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第一章 森の少女達
第5話 母のよう
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「私達……?」
カオルの言葉にクラウドは疑問を持つ。今この場にいるのは、カオルとクラウド二人だけ。
「私達は、このフードで分かれているんです」
フード?分かれる?
カオルの言っている意味が理解できない。
「どういう意味だい?」
「そのままの意味です……と言っても、分かりませんよね」
カオルはそう言うと、軽く息を吐く。
「精霊が見える理由は分かりません。ですが、心当たりならあります」
「それは一体……」
「私の母は、聖女と呼ばれていました」
カオルの言葉に、クラウドは驚きを隠せない。それは当然の事。
聖女は、世界でたった一人しか存在しない。強力な癒しの力を持ち、清く美しい心を持つ女性。そんな高貴な人の娘という少女が目の前にいるのだから。
「……それを、私に言っても良かったのかい?」
聖女の娘と言うだけで、色眼鏡で見る者は大勢いる。もちろん、クラウド自身はカオルを利用しようだなんて思っていない。だが、彼女にとって、自分の事を利用しないという根拠はないはずだ。
「クラウド様は、私に一人で謝りに来てくださいました。それも、精霊の許しを得てまで。私は、あなたを信用します」
カオルは、クラウドにニコッと笑いかける。それを見たクラウドは、思わず頬を染めてしまう。
聖女の美貌をそっくり写したカオルは絵に描いたような美少女だった。そんな彼女に微笑まれたら、健康的な男性は誰でも頬を染めてしまうだろう。
「そ、そうか……」
クラウドの顔が赤くなっているのを見て、カオルは病気かなんかかと思い、「熱でもあるんですか?」と言って、額に手を当てる。
「少し熱が高いですね……体調が優れないのでしたら──」
「大丈夫だよ」
カオルのせいでこうなったなどと言える訳もなく、クラウドは言葉を濁す。
「それで、続きを聞かせてもらえるかな?」
「は、はい。そして、父親は邪龍でした」
カオルの言葉に、またもやクラウドは驚いた。子が異種族の間に生まれている事にも驚いたが、父親が邪龍だと言う事に、一番驚いている。
邪龍は、たった一匹で世界を滅ぼせる力を持っている。そんな力を引き継いでいるかもしれない存在が目の前にいる。その事実に頭がついていかない。
「聖女と邪龍の間に、君が生まれたという事かい?」
「いえ、生まれたのは私だけではありません」
そう言ってカオルは、フードの左胸にあるイニシャルを二回叩く。すると、フードは勝手に裏返って、黒いフードになり、カオルの体に戻る。その瞬間、きれいな白金色の髪が、みるみる変わっていく。
髪は黒髪に、紫が混じった色合いになり、瞳はアメジストのように輝いており、指の爪は伸びている。
それがカオルではない事は、クラウドにはすぐに分かった。
「君は……?」
「お前に名乗る名は持っていない」
そう冷たく言う少女に、クラウドは少し恐怖する。
顔はあのカオルと同じ顔。なのに、髪と瞳の色だけでなく、口調が違うだけでも、雰囲気は変わる。
カオルが儚げな美少女だとしたら、彼女は高慢な女王のよう。
「君が、カオルの言っていた子なのか?」
「そうだ。カオルは聖女の力を引き継いでいる。私は邪龍の力を引き継いでいる。二人で一つの存在だ。カオルが精霊を見る事が出来るのは、聖女の血を引いているからか、邪龍の血を引いているからか、またはその両方かだろうな」
彼女の言葉に、クラウドは納得する。
聖女は美しい心を持っているので、その娘が精霊に好かれていてもおかしくない。
邪龍は、人間よりも圧倒的に精霊に近い存在。なので、精霊を見る事が出来て、さらに話す事が出来るのもおかしい事ではない。
そう考えて、クラウドは一つの疑問に辿り着く。彼女は、邪龍の力を引き継いでいるのは自分だと言っていた。なのに、邪龍の特徴がカオルに現れるものなんだろうか?
「邪龍の血を引いているからだとして、何でカオルが見る事が出来るんだ?力を引き継いでいるのは君なんだろう?」
クラウドの質問に、呆れながらも彼女は答える。
「“力”を引き継いでいるのは私だけだが、“血”はカオルも引いているからな。その血に精霊は惹かれるんだから、カオルに寄ってきても何もおかしくない」
そんな事も分からないのかと言う目で、彼女はクラウドを見つめる。
そんな彼女の様子を見て、クラウドは口を開く。
「君は、私の事をどう思ってるんだ?」
先程から気になっていた事が、思わず口から出てしまう。話の腰を折ってしまい、ハッとなるも、既に遅い。
「お前に限らず、人間は信用していない。だが、カオルが信用したんなら、質問に答えるくらいはする」
「なぜ、人間を信用しないんだ?」
「……からだ」
良く聞き取れなくて、クラウドは聞き返す。
「両親が、人間に殺されたからだ。それが五年前。お前も貴族だって言うんなら、聞いた事はないのか?聖女はともかく、邪龍が討伐されたって話」
彼女にそう言われて、クラウドは記憶を探る。
(もしかして、あの時の事は本当だったのか?)
思い出すのは、五年前の報道。新聞で、人々に危害を加えていた邪龍が討伐され、国に安寧が訪れたという内容。その片隅に、聖女も亡くなったという内容があった。国を裏切って、邪龍の元についたからだ。
その内容は、あまりにも現実離れしていた事と、当時は誤報が多かったので、クラウドは、読者を増やすための虚偽だと思っていた。
だが、目の前には聖女と邪龍の娘がいる。聖女が邪龍の元にいたのは真実だろう。だが、邪龍は何かしたか?今まで、そんな話は聞いた事がない。
もしかして、適当な理由をでっち上げて、邪龍を討伐したんじゃないか?なら、彼女が人間を嫌うのは、当然の事だ。
「すまない」
「何が?」
「おそらく、不当な理由で討伐されたんだろう?ならば、私達は許されるべきではない。同じ人間がおかしてしまった過ちを代わりに謝らせてくれ」
何度も頭を下げるクラウドを見て、彼女は驚きを隠せない。
自分は全く知らなかったはずなのに、何で謝るんだろうか。そうやって、無関係の人間がやった事なのに、自分の事のように、すぐに謝ったりするのは、まるで、母である聖女のような──
「……だ」
「えっ?」
「名前。リーズヴァルトだ」
リーズは、クラウドの事だけは、少し信用したようだった。
カオルの言葉にクラウドは疑問を持つ。今この場にいるのは、カオルとクラウド二人だけ。
「私達は、このフードで分かれているんです」
フード?分かれる?
カオルの言っている意味が理解できない。
「どういう意味だい?」
「そのままの意味です……と言っても、分かりませんよね」
カオルはそう言うと、軽く息を吐く。
「精霊が見える理由は分かりません。ですが、心当たりならあります」
「それは一体……」
「私の母は、聖女と呼ばれていました」
カオルの言葉に、クラウドは驚きを隠せない。それは当然の事。
聖女は、世界でたった一人しか存在しない。強力な癒しの力を持ち、清く美しい心を持つ女性。そんな高貴な人の娘という少女が目の前にいるのだから。
「……それを、私に言っても良かったのかい?」
聖女の娘と言うだけで、色眼鏡で見る者は大勢いる。もちろん、クラウド自身はカオルを利用しようだなんて思っていない。だが、彼女にとって、自分の事を利用しないという根拠はないはずだ。
「クラウド様は、私に一人で謝りに来てくださいました。それも、精霊の許しを得てまで。私は、あなたを信用します」
カオルは、クラウドにニコッと笑いかける。それを見たクラウドは、思わず頬を染めてしまう。
聖女の美貌をそっくり写したカオルは絵に描いたような美少女だった。そんな彼女に微笑まれたら、健康的な男性は誰でも頬を染めてしまうだろう。
「そ、そうか……」
クラウドの顔が赤くなっているのを見て、カオルは病気かなんかかと思い、「熱でもあるんですか?」と言って、額に手を当てる。
「少し熱が高いですね……体調が優れないのでしたら──」
「大丈夫だよ」
カオルのせいでこうなったなどと言える訳もなく、クラウドは言葉を濁す。
「それで、続きを聞かせてもらえるかな?」
「は、はい。そして、父親は邪龍でした」
カオルの言葉に、またもやクラウドは驚いた。子が異種族の間に生まれている事にも驚いたが、父親が邪龍だと言う事に、一番驚いている。
邪龍は、たった一匹で世界を滅ぼせる力を持っている。そんな力を引き継いでいるかもしれない存在が目の前にいる。その事実に頭がついていかない。
「聖女と邪龍の間に、君が生まれたという事かい?」
「いえ、生まれたのは私だけではありません」
そう言ってカオルは、フードの左胸にあるイニシャルを二回叩く。すると、フードは勝手に裏返って、黒いフードになり、カオルの体に戻る。その瞬間、きれいな白金色の髪が、みるみる変わっていく。
髪は黒髪に、紫が混じった色合いになり、瞳はアメジストのように輝いており、指の爪は伸びている。
それがカオルではない事は、クラウドにはすぐに分かった。
「君は……?」
「お前に名乗る名は持っていない」
そう冷たく言う少女に、クラウドは少し恐怖する。
顔はあのカオルと同じ顔。なのに、髪と瞳の色だけでなく、口調が違うだけでも、雰囲気は変わる。
カオルが儚げな美少女だとしたら、彼女は高慢な女王のよう。
「君が、カオルの言っていた子なのか?」
「そうだ。カオルは聖女の力を引き継いでいる。私は邪龍の力を引き継いでいる。二人で一つの存在だ。カオルが精霊を見る事が出来るのは、聖女の血を引いているからか、邪龍の血を引いているからか、またはその両方かだろうな」
彼女の言葉に、クラウドは納得する。
聖女は美しい心を持っているので、その娘が精霊に好かれていてもおかしくない。
邪龍は、人間よりも圧倒的に精霊に近い存在。なので、精霊を見る事が出来て、さらに話す事が出来るのもおかしい事ではない。
そう考えて、クラウドは一つの疑問に辿り着く。彼女は、邪龍の力を引き継いでいるのは自分だと言っていた。なのに、邪龍の特徴がカオルに現れるものなんだろうか?
「邪龍の血を引いているからだとして、何でカオルが見る事が出来るんだ?力を引き継いでいるのは君なんだろう?」
クラウドの質問に、呆れながらも彼女は答える。
「“力”を引き継いでいるのは私だけだが、“血”はカオルも引いているからな。その血に精霊は惹かれるんだから、カオルに寄ってきても何もおかしくない」
そんな事も分からないのかと言う目で、彼女はクラウドを見つめる。
そんな彼女の様子を見て、クラウドは口を開く。
「君は、私の事をどう思ってるんだ?」
先程から気になっていた事が、思わず口から出てしまう。話の腰を折ってしまい、ハッとなるも、既に遅い。
「お前に限らず、人間は信用していない。だが、カオルが信用したんなら、質問に答えるくらいはする」
「なぜ、人間を信用しないんだ?」
「……からだ」
良く聞き取れなくて、クラウドは聞き返す。
「両親が、人間に殺されたからだ。それが五年前。お前も貴族だって言うんなら、聞いた事はないのか?聖女はともかく、邪龍が討伐されたって話」
彼女にそう言われて、クラウドは記憶を探る。
(もしかして、あの時の事は本当だったのか?)
思い出すのは、五年前の報道。新聞で、人々に危害を加えていた邪龍が討伐され、国に安寧が訪れたという内容。その片隅に、聖女も亡くなったという内容があった。国を裏切って、邪龍の元についたからだ。
その内容は、あまりにも現実離れしていた事と、当時は誤報が多かったので、クラウドは、読者を増やすための虚偽だと思っていた。
だが、目の前には聖女と邪龍の娘がいる。聖女が邪龍の元にいたのは真実だろう。だが、邪龍は何かしたか?今まで、そんな話は聞いた事がない。
もしかして、適当な理由をでっち上げて、邪龍を討伐したんじゃないか?なら、彼女が人間を嫌うのは、当然の事だ。
「すまない」
「何が?」
「おそらく、不当な理由で討伐されたんだろう?ならば、私達は許されるべきではない。同じ人間がおかしてしまった過ちを代わりに謝らせてくれ」
何度も頭を下げるクラウドを見て、彼女は驚きを隠せない。
自分は全く知らなかったはずなのに、何で謝るんだろうか。そうやって、無関係の人間がやった事なのに、自分の事のように、すぐに謝ったりするのは、まるで、母である聖女のような──
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