エゴイスト

神風団十郎重国

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18話

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「なんでいんの?昨日待ってなくていいって言ったよね?」

私は笑いながら訊いた。また不安が勝ったのなんて昨日で理解できたけど綾乃は怯えたように答えた。

「そうだけど……、でも、ナギちゃんと一緒に行きたいから…」

「私は一緒に行きたくないから」

「……なんで?……ナギちゃんは……私の事嫌い?」


まるで泣きそうな顔をする綾乃に私は笑顔で答えた。

「知ってるくせになんでそんな事訊くの?イラつくんだけど」

「……うん。ごめんねナギちゃん……」

綾乃は悲しそうに涙を溢したけど私はそのまま話した。

「昨日も言ったけど、私はもう前みたいな事したくないから一緒にいたくないだけだし、綾乃にも嫌な思いさせたくないだけだから。あれは悪いと思ってるからもう綾乃にも近付かないし、もうこうやって離れて終わりでいいじゃん。別に綾乃には他にも友達はいるんだから困らないでしょ?私と仲良くなくたって」

こう言っても綾乃は違う。綾乃にとって私は特別だからきっと否定する。綾乃は思った通り涙を指で拭ってはっきり言った。

「ナギちゃんは幼なじみだし大切だから困るよ。私、ナギちゃんとずっと仲良しでいたいもん……」

「あんな事したのに?私最悪じゃん。ずっと綾乃の事騙してたし……本当にごめんね」

別に罪悪感なんかない。そんなもの感じるはずがない。だって欲しいんだからなんだってやるに決まってる。そもそも綾乃は私のものだし。だけど、あえて悪いと思っているのを装って私は綾乃を無視して歩きだした。
私はもう綾乃に気遣ってなんてやらない。綾乃から全てやらせてやる。それこそに重要な意味があるから。

「待ってナギちゃん!」

綾乃は私の手を引いてきた。それに歩みを止める。綾乃はいつになく必死そうだった。

「私、気にしてないよ?ナギちゃんの事最悪とか思ってない。ナギちゃんの気持ちには驚いたけど軽蔑とかもしてないよ」

「そういうのいいよ綾乃。綾乃いつもそうやって私に気遣ってるじゃん。もうそういうのも悪いとしか思わないからさ」

「え……」

綾乃の言葉を否定した私に綾乃は悲しそうな顔をした。そうだよ、その顔だよ。丁寧にやる事が終わったから、今はただただ拒絶するだけになった。そして、その拒絶だけで私の好きな顔が見られるのは堪らない状況だ。触れられなくて好きだと言い合えないのは残念だけど、私の好きな顔を見られるのは楽しかった。綾乃の恐怖や悲しみに歪む顔は私に興奮や喜びを与えてくれる。

あぁ、本当楽しくてしょうがない。この私に依存しきった哀れな綾乃が私の心を擽る。なんて可愛いんだろう。もっと歪ませてやりたいよ綾乃。

「もう離してくれない?」

「……」

可愛らしい顔をする綾乃に促した。もっと見たいものがあるから、このくらいで受け入れてやるつもりなんか毛頭ない。顔を下げてしまった綾乃は離すと思ったのに逆に力を込めて離してくれなかった。

「ねぇ、訊いてる?離してって言ってんだけど」

「……私、ナギちゃんと一緒に行きたい……」

「……」

綾乃は珍しく拒否してきて驚いた。いつも私を受け入れるくせにこういう頑なな綾乃の姿勢は初めてかもしれない。私がやった事が早くも項を成したのか。少し口角を上げて笑うと私は受け入れてやった。

「もう勝手にしていいから離してよ。このままじゃ遅刻しちゃうし」

「うん……ありがとうナギちゃん……」

不安げに私を見る綾乃は手を離して私の隣に並んで歩きだした。私を窺う目線を感じるが私の玩具が変わってきているのであればこのくらいは受け入れてやってもいい。私はそのまま無言で綾乃と登校をした。学校に着くまでは会話はしていなかったけど、学校に着いてからは皆を交えて会話をする。前のように話す私に綾乃はまだ戸惑っているけどちゃんと話しはできている。

そうやって皆で昼休みに話していたら富田が思い出したように言い出した。

「ねぇねぇ、期末終わったら皆で遊園地に行かない?オソロでTシャツとか買ってさ、カチューシャとか着けようよ?」

体育祭が終わったからあと残すのはもうすぐ始まる期末テストだけだ。だが今年は最後の夏休みだから富田はなんだか気合いが入っていた。

「いいじゃん富田。啓太も大樹も連れて皆で行こうよ?いっぱい写真取って思いで作りたいし」

話しにいち早く賛同した私に続いて真奈も賛同した。

「うん。いいじゃんそれ!私も行きたい!綾乃はアトラクションとか平気?」

「うん。平気だよ。私も皆と行きたい」

笑う綾乃は皆と行きたいと言ったくせに私をチラッと見てきた。私が否定するとでも思ったのだろうか?皆でいる時は否定等しないし、皆に気づかれてはやりにくい。私は無難に話しかけた。

「遊園地とか久しぶりだね綾乃。中学の時に行った以来じゃない?」

「うん。あの時も楽しかった…」

「そうだね。なんか懐かしいね」

「うん……」

綾乃は嬉しそうに笑うけど私の顔色を窺っている。朝からずっとこうやって窺っていたところで、別に何か汲み取ってやるつもりはない。もう少し話を広げようと口を開こうとしたら富田が嘆きだした。

「よし!じゃあ決まり!あと、それよりさぁ、富田今回の期末死にそうなんだけど!特に数学!絶対赤点になりそうだし赤点になったら皆と行けないから助けてマジ!」

「富田また~?授業中ずっと寝てるからだよ」

「だって分かんないから眠いんだもん!」

真奈は呆れているが富田がこう言うのは前からである。変わらない富田に真奈はそのまま言った。

「啓太に教えてもらえば?私バイト夏休みのために今はほぼ入れてるし」

「え?真奈ヤバくない?勉強しないの?」

「え?しないよ。ノートちょっと見直せば私はできるし」

「えー?真奈なんでそんなできんの?羨ましすぎるんだけど。もう富田は啓太に教えてもらって頑張るからいいですー。ナギと綾乃は一緒にやらない?勉強会」

意外に天才肌な真奈はいつもこんな感じだが、これはいい機会だ。私はよく綾乃に勉強を教えてもらっているが綾乃は勉強会なんてしなくても平気なくらい頭がいい。だけど、ここは断って綾乃を促してみるか?そっちの方が表情が楽しめそうだし、ちょっと遊んでみよう。

「私はいいや。今回は自分でできそうだしバイトもちょっと入ってるから。綾乃は一緒にやれば?富田に啓太と一緒に教えてあげなよ」

笑って綾乃を見ると綾乃は困ったような顔をした。綾乃からしたらチャンスだけど何て言うだろう?私は綾乃の反応が楽しみだった。

「わ、私は、……あの、バイト……あるから…。ごめんね」

「なんだ~。啓太いつも怒るからいてほしかったけどそれなら一人で頑張るわ。じゃあ、とりあえず期末終わって暇になったらいつにするか考えよう?」

「うん。それ楽しみに頑張ろ」

チャンスだったのに断った綾乃はまた私の様子を窺うように見てきた。促したのに、断るとはね……。私は笑顔を張り付けたまま特には言わなかったがきっと嘘だろう。期末の時期になると綾乃は自分から私のために勉強をしようと提案してくる事が多いし、綾乃は心配だからって自分の勉強のためにもバイトは休んでいる。

行けばいいのに、わざわざ行きやすいように言ってやったのに……本当に面白い。
今日は朝から綾乃の変化が見れて楽しくて仕方ない。
綾乃が前に比べて自発的になっている。
これが愉快で堪らない。私の狙いはこれもあるのだ。
私に依存して一人じゃなにもできない綾乃を私好みに変えるためには、この依存が絡んだ自発的な部分はないとならない。

もっと自発性を見出だしながら楽しもうか。
今度は拒否をして拒否をして、綾乃を私のものにしていく。もう充分に躾たから躾の成果がどんどん現れるはずだ。今で現れてるのだから間違いないだろう。

この私がわざわざ時間をかけて躾たんだし、私の予想が外れる訳がない。


それから期末テストまでバイトをしながら皆と普通に過ごした。綾乃とは今まで通り朝は一緒に行くがその時は会話はない。綾乃からしたらそれは今までなかった事だから気まずいだろう。綾乃はあれから私を困ったような悲しそうな顔をして見ているが私からは二人の時に会話なんか特にする気はない。
それなのに綾乃は必ず私を待っていた。


「ナギちゃん。おはよう……」

そして今日も待っていた綾乃は気まずそうに話しかけてきた。こんな顔をするなら待ってなくていいのに、簡単に私からの依存は抜け出せない。

「おはよう」

私は特に綾乃の顔を見ずに歩きだした。綾乃はそれに慌てて私の隣に並んで歩きだした。感じる視線は無視をして、綾乃の顔は朝はもう見ないようにしてる。
しばらく歩いていたら今まで話しかけてこなかった綾乃が話しかけてきた。

「ナギちゃん」

「なに?」

前を向きながら答えると綾乃は気まずそうに話しだした。

「あのね、……あの、前みたいに……一緒に勉強会しない?もうすぐ期末テストだから……」

「なんで?意味なくない?綾乃は勉強会なんかしなくても平気じゃん」

顔なんか向けないで私はいつも話すように話したのに、綾乃は戸惑っていた。

「……でも、ナギちゃんとよくやってたから……」

「もう無駄だからやめようよ。綾乃も私に付き合う必要ないし」

「でも……私、ナギちゃんと勉強会したい……。ナギちゃんと一緒にいたり、話すの……楽しいし、嬉しいから……」

「そんな顔してて楽しいの?嬉しそうにも見えないけど」

弱々しく言う綾乃にやっと顔を向けると綾乃は悲しそうな顔をしていた。煽ってやったんだからもっと私を楽しませろよ。綾乃の目は少し潤んでいるようにも見えた。

「楽しいよ?……私、ナギちゃんの事好きだし、ナギちゃんいつも優しいし、楽しい話ししてくれるから……嬉しいし……」

「じゃあ、なんで私の顔色窺ってんの?好きだったらそんな事しないでしょ普通。そういう無理すんのもうやめたら?」

あえて綾乃の勇気を台無しにしてやったら綾乃はついに泣き出してしまった。その泣き顔が私には快感だった。本当、楽しくてたまんないよ綾乃。
でも、まだ全然足りないよ。これじゃ満足できないからもっと見せて綾乃。もっと突き離してあげるから。

私は心で嘲笑いながら綾乃の返事を待った。


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