8 / 22
幼少期
8 婚約者とお茶会(セルネス視点)
しおりを挟む
お茶会が終わり、セルネスは自分の部屋に戻るために、王宮の長い廊下を歩いている。
(やはり、彼女はおもしろい)
先ほどのお茶会の出来事を思い出すと、笑みが溢れてくる。
一体、どのような育て方をすれば、あんな純粋に育つのか、セルネスにはわからなかった。
あんな純粋では、貴族社会を生き残ってはいけない。今まで生き残っていけたのは、アドリアンネの話すことができないというアドバンテージがあったからだ。
話すことができなければ、会話には時間がかかってしまい、そもそもワーズソウルは、家格も低い伯爵家。話す価値もないと判断されていたに違いない。
だが、今は第二王子の婚約者という肩書きができてしまっているため、今までのようにはいかなくなる。
腹の探り合いや、同じく王子の婚約者の座。虎視眈々と狙う令嬢からのやっかみにも、笑顔で楽々と対応できるようにならなければならない。
それができるのかどうか。
それを見るためのお茶会だった。
(あの様子では無理そうな気がしてきたな……)
セルネスは、お茶会のことを思い返す。
完全にこちら側の手違いにより、迎えもろくに寄越せずに始まってしまったお茶会だったが、失敗には終わらなかっただろう。成功とも言えない、微妙なところではあったが。
そして、いろいろと言葉を吹っ掛けてみたが、アドリアンネが良い対応を示したことはなかった。
セルネスが、彼女のことを優しいと褒めれば、即座にそんなことはないと否定してくる。
褒め言葉は、たとえお世辞だと思っていたとしても、素直に受け取らなければ無礼だと思われる。
心の中ではそんなことはないとか、どうせお世辞だと思っていても、笑顔でありがとうと言えなければならない。
もう少しはっきりと伝えるために、魅力的な女性だと言えば、お世辞でも嬉しいと返されてしまった。
セルネスは、思わずそれに、お世辞なんかではないと返してしまった。
(そういえば、僕はなんであんなことを言ったんだ?)
アドリアンネが魅力的な女性と思っているのは否定しない。
セルネスを楽しませてくれる彼女のことは、セルネスは好意的に思っていた。
でも、それだけのはずだ。わざわざ、お世辞じゃないと否定するようなことだったのか、セルネスにはわからなかった。
(無意識に、お世辞だと思われたくなかったのか?)
もしそうだとして、なぜそんな風に無意識でも思ったのか、セルネスには検討もつかない。
「お前は、また廊下で百面相しているのか」
そんな、王子であるセルネスには無礼ともとれる言い方で話しかけてきたのは、セルネスの兄であるクーファだった。
「兄上、どうしてこちらに?兄上は、西の庭園だったのでは?」
偶然か必然か、アドリアンネが指定してきた日時は、クーファと婚約者であるミレージュとの交流と被っていた。
ミレージュは、令嬢に対して、気性の荒いところがあるので、鉢合わせなどが起こらないように、ちょうど反対側の西の庭園にて茶会をしているはずだった。
「早めに切り上げたから、もう終わっている」
「ずいぶんとミレージュ嬢の扱いがひどいようで」
以前に、婚約者を物扱いするなと言われたのを少し根に持っていたセルネスは、ここぞとばかりに攻撃する。
クーファは、それに顔を歪めるようなことをせずに、「……そうだな」とボソッと呟いた。
「彼女は、とにかく自分のことを話すのが好きなようで、話題が尽きないのかと思うくらいに、毎回かなりの量を話してくる。私は、生誕パーティーの話をしたかったのだが、そんなことをする暇もなかった。それで、ドレスだけは送るという旨のみを伝えてお帰りいただいただけだ」
「ずいぶんと失礼な対応では?相手はサウスティールのご令嬢ですよ?」
サウスティールは、第二の王家とも言われるほどの家柄の公爵家。
こう言っては失礼だが、セルネスの婚約者であるアドリアンネの家のワーズソウルとは比べ物にならないくらいの家格である。
そんなワーズソウル家の令嬢にも物扱いするなとか、失礼な言動を咎めるような発言をしていたのに、自分はワーズソウルよりも数段は格上のサウスティールにやっている。
その矛盾をセルネスはつついた。
子どものようだが、セルネスはどんな小さなことでも、自分を苛立たせたら、やり返さなければ気が済まない質であった。
「自分のことを話すだけならまだいいのだが、それと同時に、他の令嬢を貶す言動も多くてな。聞いていて気持ちの良いものではない。あれでは、婚約を考え直す可能性も出てくるだろう」
「ですが、彼女以上にふさわしい婚約者は簡単には見つかりませんよ?特に、彼女に屈しないというところが」
少し小馬鹿にしたようにセルネスがそう言うと、クーファははぁとため息をつく。
「……本当に良い性格をしているな、お前は」
「ありがとうございます。兄上」
「まったく褒めてない」
蔑むような視線を向けてくるクーファに、セルネスは達観したような視線を向ける。
(昔は兄上をからかうのがおもしろかったけど、やっぱり今はアドリアンネ嬢かな)
おそらくは一ヶ月後の生誕パーティーのときになるだろうが、それがセルネスには長く感じていた。
(やはり、彼女はおもしろい)
先ほどのお茶会の出来事を思い出すと、笑みが溢れてくる。
一体、どのような育て方をすれば、あんな純粋に育つのか、セルネスにはわからなかった。
あんな純粋では、貴族社会を生き残ってはいけない。今まで生き残っていけたのは、アドリアンネの話すことができないというアドバンテージがあったからだ。
話すことができなければ、会話には時間がかかってしまい、そもそもワーズソウルは、家格も低い伯爵家。話す価値もないと判断されていたに違いない。
だが、今は第二王子の婚約者という肩書きができてしまっているため、今までのようにはいかなくなる。
腹の探り合いや、同じく王子の婚約者の座。虎視眈々と狙う令嬢からのやっかみにも、笑顔で楽々と対応できるようにならなければならない。
それができるのかどうか。
それを見るためのお茶会だった。
(あの様子では無理そうな気がしてきたな……)
セルネスは、お茶会のことを思い返す。
完全にこちら側の手違いにより、迎えもろくに寄越せずに始まってしまったお茶会だったが、失敗には終わらなかっただろう。成功とも言えない、微妙なところではあったが。
そして、いろいろと言葉を吹っ掛けてみたが、アドリアンネが良い対応を示したことはなかった。
セルネスが、彼女のことを優しいと褒めれば、即座にそんなことはないと否定してくる。
褒め言葉は、たとえお世辞だと思っていたとしても、素直に受け取らなければ無礼だと思われる。
心の中ではそんなことはないとか、どうせお世辞だと思っていても、笑顔でありがとうと言えなければならない。
もう少しはっきりと伝えるために、魅力的な女性だと言えば、お世辞でも嬉しいと返されてしまった。
セルネスは、思わずそれに、お世辞なんかではないと返してしまった。
(そういえば、僕はなんであんなことを言ったんだ?)
アドリアンネが魅力的な女性と思っているのは否定しない。
セルネスを楽しませてくれる彼女のことは、セルネスは好意的に思っていた。
でも、それだけのはずだ。わざわざ、お世辞じゃないと否定するようなことだったのか、セルネスにはわからなかった。
(無意識に、お世辞だと思われたくなかったのか?)
もしそうだとして、なぜそんな風に無意識でも思ったのか、セルネスには検討もつかない。
「お前は、また廊下で百面相しているのか」
そんな、王子であるセルネスには無礼ともとれる言い方で話しかけてきたのは、セルネスの兄であるクーファだった。
「兄上、どうしてこちらに?兄上は、西の庭園だったのでは?」
偶然か必然か、アドリアンネが指定してきた日時は、クーファと婚約者であるミレージュとの交流と被っていた。
ミレージュは、令嬢に対して、気性の荒いところがあるので、鉢合わせなどが起こらないように、ちょうど反対側の西の庭園にて茶会をしているはずだった。
「早めに切り上げたから、もう終わっている」
「ずいぶんとミレージュ嬢の扱いがひどいようで」
以前に、婚約者を物扱いするなと言われたのを少し根に持っていたセルネスは、ここぞとばかりに攻撃する。
クーファは、それに顔を歪めるようなことをせずに、「……そうだな」とボソッと呟いた。
「彼女は、とにかく自分のことを話すのが好きなようで、話題が尽きないのかと思うくらいに、毎回かなりの量を話してくる。私は、生誕パーティーの話をしたかったのだが、そんなことをする暇もなかった。それで、ドレスだけは送るという旨のみを伝えてお帰りいただいただけだ」
「ずいぶんと失礼な対応では?相手はサウスティールのご令嬢ですよ?」
サウスティールは、第二の王家とも言われるほどの家柄の公爵家。
こう言っては失礼だが、セルネスの婚約者であるアドリアンネの家のワーズソウルとは比べ物にならないくらいの家格である。
そんなワーズソウル家の令嬢にも物扱いするなとか、失礼な言動を咎めるような発言をしていたのに、自分はワーズソウルよりも数段は格上のサウスティールにやっている。
その矛盾をセルネスはつついた。
子どものようだが、セルネスはどんな小さなことでも、自分を苛立たせたら、やり返さなければ気が済まない質であった。
「自分のことを話すだけならまだいいのだが、それと同時に、他の令嬢を貶す言動も多くてな。聞いていて気持ちの良いものではない。あれでは、婚約を考え直す可能性も出てくるだろう」
「ですが、彼女以上にふさわしい婚約者は簡単には見つかりませんよ?特に、彼女に屈しないというところが」
少し小馬鹿にしたようにセルネスがそう言うと、クーファははぁとため息をつく。
「……本当に良い性格をしているな、お前は」
「ありがとうございます。兄上」
「まったく褒めてない」
蔑むような視線を向けてくるクーファに、セルネスは達観したような視線を向ける。
(昔は兄上をからかうのがおもしろかったけど、やっぱり今はアドリアンネ嬢かな)
おそらくは一ヶ月後の生誕パーティーのときになるだろうが、それがセルネスには長く感じていた。
5
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
聖女の座を追われた私は田舎で畑を耕すつもりが、辺境伯様に「君は畑担当ね」と強引に任命されました
さら
恋愛
王都で“聖女”として人々を癒やし続けてきたリーネ。だが「加護が弱まった」と政争の口実にされ、無慈悲に追放されてしまう。行き場を失った彼女が選んだのは、幼い頃からの夢――のんびり畑を耕す暮らしだった。
ところが辺境の村にたどり着いた途端、無骨で豪胆な領主・辺境伯に「君は畑担当だ」と強引に任命されてしまう。荒れ果てた土地、困窮する領民たち、そして王都から伸びる陰謀の影。追放されたはずの聖女は、鍬を握り、祈りを土に注ぐことで再び人々に希望を芽吹かせていく。
「畑担当の聖女さま」と呼ばれながら笑顔を取り戻していくリーネ。そして彼女を真っ直ぐに支える辺境伯との距離も、少しずつ近づいて……?
畑から始まるスローライフと、不器用な辺境伯との恋。追放された聖女が見つけた本当の居場所は、王都の玉座ではなく、土と緑と温かな人々に囲まれた辺境の畑だった――。
【完結】捨てた女が高嶺の花になっていた〜『ジュエリーな君と甘い恋』の真実〜
ジュレヌク
恋愛
スファレライトは、婚約者を捨てた。
自分と結婚させる為に産み落とされた彼女は、全てにおいて彼より優秀だったからだ。
しかし、その後、彼女が、隣国の王太子妃になったと聞き、正に『高嶺の花』となってしまったのだと知る。
しかし、この物語の真相は、もっと別のところにあった。
それを彼が知ることは、一生ないだろう。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる