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第一章 あくまでも働きたくない
プロローグ
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窓から差し込む光を浴びて、その温もりを感じながら、ベッドでゴロゴロ。なんと心地のよいことか。
「……さま」
ごろんと寝返りをうって、瞳に陽光が当たると、その眩しさに目を強く閉じる。それもまた醍醐味。
「……シスさま」
陽光を遮るようにして、腰までかかっていた布団を、顔を覆うくらいにまで持ち上げる。
さて、もう一眠りーー
「起きてください、アレクシスさま!!」
その大声とともに、布団が思いきり引っ張られる。
一度遮られた陽光を再び浴びることになり、僕はゆっくりと眼を開けた。
「ふわぁ……なぁに?メアリー」
僕は大きくあくびをしながらゆっくりと上半身を起こす。
そして、布団を剥がした極悪人のメアリーのほうを向いた。
「なぁにではございません!起床の時間はとっくに過ぎているというのに、いつまで寝ておられるのですか!」
「お昼までかなぁ?じゃあ、そういうことで……」
「いけません」
寝転がろうとした僕の体を支えるようにして、メアリーが阻止してくる。
こんなことなら、体を起こすんじゃなかった。
「起床の時間は過ぎていると申し上げたでしょう。お着替えになり、朝食を召し上がった後、剣と魔法の訓練がございます」
僕はうげっと顔を歪ませる。多分メアリーには気づかれているだろうけど、特に何も言われない。
「じゃあ、その後お昼寝を……」
「昼食後は歴史と地理の勉強の予定ですので、そのような時間はございません」
「ええー!」
お昼寝は人類の至高にして至福の一時。その瞬間は現実も何もかも忘れて、安らぎに包まれる。
精神面の他にも、休息という意味合いもあり、適度な休息が訓練の効率や質を高めてくれるのだ。
それがないなんてあり得ない!働きすぎは体調不良の原因の代表格のようなものなのに!
「メアリーは過労死の恐ろしさの勉強をしたほうがいいよ」
「私はアレクシスさまのやる気を引き出す方法を研究しているので、そのような時間はございません」
「その研究結果は永遠にわからないだろうから諦めたら?」
僕がやる気を出す確率など、宝くじで一等が当たる確率よりも低いだろう。
逆に僕が知りたいくらいだ。僕はどうやったらやる気が出せるんだろうか。いや、一生出せないかもしれない。
やる気なんて、もうとっくに失くした感覚なのだから。
さて、メアリーによって朝の支度をされている間に、僕がどういう存在なのか説明しよう。
僕の名前はアレクシス・ラーカディア・スピネル。アーベンハルク王国の第四王子という立場である。
現在は九歳で、残り一ヶ月で十歳になる。
母親であるルクレツィア王妃はラーカディア侯爵家というアーベンハルク王国が建国された時代から存在する由緒正しい家門出身のお嬢さまであり、父親は当然ながらスピネル王家の一員でありアーベンハルク王国の国王であるマクシミリアン国王陛下。
容姿は母親譲りの紺色に王家の象徴である金色の瞳。それも、ただの瞳じゃない。なんと、光が当たると宝石のようにキラキラと輝くのである。これは宝石眼と呼ばれ、王家の直系にしか現れないらしく、まさしく王族の証というわけだ。
スピネル王家の魔力は特別な波長があるらしく、こんな変わった瞳になるという。
そして、僕にはもう一つ秘密があり、それは転生者であるということである。それも、ラノベでよくあるような異世界転生というやつだ。
生前の僕がどんなやつだったかは話すと長くなるけど、なるべく簡潔に。
前世の僕は、名前を綾目哉斗といい、人と関わるのがあまり好きではなかった僕の趣味は、読書だった。
本ならばジャンル問わず読んでいたし、気になったことはネットや文献でとことん調べたりして、いろいろな知識をつけていた僕の異名は『綾目ネットワーク』である。
何かあれば綾目ネットワークに頼れが中学校と高校で浸透していたくらいだ。ちなみに綾目ネットワークの名付け親は僕の友達というね。
知識があること以外にも僕が綾目ネットワークと呼ばれていた理由があり、僕は一度視界に入ったものや経験したことは忘れないという能力のためだ。
この能力は瞬間記憶能力と呼ばれたりするらしい。
これは幼少期から細かく……それこそ、その日の天気や、曜日、ニュースの内容、起床した時間、朝食のメニューまで覚えていられるというもので、時折ふっと浮かんでくることもあれば、意識して思い出すこともできる。
デメリットがないわけではなく、自分に関係ないことはメモした程度くらいにしか思い出せないし、その時の感情まで記憶してしまうので、嫌な出来事を思い出すと感情が沈むこともある。
……考えてると思い出してきて辛くなってくる気がする。
思考を切り換えよう。
そんなわけで僕はデータベースのように扱われていたというわけだ。それ自体は全然いいんだけど、記憶力と能力は必ずしも比例しないということを理解してもらえないのは少しばかり困っていた。
たとえキーボードの位置を覚えられたとしても、タイピングが早いわけではないようなものだ。
それに加えて、僕は相手がやっている行動は記憶に残りにくい。自分のノートに書いた内容は覚えられても教師が板書した内容や話はうろ覚えだったので、テストもそこそこの成績しか残せていない。
その結果、この記憶力が生かされることはなく、他の人と変わらない日々を過ごしていた。
僕は仲のいい友達が二人いたけど、その二人と過ごす以外は図書館で時間を潰していた。
本を読むのが好きだったのもあるけど、二人の友人からお前は人と関わるなと言われていたので、一人で過ごしやすい図書館にいた。
そう言われても仕方ないかなと思うくらいには、人とトラブルを起こしたことは何度かあるので無理もない。
僕からすればお互いの主張をぶつけ合ったくらいの感覚なんだけど、周りからするとやり過ぎとのことだ。
そんな日々を過ごしていた僕はある日、突然生まれ変わっていた。
本当に突然としか言いようがない。小説とかだと、車に跳ねられたりとか神さまに呼ばれたりとかするみたいだけど、まるで記憶がない。
いつもなら自分と関係ないことでもおぼろげには記憶に残るのに、まるで穴が空いたように記憶が抜け落ちているのだ。
気づいたら五歳児になっていたのである。五歳までどう過ごしたかの記憶はあるのは助かったけど。
当時の僕は、前世の記憶が蘇って混乱していたのもあり、現状を把握するために書物を読み漁った。自分の中の記憶と照らし合わせたが、該当する国や都市は存在せず、ここが地球とは異なる世界であると認識したのは、書物を読み始めてから三日後のことだった。
まぁ、そんなこんなで今にいたっているわけだ。せっかくの第二の人生なので、自分の好きなように生きてみたい。
今世ではこの記憶能力は隠して、のんびりと楽して生きるのだ。だからこそ、このままベッドでのんびりとーー
「ベッドには行かせませんよ!」
あっさりとメアリーに阻止されてしまった。
くそっ、油断も隙もない。
「よく僕の考えがわかるね」
「アレクシスさまが誕生なさってからお仕えしているのですから当然です」
メアリーはどこか誇らしげな顔をしている。
メアリーの言う通り、彼女は僕が赤ん坊だった頃から世話してくれている専属の侍女であり、幼なじみのようなものだ。
年も十歳上の二十歳とあまり離れていないので、まるで姉弟のような感覚である。
血の繋がった姉は別にちゃんといるんだけども。
「では、朝食を持ってきますが、その間にベッドに寝転がるようなことがあれば、国王陛下にお伝えしますからね」
「わ、わかったよ」
国王陛下というのは、当然ながら僕の父親である。父上は、とにかく厳しい。
僕がだらけているとメアリーの次に叱ってくるのが父上なのだ。
そんな人に告げ口されたら、間違いなく正座で一時間の説教が始まる。
それだけはごめんだった僕は、仕方なくベッドに腰かけるだけに留めておく。
前世では怠けるのが好きだったわけではないんだけど、人と関わらずにという目的で部屋に引きこもっていたら、その快適さにすっかり毒されてしまったのだ。
だらけるの最高、ニート最高。
完全なダメ人間である自覚はあるけど、それでもやめられない。
何があっても、楽して生きていくのだ。
「……さま」
ごろんと寝返りをうって、瞳に陽光が当たると、その眩しさに目を強く閉じる。それもまた醍醐味。
「……シスさま」
陽光を遮るようにして、腰までかかっていた布団を、顔を覆うくらいにまで持ち上げる。
さて、もう一眠りーー
「起きてください、アレクシスさま!!」
その大声とともに、布団が思いきり引っ張られる。
一度遮られた陽光を再び浴びることになり、僕はゆっくりと眼を開けた。
「ふわぁ……なぁに?メアリー」
僕は大きくあくびをしながらゆっくりと上半身を起こす。
そして、布団を剥がした極悪人のメアリーのほうを向いた。
「なぁにではございません!起床の時間はとっくに過ぎているというのに、いつまで寝ておられるのですか!」
「お昼までかなぁ?じゃあ、そういうことで……」
「いけません」
寝転がろうとした僕の体を支えるようにして、メアリーが阻止してくる。
こんなことなら、体を起こすんじゃなかった。
「起床の時間は過ぎていると申し上げたでしょう。お着替えになり、朝食を召し上がった後、剣と魔法の訓練がございます」
僕はうげっと顔を歪ませる。多分メアリーには気づかれているだろうけど、特に何も言われない。
「じゃあ、その後お昼寝を……」
「昼食後は歴史と地理の勉強の予定ですので、そのような時間はございません」
「ええー!」
お昼寝は人類の至高にして至福の一時。その瞬間は現実も何もかも忘れて、安らぎに包まれる。
精神面の他にも、休息という意味合いもあり、適度な休息が訓練の効率や質を高めてくれるのだ。
それがないなんてあり得ない!働きすぎは体調不良の原因の代表格のようなものなのに!
「メアリーは過労死の恐ろしさの勉強をしたほうがいいよ」
「私はアレクシスさまのやる気を引き出す方法を研究しているので、そのような時間はございません」
「その研究結果は永遠にわからないだろうから諦めたら?」
僕がやる気を出す確率など、宝くじで一等が当たる確率よりも低いだろう。
逆に僕が知りたいくらいだ。僕はどうやったらやる気が出せるんだろうか。いや、一生出せないかもしれない。
やる気なんて、もうとっくに失くした感覚なのだから。
さて、メアリーによって朝の支度をされている間に、僕がどういう存在なのか説明しよう。
僕の名前はアレクシス・ラーカディア・スピネル。アーベンハルク王国の第四王子という立場である。
現在は九歳で、残り一ヶ月で十歳になる。
母親であるルクレツィア王妃はラーカディア侯爵家というアーベンハルク王国が建国された時代から存在する由緒正しい家門出身のお嬢さまであり、父親は当然ながらスピネル王家の一員でありアーベンハルク王国の国王であるマクシミリアン国王陛下。
容姿は母親譲りの紺色に王家の象徴である金色の瞳。それも、ただの瞳じゃない。なんと、光が当たると宝石のようにキラキラと輝くのである。これは宝石眼と呼ばれ、王家の直系にしか現れないらしく、まさしく王族の証というわけだ。
スピネル王家の魔力は特別な波長があるらしく、こんな変わった瞳になるという。
そして、僕にはもう一つ秘密があり、それは転生者であるということである。それも、ラノベでよくあるような異世界転生というやつだ。
生前の僕がどんなやつだったかは話すと長くなるけど、なるべく簡潔に。
前世の僕は、名前を綾目哉斗といい、人と関わるのがあまり好きではなかった僕の趣味は、読書だった。
本ならばジャンル問わず読んでいたし、気になったことはネットや文献でとことん調べたりして、いろいろな知識をつけていた僕の異名は『綾目ネットワーク』である。
何かあれば綾目ネットワークに頼れが中学校と高校で浸透していたくらいだ。ちなみに綾目ネットワークの名付け親は僕の友達というね。
知識があること以外にも僕が綾目ネットワークと呼ばれていた理由があり、僕は一度視界に入ったものや経験したことは忘れないという能力のためだ。
この能力は瞬間記憶能力と呼ばれたりするらしい。
これは幼少期から細かく……それこそ、その日の天気や、曜日、ニュースの内容、起床した時間、朝食のメニューまで覚えていられるというもので、時折ふっと浮かんでくることもあれば、意識して思い出すこともできる。
デメリットがないわけではなく、自分に関係ないことはメモした程度くらいにしか思い出せないし、その時の感情まで記憶してしまうので、嫌な出来事を思い出すと感情が沈むこともある。
……考えてると思い出してきて辛くなってくる気がする。
思考を切り換えよう。
そんなわけで僕はデータベースのように扱われていたというわけだ。それ自体は全然いいんだけど、記憶力と能力は必ずしも比例しないということを理解してもらえないのは少しばかり困っていた。
たとえキーボードの位置を覚えられたとしても、タイピングが早いわけではないようなものだ。
それに加えて、僕は相手がやっている行動は記憶に残りにくい。自分のノートに書いた内容は覚えられても教師が板書した内容や話はうろ覚えだったので、テストもそこそこの成績しか残せていない。
その結果、この記憶力が生かされることはなく、他の人と変わらない日々を過ごしていた。
僕は仲のいい友達が二人いたけど、その二人と過ごす以外は図書館で時間を潰していた。
本を読むのが好きだったのもあるけど、二人の友人からお前は人と関わるなと言われていたので、一人で過ごしやすい図書館にいた。
そう言われても仕方ないかなと思うくらいには、人とトラブルを起こしたことは何度かあるので無理もない。
僕からすればお互いの主張をぶつけ合ったくらいの感覚なんだけど、周りからするとやり過ぎとのことだ。
そんな日々を過ごしていた僕はある日、突然生まれ変わっていた。
本当に突然としか言いようがない。小説とかだと、車に跳ねられたりとか神さまに呼ばれたりとかするみたいだけど、まるで記憶がない。
いつもなら自分と関係ないことでもおぼろげには記憶に残るのに、まるで穴が空いたように記憶が抜け落ちているのだ。
気づいたら五歳児になっていたのである。五歳までどう過ごしたかの記憶はあるのは助かったけど。
当時の僕は、前世の記憶が蘇って混乱していたのもあり、現状を把握するために書物を読み漁った。自分の中の記憶と照らし合わせたが、該当する国や都市は存在せず、ここが地球とは異なる世界であると認識したのは、書物を読み始めてから三日後のことだった。
まぁ、そんなこんなで今にいたっているわけだ。せっかくの第二の人生なので、自分の好きなように生きてみたい。
今世ではこの記憶能力は隠して、のんびりと楽して生きるのだ。だからこそ、このままベッドでのんびりとーー
「ベッドには行かせませんよ!」
あっさりとメアリーに阻止されてしまった。
くそっ、油断も隙もない。
「よく僕の考えがわかるね」
「アレクシスさまが誕生なさってからお仕えしているのですから当然です」
メアリーはどこか誇らしげな顔をしている。
メアリーの言う通り、彼女は僕が赤ん坊だった頃から世話してくれている専属の侍女であり、幼なじみのようなものだ。
年も十歳上の二十歳とあまり離れていないので、まるで姉弟のような感覚である。
血の繋がった姉は別にちゃんといるんだけども。
「では、朝食を持ってきますが、その間にベッドに寝転がるようなことがあれば、国王陛下にお伝えしますからね」
「わ、わかったよ」
国王陛下というのは、当然ながら僕の父親である。父上は、とにかく厳しい。
僕がだらけているとメアリーの次に叱ってくるのが父上なのだ。
そんな人に告げ口されたら、間違いなく正座で一時間の説教が始まる。
それだけはごめんだった僕は、仕方なくベッドに腰かけるだけに留めておく。
前世では怠けるのが好きだったわけではないんだけど、人と関わらずにという目的で部屋に引きこもっていたら、その快適さにすっかり毒されてしまったのだ。
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