クールなパイロットは初心な新妻を身籠らせたい

小田恒子

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第五章

結婚への階段 11

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 二階の保安検査場前でみんなと別れると、私は搭乗口へと向かった。
 ふと立ち止まり、一度後ろを振り返ると、みんなが大きく手を振って私のことを見送ってくれている姿が目に入る。
 私も大きく手を振り返し、再び歩を進めた。

 ギリギリまで泣くことを我慢していたけれど、ボーディングブリッジを渡る途中で、思わず瞼から大粒の涙が零れ落ちた。

 地元を離れる寂しさや不安、新生活に向けての緊張など、いろいろな感情がごちゃまぜになり、自分でも感情が制御不能な状態だったのだ。
 慌ててポケットの中からハンカチを取り出し、涙を拭うと、後に続く人たちの迷惑にならないよう、速足でブリッジを渡った。

 ハッチをくぐり、飛行機の中に足を踏み入れると、客室乗務員が私たちを出迎えてくれる。その中の一人に、見覚えがあった。

「この度はご搭乗ありがとうございます、花澤さま」

「ああ、桜田さん……!」

 思わず立ち止まって挨拶をしようとしたけれど、私の背後にまだたくさんの乗客がいるので、私は一先ず会釈をして自分の座席へ向かった。

 桜田さんの顔を見て、それまで張りつめていた緊張の糸が緩んだ。
 この機内に知り合いがいる、そう思うだけで充分心強い。
 私は機内で桜田さんの姿を目で追った。

 飛行機が離陸して、シートベルトサインが消えると同時に客室乗務員は忙しくなる。
 桜田さんも例外ではなく、機内で乗客の要望に応えるべく、忙しく動き回っていた。

 高度数千メートル上空での仕事は、気圧の変動が激しく、体調不良も起こしかねないだろう。天候のいい時ならまだしも、この前みたいに悪天候で機体が揺れる時も、乗客に対して冷静な対応を求められる大変な仕事だ。

 そう思うと、改めて千早さんを含む操縦士や桜田さんたち客室乗務員は、本当にすごい。

 ドリンクのサービスにやって来たのは、桜田さんだ。
 桜田さんからオレンジジュースを受け取ると、今日の千早さんは操縦のスタンバイで羽田に待機していると教えてくれた。

 千早さんと付き合い始めた当初は、それこそ今日はどこを飛んだとかよく教えてくれていたけれど、最近は結婚式の話が多く、あまり仕事の話をしない。
 そして桜田さんが別の乗客へドリンクサービスに行く時、私だけに聞こえるよう、「ご結婚おめでとうございます」と耳打ちした。

 驚いた表情を浮かべる私に、桜田さんは笑顔を向けるとすぐに私の後部座席に座る乗客へ声を掛けたので、私はお礼を告げることができなかった。

 飛行機はその後も順調に飛行を続け、無事に羽田空港へ到着した。

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