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第2章
諦めた思い 1
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「話は分かった。廃材のリメイク雑貨、面白そうだな。さすが美月、相変わらず着眼点が面白い」
よかった、どうやら雄馬も私のプレゼンを気に入ってくれたようだ。
「工房の代表の方にも直接お話をさせていただきたいのですが、ご都合とかは……」
「美月が敬語を使うなんて調子狂う。二人だけの時は、昔みたいにタメ口でいいよ。初対面じゃないんだし」
雄馬はそう言うけれど、私は仕事を依頼する側だ。
店舗勤務からバイヤーに異動して、ずっといろんな企業にアポ取りの連絡をしていたけれど、どこも相手にしてくれず、実はこもれびは私が初のアポ取りに成功した企業だった。
バイヤーはいろいろな企業にアポを取り、契約を結んで数字を上げていかなければならない。こもれびとの契約は、私にとって新たな挑戦なのだ。
自分でだれの力も借りずに、自分が見つけた新規先と契約を結ぶ。
それだけに、昔の知り合いという繋がりで慣れ合うようなことはしたくない。
「いえ、先ほどは驚いて以前のような口を利きましたが、依頼する側としましてはそのような態度はふさわしくありませんので……」
私の言葉に、雄馬は呆れたのか深く溜息を吐く。
そして私の用意したプレゼン資料を手に取ると、再びそれに視線を落とした。
「俺も雇われの身だから、俺の判断で返事はできない。後日、改めて連絡する」
「いいお返事をお待ちしています。それではこれにて失礼いたします」
私は持ってきた資料を入れた封筒をテーブルの上に置くと、ソファーから立ち上がる。それに釣られて、雄馬も遅れて立ち上がった。
「美月! ……いや、梶田さん」
雄馬の声に、私は足を止める。
私たちはしばらくの間見つめ合った。お互い喉に引っ掛かった言葉を口にすることなく時間ばかりが過ぎていく。
しかし、沈黙を破ったのは私だった。
「……では、ご連絡をお待ちしています。……失礼します」
そう言って私は踵を返すと、アトリエを後にした。
あの頃の夢を叶えて、立派な家具職人になった彼と、安定を取って夢を諦めた私――
苦労しながらもやりたい仕事で輝く彼のことを、私はまっすぐに見ることができなかった。
会社へ戻る途中の電車の中で、私は学生時代の頃のことを思い出していた。
『あの頃は若かった』と、昔を懐かしむ大人たちは言うけれど、自分もそんな言葉を口にする年齢になったんだと、年月の経過を実感する。
職人になる夢を諦めてから、間接的とはいえ未練がましく職人が作る作品に関わる仕事を選んだ私は、毎日むなしかった。
たしかに給料面では不安はない。けれど、やりがいなんてまるで感じない。
企業側は男女平等を謳っているけれど、結局はどこへ行っても女性の地位は確立されていない。
出る杭は打たれる、それに嫌気を差した女性たちが脱落していく。
職人の世界は特にそうだ。
木工職人という道は、昔から主に男性が活躍する世界で、女性には狭き門だった。
専門学校は同じ思いを抱いた同志たちの集まりだから、学校内では特に何も感じなかったけれど、学校から一歩外に出ると、未だ男尊女卑の偏見が強い。
年に数回行われる制作の展示会に訪れる外部の人からは、作品に対する賛辞の裏で、『女のくせに男社会の中に入ってくるなんて生意気だ』という心無い声も聞こえることが多かった。
同級生の中でも木工を専攻する女子学生は数が少なく、そのような偏見など気にすることなく、自分のやりたい道を進むためみんなが切磋琢磨していた。
私もその中のひとりだ。
雄馬とは、同じ木工を専攻した仲間で、話題の中心になるような活発な人のそばで、いつも穏やかな笑顔で人の話を聞く人間だった。
そんな雄馬のそばは居心地がよく、私は彼に魅かれていた。
よかった、どうやら雄馬も私のプレゼンを気に入ってくれたようだ。
「工房の代表の方にも直接お話をさせていただきたいのですが、ご都合とかは……」
「美月が敬語を使うなんて調子狂う。二人だけの時は、昔みたいにタメ口でいいよ。初対面じゃないんだし」
雄馬はそう言うけれど、私は仕事を依頼する側だ。
店舗勤務からバイヤーに異動して、ずっといろんな企業にアポ取りの連絡をしていたけれど、どこも相手にしてくれず、実はこもれびは私が初のアポ取りに成功した企業だった。
バイヤーはいろいろな企業にアポを取り、契約を結んで数字を上げていかなければならない。こもれびとの契約は、私にとって新たな挑戦なのだ。
自分でだれの力も借りずに、自分が見つけた新規先と契約を結ぶ。
それだけに、昔の知り合いという繋がりで慣れ合うようなことはしたくない。
「いえ、先ほどは驚いて以前のような口を利きましたが、依頼する側としましてはそのような態度はふさわしくありませんので……」
私の言葉に、雄馬は呆れたのか深く溜息を吐く。
そして私の用意したプレゼン資料を手に取ると、再びそれに視線を落とした。
「俺も雇われの身だから、俺の判断で返事はできない。後日、改めて連絡する」
「いいお返事をお待ちしています。それではこれにて失礼いたします」
私は持ってきた資料を入れた封筒をテーブルの上に置くと、ソファーから立ち上がる。それに釣られて、雄馬も遅れて立ち上がった。
「美月! ……いや、梶田さん」
雄馬の声に、私は足を止める。
私たちはしばらくの間見つめ合った。お互い喉に引っ掛かった言葉を口にすることなく時間ばかりが過ぎていく。
しかし、沈黙を破ったのは私だった。
「……では、ご連絡をお待ちしています。……失礼します」
そう言って私は踵を返すと、アトリエを後にした。
あの頃の夢を叶えて、立派な家具職人になった彼と、安定を取って夢を諦めた私――
苦労しながらもやりたい仕事で輝く彼のことを、私はまっすぐに見ることができなかった。
会社へ戻る途中の電車の中で、私は学生時代の頃のことを思い出していた。
『あの頃は若かった』と、昔を懐かしむ大人たちは言うけれど、自分もそんな言葉を口にする年齢になったんだと、年月の経過を実感する。
職人になる夢を諦めてから、間接的とはいえ未練がましく職人が作る作品に関わる仕事を選んだ私は、毎日むなしかった。
たしかに給料面では不安はない。けれど、やりがいなんてまるで感じない。
企業側は男女平等を謳っているけれど、結局はどこへ行っても女性の地位は確立されていない。
出る杭は打たれる、それに嫌気を差した女性たちが脱落していく。
職人の世界は特にそうだ。
木工職人という道は、昔から主に男性が活躍する世界で、女性には狭き門だった。
専門学校は同じ思いを抱いた同志たちの集まりだから、学校内では特に何も感じなかったけれど、学校から一歩外に出ると、未だ男尊女卑の偏見が強い。
年に数回行われる制作の展示会に訪れる外部の人からは、作品に対する賛辞の裏で、『女のくせに男社会の中に入ってくるなんて生意気だ』という心無い声も聞こえることが多かった。
同級生の中でも木工を専攻する女子学生は数が少なく、そのような偏見など気にすることなく、自分のやりたい道を進むためみんなが切磋琢磨していた。
私もその中のひとりだ。
雄馬とは、同じ木工を専攻した仲間で、話題の中心になるような活発な人のそばで、いつも穏やかな笑顔で人の話を聞く人間だった。
そんな雄馬のそばは居心地がよく、私は彼に魅かれていた。
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