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あの日の約束 2
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完成したクリームのバラの花は、パレットナイフをカップケーキの底に添わせて器用にスライドし、まるで花を摘み取るようにパレットナイフ上に移動させた。それを別のパレットナイフを使い、ケーキの上へと器用に載せると、その繋ぎ目を目立たなくするように、緑色の着色料で色をつけたクリームの入った搾り袋で、葉っぱの形を搾りだす。生クリームに食紅で色をつけているからか、本当にケーキの上にバラの花が咲いたように見える。
目の前で繰り広げられるプロの技を、翠は目を輝かせながら眺めていると、幸成は搾り袋を片づけ始めた。どうやら今度は果物を飾りつけるようだ。
「果物、自分で飾ってみるか?」
作業の手を止めた幸成が翠に問いかける。翠は少し考えたあと、首を横に振った。
「いや。私が下手に飾りつけしたら、せっかく綺麗なクリームのバラが潰れそう……それに、これだけでも充分華やかだよ」
精一杯の返事をすると、幸成は苦笑いをして、クリームの飾り付けが終わったケーキを冷蔵庫にしまった。そして、ケーキ皿やフォーク、ケーキナイフをトレイに乗せて、先にダイニングテーブルへと運んだ。翠はその後について行く。
「もし果物食べたかったらいくらでも剥いでやるから。でも先に夕飯だろ、腹、減ってないか?」
幸成にそう言われて、翠は急激に空腹を感じた。翠のお腹がかわいらしい音を鳴らすと、お互い一瞬黙り込んだけれど、どちらからともなく笑いが込み上げてきた。
「一緒に作るか?」
「うん、手伝うよ」
幸成は再びパントリーの扉を開き、中からスパゲティと鍋を取り出すと二人分を茹で始めた。翠は冷蔵庫からレタスを取り出すと、シンクで水洗いをしながらそれをちぎる。
食事の準備が整うと、幸成がそれらをトレイにまとめて乗せるとダイニングへと運ぶ。そして自分の席に着くと、翠も向かいの席に座った。
「じゃあ、食おうぜ」
「うん、もうお腹ぺこぺこだよ」
二人は手を合わせると、出来上がったスパゲティとサラダを口にした。パスタソースは茹で上がったら混ぜ合わせる即席のもので、ツナマヨ味だ。
スパゲティを口にすると、ようやく緊張が解けて盛られた分をペロリと平らげた。サラダも完食だ。
「お代わり、すぐに作れるけどどうする? あ、でもケーキもあるからなぁ」
「うん、ケーキの分の余力は残しておきたいから、これでご馳走さまするよ。高橋くん、ありがとう」
翠が器を持って立ち上がろうとした時だった。幸成がそれを制した。
「置いといて。今日は腕、無理させたくない」
そう言いながら幸成が立ち上がり、翠の分の器を自分の器と重ねてキッチンへと運んでいく。その気遣いが、先ほど会社で浜田から受けたセクハラを嫌でも思い出してしまうと思わなかった幸成は、背後で今にも翠が泣き出しそうな表情を浮かべていることに気づかなかった。
食器を洗い、ダイニングに戻った幸成は、翠の腕にそっと触れた。
「まだ痛いよな……もう少し早く会社に乗り込めばよかったのに、ごめんな」
幸成が触れる手はとても優しくて、翠はホッと安らぎを感じる。十年前に、こんなスキンシップなんて取ることはなかったけれど、あの頃から幸成のそばは、とても居心地がよかった。
あの頃、この気持ちに気づいていたら、今頃どうなっていただろう。
「ううん、そんなことない。守ってくれて嬉しかった……ありがとう」
恥ずかしくて幸成のことを正視できず、俯いたままの翠を、そっと抱き寄せた。お互いの心臓が早鐘を打っている。
「……昔さ、彼氏ができたら名前で呼ばれたいって言ってだだろ? 俺なりに頑張って呼んでみたけど、やっぱりスイって言いそうになるんだよな」
目の前で繰り広げられるプロの技を、翠は目を輝かせながら眺めていると、幸成は搾り袋を片づけ始めた。どうやら今度は果物を飾りつけるようだ。
「果物、自分で飾ってみるか?」
作業の手を止めた幸成が翠に問いかける。翠は少し考えたあと、首を横に振った。
「いや。私が下手に飾りつけしたら、せっかく綺麗なクリームのバラが潰れそう……それに、これだけでも充分華やかだよ」
精一杯の返事をすると、幸成は苦笑いをして、クリームの飾り付けが終わったケーキを冷蔵庫にしまった。そして、ケーキ皿やフォーク、ケーキナイフをトレイに乗せて、先にダイニングテーブルへと運んだ。翠はその後について行く。
「もし果物食べたかったらいくらでも剥いでやるから。でも先に夕飯だろ、腹、減ってないか?」
幸成にそう言われて、翠は急激に空腹を感じた。翠のお腹がかわいらしい音を鳴らすと、お互い一瞬黙り込んだけれど、どちらからともなく笑いが込み上げてきた。
「一緒に作るか?」
「うん、手伝うよ」
幸成は再びパントリーの扉を開き、中からスパゲティと鍋を取り出すと二人分を茹で始めた。翠は冷蔵庫からレタスを取り出すと、シンクで水洗いをしながらそれをちぎる。
食事の準備が整うと、幸成がそれらをトレイにまとめて乗せるとダイニングへと運ぶ。そして自分の席に着くと、翠も向かいの席に座った。
「じゃあ、食おうぜ」
「うん、もうお腹ぺこぺこだよ」
二人は手を合わせると、出来上がったスパゲティとサラダを口にした。パスタソースは茹で上がったら混ぜ合わせる即席のもので、ツナマヨ味だ。
スパゲティを口にすると、ようやく緊張が解けて盛られた分をペロリと平らげた。サラダも完食だ。
「お代わり、すぐに作れるけどどうする? あ、でもケーキもあるからなぁ」
「うん、ケーキの分の余力は残しておきたいから、これでご馳走さまするよ。高橋くん、ありがとう」
翠が器を持って立ち上がろうとした時だった。幸成がそれを制した。
「置いといて。今日は腕、無理させたくない」
そう言いながら幸成が立ち上がり、翠の分の器を自分の器と重ねてキッチンへと運んでいく。その気遣いが、先ほど会社で浜田から受けたセクハラを嫌でも思い出してしまうと思わなかった幸成は、背後で今にも翠が泣き出しそうな表情を浮かべていることに気づかなかった。
食器を洗い、ダイニングに戻った幸成は、翠の腕にそっと触れた。
「まだ痛いよな……もう少し早く会社に乗り込めばよかったのに、ごめんな」
幸成が触れる手はとても優しくて、翠はホッと安らぎを感じる。十年前に、こんなスキンシップなんて取ることはなかったけれど、あの頃から幸成のそばは、とても居心地がよかった。
あの頃、この気持ちに気づいていたら、今頃どうなっていただろう。
「ううん、そんなことない。守ってくれて嬉しかった……ありがとう」
恥ずかしくて幸成のことを正視できず、俯いたままの翠を、そっと抱き寄せた。お互いの心臓が早鐘を打っている。
「……昔さ、彼氏ができたら名前で呼ばれたいって言ってだだろ? 俺なりに頑張って呼んでみたけど、やっぱりスイって言いそうになるんだよな」
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