聖女と邪龍の娘

りーさん

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第三章 学園の少女達

第89話 真の厄災 1

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「そういえば、父様は?」

 母様に、気になっていたことをたずねる。母様は、父様は生きていると言っていた。それなら、父様もこっちに来ていてもおかしくない。
 母様は少しため息をついて言う。

「ガーノルドは残ってるわよ。邪気で満ちていたここに来れば、力が強くなりすぎて逆に危険だからって」

 そういえば、アルダ様が邪気は邪属性の魔力を持つ人の調子を良くするみたいな事を言っていたような気がする。
 父様にも会いたかったけどなぁ。……あれ?邪気で満ちているのに、全然具合が悪くならないんだけど?いつもなら、すぐに具合が悪くなるのに……。

「……母様。邪気で満ちているのにーー」
「あぁ、私が『聖域サンクチュアリ』を使ったからね。これの効果が切れたらまずいかもね」

 まずいかもねじゃないよね。私が倒れて、また他の人に迷惑をかけてしまうかもしれない。
 いや、そもそも、他の人が来たら、この状況をどうやって説明すればいいんだろう?死んだはずの聖女である母様が目の前にいて、リーズと私が別れてるのに……

 私がどうしようと悩んでいると、急に母様が覆い被さってくる。
 私がはっとなって、そちらの方を見ると、いたのは学園長。……でも、周りに黒いもやが溢れている。あれは、学園長のような見た目をしているけど、学園長じゃないのはすぐにわかった。
 そして、母様が結界を張っている。

「……これは驚きました。死んだはずのあなたがここにいるなんて」
「あら、それは驚かせてごめんなさいね。あなたがいるのに、娘たちを残して旅立てなかったのよ」

 私達を背に庇いながら、母様が学園長らしき人を睨んでいる。
 リーズが、少し私よりも前に出て、学園長らしき人を睨む。

「……おい。精霊はどうした?」

 それを聞いて、リーズがあの時に精霊をつけていたのを思い出した。

「あぁ、あれなら消してきましたよ。邪魔だったので」

 ……消した?……あの子達を?……精霊を?

「狙いは何かしら……って、聞くまでもないわね」
「ええ。私のことを知らないようでしたし、森に引っ込んでくれていれば、そのまま見逃すはずだったのですが……知ってしまったのなら、消すしかないでしょう?」

 ……もしかして、私がずっと森で過ごしていたら、こんな事にはならなかったのかな。
 消したってことは、もうあの子達とは、会えないって事だよね?私が……森にずっといれば……森に……。

「おい、カオル!あんなやつに惑わされるな!」
「あっ……ごめん」

 リーズに肩を揺らされて、私は現実に戻る。そうだ。私は自分の意志で森から出たんだから。こんな事で後悔していたら、それこそみんなに怒られるし、馬鹿にしている事になる。

「ナティーシャのやつが君たちを分けたようですね。それは、実に都合が良い」
「あら、簡単には娘達はやらせないわよ?真の厄災……ロードライト」

 これが、真の厄災?夢で、私達が倒せると言っていた存在……。これが倒された時、母様も完全に消滅するって言われてる……

「お前みたいなポンコツに何ができるんですか?生前は恐れていましたけど、今のあなたの攻撃など、かすり傷で終わりますよ」
「……っ!」

 図星とばかりに、母様の顔が歪む。
 母様でも、この人には大してダメージを与えられないんだ。精霊が消されるんなら、多分精霊術も意味がない。それなら、私かリーズがなんとかしなければ。
 でも、どうすれば……あの暴走状態なら、なんとかなるかもしれないけど……そもそも、なんで理外者だと、真の厄災を倒せるんだろう。何か理由があるはず……。

「魂が死なないというなら、まずは体を消してさしあげましょう」

 ……消す?母様を?まだ、話したい事がたくさんあるのに?
 そう思うと、何も考えられなくなった。また、母様が傷つくと思ったら。

「……カオル?」

 リーズに声をかけられたが、カオルは何も答えない。

(もう、嫌だ。もう、母様を失いたくないのーー!)

 カオルが強くそう思ったとき、カオルの体が輝きだす。

「リーズちゃん!体を丸めなさい!フードで守って!」

 マリアにそうやって強く言われたので、リーズは反射的に体をなるべく小さく丸めて、その光からフードで身を守る。
 その瞬間に、カオルの体がさらに輝きだし、辺りに広がる。

「チッ」

 そんな舌打ちとともに、その存在はどこかに消えてしまう。
 カオルは、急に目の前の存在がいなくなった事に驚いていたが、母様が傷つく事はなくなったと思うと、全身から力が抜けて、その場に倒れてしまった。
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