これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー

小田恒子

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第3章

もしかして、この婚約はカモフラージュ? 4

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「で? 徳井さんに指輪のこと聞いたの?」

 弘樹はおつまみを口にしながら、逸れまくった話を本筋に戻した。

 カウンターには、注文したビールと芋焼酎のロック、フライドポテトやスルメイカが並んでいる。

 お洒落なカフェバーなのに、雰囲気ぶち壊しの居酒屋メニューをオーダーするわがままな私たちに、文句一つ言わない武志さんの優しさに弘樹はもうメロメロだ。武志さんはノンケ……女性が好きなのだろうけど、私としては、弘樹の恋を、リアルBLを応援したい。

 ビールを一気に半分まで飲み干した私は、カウンターにドンッと音を立てて、グラスを置いた。

「いや、それがさあ、うっかり聞き忘れて……」

「おバカ! 何でそこ聞かないの!? 指輪のこと、気にならないの?」

 私の返事に、被せ気味に弘樹が答えた。
 私よりも恋愛経験が豊富な分、弘樹の方が女子力は断然高い。私は昨日、結納の席で徹也くんからもらった指輪を見つめながら返事をした。

 お見合いの練習の日から約二か月が経つ。

 その後数回、仕事終わりに食事に行ったり映画を観に行ったりとデートらしきことはしたけれど、婚約指輪はおろか結婚指輪の話なんてしたことなかったから、まだ一緒にジュエリーショップにも行っていない。だからこうして婚約指輪を用意してくれているだなんて思いもしなかったのだ。

 渡された婚約指輪は、私の左手薬指のサイズピッタリだった。

 あとで母から、正式に結婚の申し込みがあったときに、私には内緒で指輪のサイズを教えてくれと言われていたと聞いて納得したけれど、それを聞くまで何で徹也くんが私の指のサイズを知っているのか不思議でならなかった。

「だって、会食中は親が今後のことをずっと話してるんだよ? 結婚式の日取りや会場も、全部親が決めちゃうし。これでいいよね? って、ノーって言わせない空気なんだよ。私はそんなもんわからないから、『お任せします』って丸投げしちゃったし……」

 私の言葉に、弘樹は半ば呆れ気味だ。

「いや、てかさ、結婚するんだよ? 左手に指輪してる男と。わかってる? もしかしたらあんた、現在進行形でほかに女がいるかも知れないんだよ? 結婚後に浮気されるかも知れないんだよ? そこんとこよく考えな?」

 弘樹の言葉に頭を悩ませてしまう。

 私よりも三歳年上の徹也くんは三十一歳。イケメンで御曹司とくれば、黙っていてもモテるだろう。

 三次元にはほぼ興味のない私だけど、徹也くんはカッコいい部類だと思う。
 対する私はちびっ子童顔で、素顔だと中学生に間違われることもある。一緒に並んだところで兄妹、下手したら親戚の子くらいにしか見られない。
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