私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!

りーさん

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第三章 地方視察

143. 古代の遺跡

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 私たちはサウクシアを出て、次の街に向かっていた。そこは、本来の視察予定地であるファーメルという街。魔力枯渇事件があった街だ。
 なんか、ここまで長かった気がする。本当なら三日目には着いているはずなのに、倍以上の一週間もかかった。それもこれも全部神器のせいだ。

「到着したら調査を始めるんですか?」

 私は一緒の馬車に乗るシルヴェルスお兄さまに尋ねた。

「そうだね。一応、領主に挨拶はするけど」

 いや、それは普通のことですよね。挨拶もなしに勝手に街の中うろつくのは王族でもよろしくないかと思います。

「正確には名代にですわ」

 ヴィオレーヌお姉さまがシルヴェルスお兄さまの言葉を訂正するかのように言った。
 名代……ということは、領主本人はいないのか。でも、どうしてだろう?

 私の表情から読み取られたのか、シルヴェルスお兄さまが説明してくれる。

「領主は全員が常に領地に留まっていられるわけじゃないから、運営は代官が行って、僕たちみたいな客が来るときだけ出迎えるために領地に戻るんだけど、それも難しい場合は名代を立てるんだよ」

 ほー、なるほど。つまり、今から向かうところの領主は、それなりに地位のある人ということなのか。だって、そうでもない限り名代を立てなければならないほど忙しいということもないだろうから。

「その名代ってどなたなんですか?」
「領主の息子ですわ。あなたは特に気を引き締めて対応なさい」

 ヴィオレーヌお姉さまの言葉の意味は、すぐに理解することとなった。

◇◇◇

 領主邸に到着した私たちは、とある存在に出迎えられる。

「ようこそお越しいただきました」

 そう言って私たちに頭を下げるのは、二人の人物。おそらくは、どちらも領主の息子だろう。一人はエルクトお兄さまと同じくらいの背丈と顔つきなので、年齢も近いんだと思う。もう一人は、私と背丈が近い。

「アナスタシア第三王女殿下とは初対面ですので、ご挨拶させていただきます。フォークマー伯爵長男、リチャード・リナ・フォークマーと申します」

 フォークマーという名前を聞いて、私はヴィオレーヌお姉さまの言葉を思い出した。

『あなたは特に気を引き締めて対応なさい』

 その意味が、よくわかった。

「……アナスタシア・ヴィラ・アルウェルトです。滞在中の間、どうぞよろしくお願いします」

 私は王女らしい朗らかな笑みを浮かべる。私が地方視察に向かうということで、フウレイから改めて王女教育をされたので、意識すれば王女らしい微笑みを浮かべることはできる。

「アナスタシア王女殿下には、弟のカイエンが大変お世話になっていると伺っております。滞在中はカイエンを付けさせますので、どうぞゆっくりしていってください」

 そう言いながら微笑むリチャードさんは、優しいお兄さんという気風だ。でも、その言葉の裏に気づかないほど、私も王女として生きてはいない。
 私たちは地方視察でここまで出向いたのだ。それなのにゆっくりしていけというのは、私は屋敷で大人しくしていろという意味になる。ただのオマケだと言われたも同然だ。
 でも、ここで下手に反論すると面倒なことになりそうだ。ルージアのようになることはないだろうけど、カイエンにとばっちりがいく可能性はないとは言えない。

「お気遣いに感謝します。では早速ですが、部屋に案内してもらっても?」
「もちろんです」

 リチャードさんは笑みを浮かべたまま了承し、隣にいるカイエンに部屋に案内するように伝える。本当に、見た目だけなら優しいお兄さんにしか見えないんだけどなぁ……人は見かけによらないとはよく言ったものだ。

「こちらです、王女殿下」

 私はカイエンの案内に従いながら、部屋へと向かった。

◇◇◇

 部屋に着いた私は、すぐさまベッドにダイブした。

「つっかれたぁ~……」
「気を抜くのが早すぎますよ」

 カイエンは呆れたように私を見下ろす。いや~、久しぶりだな、この感じ。

「だって、お姫さまは疲れるんだもん。カイエンのお兄さんに初対面から悪印象は持たれたくなかったしさ」

 私がそう言うと、カイエンは深くため息をつく。側近としては褒められた態度ではないけど、私としてはこれくらいの関係がちょうどいい。……もうちょっと丁寧にしてくれてもと思うこともあるけど。

「……あまり、兄上とは関わりを持たれないほうがよろしいかと」
「……ルージアと同類なの?」

 初対面の印象では、よくも悪くも貴族らしいという印象しかない。私のことを好意的には思っていないみたいだけど、ルージアよりは隠しているし、私にも恭しく接してくれている。
 関わりを持ちたいとは思わないけど、だからといって避ける必要はないように思う。

「兄上は、貴族らしい男です。自らの目的のためには、何でも使います。……あなたとて、例外ではない」
「私のどこに使い道があるの?」

 自分で言うのもなんだけど、私は大した権力を持たない落ちこぼれのお姫さま。知能も平均よりは上という程度だし、魔力もないからそういう方面でも期待はできない。あまり人と交流していないから人脈もない。

 権力、知力、武力、人脈。どれも持っていない私に期待する貴族はいないと思う。

「国王や妃、他の王子や王女からの愛情を一心に受ける王女。それだけで利用しようと考える貴族は多いですよ」
「それは……そうかもしれないけど」

 どうにも歯切れの悪い返事をしてしまう。だって、カイエンの危惧するような事態にはならない気がするし。
 カイエンの考えすぎと思っているわけではなく、家族の性格を考えれば、しっぺ返しではすまないくらいの報復をしそうな気がする。そんなリスクを抱えて私に接触しようとする貴族は、よほどの怖いもの知らずか、何も考えてないだけだと思うから。
 ルージアは多分前者かな。自分が責められるなんて微塵も思っていなかったのだろうという意味では後者かもしれないけど。

「まぁ、利用価値があると思われている間は丁重に扱われるでしょうし、他の王子殿下や王女殿下の意向にそぐわない行動を取るような男ではないので、二人きりにならなければ問題ないかと思います」
「……うん、わかった」

 毎度のことなのですが、この人って本当に六歳児ですか?兄姉たちはそれ相応の教育を受けたということで納得したけど、カイエンは本当になんでなんだろう?
 妾の子で跡継ぎ候補でもないカイエンは必要最低限の教育しかされていないと思うけど、教養は大人と遜色ないと言っても過言ではないように思う。

「……カイエンってさ、マナーの教育とかも受けてるの?」
「以前は伯爵令息として恥ずかしくない程度には。アナスタシアさまの側近となってからは、登城する機会があるということでさらに厳しくなっています」

 あっ、ちゃんと教育は受けてたのか。体裁を気にしてのことかな。でも、それならそもそも妾との子を作るなと思うけど、そのお陰でカイエンと会えたわけだしね。

「今回の地方視察は魔力枯渇のことについての調査とお伺いしましたが、アナスタシアさまも同行されますか?」
「うん。多分エルクトお兄さまとペアになると思うけど」

 オマケのようなものとはいえ、私も視察団の一員だ。お屋敷でお留守番というわけにはいかないけど、あの兄姉たちが私を一人で調査させるわけないから、誰かと一緒になるのは確実だ。となると、神器の事情を知っているエルクトお兄さまが一緒になってくれる可能性が高い。
 エルクトお兄さまも、今回の魔力枯渇事件に神器が関わっている可能性があることを知っているから、どうとでも理由を連れて私を連れ出してくれるだろう。

 そう思っての回答だったわけだけど……わざわざ聞いてくるということは、まさか。

「カイエンもついてくるの?」
「兄上からはアナスタシアさまの補助を命じられていますので、アナスタシアさまも調査をなさるのなら同行いたします」

 嫌な予感は見事に的中した。カイエンについてこられたら、エルクトお兄さまと神器について話せないじゃん……!私はまだポーカーフェイスが上手じゃないから、念話じゃなくてきちんと会話したいし。
 こうなったら、今日中になんとかマスターするしかない!

『君には無理だろ』

 私の決意を嘲笑うペンダントの声が、脳内に響いた。
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