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史那編

行動に移すのみ ーside理玖ー 2

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 余計なことは言わず、俺は用意してくれた冷やし中華を平らげた。
 現在成長期だけあり、この程度の量なら余裕で食べ切れる。
 おかげさまで身長も伸び盛りだ。一学期の最初にある身体計測では、百七十五センチあった。でも多分今はそれ以上の身長があると自負している。きっと高校卒業するまでには百八十センチは超えると思う。
 無駄に身長だけ伸びても仕方ないので、そろそろ本格的に身体も鍛えようかと思う今日この頃だ。

 食事を済ませると、皿をキッチンに運ぶように言われ、俺は渋々使った容器を運んだ。
 どうせ食器洗い乾燥機を使うのだろうから、シンクに水を張った桶が置かれており、その中に皿と箸を浸けると出掛ける準備を始めた。

 教材は史那の使っている物で充分だろうから、自分の宿題と筆記用具、スマホを持って行けば問題ないだろう。
 鞄の中に必要な物を詰め込んで、俺は史那の家に向かった。

 マンションに到着すると、コンシェルジュの桜田さんがいた。
 桜田さんは俺がこのマンションに出入りし始めた頃から勤務している人で、気さくなお姉さんだ。俺たちが幼少の頃は史那と一緒にいるとよくお菓子をくれたりした。ここの住人ではない俺も、住人と同じような扱いで接してくれていた。

「こんにちは、桜田さん」

 こちらから挨拶をすると、桜田さんも笑顔で挨拶を返してくれる。

「こんにちは、理玖さん」

 そのままエレベーターに乗り込もうとした所を桜田さんが呼び止める。

「高宮さまの所に行かれるんですよね? 先程史那さんがお帰りになられたんですが、お顔が真っ赤だったので、もしかしたら体調が悪いのかと思いまして……理玖さん、史那さんになにかありましたら教えて下さいね」

 桜田さんが躊躇いがちに声を掛けてきた。
 きっと住人のことにどこまで立ち入っていいのか悩んだ末のことなんだろう。
 それはそうと、顔が真っ赤って、もしかして熱が出たのか?

「教えて下さってありがとうございます」

 俺は桜田さんにお礼を言って、エレベーターに乗り込んだ。
 最上階フロアに到着すると、史那の家のドアのインターホンを鳴らす。
 すぐに文香叔母さんが出てくれた。

「理玖くんいらっしゃい、今日から夏休み中よろしくね」

 玄関先で声を掛けられて、俺は頷きながら三和土にある靴を確認した。
 史那の通学用の靴と果穂のサンダルが並んで置かれてあった。
 耳を澄ませると、史那達は風呂に入っているようだ。

「史那もさっき帰宅したばかりで今果穂と一緒にシャワー浴びてるの。すぐに出てくると思うからリビングで涼みながら待っていて」

 そう言って俺はリビングに通された。
 ダイニングテーブルの上には、史那の昼食らしき冷やしうどんと麦茶が用意されている。
 きっと帰宅してすぐにシャワーを浴びているのだろう。
 さっき桜田さんが史那の顔色を心配していたけれど、もし熱があった場合シャワー浴びて大丈夫なのか?
 俺はさり気なくそのことを口にした。

「ねえ、文香叔母さん。さっき下で桜田さんが史那の顔色を気にしていたけど、史那体調悪いの?」

 俺の言葉に文香叔母さんも心配そうな表情を浮かべている。

「そうなのよ、帰った時に真っ赤な顔でね……今日は外、そんなに暑かった?」

 確かに今日は真夏日だ。スマホの気象アプリの通知には、朝の内から熱中症に対する警戒で外での運動禁止の通知が表示されていた。

「暑いのは毎日のことだから感覚が麻痺しそうになるけど、今日は早い時間から熱中症の通知が出てるよ」

 俺の言葉に、文香叔母さんはますます不安げな表情を浮かべている。

「あの子暑さに弱いから、もしかして熱中症かしら……早くシャワーから出てこないかしら」

 叔母さんはリビングを後にすると浴室の様子を見に行った。
 どうやら二人ともシャワーは終わっていたようで叔母さんはすぐに戻ってきた。果穂も一緒だ。
 果穂は俺の顔を見るや否や、嬉しそうに飛びついてきたのでそれを受け止めた。
 果穂と史那は顔立ちこそ違うけれど、果穂を見ているとあの当時の史那を思い出す。

 果穂の相手をしながらリビングの入口の様子を窺っていると、しばらくして史那もリビングにやって来た。
 ノースリーブのワンピースに薄手のカーディガンを羽織り、髪の毛をアップにしていた。
 風呂上がりの史那に色気を感じ、内心ときめいた。
 でも、その照れ隠しに出た俺の言葉は、優しさの欠片もない。

「おっせーよ。早く水分補給して昼飯食えよ」

 史那は目を丸くして俺を見ている。
 確かに顔色は桜田さんが言っていたように真っ赤だった。
 これはまるで風呂でのぼせたレベルじゃないか。本当に大丈夫なのか?

「ほら、叔母さんが片づけできなくて困ってるだろ? てか史那、顔赤いぞ。風呂場でのぼせたんじゃないか?」

 俺の言葉に、文香叔母さんがグラスいっぱいにお茶を注ぎ、氷も入れてダイニングテーブルの上に置いた。

「そう言えば家に帰った時も顔が真っ赤だったでしょう、本当、大丈夫? これ飲んでご飯食べてから、一応念のために熱計ってみなさいね? 体温計、出しておくから」

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