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第1章
予期せぬ再会 2
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私はそう言いながら名刺入れの中から自分の名刺を一枚取り出し、雄馬へ差し出した。
「アルファクラフト……!?」
雄馬は私が社名を名乗ると驚いて名刺に目をやると、社名と肩書きを確認した。
雄馬はしばらくそれに視線を落としていたけれど、自身もポケットの中から名刺を取り出して交換すると、私を中へ案内する。
アトリエの隅にある応接セットへ案内し、私に着席を促すので、私はそれに従ってソファーへ腰を下ろした。
「まさかずっとアポをくれていたアルファクラフトのバイヤーが美月だったとはな……。飲み物、自販機のものしかないんだけどいいか?」
雄馬は私の返事を聞く前に、名刺を応接セットのテーブルの上に置くと、工房の中に設置してある自動販売機へ向かった。私は、その後ろ姿を眺めている。
お構いなく、の言葉が、喉の奥で引っ掛かって口から出ることはなかった。
雄馬の名刺の肩書きには、『企画プランナー兼木工職人』の文字が書かれている。
私もあの時、雄馬と同じく家具職人の道を選んでいたとしたら……
雄馬が両手にペットボトルのお茶を持ってこちらへやって来る。
そしてそのうちのひとつを私に差し出した。
「美月の好きなやつ、これだったよな」
いつの間にか雄馬の口調が砕けてあの頃に戻ったようだ。
その言葉が、凪いでいた私の心に波風を立てる。
もう、あの頃の気持ちを、あの頃の思い出として昇華できていると思っていた。
けれど、雄馬の姿を見ると、それは全然できておらず、あの頃のくすぶっていた思いが蘇る。
「覚えていてくれたんだ……」
やっとの思いで差し出されたペットボトルを受け取ると、私はペットボトルに巻かれているフィルムを見つめた。
あの当時、私は好んでこのジュースを飲んでいた。
「覚えてるよ。……ずっとアポ取りのメールをくれていたのに、返事を待たせて悪かったな」
「ううん、全然。手作りの家具工房だもん、ひとつひとつが手作りでしょう。こちらこそ忙しい時期に何度もメールしてごめんね」
雄馬がジュースを飲むよう促すので、私はキャップの栓を開封し、ひと口、口をつけた。
口の中に広がるジュースは、学生時代の思い出と同じく甘酸っぱい味がする。
私は雄馬と別れてから、このジュースを口にすることはなかった。
ジュースを飲むと、雄馬との思い出がよぎる。
楽しかったあの頃を、いやでも思い出すのだ。
雄馬と過ごした時間は、二十九年生きてきた私の人生の中で、一番輝いていた。
きっと、雄馬以上に愛せる男性なんて、今後私の前に現れないだろう――
「いや、こちらこそ。代表から話は聞いてる。代表は今、納品に出てるから俺が対応させてもらうよ。少人数で工房を回しているから、アルファクラフトさんから連絡をもらった時は、家具の納期が近くてみんな殺気立っていて……。今日までアポを引き延ばしてしまって申し訳ない。……で、用件は」
どうやら早速本題に入るようだ。
昔話に花を咲かせるつもりがないようで助かった。
私は気持ちを切り替えて、口を開いた。
「メールでもお伝えしたようにこちらで製作される家具の廃材を使った、世界でひとつだけ、オンリーワンの雑貨を、うちに卸していただけないかと思いましてご連絡いたしました」
私の言葉を聞いて、雄馬は深く頷きながらペットボトルの封を切った。
雄馬の手にしているものは、彼が昔から好んで口にしていたサイダーだ。
私は応接セットのテーブルの上に、会社から持参した資料を広げ、『こもれび』に送ったメールの内容を改めて雄馬にプレゼンした。
雄馬は私の話を熱心に聞いてくれる。
あの頃の、私の創作に対する熱が戻ってきたようだった。
まるで付き合っていた頃のような錯覚に陥る。
ああ、やっぱり私は職人になりたかったんだと、ここにきて、雄馬の顔を見るとそう思わざるを得ない。
プレゼンが終わったところで、それまで黙って話を聞いていた雄馬が口を開いた。
「アルファクラフト……!?」
雄馬は私が社名を名乗ると驚いて名刺に目をやると、社名と肩書きを確認した。
雄馬はしばらくそれに視線を落としていたけれど、自身もポケットの中から名刺を取り出して交換すると、私を中へ案内する。
アトリエの隅にある応接セットへ案内し、私に着席を促すので、私はそれに従ってソファーへ腰を下ろした。
「まさかずっとアポをくれていたアルファクラフトのバイヤーが美月だったとはな……。飲み物、自販機のものしかないんだけどいいか?」
雄馬は私の返事を聞く前に、名刺を応接セットのテーブルの上に置くと、工房の中に設置してある自動販売機へ向かった。私は、その後ろ姿を眺めている。
お構いなく、の言葉が、喉の奥で引っ掛かって口から出ることはなかった。
雄馬の名刺の肩書きには、『企画プランナー兼木工職人』の文字が書かれている。
私もあの時、雄馬と同じく家具職人の道を選んでいたとしたら……
雄馬が両手にペットボトルのお茶を持ってこちらへやって来る。
そしてそのうちのひとつを私に差し出した。
「美月の好きなやつ、これだったよな」
いつの間にか雄馬の口調が砕けてあの頃に戻ったようだ。
その言葉が、凪いでいた私の心に波風を立てる。
もう、あの頃の気持ちを、あの頃の思い出として昇華できていると思っていた。
けれど、雄馬の姿を見ると、それは全然できておらず、あの頃のくすぶっていた思いが蘇る。
「覚えていてくれたんだ……」
やっとの思いで差し出されたペットボトルを受け取ると、私はペットボトルに巻かれているフィルムを見つめた。
あの当時、私は好んでこのジュースを飲んでいた。
「覚えてるよ。……ずっとアポ取りのメールをくれていたのに、返事を待たせて悪かったな」
「ううん、全然。手作りの家具工房だもん、ひとつひとつが手作りでしょう。こちらこそ忙しい時期に何度もメールしてごめんね」
雄馬がジュースを飲むよう促すので、私はキャップの栓を開封し、ひと口、口をつけた。
口の中に広がるジュースは、学生時代の思い出と同じく甘酸っぱい味がする。
私は雄馬と別れてから、このジュースを口にすることはなかった。
ジュースを飲むと、雄馬との思い出がよぎる。
楽しかったあの頃を、いやでも思い出すのだ。
雄馬と過ごした時間は、二十九年生きてきた私の人生の中で、一番輝いていた。
きっと、雄馬以上に愛せる男性なんて、今後私の前に現れないだろう――
「いや、こちらこそ。代表から話は聞いてる。代表は今、納品に出てるから俺が対応させてもらうよ。少人数で工房を回しているから、アルファクラフトさんから連絡をもらった時は、家具の納期が近くてみんな殺気立っていて……。今日までアポを引き延ばしてしまって申し訳ない。……で、用件は」
どうやら早速本題に入るようだ。
昔話に花を咲かせるつもりがないようで助かった。
私は気持ちを切り替えて、口を開いた。
「メールでもお伝えしたようにこちらで製作される家具の廃材を使った、世界でひとつだけ、オンリーワンの雑貨を、うちに卸していただけないかと思いましてご連絡いたしました」
私の言葉を聞いて、雄馬は深く頷きながらペットボトルの封を切った。
雄馬の手にしているものは、彼が昔から好んで口にしていたサイダーだ。
私は応接セットのテーブルの上に、会社から持参した資料を広げ、『こもれび』に送ったメールの内容を改めて雄馬にプレゼンした。
雄馬は私の話を熱心に聞いてくれる。
あの頃の、私の創作に対する熱が戻ってきたようだった。
まるで付き合っていた頃のような錯覚に陥る。
ああ、やっぱり私は職人になりたかったんだと、ここにきて、雄馬の顔を見るとそう思わざるを得ない。
プレゼンが終わったところで、それまで黙って話を聞いていた雄馬が口を開いた。
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