私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!

りーさん

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2巻

2-2

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 ◇◇◇


 結局あの後、シルヴェルスお兄さまとルーカディルお兄さまがともに乗るということで決着し、なんとか出発することができました。
 なんで、学園に行く前からこんなに疲れなくちゃいけないんだ。

「アナ、制服可愛いね~。似合ってるよ」

 向かい側に座っているシルヴェルスお兄さまからお褒めの言葉をいただいて、私はにこりと笑う。

「ありがとうございます。シルヴェルスお兄さまも可愛いですよ」
「えっ!? 可愛いなの? かっこいいじゃなくて?」
「可愛いです!」

 私が可愛いと言い張ると、シルヴェルスお兄さまはしょんぼりとする。
 男だから、可愛いよりもかっこいいのほうが嬉しかったのかもしれないけど、本当に可愛いだもん。嘘をつくことはできないからね。

「……アナ。俺は……?」

 服をぐいぐいと引っ張りながら、ルーカディルお兄さまが尋ねてくる。
 少し遠慮がちになっているからか、上目遣いで。
 ちょ、近い近い近い! ルーカディルお兄さまの顔で制服に上目遣いは死ぬ! 尊死する!

「ルーカディルお兄さまは尊いです……」
「尊い……?」

 ルーカディルお兄さまは訳がわからないといった顔をする。そんな顔も尊いです。
 ルーカディルお兄さまはもしや、神の使いなのではないだろうか!
 その瞬間、私の胸元にじんわりと熱が広がる――って熱い! じんわりどころじゃない! やけどしそうなくらい熱い!
 私が熱を感じたところを押さえると、そこには首から下げたペンダントが。
 もしかして、このペンダントが何かした……? ライがいないと会話できないから、真相を確認できない。でも、熱を発したなら友好的なものではなさそうだ。

「アナ、緊張でもしてるのか」

 私の顔をのぞむようにしてルーカディルお兄さまが尋ねてくる。
 だから近いって!

「だ、大丈夫です」

 本当になんてことないはずなのに、お兄さまの顔面接近のせいで少し動揺してしまう。
 学園に行くことには緊張しないよ。交流はしたくないけど。

「さっき、胸を押さえてたよね? 本当に大丈夫?」

 シルヴェルスお兄さまがひょいと身を乗り出してくる。私は反射的に拳を強く握りしめた。

「本当に大丈夫です!」
「……ならいいが、そんな調子で側近が見つかるのか?」
「そっきん……?」

 はて、なんですかそれは。私の推測が正しければ、側近って意味だと思うけど……

「えっ!? 兄上や使用人たちから聞いてないの!?」

 私が首を傾げていると、シルヴェルスお兄さまが驚愕きょうがくの声を上げる。
 私がこくんとうなずいて肯定すると、シルヴェルスお兄さまは、はぁとため息をついて教えてくれた。
 いわく、側近というのは、王族や公爵家のような上級貴族の者などが従える、貴族の専属部下のことらしい。優秀な側近を持つことは上級貴族のステータスの一種で、基本的に主となる者が候補者をスカウトする。実力を見せたり、交渉したりと、スカウトの方法は様々ではあるが、共通しているのは、側近の認定は双方の合意のもとでしか行えないことだ。
 また、公式にその関係を認めさせる場合には、第三者の立ち会いが必要らしい。
 これは、力を持たない下級貴族が不当に従わされるのを防ぐための慣習らしく、これに背いたことが発覚すると『カルツァーの猿真似』とバカにされるそうだ。
 カルツァーというのは、リカルド先生の授業で聞いた。
 昔、この国に存在していた侯爵家の名前。国内最大級の派閥を誇っていたけど、派閥に引き入れる方法がなんとも強引なものだったとか。いろんな人の弱みを握って従わせるなんてのは当たり前で、従わないと家を取り潰すと言うなど、職権乱用のような行いもしていたそうだ。
 限りなく黒に近いというのに、決定的な証拠が見つかるまで、当時は罪に問うことすら難しかったらしい。
 ちなみに、彼らを裁けなかった理由としては、当時の情勢も挙げられる。
 実は、アルウェルト王家がここまでチートな一家になったのは、わりと最近の話で、昔はそこまででもなかったというか、むしろ弱かった。
 だからこそ、国の防衛も担っている貴族を一度に大勢消してしまうようなことがあれば、国力が落ちてしまう。つまり、隣国にとっては侵略のチャンスになるので、疑わしいという理由だけでは罰することができなかったのだ。
 まぁ、それでズルズルと流されていた結果、国が傾きかけたらしく、ようやく証拠が見つかったというか、見つかってしまったため処刑した……なんて歴史があるそうだ。
 結局、その時に多くの下級貴族たちも処刑され、国力がガクンと落ちた。
 それも、カルツァーのように欲にまみれていたというわけではなく、上からの圧力により共犯にされたり、罪を着せられたりした者もいたらしい。そのようなことを引き起こさないように、今日のような慣習が生まれたとか。
 話を戻して、側近についてもう少し詳しく聞いてみる。

「お兄さまたちにも側近っているんですか?」
「まぁ、使えそうなのはそれなりに見当をつけてるけど……正式なのはいないよ」
「俺もいない……他の兄上たちもいないだろう」

 シルヴェルスお兄さまもルーカディルお兄さまも首を横に振っている。

「それなら、私も……」

 別に作る必要ないのでは、と言う前に「アナは例外だから」とシルヴェルスお兄さまに否定されてしまった。

「アナは自分の立場を盤石ばんじゃくにするためにも、側近を見つけたほうがいいよ。同意のもとで得るわけだから、大抵の側近は主の味方だし、優秀な側近がいればアナの威光を外に示すことにも繋がるからね」
「それはそうかもしれませんけど……」

 お兄さまたちを差し置いて私の側近になりたがる貴族なんていますかね……
 そんな本音は、そっと心の内にしまった。


 少し不安を抱える私を乗せて、馬車は学園に到着した。馬車の窓から外の様子を窺うと、同じ制服を着た子女たちが歩いている。
 馬車が他にも来ているのかはわからないけど、すべての貴族が通うという割には歩いている人が少なすぎる気もするので、馬車通学の者もいるのだろう。

「アナ、行こうか」

 馬車が止まると、シルヴェルスお兄さまが手を差し出してくる。エスコートだ。
 まだ社交のマナーは学び始めたばかりなので、わからないところはあるけど、さすがにこれはわかる。
 ルーカディルお兄さまは、我先にと降りていた。マイペースなところがあるよね、ルーカディルお兄さまは。
 シルヴェルスお兄さまの手を取って馬車から降りると、こちらに注目が集まっていることに気づいた。
 まぁ、王家の紋章入りの馬車を隠しもせずに来たし、王族が一斉に登校してたらそうなるよね。
 王族が通るからか、広がって歩いていた人たちは、それぞれ左右に散って道を開ける。
 お兄さまたちが遠慮なく歩いていくので、私もお兄さまたちの後をついていった。
 なんかいたたまれないなぁ。
 さっさと立ち去りたいと思いながら早歩きしていると、周囲から妙に視線を感じる。
 うん? と思いながら周囲を注意深く見ていると、道脇に立つ生徒たちが何やらこそこそと話しているのに気づいた。
 何を言ってるんだろう?
 そう思ってその人たちの会話に耳を傾けると。

「ねぇ、あの地味なのが末の王女殿下?」
「全然美しくないじゃない」
「魔力もまったくないそうよ」

 私の陰口を叩かれまくってました。私じゃなくて、お兄さまたちにきゃあきゃあ言っててよ、お嬢さんがた。

「なんでアルウェルト王家にあんなのが生まれたんだ?」
「噂じゃあ、神から呪われたかららしいぞ」

 反対側では、殿方が何か怖い話をしている。そんな噂があったの初耳なんですけど。
 まぁ、神さまから神器を直接もらってるわけだから、祝福はされても呪われることはないと思うけどね。
 こんなんじゃあ、側近なんてできそうにないなぁ。学園生活、どうなることやら……


 ◇◇◇


 永遠に続くかのように思えた入り口への道を通り抜けて、ようやくわたしは教室へと向かうことができた。
 お兄さまたちは心配そうだったけど、いつまでも頼ってるわけにもいかないしね。
 中級クラスである私は、上級クラスのお兄さまたちを気軽に頼れない。
 ちなみに、クラス分けは身分や入学試験での実力などを考慮して決められる。魔力なしの私は本来下級のところ、身分と座学だけで中級クラスの仲間入りをした。
 そして、この無駄に広い学園では、クラスによって別の学舎があり、基本的に自分よりも上のクラスの学舎には立ち入り禁止である。
 理由は単純で、危険だからだ。クラス分けの基準の一つに魔法の実力があり、カリキュラムに一番大きな差があるのも魔法である。
 上級クラスには、お兄さまたちのような強い魔法使いがわんさかいるので、不用意に近づけばどうなるのかはお察しである。上級クラスの魔法に中級クラスや下級クラスが対処できるわけもないので、安全を考慮して、許可のない立ち入りは禁止されているというわけ。ちゃんと許可を得て、上級クラスの誰かを伴えばセーフ。
 なので、私も自分から上級クラスの学舎に行くつもりはない。
 それ以前に、気持ちの問題で行きにくいのだ。
 私は、中級クラスの一員として学園を謳歌するのである。
 なお、ほぼすべての貴族が通うこの学園は、当然ながら在籍する生徒の数も多くなるので、教師が教えやすいよう、クラスの中でも細かく区分がある。下級、中級、上級と分かれているけど、そこからさらに一組、二組と枝分かれしている感じ。
 表記するなら、一年一組【中級】かな。
 ちなみに、私は一組である。王族から身分順に振り分けるらしいので、ほとんどの王族は一組だろうけど。
 しばらく歩いて、教室に着いた私は、そっと扉を開ける。中には、すでに数人の生徒がいた。

「ごきげんよう」

 ひとまず背筋を伸ばして、王女らしい挨拶をしてみたけど、皆は軽く会釈してくれるだけで、すぐに目をそらされた。
 あれ~、おかしいな? 私は王女なんだから、せめて挨拶はちゃんと声を出して返すべきじゃないの?
 ……もしかして、められてますか? お兄さまたちがいない私など怖くないと? ふーん。ほーん。
 それならばと、私も視線を合わせずに席に座る。
 学園を謳歌すると言ったな? あれは嘘だ。こんな無礼な子たちしかいないのであれば、こっちもぼっちを貫いてやる! 側近なんて知らん!
 学園の席も少女式の時と同じように身分順なので、私の席は一番前の右端だ。この位置は居眠りできない位置だし、先生の視界に入りやすいから好きじゃない。
 この際だし、真面目に勉強してクラス一番の成績を取ってやろう。私のことを舐めているお子ちゃまたちに目にものを見せてやるのだ!
 幸いにも王族の学習は進んでいて、入学前に受けた試験でも、私はそれなりに優秀な成績を収めることができた。
 ……それなりというのは、暗記科目でちょいちょいとつまずいたからである。

「ねぇ、あの人って……」
「うそ、このクラスなの……?」

 私が今後の学園生活の計画を立てていると、なにやら教室が騒がしくなる。
 うん? と思って声のするほうを見ると、女子生徒が一点を見ながらひそひそと話しているようだった。その女子の視線を辿たどってみると、入り口に立っている男子を見つけた。

(カッコいいなぁ……)

 第一印象はそれだった。普段見てるのがあのお兄さまたちだから、きゃあきゃあ言ったりはしないけど、きれいな顔立ちの子だ。
 見た目からして貴族っぽいけど、このクラスに来るってことはあまり高位の貴族じゃないか、私と同じ魔力が少ないかのどちらかかな。
 そんなことを考えながら彼のことを観察していると、彼はまっすぐこちらのほうに向かってくる。
 そして、私の左隣に腰かけた。どうやら、このクラスで私の次に身分が高いみたいだ。

「……なんか用か?」

 じっと見ているのが気になったのか、抗議するような視線を向けられる。

「いえ、注目を集めていたので気になっただけです」
「……あんたほどではないと思うが」
「私はそんなに注目されてませんけど……?」

 お兄さまたちは大注目だったけどね。

「あんた、噂の第三王女さまだろ? 魔力がまったくない無能で地味な王女だって有名だ」

 フンとバカにしたように彼は言う。普通ならムカつくはずなのに、なぜか怒りが湧いてこない。なんか、その言葉に気持ちがこもってないような気がして本当にバカにされてるとは感じなかった。
 むしろ、挨拶を無視してきたクラスメイトのほうが腹が立ったくらい。でも、だからって何も言わないわけにはいかない。

「無礼な方ですね」

 私がそう言うと、彼の眉がピクリと反応したけど、それ以上の反応は見せない。

「魔力がないのも、兄姉に比べて華美でないのも事実ですので否定しませんが、無能という言葉は取り消してください。言葉遣いも直してください」

 魔力がないと言われるのはいい。地味だと言われるのもいい。だって事実だから。でも、バカにしたり、舐めた態度を取ったりするのは王族としていましめないと。

「……申し訳ございません、王女殿下。無礼を謝罪いたします」

 椅子から立ち上がり、その場にひざまずくようにして謝罪してくれた。
 それができるなら最初からやってほしいんだけど。

「反省しているのなら結構です」
「寛大なお心に感謝します」

 私が許しの言葉をかけると、彼はお礼の言葉を述べて、再び席に座り直した。隣の席の人とは普通以上の関係を築きたかったんだけど、これは無理だな、うん。
 謝罪にも誠意が感じられない形だけな感じがするし。私は、小さくため息をついた。この人が隣だということに、一抹の不安を抱えて。
 学園初日が終わり、帰りの馬車に揺られる。帰りはルナティーラお姉さまとハーステッドお兄さまと一緒だ。

「アナ、浮かない顔だけどどうしたの?」

 私の隣に座っていたルナティーラお姉さまが心配そうに顔を覗き込む。

「初めての学園に疲れちゃって」

 本当に、いろいろと疲れた。クラスメイトからは遠巻きにされるし、隣の席の子とは相性が悪そうだし……
 せっかくの学園だから、友だちの一人くらい作りたかったけど、ハードルはかなり高そうだ。あの人たちと一年間同じ教室なのかと思うと憂鬱でしかない。

「お姉さまたちはどうだったんですか? 新しいクラスは」

 私が入学するということは、お姉さまたちは進級するということ。

「あまり代わり映えはしないわ。数人が入れ替わったくらいかしら?」

 ルナティーラお姉さまに続き、ハーステッドお兄さまが説明する。

「クラス替えといっても、魔法の実力はそう簡単にくつがえらないからね。身分もまず変わらないし」

 どうやら、クラス替えとは名ばかりで、実際はそのまま繰り上げる形のようだ。
 それなら、クラス替えで心機一転というのは難しそうだなぁ。今のクラスを少しでも居心地よくしなければ。

「お姉さまたちは、またすぐに授業を終わらせてお城に戻るんですか?」

 そんなことができるハイスペックさが、今はものすごく羨ましい。
 私もできることならそうしたいけど、私のポンコツ具合では絶対に無理だ。座学はなんとかなったとしても、魔法でつまずく未来が見える。

「授業は終わらせるつもりだけど、お城には戻らないわよ?」
「えっ? なんでですか?」

 去年まではずっとそうだったのに。
 もしかして、今からでも社交に力を入れるつもりなのだろうか?

「城に戻ったら、学園にいるアナに会えないじゃん」

 さも当然かのようにハーステッドお兄さまが言う。
 そんな当たり前でしょみたいに言われましても。

「アナとは一緒に行って一緒に帰りたいもの」

 隣にいるルナティーラお姉さまもニコニコと同意する。
 えっ? 私の感性がおかしい?

「そ、そうですか……」

 肝心の私は、苦笑いすることしかできなかった。



 第二章 王国の騎士団


 離宮に戻った私は、制服から通常のドレスに着替える。まだ初日だというのに、どっと疲れた。

『あれだけ制服ではしゃいでたくせにだらしねぇな』
「制服は可愛いよ。でもそれと人間関係は別の話なの!」

 私のベッドの傍らでくつろいでいたライに呆れられるも、私は語気を強くして返す。
 制服は可愛い。その思いは今も変わってないし、可愛い制服が着られるというだけで登校するモチベーションにはなっている。
 でも、人間関係という、学園生活を送る中で重要な問題がのしかかってくるのだ。許されるなら保健室登校とかしたいよ。あの学園にあるのかはわからないけど。

『よくわからないが、君は王女なんだろう? 無駄にへりくだる必要はないんじゃないのか?』
「それとコミュニケーションはまた別なの」

 胸元にかかっているペンダントに視線を向けて返す。
 ライが側にいるので、ペンダントとも会話が可能だ。

「アナスタシアさま、少しよろしいでしょうか」

 扉がコンコンとノックされ、誰かが声をかけてくる。
 この声は、ヒマリかな。

「どうぞ」

 私が入室の許可を出すと、静かにドアが開く。入ってきたのは予想通り、ヒマリだった。

「国王陛下から、近いうちに騎士団の本部に顔を出すようにとのお達しです」
「騎士団? どうして?」

 本当に心当たりがなくて首を傾げると、ヒマリは嬉しそうに言葉を続ける。

「アナスタシアさまの護衛騎士をお決めになるそうですよ」
「護衛騎士!?」

 確かに、お兄さまたちからそんな話はあったけど、思ったよりも早いよ!? ついこの間、思ったよりも使えないから先延ばしにしたとか言ってませんでした?
 いや、その時から一年近くになるし、早くはないのか……?

「わ、私はその人たちのこと知らないよ?」
「あっ、いえ、まだ候補を決めるだけだと聞いております。言葉不足で申し訳ございません」
「そ、そっか」

 それならちょっと安心……なのか? いや、候補だとしても、初対面の人に自分の身の安全を任せることになると思うと、やっぱり不安だ。
 それに、護衛騎士の選び方も私はよくわかっていない。
 この世界の護衛騎士は、主の足りないところを補うのが役目だ。しかし騎士と一言で言っても、攻撃に特化したタイプや防御に特化したタイプ、支援に向いたタイプなど多種多様に存在する。その中で、自分に合ったタイプを見つけないといけないのだが、それが存外に難しい。
 お兄さまたちが今まで騎士を置いていなかった理由はここにあるだろう。お兄さまたちのようにオールマイティーでなんでもこなせちゃうと、欠点の補強が必要なくなる。
 単純に、お兄さまたちよりも弱いからっていうのもありそうだけど。

「候補は何人くらいいればいい?」
「指定はございません。アナスタシアさまが気に入る者がいなければ、それでも構わないと」

 じゃあ、誰も指名しないというのもアリなのか。そう考えたら、少し気が楽かもしれない。

「二日後に、学園から帰ったら見に行くって伝えて」
「かしこまりました」

 私の伝言を受け取ったヒマリは、静かに部屋を出ていく。
 一人きりになったところで、ペンダントが話しかけてきた。

『どうして今から行かない? この後の予定はないのだろう?』
「今すぐだと向こうが困っちゃうから」

 ペンダントの言う通り、私はこの後は特に予定はないので、顔を出そうと思えば顔を出すことはできる。
 でも、来訪した王族を正式に迎え入れるには、相応の準備が必要だ。
 たとえば、私が座るための椅子などの備品の準備や、私の対応についての話し合いなどを行う必要がある。
 そのための時間が二日である。
 これは王侯貴族にとっては常識のようなもので、よほど緊急性の高いものでもない限り、飛び入り参加することはまずない。
 なので、お誘いをする時も余裕をもって行わなければならないのだ。

『めんどくさいな』

 ライが素直な感想をもらす。私もそう思うけど、それが貴族社会ですからね。

『まぁ、君は二日後の騎士団よりも、明日の学園を心配したほうがよさそうだけど』
「言わないで……意識しないようにしてたのに」

 ペンダントの言葉で、一瞬で現実に引き戻された私であった。


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