魚共が……ん? どうして、下等種がいる?」 

 三体の魔族の一体。先頭に立ち、怒気を放っている魔族がこちらに気付いた。 

(……あの感じ、俺たちが目的でここに来たわけじゃないのか? 雑魚共って、アイツ等のことだよな……。毛皮の服にあの見た目、アイツ等とは違う……いや、若いのか?) 

 見た目の特徴は同じだが、枯れ枝のようだった四体の魔族とは違い、筋骨隆々の体をしており、生気が満ち溢れている。 

 そのあまりの違いに、一瞬別種という考えが過ったが、体の差違は年齢によるものだと推察した。 

 魔族について思慮を巡らしていると、先頭の魔族が侮辱するように声を上げる。 

「ふん。下等種は、言葉も話せな――待て、貴様……?」 

 侮蔑の眼差しを向けていた魔族が、目を見開く。しかもそれは――、 

(俺を見た?) 

 魔族と顔を見合わせた瞬間だった。 

「その力……馬鹿な、ありえん……。いや、ならば、なぜ……?」 

 魔族は信じられないといった表情を浮かべ、独り言を呟く。 

(なんだ?) 

 状況が理解できず、静観を続けていると、魔族の纏う空気が変った。 

「ッ! あの雑魚共ッ!」 

 魔族が殺気を放つ。すると、砂が舞い上がり、大気は震え、鳥籠がガタガタと音を鳴らす。 

 鳥籠の音が気になり、魔族に注意しながらエノディアさんの様子を窺うと、彼女は未だに小刻みに震えながら肩を抱いて蹲っていた。

(エノディアさん……)

 視線を魔族に向けたまま、エノディアさんが殺気を浴びないように鳥籠の前へ移動する。 

(ん? 後ろの二体……) 

 後方で控えている二体の魔族が、なぜか必死に堪えるような表情を浮かべていることに気が付いた。 

「番人代理の立場でありながら、宝具を持ち出す愚行。それだけに飽き足らず、魔王様の宝具を持ち出すという大罪を犯した上、あろうことか下等種に持たすなどッ! 万死に値するッ!」 

 唾を飛ばしながら、魔族は怒声を上げる。 

「――……だが、先ずは貴様だッ、下等種ッ!!!」 

 血走った目を見開き、烈火の如く激高していた魔族が、こちらに向かって飛び掛かってくる。 

「ちッ」 

 エノディアさんを庇うために取った行動が裏目に出た。 

 魔族の突撃を避けること自体は容易だが、後ろにはエノディアさんがいる。 

 ならば、取る行動は一つ。 

 脚に力を込め、向かってくる魔族を遥かに上回る速度で接敵した。 

「何ッ?!」 

 こちらの行動、その速度に魔族は驚愕し、一瞬体を硬直させた。 

 その隙を見逃さず、魔族を壁際まで殴り飛ばす。 

(このスピードに、反応できるのか) 

 横腹を殴ろうと繰り出した拳を、魔族は腕を使って防いだ。 

(魔物より強いな) 

 攻撃を防いだ事や殴った際の手ごたえで、魔物より強いことを理解する。 

「キルト! こっちは任せろ! そっちは任せた!」 

 声がした方へ目を向けると、ラルフさんが二体の魔族の前に移動していた。 

「お願いします! アルシェさん! エノディアさんを頼みます!」 
「お任せください」 

 大声で、且つ、端的なやり取りを行う。その後、地を蹴り、殴り飛ばした魔族の正面に立つ。 

「ギザマッ」 

 魔族は、地面に膝を着いたまま睨んでくる。 

 歯を食いしばる魔族は、口から血が流していた。さらに、攻撃を防いだ右腕は折れ曲がり、骨が飛び出ている。それでも、こちらへの敵意は、衰えるどころか先ほどよりも増していた。 

「畜生の分際でッ! 赦さんッ!!!」 

 魔族が吠える。 

 直後、魔族は跳躍し、もう一度飛び掛かって来た。 

 風を巻く魔族の突撃を、身を翻して躱す。 

 しばらくの間、回避に徹する。 

 ラルフさんと戦っている魔族のどちらかが、エノディアさんを標的、もしくは人質に取る可能性を考慮したためだ。 

 魔族と距離を置かず、ラルフさんの方の動向も注視する。 

 そうして数分が過ぎた頃、目の前の魔族が突然動きを止めた。 

「なぜだッ?! なぜ、当たらないッ?!」 

 攻撃が当たらず、苛立ちを募らせていた魔族が、不可解そうな表情を浮かべる。 

「ありえん――ゴホッ、ゴホッ」 

 声を荒らげていた魔族が、激しく咳き込む。 

(血?) 

 咳き込んだ際に、魔族は血を吐いた。 

 よく見れば、大量に汗をかいており、手で右わき腹を押さえている。さらに、息苦しそうに呼吸をし、その呼吸音は水を含んだような濁音だった。 

(ガードし切れてなかったのか。というかコイツ、火を操れないのか?) 

 魔族の攻撃は苛烈ではあったが、青い火を用いた攻撃は一度もしてこなかった。 

(戦い方も武術とか技っていうより、力任せの喧嘩って感じだな。油断を誘そうようなタイプでもなさそうだし、火を使った攻撃は無いって判断していいな) 

 そう結論付けた後、ラルフさんの方へ目をやる。 

 ラルフさんは、二体の魔族を倒し終えており、エノディアさんの傍で遠巻きにこちらを観戦していた。 

「こっちも終わらせるか……」 

 魔族は、身動ぎ一つせず、こちらを凝視していた。 

 ゆっくりと、魔族へ歩み寄る。 

 手が届く距離まで近づくと、魔族は苦痛に顔を歪ませたまま大口を開ける。 

「下等――」 
「しつけぇよ」 

 魔族が叫けぼうとした瞬間、腹部に蹴りを入れた。 

 蹴られた魔族は、体をくの字に曲げ、闘技場の中央へ吹き飛ぶ。 

 水切りのように地面の上を数度跳ね、全身が土塗れになるほど転がった後、魔族は止まった。 

「あぁ……、う、おぇ――」 

 地面の上でのたうち回る魔族が、先ほど以上の血を吐く。 

「ハァ……ハァ……、お、お前ら……」 

 呻きを上げる魔族は、それでもよろけながら上半身を起こし、二体に助けを求める。 

「なぁ?!」 

 亡骸となって横たわる二体を目にして、魔族の動きが止まった。 

(丈夫だな) 

 魔族の傍へと移動し、見下ろす。 

 気配を察知したのか、魔族はゆっくりとこちらに顔を向けてきた。 

「な……」 

 魔族が息を呑んだ。 

 そして、魔族の黄色く濁った瞳が揺らぐ。 

「――……んだ、何なんだ、貴様は一体、何なんだッ?!」 
「……」 

 返答せずに見下ろし続けていると、魔族が緩慢な動作で後ずさり出す。 

「ありえない……あってはならない……」 

 必死に体を引きずりながら、喚き散らす魔族。 

「私は上位の……魔王様の側近なのだぞ……。そんな私が……」 

 魔族は、この状況を打開する術を求めて視線を彷徨わせる。 

「ッ!?」 

 そしてある方向を向いた瞬間、魔族の動きが止め、力の限り叫んだ。 
「おい、お前ッ! 何をしてる、私を助けろッ! この下等種を殺せッ!」   
「あ? 俺か?」 

 魔族が声を掛けたのは、ラルフさんだった。 

 突然声を掛けられたラルフさんは、自らを指差し、首をかしげる。 

(ラルフさん……) 

 必死に助けを求める魔族と、なぜ声を掛けられたのか理解していないラルフさん。あまりに滑稽で、緊張感のないやり取りを目にし、不覚にも気を緩めてしまう。 

 そのせいで、魔族の動向を見落としてしまった。 

  

  

「……羽虫」 




  
 先ほどまでとは明らかに違う、吃驚の中に、不穏さが孕んでいるような声だった。 

(……誰――) 

 気が緩んでいたこと、そして魔族が口にした呼び名のせいで、誰を指しているのか思考を巡らせてしまった。 

 その隙に、魔族は言葉を続けた。 

「貴様……その胸の魔石……、フ、フハッハッハッハ――、そうか、そういうことか。雑魚共はここで改造を……」 

 高笑いする魔族は、エノディアさんを見つめていた。 

「おい、あの羽虫は貴様の所有物か?」 

 魔族が、愉快そうに嗤いながら尋ねて来る。 

 その嗤い方が、記憶の中のアイツ等を呼び起こす。 

「んなわけねぇだろ!」 

 声を荒らげ、魔族の言葉を否定する。 

「まぁ当然か。知っていて、あの羽虫を傍に置く物好きはいないだろう」 

 魔族の下卑た嗤いと物言いに、怒りが込み上がる。しかし、こちらが感情を表に出せば出すほど、魔族はその嗤いを深めていった。 

「おい、羽虫ッ! お前は分かってるんだろう? 自分がどういう存在か、教えてやったらどうだッ!」 

 エノディアさんに目を向けると、あれだけ震えていた彼女が凍り付いていた。 

「てめぇ! 止せ!」 

 嫌な予感がし、咄嗟に凄んで魔族を黙らせようとした。が、魔族は黙らない。 

「言わぬのなら、私が言ってやろう。あの羽虫に埋め込まれた魔石は、かつて、愚かにも魔王様に逆らった躯の物だ」 

 魔族は、声高らかに語る。 

「魔王様は躯を葬り去った。当然だ。魔王様に盾突いたのだからな。ところがだ。魔石となって尚、躯は死をまき散らし続けたのだ」 


「……」

  
「羽虫! 今まで何体下等種を殺した? 貴様は死の元凶だ。貴様が傍にいるだけで、不吉に憑かれる。そして貴様のせいで、必ず悲惨な死を迎えるのだッ! フハッハッハッハッ――」 




  

  

  

「ハッハッハッハッ――」 

  




  

  

「ヒィヒッヒッ――」 

  

  

  




「ヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッ――」 




  

  


  
「んぐッ?!」 


  

  

  

  

 闘技場が、海に沈んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

木を叩いただけでレベルアップ⁉︎生まれついての豪運さんの豪快無敵な冒険譚!

神崎あら
ファンタジー
運動も勉強も特に秀でていないがめっちゃ運が良い、ただそれだけのオルクスは15歳になり冒険者としてクエストに挑む。 そこで彼は予想だにしない出来事に遭遇する。 これは初期ステータスを運だけに全振りしたオルクスの豪運冒険譚である。  

ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばす 規格外ダンジョンに住んでいるので、無自覚に最強でした

むらくも航
ファンタジー
旧題:ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~ Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。 配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。 誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。 そんなホシは、ぼそっと一言。 「うちのペット達の方が手応えあるかな」 それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

処理中です...