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史那編

行動に移すのみ ーside理玖ー 1

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 どうやらこの様子では親同士の中ではもう、俺たちは将来一緒になってもいいとの認識らしい。
 史那が昔のままの純粋な気持ちで俺のことを好きでいてくれるのなら、俺はもう……

「話が終わったなら、理玖、たまには一緒に帰るか?」

 珍しいこともあるものだ。

「仕事は? 接待とかないの?」

「バーカ、かわいい息子が会社に来てるってのに、残業するわけないだろう。
 それにそんなもん、俺たちは愛妻家で通ってるから業務後に誘ってくる奴なんていないよ、なあ、雅人」

 父の言葉に雅人叔父さんも頷いている。
 全国展開しているホテル業だ、普段から出張が多いだけに、こちらにいる時はよっぽどのことがない限り基本残業はしないのだと言う。

 確かに出張のない日は父の帰宅は早い。下手したら俺よりも早くに帰宅して寛いでいる日もある。
 小さい頃は、俺や蒼良の宿題が終わったら一緒にゲームをしたものだ。
 そして時間を忘れて没頭するから母は呆れて、祖父母から早く風呂に入れ、早くご飯を食べろ、早く寝ろと雷を落とされていた。

 ふと、そんな家族像を俺と史那が将来築いていくと思うと、容易に想像がついてちょっと笑えた。
 その笑みを父と叔父がどのように解釈したかは不明だが、黙って俺を生暖かく見守っている。

 話も終わり、俺は久し振りに父と一緒に帰宅した。
 母は父から連絡があったのか、帰宅と同時にすでに食事の準備も整っていた。


 家庭教師を引き受けたけれど、果たして史那は相手が俺だと知った時どの様な反応を示すだろう。
 俺が中等部を卒業してようやく接点もなくなり、史那も平穏な日々を送っているのに、また俺との接点ができて嫌な思いをしないだろうか。拒絶されたりしないだろうか、それだけが気がかりだった。

 でも引き受けたからには史那との接点も増える。この機会に距離も少しは以前の様に縮める事が出来るだろうか。
 淡い期待を胸に、俺は夏休みが来るのを指折り数えていた。

 そしていよいよ家庭教師の日を迎えた。
 この日はいつも通り朝補習があったけど、緊張で夜眠れず寝坊してしまった。
 高等部に進学するまでは、朝バスでのお迎えでいつも史那の家の近くのバス停で一度降車し、史那をエントランスまで迎えに行っていたけれど、今はそれをせずにそのまま学校の近くまで乗っている。

 でもこの日は、気がつけばあの頃のように一度バス停で降車していた。
 バスを降りてから、後でまた会えると気を取り直して次のバスが来るのを待っていた。
 もしかしたら、同じ時間のバスに史那が乗るかも知れない。
 淡い期待を胸にバスを待っていた。
 けれど……次のバスが来るまでに史那の姿が見当たらない。
 確か中等部も補習があるはずだ。なのにどうして史那はこないんだ?

 バスが発車した時、史那の姿が車窓から見えた。
 夏休み期間中は朝のホームルームもないから、ギリギリの時間に通学しているのか……
 早起きが余り得意ではない史那らしい行動だ。
 納得した俺は、史那を追い越したバスの中でクスリと笑った。

 学校に到着してからも、昼から史那に会えると思えば頑張れる。
 昼前に補習授業が終わると、いつもなら生徒会室へと直行して弁当を食べるところだが、今日は急いで帰宅の途に就いた。
 生徒会長からも金曜日の打ち合わせや準備には参加できないことを事前に伝えてもらっていたし、他の役員もなんだかんだと予定があって、全員が揃う日も少なく、特に怪しまれることもなかった。

 急いで帰宅すると、母が昼食を用意してくれていた。

「史那ちゃんも補習で午前中は学校でしょう? そんなに急いで行く必要はないんじゃない?」

 確かにそうだ。でも少しでも早く史那に会いたい。それを口に出さないけれど、母にはお見通しだった。
 なにも言わず、すぐに食事がとれるよ、食卓の上に昼食が並べられている。

「制服だって汗だくじゃない、早くシャワー浴びて着替えなさい。汗臭いわよ」

 見た目おっとりなくせに、なかなかの毒舌だ。でも確かに汗臭いまま史那に会いたくない。
 母に言われた通り、制服を脱ぎながらシャワーを浴びに浴室へと向かった。

 この日、蒼良は友だちと共同で夏休みの自由研究をすると言って出かけていた。
 きっと顔を合わせれば、史那と一緒に勉強できて羨ましいだの、自分も一緒に行きたいだの、言いだすに違いない。
 うるさい外野は一人でもいない方がいい。
 それに、きっと史那の家へ行くのにめかし込んでるとか変な茶々を入れられそうだ。

 意識するわけではないけれど、うちで着用しているようなラフな格好で行くか、それとも少しは身なりに気を配った方がいいか悩むところだ。

 さすがにジャージじゃダメだろうと、俺はシャワーを済ませるとポロシャツとチノパンに着替えた。
 身支度を整えると、母が用意してくれていた昼食に手を付けた。

 この日は冷やし中華で具沢山、麺も山盛りだった。きっと蒼良の分を一緒に作って不在なのを思い出したから、片づけるのも面倒で俺の皿へ一緒に盛りつけたんだろう。
 それを言うときっと『成長期の息子のお腹を満たすにはこの量が丁度いい』とか言い訳するに違いない。

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