聖女と邪龍の娘

りーさん

文字の大きさ
37 / 107
第二章 神殿の少女達

第36話 異変

しおりを挟む
「……っ!それは……」
「……すみません、聞いてみただけです」

 さすがにいきなり過ぎたのかもしれない。何で契約の事を知っているのかと聞かれたら答えられないし、なかった事にしよう。

「……なのですか?」
「今何と……?」
「なぜご存じなのか聞いているんです。その事は神殿の一部の人間しか知らない。どこで知ったのですか?」

 ……正直に言っても良いんだろうか。なんとなくだけど、レティア神と会話出来るのは、すごい事ではないだろうか。もし、他の人々が当たり前のようにレティア神の声を聞けるなら、聖女とか、そういう存在はないものだと思う。多分、母様の血を引いているから、レティア神の声を聞ける。

「……ここではお話出来ません」

 ここは人が多すぎる。それに、ここは神殿。レティア神の声が聞けるなんて事を知られたら、本当に聖女と祭り上げられるかもしれない。

「……分かりました。では、部屋に戻りましょう。そこなら構いませんね」
「……」
 
 その言葉には答えられずに、部屋に向かう歩みを速めた。

『お前はバカか?』
『うぅ……!』

 戻っている途中にリーズが話しかけてくる。神殿に来てからは、あまり話す頻度は多くない。もしかしたら、話すだけでも辛いのかもしれない。でも、今回は話しかけてきた。

『そいつにも話す気か?私は賛成しないが』
『それは……私もそうだけど……でも……』

 放っておけない。自分から望んでやっているなら構わないけど、無理やりなら。それに、ナルミス様には白いもやがあった。根が良い人なのは間違いないと思う。

『お前はそう言い出したら聞かないからな。言いたければ言えば良い。私は止めたからな』

 それだけ言うと奥に引っ込んでしまった。

 リーズは、神官に対して当たりが強いように感じる。もしかして、母様がどんな扱いを受けていたのか知っていたのかもしれない。何で私に話さなかったのかは分からないけど、母様から、多少は聞いていたから、必要ないと思ったのかもしれない。

 ちょっと寂しい気もするけど……

 それはそれとして、部屋に着いてしまった。

「今外しますね」と言って、私の手につけられていた枷を外してくれた。

「扉を閉じれば外に音は漏れません。お話していただけますか?」
「……信じていただけるか分かりませんし、それに、誰にも話さない保証はどこにも──」

 なんとか話さないように出来ないかと思いついた言い訳を並べてみる。

「……一理ありますね。分かりました。話さなくても結構です。では、先ほどの事に答えますが、本当に破棄されているなら、あなたを解放するくらいはしますよ」
「……そうなのですか?」

 そんなにあっさりといくものなの?

 そう思った時、私が気を失う直前に見たナルミス様の顔が思い浮かんだ。あの時の悲しそうな顔。あれは、どういう思いから浮かんだものだったのか。それが今、分かった気がする。

「そして、そんな事を聞いたという事は、契約は破棄されているようですね。確かに、いつもよりも縛られているという感覚はないですね」
「そうですか。良かったです」
「……カオル様がやったのですか?」
「いいえ、私ではありません・・・・・・・・

 やったのはレティア神だから。私は頼んだだけ。きっかけが私なのには間違いはないけど、私が破棄させた訳ではない。

「……そうですか。では、レティア神でしょうか?」
「は、はい」
「……あなたは、レティア神と対話が出来るのですか?」
「な、なぜ……そんな事を……?」

 私が何か関わっている事は気づかれるかもしれないけど、レティア神と会話出来るのは、分からないと思うのに。

「鎌かけだったのですが……図星ですか?」
「……」
「お気になさる事はありません。レティア神に気に入られている者や、神官長以上の階級の者達は声を聞く事が出来るそうですから。あなたは気に入られているのかもしれませんね」

 その言葉は否定出来ない。何度も加護を与えようとしてくるし、他の人達と比べたら気に入られているのは間違いないと思う。……もしかしたら、母様の娘という事で気にかけてくれているだけかもしれないけど……

「……そう言えば、あの時司教が言ってた──」

 ナルミス様がそこまで言った時、大きな揺れがあった。

「わぁっ!」

 椅子に座っていたけど、その揺れのせいで、床に転がり落ちてしまった。

「イタタタ……」
「大丈夫ですか、カオル様」
「はい……ナルミス様は?」
「私は大丈夫ですが……様子を見てきた方が良いでしょうね。カオル様は部屋にいてください」
「はい、分かりました」

「では失礼します」と言って、部屋を出ていった。ナルミス様が出ていったのを確認して、怪我をした腕に回復魔法をかけて治療する。

『リーズ、何があったのかな?』
『分からないが、何かあったのは確かだ。あいつの言う事に従うのは癪だが、大人しくしていた方が良い。神殿の奴らが何かしたんだったら、目をつけられるのはまずいからな』
『うん』

 リーズもそう言うなら、大人しくしていよう。

 ルーフェミア様は何ともないかな?この揺れは何だったんだろう?神殿は大丈夫かな?

 色々な不安が押し寄せてくる。しばらくベッドの上に座って待っていると、誰かがこの部屋に入ってきた。

 ナルミス様?それとも、司教様かな?

 でも、その予想は外れて、意外な人物が来た。

「カオルさん、無事ですか?」
「セレスティーナ……様?」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜

あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい! ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット” ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで? 異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。 チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。 「────さてと、今日は何を読もうかな」 これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。 ◆小説家になろう様にて、先行公開中◆ ◆恋愛要素は、ありません◆

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!

にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。 そう、ノエールは転生者だったのだ。 そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。

わたしにしか懐かない龍神の子供(?)を拾いました~可愛いんで育てたいと思います

あきた
ファンタジー
明治大正風味のファンタジー恋愛もの。 化物みたいな能力を持ったせいでいじめられていたキイロは、強引に知らない家へ嫁入りすることに。 所が嫁入り先は火事だし、なんか子供を拾ってしまうしで、友人宅へ一旦避難。 親もいなさそうだし子供は私が育てようかな、どうせすぐに離縁されるだろうし。 そう呑気に考えていたキイロ、ところが嫁ぎ先の夫はキイロが行方不明で発狂寸前。 実は夫になる『薄氷の君』と呼ばれる銀髪の軍人、やんごとなき御家柄のしかも軍でも出世頭。 おまけに超美形。その彼はキイロに夢中。どうやら過去になにかあったようなのだが。 そしてその彼は、怒ったらとんでもない存在になってしまって。 ※タイトルはそのうち変更するかもしれません※ ※お気に入り登録お願いします!※

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

聖女召喚に巻き添え異世界転移~だれもかれもが納得すると思うなよっ!

山田みかん
ファンタジー
「貴方には剣と魔法の異世界へ行ってもらいますぅ~」 ────何言ってんのコイツ? あれ? 私に言ってるんじゃないの? ていうか、ここはどこ? ちょっと待てッ!私はこんなところにいる場合じゃないんだよっ! 推しに会いに行かねばならんのだよ!!

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

処理中です...