聖女と邪龍の娘

りーさん

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第二章 神殿の少女達

第52話 理から外れた存在

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「はぁ……何とか死ななかったわね」

 水晶を覗きながら、ある人物がそう呟いた。その者に、一人近づいてきている者がいる。

「どういうつもりだ、レティア」
「あら、リヴィエルド。あなたが天界ここに来るなんて珍しいですね」

 レティアと呼ばれた者は、今気づいたかのようにリヴィエルドの方を見た。

「取り繕いはいらん。なぜ来たのかは分かっているだろう」
祝福の件・・・・……でしょう?」

 含みがあるような笑みでレティアはそう言った。リヴィエルドはそんなレティアの様子に更に怒りが増していく。

「そうだ。あれを与えるのは人間では聖女のみだろう。そのせいで、カオルが物珍しく見られるんだ」
「分かっているわ。でも、カオルには必要なのよ」
「カオルに聖女になって欲しいとか言うのか」
「……そうね」

 リヴィエルドの言葉に少し考えながらも肯定した。加護を与えたがったのも、深く考えれば、カオルに聖女になって欲しいという考えがあったからだと気づいた。

「別に、人々の象徴となって、自由が奪われろと思っている訳ではないわ。私は、カオルに邪神と交流して欲しいの」
「だから、偶然を装って・・・・・・会わせたな?」
「そうね。でも、魔獣に関しては本当に偶然よ。奴が隠し育ててたみたいね。それ以外は全部意図的なのは認めるわ。でも、守れる存在はちゃんと呼んだじゃない」

 精霊達をカオルの元に呼んだのも、ティレツィアに会わせたのも、何度も揺れを起こして、地面に穴を開けたのも、邪神の扉を開く方法が書いてある祭壇を設置したのも、すべてレティアの仕業だった。

「なぜそんなに交流させたがるんだ」
「いろいろな立場の人と会って欲しいじゃない?」
「それは建前だろう。本音は?」
「……もうすぐ真の厄災が目覚めようとしている。今の時代でそれに対抗出来るのは、カオルしかいないもの」

 真の厄災。それは、レティアが最も警戒しているものだった。それは、リヴィエルドも同じ事だ。

「だから、精霊の声が聞こえる祝福を授けたと?」
「カオルには悪いと思っているわ。でも、今、存在している者で、最も適任だったのがあの子なの」

 レティアも、個人的には祝福を与えようとは考えていなかった。そのせいでカオルが異端に見られるのは嫌だったからだ。だが、レティアは世界を管理する神。自分の私的な事情は後回しにしなければならない。

「こちら都合で自由を奪う事になっているのは分かってるのか」
「それを言うなら、あなたの虹の加護もでしょう」
「あれはただのカモフラージュだ。彼女を人間だと・・・・思わせるためのな」

 カオルは、聖女の娘でもあるが、邪龍の娘でもある。つまり、カオルは完全な人間ではない。彼女が精霊が見えるのは、加護もあるが、父親の血筋なのもある。それを悟られないために、リヴィエルドはカオルに加護を与えていた。

「そうね。違う種族の間に子が生まれるのは滅多にないわ。それも、聖女と邪龍ですもの」
「なぜ生まれたんだ?」

 そうは聞いたものの、リヴィエルドはレティアが関係しているのではないかと疑っていた。そのため、この後返ってきた答えに少し驚いた。

「正直言うとね、分からないわ。本来なら生まれない。生まれたとしても、何の力もない子供のはずよ。“聖”と“邪”が同じ体に存在するなんて……ことわりから外れているわ」

 レティアも分からなかった。なぜカオルとリーズが生まれたのか。そして、二つに分かれたのはなぜなのか。

 本来なら、相反する力を持つ者の間に子が生まれれば、胎児の間にお互いの力を打ち消しあい、何の力もない子供が生まれる。それが常識であり、世界の理でもあった。だが、カオルとリーズはそんな理から外れている。

「『理から外れる』か?そうなったら……」
「そうね。異端・・となるわ。理に縛られないから、どうなるか分からない」

 理から外れる存在は、今まで誕生した事例がない。レティアは、あくまでも理に縛られている存在を認識する。

「一応、カオルと会話は出来るんだろ?」
「ええ。理から外れているはずなのに、会話は出来る。本当によく分からないわ。体に“邪”があるはずなのに、カオルは邪気にあてられる。逆に、リーズは神殿の聖気にあてられる。体が同じでも、完全に別の存在になっているわ」

 カオルとリーズは同じで違う存在になっている。本来なら、体に相反する属性が存在しているので、カオルが邪気にあてられる事も、リーズが聖気にあてられる事もない。

「何か、干渉・・するのか?」
「いいえ。今は出来るだけ見守る事にするわ。何かあったら教えてくれないかしら?」
「……分かった。私は精霊界に戻る」

 リヴィエルドがその場を立ち去るまで、その後ろ姿をずっと見つめていた。

「あの子達は……おとなしくしていてくれるかしらね」
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