冷宮の人形姫

りーさん

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第一章 虐げられた姫

第53話 側近の苦労

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 カイラードは、鞘に手をかける。

「まさか、皇帝が直接出向くとは……。それに、公爵家の者が二人も来るとはな」

 そうは言っているが、そこまで驚いている様子はない。
 カイラード、レクト、フェレスリードは、カイラードが皇子の頃から戦場を渡り歩いていた。団長である彼とも、その頃からの顔見知りだ。

「そっちこそ、いつになったら立場を理解するのかと思ってたが……ここまで来たんだな」

 レクトが大袈裟に周りを見ながらそう言った。

「アホだからだろう」
「どっちかといえば、バカの方が正しいんじゃないですかね?」
「いや、アホでありバカなんだろうな」
「フェレスが居心地良いとかいうわけですね。あいつそういう場所が好きみたいですし」
「どちらかといえば、私とハリナから離れられるからだろう」
「自覚あるんならこき使うの止めてくれませんか?俺を含めて」
「お前ら以外に使える奴らがいないからな」
「無茶振りに付き合ってくれる奴がいないだけだろ」

 そのまま鞘に手をかけたまま自分から目を離して話し始めた。
 そういえば、戦争でもこんな感じだったような気がする。向こうは余裕綽々で、こちらばかりが苦戦する。普通に雑談でもしながら敵の首を落としていく。そんな者達も決して少なくはない。
 帝国は強い者が多いと同時に、こういう自由な気質を持つ者も多い。自分が興味のある事以外にはまったくと言っていいほど関心を持たない。
 人にやったらどうなるのか知りたいから。そんな理由で戦争に参加する者だっているくらいだ。

 それは分かっている。だからといって、納得できるわけではない。自分が弱い者として認識されている。それは、黒騎士である彼のプライドを傷つけた。
 彼は話している二人に向かって斬りかかる。だが、話しているとはいえ、二人は油断しているわけではなかったので、その剣を受け止める。 

「話している暇があるんだな」
「あぁ、大したことがないからな」

 黒騎士ごときの相手をしている場合ではないと、柄頭で首をついて気絶させた。

「さて、王に会いに行くぞ」
「……意外だな」
「何が?」
「お前なら切り伏せるくらいはすると思ったんだが」

 レクトが今まで戦場で見てきたカイラードは、自分が敵だと認識したら、容赦なく切り捨てる。
 だからこそ、フェレスに冷血漢と呼ばれている。

「使えそうだからな」

 何がとは聞かなかった。レクトとカイラードは、その場に立っていただけの男を見る。
 その男はのんきにあくびをしていた。

「お前は何なんだ?」
「この国に嫌気が差しただけの黒騎士ですが?国王なら引きこもってるから、早く行ってくればいいじゃないですか」

(すげぇなこいつ……)

 レクトは感心よりも、呆れを含んだ目でその男を見た。敵味方問わずに、カイラードは恐れられることが多い。たとえ恐れられなかったとしても、こんな風に生意気な口調をきくものはいないだろう。
 それを、自分の国の王は敬称もつけない、悪態をつく。まるで、フェレスのようだった。

「……お前はどうするんだ?」

 思わずそう聞いてしまった自分は悪くないだろうとレクトは感じる。

「先に行ってしまったフェレスリードでも追いかけますかね」

 そう言って、男は浮遊魔法でフェレスが向かった方角に飛んでいった。

 その様子を見て、レクトは昔フェレスが言っていたことを思い出す。

(そういえば、変な奴に目をつけられたとかぼやいてたような……)

 ある時の戦争で、珍しくフェレスがやつれて戻ってきたときがあった。フェレスは、身体強化で、ある程度は前衛でも戦えるが、ほとんど後衛だ。そして、フェレスほどの魔力なら魔力切れだって滅多なことじゃ起こらない。
 それなのに、やつれていたので、レクトは訳をたずねた。

『な~んか、変な奴に目をつけられたみたいでさ~。勝負勝負ってうるさいんだよね~。一回くらいなら別にいいかって思ったんだけど、10回もやる事になって、面倒くさいから気絶させてきた』

 そんなことをぐちぐちと言ってきた。お酒がこの場にあれば、間違いなく飲んでいただろう。

 レクトは、無意識に彼が飛んでいった方を見る。

「……奴は使えそうだな」

 カイラードが、城の中に入る前にそう言ったのを、レクトは聞き逃さなかった。

「フェレスが俺に八つ当たりしてきそうなんですけど……」

 フェレスは、変なところで小心者のような気質がある。普段はあんなに生意気な口調をきいているのに、自分の要望を押しつけるような勇気までは持ち合わせていない。
 なので、不満などは全部レクトに流れてくる。
 彼とは5歳からの付き合いではあるが、まったくと言っていいほど性格が変わっていない。

「……?なんであいつがお前に当たるんだ?やるならハリナにやるだろう」

(あっ、そっちのパターンもあったか……)

 自分は5歳の頃からの知り合いだが、ハリナ彼女とも10歳の頃からの知り合いだと聞いている。一時期会わなくなったらしいが、城で再開してからは、よく絡んでいるのを見かける。
 どう見ても姉弟ゲンカにしか見えないが。

「カイルは知らないから言えるんだ。多分、あいつだぞ。フェレスが言っていた目をつけられたやつって」
「それなら、一緒に城にいれるか」
「私の話聞いてましたか?」

 レクトは、わざと敬語でたずねる。

「一緒にいた方が面白そうじゃないか。ずっとサボってこちらに仕事を押しつけた腹いせでもあるが」

 カイルの行くぞという声につれられて、レクトも城内に入る。
 レクトは、今ごろ鎮圧しているであろうフェレスに同情した。
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