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2巻
2-3
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◇◇◇
翌日。学園が終わった後、私はヒマリを連れて厨房に顔を出していた。
騎士団に顔を出す前に、いろいろとやっておきたいことがあったためだ。
「ルック。少し相談があるんだけど」
「なんでしょう、アナスタシアさま」
夕食の準備をしていたであろう料理長のルックさんが、鍋の前から離れて入り口にいる私のもとまで来る。
「明日、学園が終わったら騎士団のところに顔を出す予定なんだけど、何か差し入れを持っていきたいの」
今後自分の身の安全を任せることになるなら、印象をよくしておいたほうがいい。できることはやってみるべきだ。兄姉の誕生日にチーズケーキを差し入れした時も好評だったし。
「差し入れ……ですか」
ルックさんは頭を悩ませている。おそらくは、食材の在庫と相談しているのだろう。
騎士団は人数が多いから、食材の消費量も多い。
特にこの厨房では、以前にチーズの誤発注事件があってから、食材の管理にはかなり気をつけている。数が間違っていないかダブルチェックもしているらしいし、食材は必要最低限しかない。
使わない食材を買ったところで腐らせるだけだし、あまり多くの食材を購入すれば横領を疑われかねないから、多く仕入れるメリットもないしね。
「では、アナスタシアさまの考案されたサンドイッチはどうでしょう?」
「なら、野菜よりもお肉や卵を中心にしてくれる?」
騎士団は訓練で常に体を動かしているから、食べ物はエネルギー源になるもののほうがいいだろう。
特に、今はお兄さまたちが直接訓練しているらしいから、死にかけている人がいてもおかしくないし。
「かしこまりました。翌日、アナスタシアさまの部屋まで届けさせます」
「ありがとう。お願いね」
私は軽く手を振って厨房を後にする。
「後は……使用人か」
騎士団全員に差し入れとなると数が多くなりそうだから、連れていく使用人の数は増やしたほうがいいだろう。
でも、ザーラがいなくなってからは、私の侍女はヒマリとフウレイしかいない。さすがに二人で運びきれるとは思えないから、もう三人くらい追加したほうがよさそう。
「ヒマリ、明日連れていける使用人って誰がいるかな?」
「そうですね……アナスタシアさまと交流の多い者でしたら、ロジー、グレース、ラフィニアは手が空いているかと」
ロジーはよく私の部屋を掃除している使用人。グレースは私にお菓子を差し入れしてくれる使用人。ラフィニアはヒマリと一緒に着替えを手伝ってくれる使用人である。
彼女らは、シュリルカお母さまの使用人総入れ替え以前からこの離宮に勤めている、古参の使用人たちだ。身分の問題で私の侍女にはなれていないけど、それさえなければ私の侍女にしても問題ない人柄と技術を持っている。
「じゃあ、その人たちとフウレイに声かけておいて。一緒に騎士団まで来てもらうから」
「かしこまりました」
これで荷物持ちゲット! さすがに五人もいれば人手は充分だろう。
後は、当日の服装を決めなければ。さすがにいつものシンプルなドレスは王女としての威光はないだろう。
だからといって、豪華すぎても動きにくい。さすがに騎士団のところまでは馬車で移動するだろうけど、あまりに動きにくいと余計な疲れが出そうだ。ただでさえ疲れしかない学園生活の後に行くわけだし。
豪華なドレスは着なれていないので、裾を引っかけるなんてこともありそう。
「ヒマリ、何を着ていけばいいかな」
ポンコツ頭脳で考えても答えは出ないので、優秀な侍女に助けを借りることにした。
ヒマリなら会話の流れで騎士団に行く時の服装を聞いていることはわかってくれるだろう。
「そうですね……では、衣装室のほうに行ってみますか?」
「うん」
衣装室は最近私の離宮にできた新しい部屋である。
以前は、資金の横領などから充分な服を買い揃えることができず、クローゼットに数着しかなかった。けれど、自由に資金を利用できるようになり、王女として充分な数のドレスを揃えることができるようになってからは、一部屋をまるまる衣装室にして収納しているのである。
厨房から歩くこと約五分。衣装室に着いた私は入り口付近で待機し、ヒマリは部屋の中でドレスを観察している。
衣装室は私の私室の隣に位置しているので、おそらく隣では、ライがのんびりとくつろいでいるだろう。
表向きには大人しいペットを演じてくれているから、問題行動を起こすことはないと信じたい。
『お前は俺のことをなんだと思ってるんだ』
「き……」
声が出そうになったところでヒマリがいたのを思い出して、私は慌てて口を塞ぐ。
ヒマリのほうを見ると、ドレスを選ぶのに夢中になっているのか、私が声を出したことには気づいていないみたいだ。
隣の部屋にいても念が届いていたのは驚いたけど……ひとまず、これだけは言っておかないと。
『ちょっと、いきなり話しかけてこないでよ! びっくりするじゃん!』
私がライに対して抗議をするも、ライから返事は返ってこない。
その代わりというか、ペンダントのほうから返事が返ってくる。
『どうせ君がまた失礼なこと考えたんだろ』
契約していないため、私の思考が読み取れず推測の域は出ていないみたいだけど、そうに決まってるかのような言い方に、私は少しムッとする。
『そんなことしてないよ』
『いや、お前問題行動がどうとか思ってただろ』
ライが間髪をいれずに私の発言を否定してくる。
それはすみません。でも、私に対しての日頃の行いを考えたら、そう思うくらいは仕方なくない? いっつもバカって言ってくる生意気なペットの心配くらいして当然でしょ。
『俺がお前をバカ呼ばわりするのは、本当にバカな行いをした時だけだ。呼ばれたくないならもう少し頭を使え』
ライはふんと小馬鹿にするように言う。
ぐぬぬ……! 散々な評価を受けているのに、自覚があるから言い返せない……!
即断即決の気がある私は、客観的に見たら行き当たりばったりにしか見えないだろうからなぁ……もう学園にも通い始めたし、もう少し考える力を身につけておかないと。
『君がバカかどうかはどうでもいいけど、あまり百面相してたら侍女に警戒されない?』
『一応、表情に出さないようにはしてるよ』
ペンダントにはそう言うものの、少し不安になった私は、ヒマリの様子を窺う。
ヒマリはというと、ドレスとにらめっこしていたけど、私の視線に気づいたのかこちらと目を合わせてきた。
「アナスタシアさま。こちらはいかがでしょう?」
「どれ?」
私はヒマリのほうに駆け寄る。ヒマリが見せてくれたのは、紅梅色のドレスだ。
華やかな色合いではありながらも、華美すぎない。そして、今の季節は春。季節にも合った色といえる。
さすがは毎日私の着替えを手伝っている侍女なだけあって、服のセンスは私よりも数段上だ。
「うん。これでいいよ」
「かしこまりました。当日はこちらを準備いたします。アクセサリーはどういたしますか?」
「別にそのままで……」
そこまで言ったところで、私はハッとなる。ドレスを変えるんなら、アクセサリーも別のものにしないといけないじゃん!
いつも使っている緑のリボンじゃ、この紅梅色のドレスには合わない。それなら、リボンの色を変える? 探せばこのドレスに合う色合いのリボンはあると思うけど……
『そんなものより、長時間外に出るなら帽子か日傘を用意すべきだろ。王女が日焼けするのはまずいんじゃないのか?』
ライからの冷静な指摘に、私は再びハッとなる。今まで外に出る時は使ってなかったから完全に抜けてたよ、あはは。
『……なるほど、確かにバカかもしれない』
ペンダントが冷静に呟く。
そんな真面目っぽいトーンで言うことではない! そもそも、バカかどうかはどうでもいいんじゃなかったの!?
「……ヒマリ。帽子か日傘を用意しておいてくれれば、アクセサリーはなんでもいいよ」
失礼な神器にいろいろと言いたいことはあったけど、今はぐっと飲み込んでヒマリに要求する。
「かしこまりました。当日までに必ずご用意させていただきます」
ご用意ってことは、今はないのか。二日で帽子や日傘って用意できるものなのかなと思うけど、ヒマリはできないことはできないと口にするタイプなので、用意すると言いきっているなら大丈夫だろう。
「それじゃあ、そろそろ部屋に戻るね。ちょっと疲れちゃった」
ペンダントへの追及とか、ライへの八つ当たりとかいろいろとやらないといけないことがあるからね……!
疲れてるのは本当だけど。
『おい! 俺への八つ当たりってなんだ!』
私の思考を読み取ったであろうライが抗議をしてくる。
私は慌てることなく脳内で返事をする。
『大したことないよ。ちょっとモフモフさせてもらうだけだから』
『それはやめろっていつも言ってるだろ! そもそも俺は関係ないだろうが!』
『最初に私をバカ呼ばわりしたのはライでしょ』
決して、ただ癒されるためにモフモフしたいとかそういうわけではない。これは、生意気発言に対する私なりの抗議なのだ。
『絶対に最初のが本音だろ……!』
そうボソッと呟く声が聞こえた気がしたけど、私は意気揚々と私室に戻った。
部屋に戻った私は、ライをモフモフしていた。もう諦めているのか、特に抵抗されることはない。
『それで、あなたはどこで私をバカだと判断したの?』
『中身』
ペンダントは簡潔に答えた。
いや、それはわかってるって! 私の中身のどこをどう判断したのか聞きたいんだよ!
『それがわからないところかな』
こいつ……! 下手すればライよりもイラッとする……!
『おい、強く握るな! 痛いんだよ!』
『あっ、ごめん』
無意識のうちにライをモフモフする手に力がこもっていたようで、ライからクレームが飛んでくる。
私はすぐさま力を緩めた。ライはふんと鼻息を荒くするも、その場で大人しくしてくれた。
こういう時に逃げ出そうとしたり、離せって言ったりしないのがライの優しいところだよね。
『それでやめるんだったら、いくらでもやってやるよ』
『絶対にやめません』
学園での疲れを癒すには、このモフモフしかないんだ……!
あの無機質な剣状態からは想像できないようなサラサラでツヤツヤなモフモフ具合。
これで明日も頑張れるというものだ。
いくら中身が成人しているからといって、友だちがいなくて隣の人とも相性が悪い学園生活は、辛いとまではいかなくても、精神的に疲れて仕方ない。
お城に戻っても、私室以外にリラックスできる場所はないし。
『それの何が楽しいんだか』
ペンダントが呆れたように言う。
ふふん、なんとでも言うがよい。毛並みの手触りを味わうための手がないあんたには、この極楽浄土がわからんのだ!
『多分、お前のところの家族にも共感する奴はいないと思うが』
私の脳内思考に対して、ライが冷静にそう答える。
『さすがにそんなことは……』
ない、と言いきれなかったのはなぜだろう。いや、答えは決まってる。これでもあの家族と六年間過ごしてきたから、なんとなくわかる。
あの家族が愛情を向けてる相手って私しかいないからだ。
お父さまやお母さまたち、ヴィオレーヌお姉さまやエルクトお兄さまはそこまででもないけど、ルルエンウィーラさまや他の兄姉たちが私のことを猫可愛がりしてることは私にもわかる。
でも、他の兄姉間ではそんなことはしてないみたい。仲が悪いわけではなさそうだけど。
『いや、仲は悪いと思うが』
ライがすぐさま否定してきた。
『でも、食事会の時もよく話してるよ?』
不定期に行われる食事会は、全員の都合に合わせるため、一ヶ月に二~三回くらいのペースだけど、まったく会話のなかった食事会というのは存在しなかった。
話す内容は政治や交遊関係に関することがほとんどだけど、近況報告とかもしているし、空気が悪くなるようなこともなかった。
『それはお前の前だからだろ。お前がいないと常に吹雪が吹き荒れてるような奴らだぞ』
『なんでそんな風に言いきれるの』
まるで、実際に見たことがあるかのような言いぐさだ。
『見たことあるからな』
『えっ!? いつ?』
私の記憶では、ライは基本的に私の私室にこもりきりで、外出すると言えば私が着替えをする時だけ気を遣ったように部屋から出ていくくらい。それも、一時間もしないで帰ってくるし。
『その一時間もしない外出の時にな』
『お姉さまたちのところまで行ってたの?』
私の離宮は、お姉さまたちの離宮とはそれなりに距離がある。一番近いルーカディルお兄さまのところにも徒歩で十五分くらいかかるし。
わざわざライがそんなところまで出向くものなのだろうか。
『いや、この離宮の前まで来てたんだよ。お前の記憶から考えるに、ルナティーラとハーステッドって奴だ。下手に絡まれるのも面倒だし早々に引き返したから会話は聞いてないが……空気は寒々しかった』
ライがそう感じるくらいなら、通りかかった使用人などは生きた心地がしないんじゃないだろうか。食事会の時は世間話するくらいの仲ではありそうだったんだけどなぁ……あれは見せかけだったのかな?
『そんな一家からどうしてこんな能天気な奴が生まれたんだ?』
呆れたように言うペンダントの疑問に答えたのはライだった。
『前世からバカだったのかもしれないな』
『なるほど』
『ちょっと! 失礼な納得しないで!』
一応まともに社会人してましたから!
前世の記憶を丸々思い出したわけではないけど、自分の生活の概要くらいは覚えている。
仕事は激務だったし、友人や家族とは疎遠だったけど、一応真面目に生きてましたから!
『"一応"なんてつけてる時点でダメだろ』
ライの冷たい一言に、完全にノックアウトされた私であった。
◇◇◇
騎士団への顔出し当日。学園から戻った私を待っていたのは、目を爛々と輝かせたヒマリとフウレイだった。今日一緒についてきてもらうロジー、グレース、ラフィニアもいる。
ベッドの傍らでは、なぜかライから同情の視線を感じた。
「あの……いつもとなんか違わない?」
「久しぶりにアナスタシアさまを着飾れるのです! やる気も出てくるというものですよ!」
ヒマリが力強く答える。
「さあこちらにおいでください! 時間がありませんから!」
私を呼ぶラフィニアの側に近寄ると、ラフィニアが丁寧に私の制服を脱がしていく。別に制服を脱ぐのに人の手を借りる必要はないんだけど……みんなのやる気を削ぐのもなんだし、とりあえず体を預けることにした。
ライはいつの間にか部屋からいなくなっている。行動が早いな。
私の制服を脱がせると、今度はドレスを着せてくる。ヒマリがチョイスした紅梅色のドレスだ。
私の地味な容姿ではドレスに着られている感があるものの、地味な王女という印象を与えるよりはマシだろう。
ドレスを着終えると、次はヒマリが私をドレッサーの前に座らせて、髪を櫛で梳かし始めた。
「本日は帽子を着用されますので、ヘアスタイルを変えさせてもらいますね」
さすがにいつもの両サイド三つ編みスタイルはリボンが邪魔だもんね。
「具体的にどうするの?」
「二つ結びにしようかと。リボンはこちらを使わせていただきます」
ヒマリが見せてくれたのは、マゼンタのリボンだった。確かに、紅梅色のドレスには合う色合いだろう。
でも……ますますドレスに着られている感が強まるな。私の地味な容姿じゃほとんどそうなるんだけども。
ヒマリは手慣れた手つきで私の髪を整えていく。そして、あっという間に私の髪を二つ結びにしてしまった……みたい。
というのも、その時の私は疲れからか眠たくてうつらうつらとしていたので、はっきりと完成形を見ていなかったのだ。
ヒマリから「終わりましたよ」と声をかけられてようやく意識が覚醒したほどだ。
私は、目の前の鏡を覗き込む。
「わぁ……なんか新鮮」
いつもは緑系統のドレスを着ているから、正反対の赤系統のドレスは本当に新鮮だった。普段と比べて、大人っぽさが増しただろうか。
「帽子や日傘は?」
「帽子はこちらをお使いください」
ヒマリが見せてくれたのは、淡いピンク色で可愛いけど、見たことのない形のものだった。
「これ、なんて帽子?」
「ボンネットというものです。このように使います」
ヒマリはボンネットを頭に載せて、両サイドについていた紐を顎の下で結んだ。
私は、改めて鏡で自分の姿を見てみる。先ほどは大人っぽかったような気がしたけど、このボンネットによって可愛らしさが追加された。
六歳にはこのくらいがちょうどいいな。ドレスに着られている感満載なのは変わらないけど。
「そのペンダントもつけていきたいんだけど」
私はベッドの傍らにあるミニテーブルに置かれたペンダントを指差す。
先ほど制服を脱がされた時に、ペンダントもさりげなく外されていたのだ。
「かしこまりました。ロジー、こちらに渡して」
「は、はい」
ヒマリは側にいたロジーに指示を飛ばしてペンダントを回収する。
そして、私の首に手を回してペンダントをかけてくれた。ペンダントを身につけたい理由を聞かれたらどうしようかと思ったけど、杞憂に終わったみたいだ。
すべての準備が終わったところで、私は深く息を吐いて、ヒマリに声をかけた。
「じゃあ、行こうか」
「はい、アナスタシアさま」
さぁ、騎士団にレッツゴー!
私の離宮から騎士団の訓練所へは、馬車で移動する。
同行する人数が多いというのもあるけど、一番の理由は距離があるから。この国の騎士団は魔法の訓練も行うため、安全を考慮して私の離宮からは離れた場所に位置しているのだ。
『護衛騎士にも、神器のことは話さないほうがいいんだよね?』
私は膝の上にいるライに声をかける。
ライは置いていこうかと思ったけど、部屋の外でわざわざ待っていたらしく、自分からついていくと言ったので一緒に連れてきている。
使用人たちは別の馬車にいて、この馬車には私一人だけなので、大きな声さえ出さなければ、たとえ百面相してしまっても問題はない。
『当たり前だろ。あの王子ほどの実力があるならともかく、この国の騎士のレベルはたかが知れている』
『ライから見ても強いんだ、エルクトお兄さまって』
女神のリルディナーツさまからの指示で、ライやペンダントが神器であることは秘密にしてある。
でも、以前の盗難騒動がきっかけでエルクトお兄さまには知られてしまった。
『さすがに神器に勝つことはできないだろうが、時間稼ぎくらいならできるんじゃないか。その時の状況にもよるだろうが』
『そうなんだ……』
お兄さまたちが戦っているところを見たことがないからあまり実感がなかったけど、神器であるライがそう言うのなら相当な実力者なのだろう。
私なんて、神器があっても勝てないかも。
『否定できんな』
『自分で思っておいてなんだけど、否定してくれない?』
そこはパートナーとして励ましの言葉をくれてもいいじゃないか。
『俺は嘘はつかないもんでな』
『さいですか』
『会話はそろそろやめたらどうだ? 着いたみたいだぞ』
ペンダントの言葉に、私は馬車の窓から外を見る。窓の外には、武器らしきものを持っている人影が何人か見えた。きっと騎士たちだ。
馬車の動きもだいぶゆっくりになっているようなので、そろそろ止まろうとしているのだろう。
『よくわかったね』
ライとは違って、ペンダントは視覚がない様子なのに。初対面の時も、ライのことは声で判断していたみたいだったし。
『人の気配や魔力を感じたからな。急激に数が増えたらわかる』
『へぇ~。ライもできるの?』
『ああ』
ライは当然という風に頷く。まぁ、以前も神器の気配を感じ取れてたから、それを人に置き換えているだけだと考えればできそうだよね。
神器たちと話しているうちに、ついに馬車が止まり、ドアが開く。外にはヒマリを筆頭に使用人たちが両サイドに控えていた。
「アナスタシアさま、どうぞ」
「ええ」
ヒマリが差し出した手を取り、私は馬車を降りた。
学園終わりで疲れているけど、もう少しお姫さまモード頑張りますか!
翌日。学園が終わった後、私はヒマリを連れて厨房に顔を出していた。
騎士団に顔を出す前に、いろいろとやっておきたいことがあったためだ。
「ルック。少し相談があるんだけど」
「なんでしょう、アナスタシアさま」
夕食の準備をしていたであろう料理長のルックさんが、鍋の前から離れて入り口にいる私のもとまで来る。
「明日、学園が終わったら騎士団のところに顔を出す予定なんだけど、何か差し入れを持っていきたいの」
今後自分の身の安全を任せることになるなら、印象をよくしておいたほうがいい。できることはやってみるべきだ。兄姉の誕生日にチーズケーキを差し入れした時も好評だったし。
「差し入れ……ですか」
ルックさんは頭を悩ませている。おそらくは、食材の在庫と相談しているのだろう。
騎士団は人数が多いから、食材の消費量も多い。
特にこの厨房では、以前にチーズの誤発注事件があってから、食材の管理にはかなり気をつけている。数が間違っていないかダブルチェックもしているらしいし、食材は必要最低限しかない。
使わない食材を買ったところで腐らせるだけだし、あまり多くの食材を購入すれば横領を疑われかねないから、多く仕入れるメリットもないしね。
「では、アナスタシアさまの考案されたサンドイッチはどうでしょう?」
「なら、野菜よりもお肉や卵を中心にしてくれる?」
騎士団は訓練で常に体を動かしているから、食べ物はエネルギー源になるもののほうがいいだろう。
特に、今はお兄さまたちが直接訓練しているらしいから、死にかけている人がいてもおかしくないし。
「かしこまりました。翌日、アナスタシアさまの部屋まで届けさせます」
「ありがとう。お願いね」
私は軽く手を振って厨房を後にする。
「後は……使用人か」
騎士団全員に差し入れとなると数が多くなりそうだから、連れていく使用人の数は増やしたほうがいいだろう。
でも、ザーラがいなくなってからは、私の侍女はヒマリとフウレイしかいない。さすがに二人で運びきれるとは思えないから、もう三人くらい追加したほうがよさそう。
「ヒマリ、明日連れていける使用人って誰がいるかな?」
「そうですね……アナスタシアさまと交流の多い者でしたら、ロジー、グレース、ラフィニアは手が空いているかと」
ロジーはよく私の部屋を掃除している使用人。グレースは私にお菓子を差し入れしてくれる使用人。ラフィニアはヒマリと一緒に着替えを手伝ってくれる使用人である。
彼女らは、シュリルカお母さまの使用人総入れ替え以前からこの離宮に勤めている、古参の使用人たちだ。身分の問題で私の侍女にはなれていないけど、それさえなければ私の侍女にしても問題ない人柄と技術を持っている。
「じゃあ、その人たちとフウレイに声かけておいて。一緒に騎士団まで来てもらうから」
「かしこまりました」
これで荷物持ちゲット! さすがに五人もいれば人手は充分だろう。
後は、当日の服装を決めなければ。さすがにいつものシンプルなドレスは王女としての威光はないだろう。
だからといって、豪華すぎても動きにくい。さすがに騎士団のところまでは馬車で移動するだろうけど、あまりに動きにくいと余計な疲れが出そうだ。ただでさえ疲れしかない学園生活の後に行くわけだし。
豪華なドレスは着なれていないので、裾を引っかけるなんてこともありそう。
「ヒマリ、何を着ていけばいいかな」
ポンコツ頭脳で考えても答えは出ないので、優秀な侍女に助けを借りることにした。
ヒマリなら会話の流れで騎士団に行く時の服装を聞いていることはわかってくれるだろう。
「そうですね……では、衣装室のほうに行ってみますか?」
「うん」
衣装室は最近私の離宮にできた新しい部屋である。
以前は、資金の横領などから充分な服を買い揃えることができず、クローゼットに数着しかなかった。けれど、自由に資金を利用できるようになり、王女として充分な数のドレスを揃えることができるようになってからは、一部屋をまるまる衣装室にして収納しているのである。
厨房から歩くこと約五分。衣装室に着いた私は入り口付近で待機し、ヒマリは部屋の中でドレスを観察している。
衣装室は私の私室の隣に位置しているので、おそらく隣では、ライがのんびりとくつろいでいるだろう。
表向きには大人しいペットを演じてくれているから、問題行動を起こすことはないと信じたい。
『お前は俺のことをなんだと思ってるんだ』
「き……」
声が出そうになったところでヒマリがいたのを思い出して、私は慌てて口を塞ぐ。
ヒマリのほうを見ると、ドレスを選ぶのに夢中になっているのか、私が声を出したことには気づいていないみたいだ。
隣の部屋にいても念が届いていたのは驚いたけど……ひとまず、これだけは言っておかないと。
『ちょっと、いきなり話しかけてこないでよ! びっくりするじゃん!』
私がライに対して抗議をするも、ライから返事は返ってこない。
その代わりというか、ペンダントのほうから返事が返ってくる。
『どうせ君がまた失礼なこと考えたんだろ』
契約していないため、私の思考が読み取れず推測の域は出ていないみたいだけど、そうに決まってるかのような言い方に、私は少しムッとする。
『そんなことしてないよ』
『いや、お前問題行動がどうとか思ってただろ』
ライが間髪をいれずに私の発言を否定してくる。
それはすみません。でも、私に対しての日頃の行いを考えたら、そう思うくらいは仕方なくない? いっつもバカって言ってくる生意気なペットの心配くらいして当然でしょ。
『俺がお前をバカ呼ばわりするのは、本当にバカな行いをした時だけだ。呼ばれたくないならもう少し頭を使え』
ライはふんと小馬鹿にするように言う。
ぐぬぬ……! 散々な評価を受けているのに、自覚があるから言い返せない……!
即断即決の気がある私は、客観的に見たら行き当たりばったりにしか見えないだろうからなぁ……もう学園にも通い始めたし、もう少し考える力を身につけておかないと。
『君がバカかどうかはどうでもいいけど、あまり百面相してたら侍女に警戒されない?』
『一応、表情に出さないようにはしてるよ』
ペンダントにはそう言うものの、少し不安になった私は、ヒマリの様子を窺う。
ヒマリはというと、ドレスとにらめっこしていたけど、私の視線に気づいたのかこちらと目を合わせてきた。
「アナスタシアさま。こちらはいかがでしょう?」
「どれ?」
私はヒマリのほうに駆け寄る。ヒマリが見せてくれたのは、紅梅色のドレスだ。
華やかな色合いではありながらも、華美すぎない。そして、今の季節は春。季節にも合った色といえる。
さすがは毎日私の着替えを手伝っている侍女なだけあって、服のセンスは私よりも数段上だ。
「うん。これでいいよ」
「かしこまりました。当日はこちらを準備いたします。アクセサリーはどういたしますか?」
「別にそのままで……」
そこまで言ったところで、私はハッとなる。ドレスを変えるんなら、アクセサリーも別のものにしないといけないじゃん!
いつも使っている緑のリボンじゃ、この紅梅色のドレスには合わない。それなら、リボンの色を変える? 探せばこのドレスに合う色合いのリボンはあると思うけど……
『そんなものより、長時間外に出るなら帽子か日傘を用意すべきだろ。王女が日焼けするのはまずいんじゃないのか?』
ライからの冷静な指摘に、私は再びハッとなる。今まで外に出る時は使ってなかったから完全に抜けてたよ、あはは。
『……なるほど、確かにバカかもしれない』
ペンダントが冷静に呟く。
そんな真面目っぽいトーンで言うことではない! そもそも、バカかどうかはどうでもいいんじゃなかったの!?
「……ヒマリ。帽子か日傘を用意しておいてくれれば、アクセサリーはなんでもいいよ」
失礼な神器にいろいろと言いたいことはあったけど、今はぐっと飲み込んでヒマリに要求する。
「かしこまりました。当日までに必ずご用意させていただきます」
ご用意ってことは、今はないのか。二日で帽子や日傘って用意できるものなのかなと思うけど、ヒマリはできないことはできないと口にするタイプなので、用意すると言いきっているなら大丈夫だろう。
「それじゃあ、そろそろ部屋に戻るね。ちょっと疲れちゃった」
ペンダントへの追及とか、ライへの八つ当たりとかいろいろとやらないといけないことがあるからね……!
疲れてるのは本当だけど。
『おい! 俺への八つ当たりってなんだ!』
私の思考を読み取ったであろうライが抗議をしてくる。
私は慌てることなく脳内で返事をする。
『大したことないよ。ちょっとモフモフさせてもらうだけだから』
『それはやめろっていつも言ってるだろ! そもそも俺は関係ないだろうが!』
『最初に私をバカ呼ばわりしたのはライでしょ』
決して、ただ癒されるためにモフモフしたいとかそういうわけではない。これは、生意気発言に対する私なりの抗議なのだ。
『絶対に最初のが本音だろ……!』
そうボソッと呟く声が聞こえた気がしたけど、私は意気揚々と私室に戻った。
部屋に戻った私は、ライをモフモフしていた。もう諦めているのか、特に抵抗されることはない。
『それで、あなたはどこで私をバカだと判断したの?』
『中身』
ペンダントは簡潔に答えた。
いや、それはわかってるって! 私の中身のどこをどう判断したのか聞きたいんだよ!
『それがわからないところかな』
こいつ……! 下手すればライよりもイラッとする……!
『おい、強く握るな! 痛いんだよ!』
『あっ、ごめん』
無意識のうちにライをモフモフする手に力がこもっていたようで、ライからクレームが飛んでくる。
私はすぐさま力を緩めた。ライはふんと鼻息を荒くするも、その場で大人しくしてくれた。
こういう時に逃げ出そうとしたり、離せって言ったりしないのがライの優しいところだよね。
『それでやめるんだったら、いくらでもやってやるよ』
『絶対にやめません』
学園での疲れを癒すには、このモフモフしかないんだ……!
あの無機質な剣状態からは想像できないようなサラサラでツヤツヤなモフモフ具合。
これで明日も頑張れるというものだ。
いくら中身が成人しているからといって、友だちがいなくて隣の人とも相性が悪い学園生活は、辛いとまではいかなくても、精神的に疲れて仕方ない。
お城に戻っても、私室以外にリラックスできる場所はないし。
『それの何が楽しいんだか』
ペンダントが呆れたように言う。
ふふん、なんとでも言うがよい。毛並みの手触りを味わうための手がないあんたには、この極楽浄土がわからんのだ!
『多分、お前のところの家族にも共感する奴はいないと思うが』
私の脳内思考に対して、ライが冷静にそう答える。
『さすがにそんなことは……』
ない、と言いきれなかったのはなぜだろう。いや、答えは決まってる。これでもあの家族と六年間過ごしてきたから、なんとなくわかる。
あの家族が愛情を向けてる相手って私しかいないからだ。
お父さまやお母さまたち、ヴィオレーヌお姉さまやエルクトお兄さまはそこまででもないけど、ルルエンウィーラさまや他の兄姉たちが私のことを猫可愛がりしてることは私にもわかる。
でも、他の兄姉間ではそんなことはしてないみたい。仲が悪いわけではなさそうだけど。
『いや、仲は悪いと思うが』
ライがすぐさま否定してきた。
『でも、食事会の時もよく話してるよ?』
不定期に行われる食事会は、全員の都合に合わせるため、一ヶ月に二~三回くらいのペースだけど、まったく会話のなかった食事会というのは存在しなかった。
話す内容は政治や交遊関係に関することがほとんどだけど、近況報告とかもしているし、空気が悪くなるようなこともなかった。
『それはお前の前だからだろ。お前がいないと常に吹雪が吹き荒れてるような奴らだぞ』
『なんでそんな風に言いきれるの』
まるで、実際に見たことがあるかのような言いぐさだ。
『見たことあるからな』
『えっ!? いつ?』
私の記憶では、ライは基本的に私の私室にこもりきりで、外出すると言えば私が着替えをする時だけ気を遣ったように部屋から出ていくくらい。それも、一時間もしないで帰ってくるし。
『その一時間もしない外出の時にな』
『お姉さまたちのところまで行ってたの?』
私の離宮は、お姉さまたちの離宮とはそれなりに距離がある。一番近いルーカディルお兄さまのところにも徒歩で十五分くらいかかるし。
わざわざライがそんなところまで出向くものなのだろうか。
『いや、この離宮の前まで来てたんだよ。お前の記憶から考えるに、ルナティーラとハーステッドって奴だ。下手に絡まれるのも面倒だし早々に引き返したから会話は聞いてないが……空気は寒々しかった』
ライがそう感じるくらいなら、通りかかった使用人などは生きた心地がしないんじゃないだろうか。食事会の時は世間話するくらいの仲ではありそうだったんだけどなぁ……あれは見せかけだったのかな?
『そんな一家からどうしてこんな能天気な奴が生まれたんだ?』
呆れたように言うペンダントの疑問に答えたのはライだった。
『前世からバカだったのかもしれないな』
『なるほど』
『ちょっと! 失礼な納得しないで!』
一応まともに社会人してましたから!
前世の記憶を丸々思い出したわけではないけど、自分の生活の概要くらいは覚えている。
仕事は激務だったし、友人や家族とは疎遠だったけど、一応真面目に生きてましたから!
『"一応"なんてつけてる時点でダメだろ』
ライの冷たい一言に、完全にノックアウトされた私であった。
◇◇◇
騎士団への顔出し当日。学園から戻った私を待っていたのは、目を爛々と輝かせたヒマリとフウレイだった。今日一緒についてきてもらうロジー、グレース、ラフィニアもいる。
ベッドの傍らでは、なぜかライから同情の視線を感じた。
「あの……いつもとなんか違わない?」
「久しぶりにアナスタシアさまを着飾れるのです! やる気も出てくるというものですよ!」
ヒマリが力強く答える。
「さあこちらにおいでください! 時間がありませんから!」
私を呼ぶラフィニアの側に近寄ると、ラフィニアが丁寧に私の制服を脱がしていく。別に制服を脱ぐのに人の手を借りる必要はないんだけど……みんなのやる気を削ぐのもなんだし、とりあえず体を預けることにした。
ライはいつの間にか部屋からいなくなっている。行動が早いな。
私の制服を脱がせると、今度はドレスを着せてくる。ヒマリがチョイスした紅梅色のドレスだ。
私の地味な容姿ではドレスに着られている感があるものの、地味な王女という印象を与えるよりはマシだろう。
ドレスを着終えると、次はヒマリが私をドレッサーの前に座らせて、髪を櫛で梳かし始めた。
「本日は帽子を着用されますので、ヘアスタイルを変えさせてもらいますね」
さすがにいつもの両サイド三つ編みスタイルはリボンが邪魔だもんね。
「具体的にどうするの?」
「二つ結びにしようかと。リボンはこちらを使わせていただきます」
ヒマリが見せてくれたのは、マゼンタのリボンだった。確かに、紅梅色のドレスには合う色合いだろう。
でも……ますますドレスに着られている感が強まるな。私の地味な容姿じゃほとんどそうなるんだけども。
ヒマリは手慣れた手つきで私の髪を整えていく。そして、あっという間に私の髪を二つ結びにしてしまった……みたい。
というのも、その時の私は疲れからか眠たくてうつらうつらとしていたので、はっきりと完成形を見ていなかったのだ。
ヒマリから「終わりましたよ」と声をかけられてようやく意識が覚醒したほどだ。
私は、目の前の鏡を覗き込む。
「わぁ……なんか新鮮」
いつもは緑系統のドレスを着ているから、正反対の赤系統のドレスは本当に新鮮だった。普段と比べて、大人っぽさが増しただろうか。
「帽子や日傘は?」
「帽子はこちらをお使いください」
ヒマリが見せてくれたのは、淡いピンク色で可愛いけど、見たことのない形のものだった。
「これ、なんて帽子?」
「ボンネットというものです。このように使います」
ヒマリはボンネットを頭に載せて、両サイドについていた紐を顎の下で結んだ。
私は、改めて鏡で自分の姿を見てみる。先ほどは大人っぽかったような気がしたけど、このボンネットによって可愛らしさが追加された。
六歳にはこのくらいがちょうどいいな。ドレスに着られている感満載なのは変わらないけど。
「そのペンダントもつけていきたいんだけど」
私はベッドの傍らにあるミニテーブルに置かれたペンダントを指差す。
先ほど制服を脱がされた時に、ペンダントもさりげなく外されていたのだ。
「かしこまりました。ロジー、こちらに渡して」
「は、はい」
ヒマリは側にいたロジーに指示を飛ばしてペンダントを回収する。
そして、私の首に手を回してペンダントをかけてくれた。ペンダントを身につけたい理由を聞かれたらどうしようかと思ったけど、杞憂に終わったみたいだ。
すべての準備が終わったところで、私は深く息を吐いて、ヒマリに声をかけた。
「じゃあ、行こうか」
「はい、アナスタシアさま」
さぁ、騎士団にレッツゴー!
私の離宮から騎士団の訓練所へは、馬車で移動する。
同行する人数が多いというのもあるけど、一番の理由は距離があるから。この国の騎士団は魔法の訓練も行うため、安全を考慮して私の離宮からは離れた場所に位置しているのだ。
『護衛騎士にも、神器のことは話さないほうがいいんだよね?』
私は膝の上にいるライに声をかける。
ライは置いていこうかと思ったけど、部屋の外でわざわざ待っていたらしく、自分からついていくと言ったので一緒に連れてきている。
使用人たちは別の馬車にいて、この馬車には私一人だけなので、大きな声さえ出さなければ、たとえ百面相してしまっても問題はない。
『当たり前だろ。あの王子ほどの実力があるならともかく、この国の騎士のレベルはたかが知れている』
『ライから見ても強いんだ、エルクトお兄さまって』
女神のリルディナーツさまからの指示で、ライやペンダントが神器であることは秘密にしてある。
でも、以前の盗難騒動がきっかけでエルクトお兄さまには知られてしまった。
『さすがに神器に勝つことはできないだろうが、時間稼ぎくらいならできるんじゃないか。その時の状況にもよるだろうが』
『そうなんだ……』
お兄さまたちが戦っているところを見たことがないからあまり実感がなかったけど、神器であるライがそう言うのなら相当な実力者なのだろう。
私なんて、神器があっても勝てないかも。
『否定できんな』
『自分で思っておいてなんだけど、否定してくれない?』
そこはパートナーとして励ましの言葉をくれてもいいじゃないか。
『俺は嘘はつかないもんでな』
『さいですか』
『会話はそろそろやめたらどうだ? 着いたみたいだぞ』
ペンダントの言葉に、私は馬車の窓から外を見る。窓の外には、武器らしきものを持っている人影が何人か見えた。きっと騎士たちだ。
馬車の動きもだいぶゆっくりになっているようなので、そろそろ止まろうとしているのだろう。
『よくわかったね』
ライとは違って、ペンダントは視覚がない様子なのに。初対面の時も、ライのことは声で判断していたみたいだったし。
『人の気配や魔力を感じたからな。急激に数が増えたらわかる』
『へぇ~。ライもできるの?』
『ああ』
ライは当然という風に頷く。まぁ、以前も神器の気配を感じ取れてたから、それを人に置き換えているだけだと考えればできそうだよね。
神器たちと話しているうちに、ついに馬車が止まり、ドアが開く。外にはヒマリを筆頭に使用人たちが両サイドに控えていた。
「アナスタシアさま、どうぞ」
「ええ」
ヒマリが差し出した手を取り、私は馬車を降りた。
学園終わりで疲れているけど、もう少しお姫さまモード頑張りますか!
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