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女神の降臨
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光の中から現れたのは1人(?)の少女であった。黒髪に巫女服を着ており、年の頃は美代と同じくらいに見える。
巫女服の少女が胸を張って叫ぶ。
『信者の危機に颯爽と参上。とびきり美しくて賢くて優しい人気者……妾は、眩いほどに偉大なり! さすがは、日本神話の最高神!』
田中が恐る恐る少女へ尋ねる。
「あの~、貴方は神様なのですか?」
『うむ、妾はアマテラスじゃ。太陽神にして最高神なのじゃ。あがめ奉っても良いのじゃぞ?』
これはまた、ビッグネームが現れたものだ。
実は美代の神社のご祭神は、天照大神だったのである。
「アマテラス様。来てくださったんですね」
『おお。其方は、妾の神社の巫女である美代ではないか。如何したのじゃ?』
「邪神に呪いを掛けられてしまったのです」
『邪神じゃと?』
そこで初めて、アマテラスとクトゥルフの目が合った。太陽VSタコ。
『お前はクトゥルフ! 妾の愛する日の本の地で、何をしておる?』
『フッフッフ。寿司を握っている』
『は? 寿司じゃと?』
クトゥルフの返答に混乱するアマテラス。
「アマテラス様は、クトゥルフと知り合いなんだな」と鈴木。
『一応、彼奴も神じゃからな。はるか昔に会ったことがあるし、今でも年賀状のやり取りくらいはしておる』
「年賀状……」
微妙な表情になる、鈴木。
田中は、アマテラスに頼み込む。
「アマテラス様! そんなことより、美代ちゃんを助けてください!」
『う、うむ。なんだかよく分からんが、分かった。クトゥルフの呪いを受けたのじゃな? それならば……』
アマテラスがパンッと両の掌を打ち合わせると、空中に小さな箱が出現した。中に、ピンポン球のような物体が6つ入っている。
「アマテラス様。それは?」
鈴木が尋ねる。
『クトゥルフの呪いを解く秘薬じゃ』
「ホカホカと湯気が立ってますね」と田中。
『熱々じゃぞ』
アマテラスは秘薬の1つに、プスッと爪楊枝を突き刺した。そのまま美代の口元に持ってくる。
『さぁ、美代。食べるが良い』
「あ、あの、アマテラス様。なんだか凄く熱そうなんですけど」
美代が、怯む。
『そこは我慢するのじゃ。熱ければ熱いほど、薬としての効果も高くなるのじゃから』
「でも……」
『美代、女は度胸じゃぞ』
アマテラスはそう言うと、美代の口の中に丸い薬を放り込んだ。
「きゃ~! 熱い~!」
『呑み込め~』
ゴックン。アワアワしつつ、美代は何とか秘薬を呑み込んだ。途端に、彼女の身体が光り始める。そして光が収まるや、美代の身体を覆っていた赤と黒の靄はキレイに消え去っていた。
「ヤッタ~! 美代ちゃん。呪いが解けたんだね」
「良かったな、山本」
「ええ。アマテラス様のおかげよ。田中くん、鈴木くん、つまらないことで妬んじゃったりしてゴメンナサイ」
美代が、2人に頭を下げる。
「良いってことよ。気にするな」
「……私ってば、何を悩んでいたのかしら。ねぇ、鈴木くん、田中くん。私だって大人になったら、ワサビ入りのお寿司を食べられるようになるわよね?」
「そうだよ、美代ちゃん」
「イヤ。高校生でワサビが食えないんだったら、おそらくズッとこのまま……」
「シッ! 鈴木くん、余計なことを言わない!」
「スマン」
『うむ。ハートに刻まれていた、忌まわしい✖マークも無くなったようじゃな』
美代の回復を確認し終わると、アマテラスは鈴木たちに問いただした。
『それでクトゥルフのヤツ、どうしてこの町に来て寿司屋をやっとるんじゃ?』
「それなんですよ。聞いてください、アマテラス様」
田中がアマテラスへ訴える。
「クトゥルフは、町の住民を自らの眷属――インスマスに変えようと企んでいるのです」
『何じゃと?』
『これは正当な復讐である』
クトゥルフは傲慢にも言い放ち、それを聞いた鈴木は腹を立てた。
「ふざけんな! 勝手にタコ壺に入ったお前の自業自得だろ」
『クトゥルフよ、海底にある自分の神殿へ帰れ』
『それは、出来ん』
『どうしてじゃ? そんなに復讐がしたいのか?』
『それもあるが、寿司屋を開く際に、資金を大黒天より借りているのだ。寿司をたくさん売って、投資した分を回収しなくては』
『大黒天……か。彼奴は、金銀小判がザックザク! ……の打ち出の小槌を持っておるからな~』
アマテラス、ちょっぴり羨ましそう。
かたや、鈴木と美代はクトゥルフの情けない告白を耳にし、思わず顔を見合わせてしまった。
「借金経営だったのか……」
「1ヶ月でお客が実質、田中くん1人なんだから、借金返済は無理なんじゃないのかな?」
『それは困る!』
クトゥルフが大声を出す。
『大黒天からは、海底神殿を担保として金を借りたのだ。返さなかったら、神殿が借金のカタとして差し押さえられてしまう!』
邪神が直面する苦難! しかし、太陽神は無情だった。
『そんなの、妾の知ったことでは無いの。宿無しとなったら、それこそ、タコ壺の中で暮らせばよかろう?』
『ヌヌヌ。おのれ、アマテラス。なんという、邪悪な物言い』
『邪悪な神なのは、お主じゃろ。出て行け~、出て行け~。この町から、出て行け~。タコは赤字で真っ赤になって、出て行け~』
『グヌヌヌヌ』
アマテラスとクトゥルフは睨み合い……両者の緊張は、ついに臨界点を超えた!
『ウオ~』
『わ~』
クトゥルフが触手をぶんぶん振りつつ突進すると、アマテラスも両手をグルグル回して反撃する。
ここに荘厳にして凄絶な神同士の戦いが始まった! ……回転寿司屋の中で。
『イテイテイテ』
クトゥルフが悲鳴を上げる。ポカポカポカと、一方的にアマテラスが殴りつけているためだ。
鈴木と田中は疑問を覚える。
「クトゥルフの野郎、全然攻撃をしかけないな……何でだ?」
「どうしてかな? 相手が女神だから、手加減をしているとか……」
「邪神にそんな殊勝な心がけがあるはず無いだろ」
「訊いてみよう」
田中は、クトゥルフに質問した。
「なんで、アマテラス様に殴られ続けてるの?」
『ウ、ウム……。触手で攻撃しようと思うのだが、どうしても出来ないのだ』
「アマテラス様が女神だから?」
『そうでは無い! 女神はむしろ、触手攻撃における絶好のターゲットだ。しかし……』
「しかし?」と鈴木。
『しかし……触手で攻撃するなら、相手はやはりボン・キュ・ボンのセクシーダイナマイツでなければ……肝心なところがペッタンコでは萎えるのだ。触手が動かないのだ』
クトゥルフの言葉を聞き、鈴木と田中は同時にアマテラスの胸へ目を向けた。そして2人とも深く頷く。
「ああ~、なるほど。色気ゼロのペッタンコを相手にしても食指が動かないので、触手も動かないんだな」
「食指も触手も動かない……なんという、説得力! クトゥルフに共感しちゃうとは……これが眷属になった者の宿業なのかな……」
♢
※注 《食指が動く》の意味……興味・関心を持つ。
《触手が動く》の意味……エッチなことをする。
♢
邪神と少年2人の会話が耳に届いたのだろう。アマテラスが、怒る。
『お前ら、とってもとっても失礼じゃな!』
「そうよ! 鈴木くんも田中くんもクトゥルフも、思い遣りが足りないわ。いくらアマテラス様のお胸がナッシングだからと言って、洗濯板とか、渡り廊下とか、十勝平野とか、モンゴル平原とか、障害無し競争とか、スケートリンクとか、ボウリングのレーンとか、言っちゃダメよ」
『美代、お主が1番失礼じゃぞ』
「別に私、熱々の丸薬を無理矢理に呑まされたことを恨んでなどいませんから」
触手は使えなかったものの、クトゥルフは頭突きをしてきたり、口からピュッピュと黒いスミを吐いたりして、アマテラスに対抗した。
『いい加減、降参しろ。クトゥルフよ』
『アマテラス、そっちこそ』
『良いのか? 妾は仲間の神を呼ぶことにするぞ?』
『だったら、我が輩もそうする』
2柱の神は、恐るべき発言をした。
美代の顔色が青くなる。
「やめてください! アマテラス様も、クトゥルフも。そんなことをされたら、町が潰れてしまいます!」
鈴木と田中も慌てる
「お、おい、ヤバいぞ」
「うん。神々による集団戦とか、この町どころか、日本……いや、地球そのものがメチャクチャになっちゃうかもしれないよ!」
よもや、地球滅亡の危機?
今まさに、八百万の神々と旧支配者たちによる全面対決が……!
アマテラスが言う。
『妾は――――「お母さんに会いたいよ~」といい年こいて泣き喚いたスサノオや、居るのか居ないのかサッパリ分からないツクヨミや、黄泉の国でBL趣味にハマってリアル腐女子になってしまったイザナミや、わざわざ黄泉の国まで会いに行ったのにBL本を読み漁る母上を見てドン引きして逃げ出したイザナギや、ハニートラップに見事に引っ掛かって仕事を放棄したワカヒコや、妊娠した奥さんに「それ、本当に俺の子?」と史上最低の発言をかましたニニギを呼ぶぞ!』
クトゥルフが言う。
『我が輩は――――ヘビーな蛇神で子煩悩なイグや、〝いつまでも眠りっぱなし〟というニートの極致とでも呼ぶべき存在であるシアエガや、《生ける炎》にして火力発電所で時々アルバイトをしているクトゥグアや、地下迷路に住んでいて自分でも出口が分からなくなって迷っているアイホートや、白くてデッカいウジ虫の姿で「氏素性の知れぬウジ虫のワタシが宇治金時を食べても良いのかウジ」と常にウジウジしているルリム・シャイコースを呼ぶぞ!』
対決が……。
「なんだか、どうでも良くなっちゃった」と美代。
「どちらもダメ神ばっかりだな」と鈴木。
「率いているのが、アマテラス様とクトゥルフですからね……」と田中。
結局、アマテラスとクトゥルフは1対1の戦いを続けた。
『アマテラスよ、覚悟せよ。呪いビーム!』
クトゥルフが6つの眼からビームを発射する。
『なんの! サンシャイン・バリアー』
アマテラスがバリアーを張って、ビームをはね返す。
『ヌヌ、手強い。さすが日本神話の最高神だ』
『其方も、なかなかやるな。クトゥルフ神話の代表神だけのことはある』
「分かり合ってきているみたい」と美代。
「退屈だ」と鈴木。
「プロ野球の、リーグ優勝が決まった後の消化試合を観ている気分です」と田中。
『お前ら、少しは妾を応援せい! ……まぁ、良い。そろそろ決めるぞ。クトゥルフよ、喰らえ! 太陽光線3連発じゃ! 紫外線ビーム! 可視光線ビーム! 赤外線ビーム!』
アマテラスがクトゥルフへ向けて掌を翳すと、そこからビームが3連続で飛び出した。
『ヌオオオオ! なんという威力のビームだ。干からびてしまう~』
『干からびてしまえ~。干しダコになってしまえ~』
『グゥゥゥ。このままでは、タコ飯の材料にされる~』
ビーム3発の直撃を受け、クトゥルフはとうとう逃げ出した。
♢
※注1 神殿の中でクトゥルフは基本的に眠っているため、外部との年賀状のやり取りなどはダゴン(クトゥルフに仕える神・深きものどものリーダー)が代わりにやってます。
※注2 アマテラスが名前を挙げた神々の正式神名
スサノオ――須佐之男命(アマテラスの弟)
ツクヨミ――月読命(アマテラスの弟)
イザナミ――伊邪那美命(アマテラスの母)
イザナギ――伊邪那岐命(アマテラスの父)
ワカヒコ――天若日子(アマテラスが出雲へ派遣した使者・イケメン)
ニニギ――邇邇芸命(アマテラスの孫・但しアマテラスは処女神)
※注3 大黒天――福の神。七福神の1柱。常時米俵に乗り、打ち出の小槌と福袋を携帯している。そのため、貧乏な神から借金の申し込みが殺到。本来の〝福の神業務〟に支障を来すほどになり、困っているらしい。ちなみに借金取り立ての際の大黒天の笑顔は「暗黒微笑」として神々から怖れられている。
神様もイロイロと大変……。
※注4 本作に登場するアマテラスは『黒猫ツバキと魔女コンデッサ』に出てくるアマテラスと同一キャラという設定になっています。
次回のタイトルは――「逃亡のクトゥルフ! 凧揚げのタコとなり、飛翔す。邪神なんだから昇天せずに、ちゃんと堕落しろ」……嘘です、スミマセン。最終回です。宜しくお願いいたします。
巫女服の少女が胸を張って叫ぶ。
『信者の危機に颯爽と参上。とびきり美しくて賢くて優しい人気者……妾は、眩いほどに偉大なり! さすがは、日本神話の最高神!』
田中が恐る恐る少女へ尋ねる。
「あの~、貴方は神様なのですか?」
『うむ、妾はアマテラスじゃ。太陽神にして最高神なのじゃ。あがめ奉っても良いのじゃぞ?』
これはまた、ビッグネームが現れたものだ。
実は美代の神社のご祭神は、天照大神だったのである。
「アマテラス様。来てくださったんですね」
『おお。其方は、妾の神社の巫女である美代ではないか。如何したのじゃ?』
「邪神に呪いを掛けられてしまったのです」
『邪神じゃと?』
そこで初めて、アマテラスとクトゥルフの目が合った。太陽VSタコ。
『お前はクトゥルフ! 妾の愛する日の本の地で、何をしておる?』
『フッフッフ。寿司を握っている』
『は? 寿司じゃと?』
クトゥルフの返答に混乱するアマテラス。
「アマテラス様は、クトゥルフと知り合いなんだな」と鈴木。
『一応、彼奴も神じゃからな。はるか昔に会ったことがあるし、今でも年賀状のやり取りくらいはしておる』
「年賀状……」
微妙な表情になる、鈴木。
田中は、アマテラスに頼み込む。
「アマテラス様! そんなことより、美代ちゃんを助けてください!」
『う、うむ。なんだかよく分からんが、分かった。クトゥルフの呪いを受けたのじゃな? それならば……』
アマテラスがパンッと両の掌を打ち合わせると、空中に小さな箱が出現した。中に、ピンポン球のような物体が6つ入っている。
「アマテラス様。それは?」
鈴木が尋ねる。
『クトゥルフの呪いを解く秘薬じゃ』
「ホカホカと湯気が立ってますね」と田中。
『熱々じゃぞ』
アマテラスは秘薬の1つに、プスッと爪楊枝を突き刺した。そのまま美代の口元に持ってくる。
『さぁ、美代。食べるが良い』
「あ、あの、アマテラス様。なんだか凄く熱そうなんですけど」
美代が、怯む。
『そこは我慢するのじゃ。熱ければ熱いほど、薬としての効果も高くなるのじゃから』
「でも……」
『美代、女は度胸じゃぞ』
アマテラスはそう言うと、美代の口の中に丸い薬を放り込んだ。
「きゃ~! 熱い~!」
『呑み込め~』
ゴックン。アワアワしつつ、美代は何とか秘薬を呑み込んだ。途端に、彼女の身体が光り始める。そして光が収まるや、美代の身体を覆っていた赤と黒の靄はキレイに消え去っていた。
「ヤッタ~! 美代ちゃん。呪いが解けたんだね」
「良かったな、山本」
「ええ。アマテラス様のおかげよ。田中くん、鈴木くん、つまらないことで妬んじゃったりしてゴメンナサイ」
美代が、2人に頭を下げる。
「良いってことよ。気にするな」
「……私ってば、何を悩んでいたのかしら。ねぇ、鈴木くん、田中くん。私だって大人になったら、ワサビ入りのお寿司を食べられるようになるわよね?」
「そうだよ、美代ちゃん」
「イヤ。高校生でワサビが食えないんだったら、おそらくズッとこのまま……」
「シッ! 鈴木くん、余計なことを言わない!」
「スマン」
『うむ。ハートに刻まれていた、忌まわしい✖マークも無くなったようじゃな』
美代の回復を確認し終わると、アマテラスは鈴木たちに問いただした。
『それでクトゥルフのヤツ、どうしてこの町に来て寿司屋をやっとるんじゃ?』
「それなんですよ。聞いてください、アマテラス様」
田中がアマテラスへ訴える。
「クトゥルフは、町の住民を自らの眷属――インスマスに変えようと企んでいるのです」
『何じゃと?』
『これは正当な復讐である』
クトゥルフは傲慢にも言い放ち、それを聞いた鈴木は腹を立てた。
「ふざけんな! 勝手にタコ壺に入ったお前の自業自得だろ」
『クトゥルフよ、海底にある自分の神殿へ帰れ』
『それは、出来ん』
『どうしてじゃ? そんなに復讐がしたいのか?』
『それもあるが、寿司屋を開く際に、資金を大黒天より借りているのだ。寿司をたくさん売って、投資した分を回収しなくては』
『大黒天……か。彼奴は、金銀小判がザックザク! ……の打ち出の小槌を持っておるからな~』
アマテラス、ちょっぴり羨ましそう。
かたや、鈴木と美代はクトゥルフの情けない告白を耳にし、思わず顔を見合わせてしまった。
「借金経営だったのか……」
「1ヶ月でお客が実質、田中くん1人なんだから、借金返済は無理なんじゃないのかな?」
『それは困る!』
クトゥルフが大声を出す。
『大黒天からは、海底神殿を担保として金を借りたのだ。返さなかったら、神殿が借金のカタとして差し押さえられてしまう!』
邪神が直面する苦難! しかし、太陽神は無情だった。
『そんなの、妾の知ったことでは無いの。宿無しとなったら、それこそ、タコ壺の中で暮らせばよかろう?』
『ヌヌヌ。おのれ、アマテラス。なんという、邪悪な物言い』
『邪悪な神なのは、お主じゃろ。出て行け~、出て行け~。この町から、出て行け~。タコは赤字で真っ赤になって、出て行け~』
『グヌヌヌヌ』
アマテラスとクトゥルフは睨み合い……両者の緊張は、ついに臨界点を超えた!
『ウオ~』
『わ~』
クトゥルフが触手をぶんぶん振りつつ突進すると、アマテラスも両手をグルグル回して反撃する。
ここに荘厳にして凄絶な神同士の戦いが始まった! ……回転寿司屋の中で。
『イテイテイテ』
クトゥルフが悲鳴を上げる。ポカポカポカと、一方的にアマテラスが殴りつけているためだ。
鈴木と田中は疑問を覚える。
「クトゥルフの野郎、全然攻撃をしかけないな……何でだ?」
「どうしてかな? 相手が女神だから、手加減をしているとか……」
「邪神にそんな殊勝な心がけがあるはず無いだろ」
「訊いてみよう」
田中は、クトゥルフに質問した。
「なんで、アマテラス様に殴られ続けてるの?」
『ウ、ウム……。触手で攻撃しようと思うのだが、どうしても出来ないのだ』
「アマテラス様が女神だから?」
『そうでは無い! 女神はむしろ、触手攻撃における絶好のターゲットだ。しかし……』
「しかし?」と鈴木。
『しかし……触手で攻撃するなら、相手はやはりボン・キュ・ボンのセクシーダイナマイツでなければ……肝心なところがペッタンコでは萎えるのだ。触手が動かないのだ』
クトゥルフの言葉を聞き、鈴木と田中は同時にアマテラスの胸へ目を向けた。そして2人とも深く頷く。
「ああ~、なるほど。色気ゼロのペッタンコを相手にしても食指が動かないので、触手も動かないんだな」
「食指も触手も動かない……なんという、説得力! クトゥルフに共感しちゃうとは……これが眷属になった者の宿業なのかな……」
♢
※注 《食指が動く》の意味……興味・関心を持つ。
《触手が動く》の意味……エッチなことをする。
♢
邪神と少年2人の会話が耳に届いたのだろう。アマテラスが、怒る。
『お前ら、とってもとっても失礼じゃな!』
「そうよ! 鈴木くんも田中くんもクトゥルフも、思い遣りが足りないわ。いくらアマテラス様のお胸がナッシングだからと言って、洗濯板とか、渡り廊下とか、十勝平野とか、モンゴル平原とか、障害無し競争とか、スケートリンクとか、ボウリングのレーンとか、言っちゃダメよ」
『美代、お主が1番失礼じゃぞ』
「別に私、熱々の丸薬を無理矢理に呑まされたことを恨んでなどいませんから」
触手は使えなかったものの、クトゥルフは頭突きをしてきたり、口からピュッピュと黒いスミを吐いたりして、アマテラスに対抗した。
『いい加減、降参しろ。クトゥルフよ』
『アマテラス、そっちこそ』
『良いのか? 妾は仲間の神を呼ぶことにするぞ?』
『だったら、我が輩もそうする』
2柱の神は、恐るべき発言をした。
美代の顔色が青くなる。
「やめてください! アマテラス様も、クトゥルフも。そんなことをされたら、町が潰れてしまいます!」
鈴木と田中も慌てる
「お、おい、ヤバいぞ」
「うん。神々による集団戦とか、この町どころか、日本……いや、地球そのものがメチャクチャになっちゃうかもしれないよ!」
よもや、地球滅亡の危機?
今まさに、八百万の神々と旧支配者たちによる全面対決が……!
アマテラスが言う。
『妾は――――「お母さんに会いたいよ~」といい年こいて泣き喚いたスサノオや、居るのか居ないのかサッパリ分からないツクヨミや、黄泉の国でBL趣味にハマってリアル腐女子になってしまったイザナミや、わざわざ黄泉の国まで会いに行ったのにBL本を読み漁る母上を見てドン引きして逃げ出したイザナギや、ハニートラップに見事に引っ掛かって仕事を放棄したワカヒコや、妊娠した奥さんに「それ、本当に俺の子?」と史上最低の発言をかましたニニギを呼ぶぞ!』
クトゥルフが言う。
『我が輩は――――ヘビーな蛇神で子煩悩なイグや、〝いつまでも眠りっぱなし〟というニートの極致とでも呼ぶべき存在であるシアエガや、《生ける炎》にして火力発電所で時々アルバイトをしているクトゥグアや、地下迷路に住んでいて自分でも出口が分からなくなって迷っているアイホートや、白くてデッカいウジ虫の姿で「氏素性の知れぬウジ虫のワタシが宇治金時を食べても良いのかウジ」と常にウジウジしているルリム・シャイコースを呼ぶぞ!』
対決が……。
「なんだか、どうでも良くなっちゃった」と美代。
「どちらもダメ神ばっかりだな」と鈴木。
「率いているのが、アマテラス様とクトゥルフですからね……」と田中。
結局、アマテラスとクトゥルフは1対1の戦いを続けた。
『アマテラスよ、覚悟せよ。呪いビーム!』
クトゥルフが6つの眼からビームを発射する。
『なんの! サンシャイン・バリアー』
アマテラスがバリアーを張って、ビームをはね返す。
『ヌヌ、手強い。さすが日本神話の最高神だ』
『其方も、なかなかやるな。クトゥルフ神話の代表神だけのことはある』
「分かり合ってきているみたい」と美代。
「退屈だ」と鈴木。
「プロ野球の、リーグ優勝が決まった後の消化試合を観ている気分です」と田中。
『お前ら、少しは妾を応援せい! ……まぁ、良い。そろそろ決めるぞ。クトゥルフよ、喰らえ! 太陽光線3連発じゃ! 紫外線ビーム! 可視光線ビーム! 赤外線ビーム!』
アマテラスがクトゥルフへ向けて掌を翳すと、そこからビームが3連続で飛び出した。
『ヌオオオオ! なんという威力のビームだ。干からびてしまう~』
『干からびてしまえ~。干しダコになってしまえ~』
『グゥゥゥ。このままでは、タコ飯の材料にされる~』
ビーム3発の直撃を受け、クトゥルフはとうとう逃げ出した。
♢
※注1 神殿の中でクトゥルフは基本的に眠っているため、外部との年賀状のやり取りなどはダゴン(クトゥルフに仕える神・深きものどものリーダー)が代わりにやってます。
※注2 アマテラスが名前を挙げた神々の正式神名
スサノオ――須佐之男命(アマテラスの弟)
ツクヨミ――月読命(アマテラスの弟)
イザナミ――伊邪那美命(アマテラスの母)
イザナギ――伊邪那岐命(アマテラスの父)
ワカヒコ――天若日子(アマテラスが出雲へ派遣した使者・イケメン)
ニニギ――邇邇芸命(アマテラスの孫・但しアマテラスは処女神)
※注3 大黒天――福の神。七福神の1柱。常時米俵に乗り、打ち出の小槌と福袋を携帯している。そのため、貧乏な神から借金の申し込みが殺到。本来の〝福の神業務〟に支障を来すほどになり、困っているらしい。ちなみに借金取り立ての際の大黒天の笑顔は「暗黒微笑」として神々から怖れられている。
神様もイロイロと大変……。
※注4 本作に登場するアマテラスは『黒猫ツバキと魔女コンデッサ』に出てくるアマテラスと同一キャラという設定になっています。
次回のタイトルは――「逃亡のクトゥルフ! 凧揚げのタコとなり、飛翔す。邪神なんだから昇天せずに、ちゃんと堕落しろ」……嘘です、スミマセン。最終回です。宜しくお願いいたします。
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