49 / 63
番外編
コミカライズ記念SS 第一話のウラ(エルクト視点)
しおりを挟む
コミカライズ一話の内容のエルクト視点です。小説にも書いていない裏話もあったりなかったり。
ーーーーーーーーーー
エルクトはレニシェン王国の第一王子として生を受けた。第二妃の息子として生まれたエルクトは、よくも悪くもアルウェルト王家らしい子どもだった。
姉であるヴィオレーヌもそうであったが、早熟で合理的。他人に関心がなく、与えられた役割をただ淡々とこなす日々。それは下の弟妹たちが誕生しても変わることはなく、家族としての情などはないに等しかった。
だが、アナスタシアが生まれてからその生活は一変する。
アナスタシアは、アルウェルト王家にしては珍しく魔力がほとんどなかった。レニシェン王国に限った話ではないが、魔力というのは権力の象徴だ。
もちろん、魔力がすべてというわけではない。知能や血筋、身分、社交能力など、評価される点は他にもある。だが、同じ立場や能力があれば、最終的には魔力の強さで判断されるのは確かだ。
そんな王女が生まれたとあって、城は当然騒ぎになった。アルウェルト王家は国王やその妃、王子や王女、傍系にいたってもかなりの強さを持つこともある。
そんななかで生まれた、魔力をほとんど持たない王女。口がさない者たちは廃嫡すべきだと喚いていたが、国王は継承権を最下位にして隔離することで差別化を図ることにし、廃嫡することはなかった。
アナスタシアの世話は使用人が勤めることとなったが、他の兄弟や国王、はたまた血の繋がりのない妃たちまでアナスタシアの様子を頻繁に見に行った。
それはエルクトもなのだが、妹に会いに行っていたというよりは、王女が無事に育っているか確認していたという意味合いが強かった。
だが、それもとある出来事をきっかけに変わる。
アナスタシアに暗殺者が送られてきたのだ。首謀者はすぐに捕えられたが、それはアナスタシアの台頭を警戒してのことなのは、エルクトに限らず全員が気づいていた。
それが判明し、アナスタシアに会いに行くのは止めたという経緯がある。極端な話だが、そもそもアルウェルト王家は身内にすら愛情を向けることはなく、言わば家族愛に関しては不器用なところがある。
自分への危険ならば自分が対処すればいいが、それが他に向けられるとなると話は別だ。
国防に関しては、特に不備をもたらすことはない。その場でできる最善を尽くし、想定外のことが起きても対応できるようにする。だが、アナスタシアの場合は、そもそもその想定外のことが引き起こされてほしくないがゆえに、対応が極端になる。
アナスタシアに会いに行かないのも、暗殺者に狙われたというのもあるが、自分たちの本性を知られたくないというのが一番の理由だ。でなければ赤ん坊の時には会いに行き、成長するにつれ会いに行かなくなる理由がない。
だからといって、守りを失くすというのも問題なので、エルクトがアナスタシアの様子を見ることになった。
問題は、早々に起こった。まず、自分たちが会いに行かなくなると、関心が薄れたと思ったのか、アナスタシアを使用人たちが冷遇し始めた。
元々身の回りのことはすべて自分で終わらせてしまうエルクトたちは、使用人が自分たちにどのような対応をしようが気にしたことはなく、仕事さえこなしていればどうでもいいといった風だった。
それがあのような対応を招いたのだろう。国王にも報告はしたが、返答は放っておけと言われただけ。
助けが欲しいのなら相談してくるだろうし、それくらいは自分で対応できなくては王女として暮らしていけないということなのだろうが、おそらくその意図はあの妹には伝わっていないと思う。
そうでなければ、鼻歌交じりに洗濯などするはずがないのだから。
いつものようにアナスタシアの様子を見に行こうと思ったが、今日は離宮内に気配を感じず、付近を探してみれば、たらいに水を満たし、ドレスと思わしきものを洗っているアナスタシアがいた。
エルクトは、目を疑った。王女が洗濯をしているはずなどないのだから。そんなはずはないが……エルクトは近づき声をかけた。
「お前、何しているんだ」
その子どもは、エルクトの声に反応するかのように振り向いた。その顔は、間違いなくアナスタシアの顔だ。信じがたいことだが、洗濯をしていたらしい。
「洗濯でしゅ!」
なぜか誇らしげにそう言っているが、絶対に誇れるところではない。
だが、誇らしそうにしているということは、やらされているというわけではなく、自主的に行なっていることなのだろう。
「使用人の仕事を奪ってはならない」
「だって、やりゃないもん……」
自主的に行なっていること……そう思っていたが、アナスタシアの言葉からそうではない可能性も浮上した。
仕事をしていないのかと尋ねると、そうではないと言葉を濁す。目は泳いでいたものの、その言葉に嘘はないように見えた。
つまり、仕事はしているものの、それは必要最低限のことであり、頼まれたことまではやらないと言いたいのだろう。
確かに与えられた仕事をこなしていれば仕事していないとは言わないかもしれないが、主の要望を叶えるのも使用人の仕事。それを行なわないのは問題がある。
しかも、さらに話を聞くと予算の横領をしている可能性もあるようだ。
これはさすがにアナスタシアに任せるのは荷が重い。国王たちに采配を取らせるほうがいいだろう。ルナティーラにもドレスのことについて知らせるついでに伝えておけば、勝手に調べてくれることだろう。
情報収集の腕は彼女のほうが上なのだから。
その結果、アナスタシアを途中で晩餐会から追い出したりして、勘違いが加速することになるのを、まだ誰も知らない。
ーーーーーーーーーー
エルクトはレニシェン王国の第一王子として生を受けた。第二妃の息子として生まれたエルクトは、よくも悪くもアルウェルト王家らしい子どもだった。
姉であるヴィオレーヌもそうであったが、早熟で合理的。他人に関心がなく、与えられた役割をただ淡々とこなす日々。それは下の弟妹たちが誕生しても変わることはなく、家族としての情などはないに等しかった。
だが、アナスタシアが生まれてからその生活は一変する。
アナスタシアは、アルウェルト王家にしては珍しく魔力がほとんどなかった。レニシェン王国に限った話ではないが、魔力というのは権力の象徴だ。
もちろん、魔力がすべてというわけではない。知能や血筋、身分、社交能力など、評価される点は他にもある。だが、同じ立場や能力があれば、最終的には魔力の強さで判断されるのは確かだ。
そんな王女が生まれたとあって、城は当然騒ぎになった。アルウェルト王家は国王やその妃、王子や王女、傍系にいたってもかなりの強さを持つこともある。
そんななかで生まれた、魔力をほとんど持たない王女。口がさない者たちは廃嫡すべきだと喚いていたが、国王は継承権を最下位にして隔離することで差別化を図ることにし、廃嫡することはなかった。
アナスタシアの世話は使用人が勤めることとなったが、他の兄弟や国王、はたまた血の繋がりのない妃たちまでアナスタシアの様子を頻繁に見に行った。
それはエルクトもなのだが、妹に会いに行っていたというよりは、王女が無事に育っているか確認していたという意味合いが強かった。
だが、それもとある出来事をきっかけに変わる。
アナスタシアに暗殺者が送られてきたのだ。首謀者はすぐに捕えられたが、それはアナスタシアの台頭を警戒してのことなのは、エルクトに限らず全員が気づいていた。
それが判明し、アナスタシアに会いに行くのは止めたという経緯がある。極端な話だが、そもそもアルウェルト王家は身内にすら愛情を向けることはなく、言わば家族愛に関しては不器用なところがある。
自分への危険ならば自分が対処すればいいが、それが他に向けられるとなると話は別だ。
国防に関しては、特に不備をもたらすことはない。その場でできる最善を尽くし、想定外のことが起きても対応できるようにする。だが、アナスタシアの場合は、そもそもその想定外のことが引き起こされてほしくないがゆえに、対応が極端になる。
アナスタシアに会いに行かないのも、暗殺者に狙われたというのもあるが、自分たちの本性を知られたくないというのが一番の理由だ。でなければ赤ん坊の時には会いに行き、成長するにつれ会いに行かなくなる理由がない。
だからといって、守りを失くすというのも問題なので、エルクトがアナスタシアの様子を見ることになった。
問題は、早々に起こった。まず、自分たちが会いに行かなくなると、関心が薄れたと思ったのか、アナスタシアを使用人たちが冷遇し始めた。
元々身の回りのことはすべて自分で終わらせてしまうエルクトたちは、使用人が自分たちにどのような対応をしようが気にしたことはなく、仕事さえこなしていればどうでもいいといった風だった。
それがあのような対応を招いたのだろう。国王にも報告はしたが、返答は放っておけと言われただけ。
助けが欲しいのなら相談してくるだろうし、それくらいは自分で対応できなくては王女として暮らしていけないということなのだろうが、おそらくその意図はあの妹には伝わっていないと思う。
そうでなければ、鼻歌交じりに洗濯などするはずがないのだから。
いつものようにアナスタシアの様子を見に行こうと思ったが、今日は離宮内に気配を感じず、付近を探してみれば、たらいに水を満たし、ドレスと思わしきものを洗っているアナスタシアがいた。
エルクトは、目を疑った。王女が洗濯をしているはずなどないのだから。そんなはずはないが……エルクトは近づき声をかけた。
「お前、何しているんだ」
その子どもは、エルクトの声に反応するかのように振り向いた。その顔は、間違いなくアナスタシアの顔だ。信じがたいことだが、洗濯をしていたらしい。
「洗濯でしゅ!」
なぜか誇らしげにそう言っているが、絶対に誇れるところではない。
だが、誇らしそうにしているということは、やらされているというわけではなく、自主的に行なっていることなのだろう。
「使用人の仕事を奪ってはならない」
「だって、やりゃないもん……」
自主的に行なっていること……そう思っていたが、アナスタシアの言葉からそうではない可能性も浮上した。
仕事をしていないのかと尋ねると、そうではないと言葉を濁す。目は泳いでいたものの、その言葉に嘘はないように見えた。
つまり、仕事はしているものの、それは必要最低限のことであり、頼まれたことまではやらないと言いたいのだろう。
確かに与えられた仕事をこなしていれば仕事していないとは言わないかもしれないが、主の要望を叶えるのも使用人の仕事。それを行なわないのは問題がある。
しかも、さらに話を聞くと予算の横領をしている可能性もあるようだ。
これはさすがにアナスタシアに任せるのは荷が重い。国王たちに采配を取らせるほうがいいだろう。ルナティーラにもドレスのことについて知らせるついでに伝えておけば、勝手に調べてくれることだろう。
情報収集の腕は彼女のほうが上なのだから。
その結果、アナスタシアを途中で晩餐会から追い出したりして、勘違いが加速することになるのを、まだ誰も知らない。
334
あなたにおすすめの小説
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
よかった、わたくしは貴女みたいに美人じゃなくて
碧井 汐桜香
ファンタジー
美しくないが優秀な第一王子妃に嫌味ばかり言う国王。
美しい王妃と王子たちが守るものの、国の最高権力者だから咎めることはできない。
第二王子が美しい妃を嫁に迎えると、国王は第二王子妃を娘のように甘やかし、第二王子妃は第一王子妃を蔑むのだった。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
義弟の婚約者が私の婚約者の番でした
五珠 izumi
ファンタジー
「ー…姉さん…ごめん…」
金の髪に碧瞳の美しい私の義弟が、一筋の涙を流しながら言った。
自分も辛いだろうに、この優しい義弟は、こんな時にも私を気遣ってくれているのだ。
視界の先には
私の婚約者と義弟の婚約者が見つめ合っている姿があった。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。