これが『契約』だとおっしゃったのはあなたです!~貧乏令嬢は、夫の愛は望まない~

りーさん

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1 結婚の申し込み

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「フィーお嬢様!旦那様が呼んでるから、ちょっとこっちに来てくださ~い!」
「はーい!」

 名前を呼ばれたので、私はダッシュでそちらの方に向かう。
 私はフィリス・アリジェント・ユールフェース。ユールフェース男爵家の長女だ。下には、妹が一人。弟が二人いる。
 ユールフェース男爵家は、アリジェント王家の血を引いているために、貴族の土台にギリギリしがみついている、名ばかりの貴族である。
 王家の血筋なら、公爵家になるんじゃないのと思うだろうが、そうはならない。なぜなら、アリジェント王家は、この国の王家ではない。隣国の、今は敵対関係にある王国だ。ユールフェース男爵家になっているのは、私たちがアリジェント王国に寝返らないために、この国の貴族としている。平民ならば、隣国に向かったところで、そこまでの重罪にはならないが、貴族なら話は別だ。
 さすがに、貴族が隣国に寝返るのは問題がある。当たり前っちゃ当たり前なんだけどね。
 まぁ、そんなわけで、私たちは血筋だけは立派な名ばかりの貧乏貴族というわけだ。使用人も、一人だけ。それも、使用人というよりはお手伝いさんみたいな感じだ。
 だから、呼ばれたのも、なんか手伝ってほしいこととかがあるのかな~と気楽に考えていたのだけど、この後の言葉に、私は衝撃を受けることになる。

「アルスフェイス公爵家から、結婚の縁談が来ている」
「……は?」

 私は、思わず低い声でそれだけ呟いてしまった。
 これが理解できないのは、私だけなのだろうか。いや、縁談はわかりますよ?私も貴族の端くれ。王家の血を引いてはいるのだから、縁談が来てもおかしくはないというか、男爵家で王家の血筋なんて、血筋や身分にこだわる人なら最高でしょうよ。だから、政略結婚は別にいいんですよ。でも、まさかの公爵家からの縁談ってなんぞや?って話だ。
 アルスフェイス公爵家は、四大公爵家と呼ばれる公爵家の一つで、最も王家に近いと言われている公爵家であり、代々王家には忠誠を誓っている。当主は魔法騎士団長。いわゆる、優良物件というやつだ。それが、な~んで血筋だけは立派な名ばかりの貧乏貴族に縁談を持ち込むの?という疑問が浮かぶのは当然のこと。
 もしかしたら、娘をからかうための嘘だったりして……?

「お父様……フリーライデーはもう終わったんですよ……?」

 フリーライデーとは、嘘をついてもいい日という、よくわからない日のことだ。ちなみに、一週間前のことである。
 
「いや、冗談でもなんでもない」
「じゃあ、昼間っからお酒を飲んでるのね!?そうじゃなかったら、お父様がこんな変なことを言うはずがないわ!」

 どうしても信用ができない私は、次の考えを言葉にした。

「失礼な!本当のことだと言っているだろうが!」
「そんな……。それなら、明日は大雪だわ……」

 公爵家からの結婚の縁談。それは、天地がひっくり返るくらいの衝撃だ。お父様が頭をぶつけたとか、そんなのでもなければ、この世の終わりなのかもしれない。それか、公爵様の気が狂ってしまったのか……。
 いや、これはさすがに失礼だな。聞かれていたら、不敬罪とかで罰せられてもおかしくない。言葉には気をつけなければ……って、そんなことを心配している場合ではない!まずは縁談のことよ!

「とにかく、大雪が降ろうが、公爵閣下はもう来ておられる。応接室に通してあるから、話は聞いてきなさい。嫌なら、断ってくれてもかまわない」
「承知しました~……」

 私は、嫌々ながらも、応接室に向かった。

 応接室のドアを開けて、私は中の存在に挨拶をした。

「お待たせしました。フィリス・アリジェント・ユールフェースと申します」

 私は貴族の令嬢の挨拶であるカーテシーをする。貧乏貴族でも、必要最低限の教養は持っている。

「いえ、押しかけるように来てしまったのはこちらですから」

 ニコニコと笑いながら、こちらを気にかけるような発言をする。でも、私の血筋を狙って縁談を申し込んできた貴族を見てきた私にはわかる。あれは、表向きの笑みだ。
 まぁ、公爵ならこれくらいはすぐにできるわよね。

「私は、マルクス・ファリシア・アルスフェイスと申します。ユールフェース男爵からお聞きしているとは思いますが、あなたに結婚を申し込みに来ました」
「私に申し込む理由はなんですの?私に流れるアリジェント王家の血筋でしょうか」

 というか、それくらいしか本当に思いつかない。
 私の予想に、公爵様は頷く。

「ええ。陛下は、アリジェントの血筋である、ユールフェース男爵家を警戒しておられます。男爵の娘であるあなたが、他国に嫁がれることを懸念されておられるのです」
「わたくしには、妹もおりますわ。わたくしを警戒するのであれば、妹も警戒するべきだと思うのですが」
「ですので、妹君も、近いうちに王家の血筋を引く婚約者をあてがうそうです。そしてあなたは、私と結婚するようにと陛下の命がくだりました」
「そうですか……」

 王家の血筋というのは、魅力的なところもあれば、それが枷となることもある。
 今回は、枷として働いてしまったようだ。陛下が懸念することもわかる。王家の血を引くということは、本当に末端の末端でも、王位継承権を持つということだから。それが欲しくないという人を探すのが難しいだろう。
 この『アリジェント王家の血を引く娘』を、なるべく自国に取り込もうという考えなのだろうな。

「私が結婚したとすれば、何かやらねばならないことはございますでしょうか?」
「社交に出てもらうことくらいですね。あくまでも、あなたがアルスフェイス公爵夫人となってくれれば、問題はありませんから。子作りも必要ありません」

 う~む……。そんなに厳しい条件ではないな……。社交の場なら、一応は貴族の端くれとして、ちょこちょこ出たことがあるし……

「いわば、これは契約です。こちらの事情で、多少の自由を奪ってしまうことにはなりますから、陛下は、望みがあれば、できうる限り叶えると仰られていますが、何かありますか」

 もうこっちには拒否権なんてないという言い草ね。でも、国王陛下直々のご命令なら、断れば不敬罪に当たる。そして、お願い事を聞いてくれるというのならば、少しくらい望んでもかまわないだろう。

「それなら、領民に何か支援をしていただけないでしょうか。うちは貧乏なもので、いろいろ整備が追いついていなくて……うちには特産品もありませんし、申請もあまり通らないんです」
「わかりました。陛下にお話は通しておきましょう。それでは、向かいましょうか」

 公爵様は立ち上がって、私に手を伸ばしてくる。
 私が「どこに?」と戸惑っていると、公爵様は当然のように言い放つ。

「公爵家ですよ。今から向かうんです」
「……えっ?」

 明日とかじゃないの!?えっ?今日なの!?公爵家との結婚って、こんなものなの?ダメだ、理解が追いつかない。

「……どうしても無理だと仰るのであれば、明日でもかまいませんが」
「……明日でお願いします……」

 こっちにも、準備というものはあるのだ。

「わかりました。それでは、明日の9時に迎えに参ります」
「は、はい……お待ちしております?」

 まだ混乱の最中にあった私は、なぜか疑問系で返してしまった。それに、公爵様はきょとんとしていたが、すぐに了承して、去っていた。
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