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番外編
コミカライズ記念SS 第三話のウラ
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王族の誕生日。それは一年で一番祝福される日であり、レニシェン王国の王子や王女の誕生日はとある月に集中している。その月でなくてはならない理由があるというわけではなく、その時期に生まれてくるように子をもうけているだけなのだが、その理由もそんな大層なものはない。
強いて言うのならば、一年に一度は子を成す行為をしなければならないという王としての責務のようなものだ。それもすでに七人いるために、ほぼ行われなくなってきている。
そんな裏事情など知るよしもない民たちは、めでたい月であると祭りを開いている。王族の生誕の月は、国のどこかでは祭りが行われているといわれるほどだ。
だが、そんな民たちの様子とはうってかわって、城にはそんな空気はまったく流れていなかった。むしろ、王子や王女の誕生日は空気が冷え冷えとすることが多かった。
だが、今年はどこか違った。
それが一番顕著に現れたのはルーカディルだろう。
ルーカディルの離宮は、荘厳といえば聞こえはいいが、離宮の主が騒がしいのを嫌うため、ただ静かで冷たい空間が維持されていた。
ルーカディルに限らず、王族はこだわりなどはなく、与えている給与分の仕事さえこなしていれば問題はなく、たとえ私語をしているところを見つかったとしても咎められることはない。
それは、王族の者たちが周りに一切の関心を持たないためである。王族としての品位を維持するために必要だからと下働きの使用人を雇っているだけで、身の回りのことはすべて自分でやってしまう人たちであり、それはルーカディルも例外ではなかった。
ルーカディルは中性的な顔立ちであるためか、邪な心を抱いた使用人たちも多いらしく、その影響か人間不信のようになっており、極力自分には触れさせない。着替えも一人で終わらせ、湯浴みも着替えの用意だけをさせて後は一人で終わらせてしまう。
そのため、離宮の使用人たちは彼を遠目でしか見ることはないが、その美しさに惚れ惚れする者も多く、中には仕事にならない者もいる。
ルーカディルに懸想しないことが雇用条件になっているという噂も立つほどだ。
そんなルーカディルは人形と揶揄されるほどに表情が変わらないことでも有名だが、唯一表情が変わる瞬間を見せることがある。
アナスタシアと一緒にいる時だ。アナスタシアと同じ空間にいる時は笑みを浮かべていることが多い。よく観察しないとわからないくらいに微々たる変化ではあるが、普段が普段なので使用人たちはすぐに気づく。
それは、アナスタシアから贈り物をされた時も同じだった。貴族たちがどれだけ豪勢な品を贈ったところで気にも止めていなかったが、アナスタシアの持ってきた菓子は喜んで受け取っていた。ルーカディル付きの使用人が言うには、普通の子どものようにしか見えなかったというほど。
ルーカディルだけでなく、他の王子や王女もアナスタシアからの贈り物は好意的な反応をしていた。ヴィオレーヌにいたっては、アナスタシアのプレゼントしか受け取っていない始末だ。
アナスタシアが他の王子や王女に贈り物をするのは初めてであったため、使用人たちも初めて見た光景であったが、あの王子や王女ならあり得るといえるような光景でもあったため、大して驚くことはなかった……噂にはなったが。
だが、それはあくまでもアナスタシアからの贈り物を受け取った時であり、反対にアナスタシアに贈り物をする時は、平常心でいられた使用人は少ないだろう。
発端はルナティーラだった。アナスタシアが望んでいたといって、大人数が入れる風呂を作ると言い出したのだ。
アナスタシアのことに関すると突拍子もないことを言い出すのはよくあることだが、今回はそんなものでは片づけられない。
だが、それを止める者は誰もおらず、むしろルナティーラの意見に賛同した。王子や王女だけでなく、国王や妃たちまでも。
そのためだけに仕事を手早く片づけて時間を作っていたほどだ。
そんな主たちの様子を見ていたため、離宮の使用人たちがアナスタシアに対して恐れを抱いていた。
アナスタシア本人からしてみれば、希望を口にしただけで本当に用意されるとは微塵も思っていないのだが、そんなのは使用人たちは知るよしもなく、畏怖の念は強くなっていた。
こうして、アナスタシアは多くの使用人から畏怖されるようになっていくのだが、本人は知るよしもない。
強いて言うのならば、一年に一度は子を成す行為をしなければならないという王としての責務のようなものだ。それもすでに七人いるために、ほぼ行われなくなってきている。
そんな裏事情など知るよしもない民たちは、めでたい月であると祭りを開いている。王族の生誕の月は、国のどこかでは祭りが行われているといわれるほどだ。
だが、そんな民たちの様子とはうってかわって、城にはそんな空気はまったく流れていなかった。むしろ、王子や王女の誕生日は空気が冷え冷えとすることが多かった。
だが、今年はどこか違った。
それが一番顕著に現れたのはルーカディルだろう。
ルーカディルの離宮は、荘厳といえば聞こえはいいが、離宮の主が騒がしいのを嫌うため、ただ静かで冷たい空間が維持されていた。
ルーカディルに限らず、王族はこだわりなどはなく、与えている給与分の仕事さえこなしていれば問題はなく、たとえ私語をしているところを見つかったとしても咎められることはない。
それは、王族の者たちが周りに一切の関心を持たないためである。王族としての品位を維持するために必要だからと下働きの使用人を雇っているだけで、身の回りのことはすべて自分でやってしまう人たちであり、それはルーカディルも例外ではなかった。
ルーカディルは中性的な顔立ちであるためか、邪な心を抱いた使用人たちも多いらしく、その影響か人間不信のようになっており、極力自分には触れさせない。着替えも一人で終わらせ、湯浴みも着替えの用意だけをさせて後は一人で終わらせてしまう。
そのため、離宮の使用人たちは彼を遠目でしか見ることはないが、その美しさに惚れ惚れする者も多く、中には仕事にならない者もいる。
ルーカディルに懸想しないことが雇用条件になっているという噂も立つほどだ。
そんなルーカディルは人形と揶揄されるほどに表情が変わらないことでも有名だが、唯一表情が変わる瞬間を見せることがある。
アナスタシアと一緒にいる時だ。アナスタシアと同じ空間にいる時は笑みを浮かべていることが多い。よく観察しないとわからないくらいに微々たる変化ではあるが、普段が普段なので使用人たちはすぐに気づく。
それは、アナスタシアから贈り物をされた時も同じだった。貴族たちがどれだけ豪勢な品を贈ったところで気にも止めていなかったが、アナスタシアの持ってきた菓子は喜んで受け取っていた。ルーカディル付きの使用人が言うには、普通の子どものようにしか見えなかったというほど。
ルーカディルだけでなく、他の王子や王女もアナスタシアからの贈り物は好意的な反応をしていた。ヴィオレーヌにいたっては、アナスタシアのプレゼントしか受け取っていない始末だ。
アナスタシアが他の王子や王女に贈り物をするのは初めてであったため、使用人たちも初めて見た光景であったが、あの王子や王女ならあり得るといえるような光景でもあったため、大して驚くことはなかった……噂にはなったが。
だが、それはあくまでもアナスタシアからの贈り物を受け取った時であり、反対にアナスタシアに贈り物をする時は、平常心でいられた使用人は少ないだろう。
発端はルナティーラだった。アナスタシアが望んでいたといって、大人数が入れる風呂を作ると言い出したのだ。
アナスタシアのことに関すると突拍子もないことを言い出すのはよくあることだが、今回はそんなものでは片づけられない。
だが、それを止める者は誰もおらず、むしろルナティーラの意見に賛同した。王子や王女だけでなく、国王や妃たちまでも。
そのためだけに仕事を手早く片づけて時間を作っていたほどだ。
そんな主たちの様子を見ていたため、離宮の使用人たちがアナスタシアに対して恐れを抱いていた。
アナスタシア本人からしてみれば、希望を口にしただけで本当に用意されるとは微塵も思っていないのだが、そんなのは使用人たちは知るよしもなく、畏怖の念は強くなっていた。
こうして、アナスタシアは多くの使用人から畏怖されるようになっていくのだが、本人は知るよしもない。
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