エゴイスト

神風団十郎重国

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6話

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しかし綾乃は何度かキスをしただけで恥ずかし過ぎるからと言う理由で拒否してきたのでキスの練習はやめる事になった。私としては残念だが今日は可愛い綾乃を見れたから良しとする。綾乃は本当に照れて恥ずかしがっていたし明日またしてやろうと思って二人でベッドで寝ようとしたら綾乃はまだ恥ずかしがっていた。

「綾乃?どうかしたの?」

あえて優しく尋ねる私に綾乃はちょっと目を逸らした。

「私、キス……しちゃったんだなって思って」

「キスなんか別にどうって事なかったでしょ?」

キスなんかしようと思えば誰でもできるから特別な事ではない。気持ちがなくたってできるのに、綾乃は重大な事のようだ。

「ナギちゃんはそうかもしれないけど……私は、……私は初めてだったし……」

そうか、綾乃は初めてをそこまで気にしているようだった。相手は私で、私を否定しないくせに啓太を気にしている。なんともムカつく話に私は綾乃を試してやった。

「ごめん。綾乃のためにしてあげようと思ったんだけど私じゃ嫌だった?」

綾乃は私を拒絶しない。昔からそうだった。でもどう答えるのだろうか?いつもみたいに言った私に綾乃は慌てて否定した。

「ち、違うよ?ナギちゃんが嫌だったんじゃないの。ナギちゃんは幼馴染みで大切な人だもん。絶対嫌じゃないよ」

「本当?綾乃が付き合った時に何か言われたら可哀想だから言ったけど嫌だったらやめてもいいんだよ?」

望んでいたその言葉に喜びが溢れる。やはり綾乃は裏切らない。それでも意地の悪い私は綾乃に問いかけていた。無理にする気はないが綾乃が本当に私を受け入れないと綾乃を私のものにできない。
私は不安そうな顔をしてみたら綾乃は弁解するように言った。

「やめなくていいよ。私、ナギちゃんが好きだから平気だよ。ナギちゃんが言った通りもし付き合えたのに私のせいで嫌われちゃったら嫌だし、私…経験ないから不安だし……だから、平気だよナギちゃん」

私の顔色がいつもと違うだけで本当に動揺して説明してくる綾乃は滑稽で苦しいくらい胸が締め付けられた。適当な嘘を言った私を大切にしてくれて信じてくれるなんてこのポジションは本当に便利だ。私はにっこり笑ってやった。そして親友らしい気持ちを述べてみた。

「そっか。よかった。綾乃は今まで恋愛とか全然だったから心配なんだ私。私達幼馴染みだから綾乃には絶対うまくいってほしいし幸せになってほしいの。私は綾乃の親友でもあるから絶対協力してあげたいし」

我ながらうまく言えた気がする。内心鼻で笑ってしまう。さぁ、もっと私を信頼しろ。もっと盲目的に崇拝するように私に好意を見せろ。そうすればもっと私に有利になる。綾乃を私に手繰り寄せてどこにも行けないようにできるんだ。綾乃は安心したように笑った。

「ありがとうナギちゃん。ナギちゃんは昔から本当に優しいね。私は恋愛とか初めてだからナギちゃんが協力してくれるって言ってくれて、心配してくれてすごく嬉しい。私、全然知らない事とか多いからナギちゃんがこれからもアドバイスとかしてくれると嬉しいんだけど…」

「もちろん。綾乃のためなら頑張っちゃうから任せてよ」

「うん。よろしくねナギちゃん」

これで私の株がまた上がった。私は面白いくらいうまくいくこの事態が楽しくて嘲笑いそうだ。だけど綾乃の前だ、なんとか我慢して綾乃に促した。

「じゃあ、もう寝よっか?明日も朝から髪やろうよ?教えてあげるから」

「うん!まだ難しいから簡単なやつにしてね?」

「分かってるよ。ほらもう寝よう?眠くなってきちゃったから」

「うん。分かった。おやすみナギちゃん」

微笑む綾乃は素直に目を閉じた。私はそれを確認しておやすみと言ってから天井に顔を向ける。その瞬間から口角が片方上がってしまっていた。
綾乃の信頼もまた上がったし、もう間に入り込めた。あとは私に縛り付けながらあいつとの仲を持つように支配してやろう。まだまだ綾乃を完全に私のものにするには時間がかかりそうだが綾乃の見た事ない表情を今日みたいに見られるかと思うと楽しくなりそうだ。

楽しみに思って眠りについた私は翌日も綾乃と一緒に髪をアレンジしていた。綾乃は昨日教えたやつも今日教えたやつも完璧にできるようになったのでアイロンを買うように勧めた。私が使っているお気に入りのアイロンは使いやすいし私と同じ物を持たせたい。綾乃は喜んでアイロンを買う事にしていた。

「ナギちゃん、うまくできたよ!」

綾乃はそれからちょっと難しい編み込みの仕方を教えてあげたら自分でやってから見せてきた。嬉しそうに見せるその編み込みは私がよくやっているやつで綺麗にできている。

「うまいじゃん。綺麗だよ綾乃。良くできてる」

「本当?ありがとうナギちゃん」

たったこれだけの事を誉めただけで綾乃は目に見えて喜ぶ。本当に単純で純粋な女だ。私は髪型がうまくできるようになったところで次のステップに進む事にした。

「綾乃?髪もうまくできるようになったからさ、次はメイクやらない?髪も染めたから今まで通りのメイクじゃ顔が浮いちゃうよ」

もっと私色にしよう。綺麗な綾乃にもっと色をつけたい。綾乃はいつものように困っていた。

「え?でも、やってみたいけど…、私、あんまりメイク道具とか分からないから持ってなくて…」

「私の貸してあげる。もっと可愛くなるからちょっとやってみようよ?」

「…うん。やりたい」

私の言う事を聞いた綾乃に私は優しく笑うと鏡を出してメイク道具を入れるポーチを出した。綾乃は化粧っ毛がないからファンデーションに軽く眉毛を書いて控えめな色のアイシャドウしかしていない。私はそこに付け足すようにまずはアイブロウマスカラを取り出した。

「綾乃は髪染めたから眉毛が黒だとちょっと浮くから今は眉毛を茶色くできる眉毛用のマスカラあるからそれを軽く塗って乾かしてから茶色のペンシルで眉毛書いた方がいいよ。こんな感じで」

「うん…」

私の話を真面目に聞く綾乃は興味深そうにメイク道具と鏡を見た。軽くティッシュで拭いて今の眉毛を落としてからやってあげると髪と色があって不自然さがなくなる。

「それからハイライトは入れてないよね?綾乃」

「え?うん。なあに?それ」

私はハイライトとブラシを取り出しながら綾乃の顔にさっとハイライトを入れて説明してあげた。

「ハイライトは顔が立体的に見えて艶も出るし明るく見えるやつ。これ入れると入れないじゃ顔の印象変わるから絶対入れた方がいいよ。Tゾーンと目の下と顎に軽くやるだけでいいから。どう?」

ハイライトにはラメも入っているので顔が明るくなって艶が出た綾乃は鏡を見て驚いていた。

「すごいねナギちゃん。全然違う」

「でしょ?私ハイライト何個かあるから綾乃にあげるねあとで」

「うん。ありがとうナギちゃん」

綾乃が可愛くなってきたけどまだ足りない。私は綾乃に似合いそうなオレンジ系のチークを取り出した。

「あと綾乃はチーク入れた方がいいよ。チーク入れてないでしょ普段」

チークをある程度入れないと顔色が悪く見える。綾乃はまた恥ずかしそうに困り顔をした。

「うん……。でもね、前に入れてみた事あるんだよ?……でも、なんか、人形みたいになっちゃったから…。私には似合わないよ……」

綾乃が試した事がある事実が可愛らしくて笑ってしまう。チークは入れ方次第で劇的に変わる。私は頭を軽く撫でてあげた。

「チークは色が沢山あるし最初はそうなりやすいけど私が教えてあげるから大丈夫だよ」

「うん……」

私はまだちょっと不安そうな綾乃に説明しながらチークを入れてあげた。

「チークは入れすぎると本当に人形みたいになっちゃうからさっと入れるだけでいいよ。ブラシで本当にちょっとつけるくらい。目の下のほっぺの離れた所にこんな感じ」

「うん。あんまり赤っぽく見えないね」

「これはオレンジ系のチークだからね。赤だと毒々しく見えたりするから綾乃はオレンジ系の色がいいよ」

赤じゃ場合によってはおばさんっぽく見えてしまう事もある。赤が似合う人もいるが綾乃は肌が綺麗だし控え目の方が映える。私の思った通りオレンジ系のチークは綾乃を映えさせた。

「綾乃似合うじゃん。どう?血色よく見えるし顔が明るくなって可愛くない?」

ちょっと幼い顔をしている綾乃に色気が出てきた。綾乃は嬉しそうに笑った。

「うん。可愛い……」

「ふふふ。このチークもあとであげる」

「え?ナギちゃんそんなに貰って大丈夫?」

「大丈夫だよ。メイク道具いっぱい持ってるから」

メイクは日々研究だ。新しい物があればよく買ってしまうのであげたってどうって事ない。それよりも最後の仕上げだ。私はブランドのリップスティックを取り出した。これは私のお気に入りのリップだ。

「綾乃まだ動かないでよ?」

「うん」

このリップはブランドのロゴが入っていてリップスティックその物がお洒落で可愛いのがポイントだが私が気に入っているのはそこじゃない。リップを綾乃に塗り終わると綾乃はすぐに気づいた。

「ナギちゃん…なんか、いい匂いするよ」

「そうでしょ」

このリップは塗るととてもいい花の香りがするのだ。これがこのリップを気に入っている最大の理由だった。発色もいいし色落ちもしずらいのにいい香りがするなんて気に入らないはずがない。

「これブランドで普通のリップより高いんだけど発色もいいし色落ちしずらいからすごくいいよ。それに喋るといい匂いするから」

私の手によって女らしくなった綾乃は塗ってあげたリップに喜んでいた。控え目な綾乃に映えるようにリップは赤系の色にして正解だった。

「本当だね。お花の香りする」

「ふふふ。これなら啓太も意識してくれるんじゃない?」

こんなに私色になって可愛くなった綾乃を彼女がいないなら意識しないはずがない。綾乃は可愛らしく照れていた。

「え?そうかな?……ふふふ、そうだったらいいな…」

髪型もメイクも変えた綾乃は笑うだけで女の子らしさが増してそそられる。あんなに控え目だったのに女の色気がこんなに出るものなのか。私はリップを自分の唇に塗ると花の香りを感じながら綾乃を呼び掛けた。

「綾乃?」

「ん?なあに?ナギちゃ……んっ」

こっちを向いたのをいい事に何度かキスをして唇を離した。綾乃から私と同じ匂いがして満たされる。変わった綾乃を先に味わうのは私だ。

「これでキスするといい匂いするでしょ?」

「……うん。昨日と違う…」

不意にキスをしただけで照れる綾乃ににんまりしてしまう。

「ふふふ。これでキスしたら付き合った時相手は喜ぶと思うからちょっと練習しよ?」

「…うん。でも、ナギちゃんからキスして?」

「いいよ」

綾乃は私の欲望を乗せた誘いを恥ずかしそうに受け入れてくれた。


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