これが『契約』だとおっしゃったのはあなたです!~貧乏令嬢は、夫の愛は望まない~

りーさん

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 私は、安全確認も兼ねて、ジルとメイのところに戻る。二人は、すっかり熟睡しているようで、気持ち良さそうに寝息をたてていた。
 私が狙われたとしたら、姉思いのこの二人は悲しむだろう。……うん。悲しむだけのはずだ。
 どちらにしろ、この子たちのこんな幸せそうな顔を曇らせるわけにはいかない。
 もう、隣国に突撃でもかましたほうがいいのではないかと思い始めた。もちろん、命が危ないし、向こうにはお兄様がいるから、全力阻止されるだろう。
 ……いや、お兄様が今回のことを知ったらいろんな意味でヤバイかもしれない。
 公爵家にアリジェント帝国が襲撃をしたくらいの情報なら大丈夫かもしれないけど、ジルやメイの名前が出たら。お兄様もバカじゃない。私が関わっていることには簡単にたどり着ける。
 そうでなければ、公爵様とジルたちが関わることなんてないのだから。
 そして、私がここの公爵家にいるということは……だ。最悪な状況が頭を巡る。それは、国境の砦が帝国ではなく、公爵様の血で染まってしまうという想像。
 ……いや、きっと大丈夫だ。公爵様にはお兄様の危険性は知らせてあるし、魔法騎士団長をしている公爵様がそう簡単にやられるとは思えない。
 だから、それよりも今回手引きをした人たちのことだ。私がここにいると知っていたのなら、身内の人間に違いない。
 そうでなければ、わざわざジルとメイの後はつけない。正確には、ジルとメイが乗っている馬車の後は。だって、うちは貧乏だから、馬車なんて持っていない。
 なので、買い物に行くときは乗り合いの馬車を使うか、レンタルしている。
 つまりは、迎えに来てもらわなければ、馬車でここに来ることは不可能だ。私たちの家のお金で借りられる馬車なんてたかが知れているしね……。そんな馬車でここに来させるわけにもいかないし。公爵様はお気になされないかもしれないけど、周りはそうとは限らないから。
 もしかしたら、たまたま私を狙いに来ていて、馬車に二人が乗り込むところを見て、後をつけてきたという可能性もないことはないだろうけど、限りなく低いだろう。
 お兄様にも……言うべきなのだろうか。
 私が狙われたとなれば、国境にいるのだ。私を狙うよりも、帝国を滅ぼすことを選ぶかもしれない。そうなると、帝国との間に禍根を残すだけだ。それは、おそらく陛下も望んではおられない。
 普通なら言うべきなのだろうけど、予測できる行動が行動なために、少しためらってしまう。
 私がう~んと悩んでいると、ドアをノックする音が小さく鳴る。
 私が「どうぞ」と許可を出すと、入ってきたのはシアンだった。

「奥様。少々よろしいでしょうか」
「ええ。かまわないわ」

 私は、シアンのほうに歩いていく。用件を言わないということは、ここでは話せない内容なのだろう。
 私がシアンと部屋を出ていき、廊下を歩いていく。しばらくは見覚えのある景色だけが広がっていたが、だんだんと見覚えのない場所に来た。
 ここは、案内されなかった場所だ。そもそも視界にも入っていなかったから気にならなかったけど、初めて来る場所となると、とたんに緊張が走るのだから不思議なものだ。

「こちらへ」

 シアンに一室に案内されて、中に入る。部屋に入った瞬間、違和感を感じた。ドアは開いているのに、閉塞感を感じて、なんかむずむずする。
 これは……ここに来てから、感じていなかった感覚だ。

「ここ……防音の結界があるのね」
「会話を聞かれるわけにはまいりませんからね。それにしても、よくお気づきで」
「これくらいの結界は、レンディアお兄様が家に張っていたから、久しぶりな感覚がして気づいただけよ」
「そうでしたか」

 結構すごいことを言ったと思うけど、シアンの表情はピクリとも変わらなかった。
 できる執事は違うというやつだろうか。

「それで、わざわざ防音の結界がある場所まで来たということは、何か重要な話があるのかしら」
「はい。少し手を回しまして、調べたのですが……侍女長は黒ですね」
「それは、私が来たから?それとも、前から?」
「それはなんとも言えませんが……前からだと思われます。奥様のこともそうですが、旦那様の情報も欲しいでしょうからね」

 確かに、公爵様は隣国も一目置かざるを得ないほどの実力者。
 なぜなら、あのお兄様と唯一やりあえると言われているそうだから。あくまでも、お兄様が尋問していたときに聞いたことらしいので、絶対にそんな話が広まっているとは言いきれないけど。

「では、旦那様に近づいていたのはそれが理由なのかしら?」
「あくまでも、私の勝手な私見なのですが、おそらくは、旦那様に相手されなかった腹いせにおこなったのではないかと……」

 なんて単純な。
 私は、思わずそう言ってしまいそうだった。

「それでは、その侍女長はクビよね。帝国と繋がっているのだから」
「ええ。証拠もあるので逃げられないでしょう。本当は奥様が来る前に調べておくべきだったのですが……」
「いえ、まさか自国の貴族、それも上級貴族の血縁で公爵様に仕えている人が裏切るなんて誰も思わないわ。仕方のないことよ」

 公爵様がわざとスパイを放置させたという可能性もあるにはあるのだろうけど……。それなら、私に一言くらい言っていそうなものだ。

「今回の件で、公爵様は一度戻ってこられると思います。式は延期になる可能性が高いですね」
「そもそも、やらなくてもいいのではないかしら?」
「いえ、それですと、正式な夫婦とは認められませんので……」
「結婚式はやらなければならないのね。まぁ、わかったわ」

 好きでもない人と結婚式はう~んと思う私がいるけど、貴族というのはそういうものだ。文句も言っていられない。

「それじゃあ、私は公爵様の帰りを待ちましょう」
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