私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!

りーさん

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番外編

コミカライズ記念SS  第二話のウラ(ヒマリ視点)

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 ヒマリ・メリバは王宮に勤めている侍女である。男爵家の遠縁のため、貴族の血を引いてはいるが、ほぼ平民といっても差し支えない立場にあった彼女は、家族への仕送りのために王宮に勤めていた。
 城の下女や侍女といった使用人は、身分や立場は多種多様で、仕事内容も似通っている。平民ならば下男や下女、貴族ならば侍女や侍従といった区別はされているものの、明確な違いはあるのかと問われれば、特にないと言える。
 強いていうならば、侍女や侍従であれば王族の専属になれるかもしれないという程度だ。それも、狭き門どころか、そもそも入り口などないに等しい。

 この国の王族は、とにかく他人というものに無頓着だ。与えられている役割されこなしていれば、その人物が腹に何かを抱えていたり、どのような経歴や背後関係があっても気にすることはない。
 仕事をサボれば暇を出すが、逆にいえばそのようなことでもない限りは仕事を失うことはない。自分たちが何をしていても、何を言っても気にすることはないのだから、気分を害する心配をする必要はなかった。
 たとえば、ヒマリの知り合いの侍女は、王宮の廊下に飾られていた調度品を壊してしまったことがあるが、その際も、給料から弁償するという措置は取らされたものの、減給や異動といった罰則はなく、もちろん暇を出されることもなかったという話がある。
 罰則を受けたくはないが、罰則がないというのも心が落ち着かない。給料から弁償してはいるものの、それは調度品を壊したのだから当たり前にすることであって、罰ではないように思える。

 罰を与えないということは、それだけ興味がないということの現れではないだろうか。調度品にも興味がないので、壊れたところで罰則を与える気にはならない。壊した使用人にも興味がないので、暇を出す気にはならないし、罰則を与える気もない。
 あの人たちの普段の言動を見ていると、そう思えてならないのだ。

 だが、職を失う心配はなくても、王族に対する畏怖の念がなくなるわけではない。
 他人に無頓着とは言ったが、それはまったくの赤の他人という話であって、身内になると話は別である。
 同族嫌悪というべきだろうか。王族同士の仲は世辞にも良好とは言えない。
 王族なのだから当たり前だろうと思うかもしれないが、アルウェルト王家は他の不仲の王族とは異なる。大体の王族の不仲というのは、権力争いの最中に生まれるものだ。言うなれば、身内であると同時に敵でもあるため、良好的な関係を築けないのは当然と言える。

 だが、あの兄弟はまるで違う。

 まず、誰も玉座にはまったくと言っていいほど執着していない。正妃であるシュリルカ王妃殿下の息子であるシルヴェルス王子が次期国王とされているものの、それは立場上、仕方なく受け入れているように見えて、他の兄弟が欲しがったらあっさりと明け渡すのではないかと思う。
 それほどまでに権力欲というものがなく、不仲なのは単純に性格が合わないだけのように思える。
 ただ、まだそれだけならそんなものかと思って仕えていられたが、妙なところで子どもらしさがあり、それが争いにまで発展することもある。

 兄弟で手合わせをしたりすることはあるが、それはお互いに加減しているので問題はない。だが、争いの場合は話が別だ。お互いに相手しか狙っていないとはいえ、加減はしているようでできていない。近づけば命などないだろう。そんな争いを少なくとも一週間に一度は行なっているので、まったく気が休まらない。
 争いが始まればすぐにその情報が共有され、国王陛下や妃殿下の仲裁が入るまで使用人たちは一切近寄らなかったほど。

 だが、それはアナスタシア王女が誕生するとガラリと変わった。
 アナスタシア王女はアルウェルト王家にしては珍しく魔力をほとんど持たず、親である国王や王妃ともあまり似ていない。
 だというのに、国王や妃殿下、兄王子や姉王女はみんながアナスタシア王女を可愛がっていた。

 綿密には、国王と妃殿下は他の王子や王女とそこまで対応は変わっていない。魔力を持っていないという点から過保護な面は見られたものの、娘であると同時に王女としても扱っている。
 そして、第一王女と第一王子もあまり変わっていない。他の弟妹に比べると気にかけていて、嫌っているわけではなさそうというくらいだ。

 だが、他の王子や王女はまるで違う。

 まず、アナスタシア王女にだけ笑みを向け、アナスタシア王女が関わらなければまったく表情が変わらない。
 他の兄弟には一度もなかった贈り物をしたり、最低限の公務や学園関連の業務を終えたら、自由時間は必ずといっていいほどアナスタシア王女の元に向かっていた。

 あまりにもその頻度が高いので、貴族たちは止めていたが、仕事などの合理的な理由がない限りは従わない。
 使用人からしてみると、アナスタシアがいれば王子や王女が争いを起こすことはないので、アナスタシア王女に会いに行くことを止める者はいない。

 だが、アナスタシア王女が暗殺者に狙われたとなると会いに行く頻度が減っていた。それではむしろ危険なのではないかと思ったが、それは会いに行く時間がなかっただけだ。

 暗殺者を野放しにするはずもなく、それらの処理をしていたらしい。その間にアナスタシア王女に危険がないようにエルクト王子も護衛代わりに会いに行っていたそうだ。
 王族の護衛は本来なら騎士の役割のはずだが、よほど信用ならないらしい。

 そんな経緯もあって、ヒマリはアナスタシアの専属となるように王妃から命じられてからは、生きた心地がしなかった。
 アナスタシア王女に感謝するつもりはあったが、それはあくまでも王宮勤めという立場だったからであり、専属となれば話は別である。
 普段なら仕事さえしていれば暇を出されることはないが、アナスタシア王女の機嫌を損ねれば、暇どころか日の元に出ることも叶わないかもしれない。
 他の王子や王女の元から送られてきた者も同じことを思っているのか、アナスタシア王女の機嫌を損ねないようにしているのが伝わってくる。

 そんなある日、アナスタシア王女から薔薇の庭園に出かける提案をされた。
 しかも、一人ではなく使用人みんなで。
 なぜそのようなことをするのかと思ったものの、アナスタシア王女の望みならとそのお出かけに付き添うこととなった。

 その際に、アナスタシア王女からサンドイッチなるものを要求された。詳しく聞いてみると、出かける際に食べる食事らしいが、話を聞くとお世辞にも王女が食べるようなものではない粗末なものに聞こえた。
 アナスタシア王女の専属侍女であったザーラと相談したものの、アナスタシア王女が望むのならということで厨房に作らせることに。

 本人は自分が作ろうとしていたけど、さすがにそれはザーラと一緒に止めた。
 その時点でアナスタシア王女が他の兄王子や姉王女とは違うことは薄々ながら気づいていたが……お出かけの時にそれは発揮された。

『ふぉおおお!』

 この声は、薔薇の庭園で透明な薔薇を見たときにあげた声である。アナスタシア王女のことは食事会の時にしか見たことがなく、プライベートの面は知らなかったが、この時点で他の王子や王女の持つ威厳のようなものは感じられなかった。

 また、食事をする際もあの粗末なものを遠慮なく口に運び、同じものを使用人にも食べさせようとする。
 王女と同じものを食べるわけにはいかないというのに、アナスタシア王女は進めてくる。

 どうしたものかと思った次の瞬間、同じ侍女であるフウレイがあっさりと口に運んでしまった。そしてアナスタシア王女にやけに親しげに話しかけている。

 あの時ほど肝の冷えたことはない。敬語を使ってはいるものの、態度は不敬そのもの。だけど、アナスタシア王女は咎めるようなことはせず、期待を込めたように自分たちのほうを見る。
 そこまで期待されては断るほうが無礼というものと、自分に言い聞かせるように食べる。すると、アナスタシア王女は嬉しそうに顔を輝かせていた。

 この王女は、他の王子や王女と違う。それはヒマリだけでなく、その場にいた使用人は皆が思っていたことだろう。
 試しにフウレイと同じように振る舞ってみても、不快感を露にすることはなく、むしろ喜びに満ちているような顔をしている。

 どうやら、アナスタシア王女にはこれくらいの距離感が求められているものらしい。それを理解した使用人たちは、アナスタシア王女への接し方を変え始めた。
 ヒマリも少し力を抜いて仕事ができるようになった。

 これなら、アナスタシア王女の使用人としてうまくやっていけるかもしれない。

 後日、アナスタシアがお菓子を作りたいと言って頭を抱えることになるのだが、それはまだ知らない。
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