転生王子はあくまでも楽したい~面倒事はごめん被ります~

りーさん

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第一章 あくまでも働きたくない

7. 同類

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 部屋に戻った僕は、ベッドでゴロゴロとしていた。メアリーはこちらの様子を伺うだけで注意してくることはないので、思う存分だらけられる。

「あの……アレクシスさま」
「ん?なに?」

 だらけられると思った瞬間にメアリーに声をかけられたので、不満が混じった返事をしてしまう。
 公爵に会った後だからなおさら。

「魔塔ではなぜあのようなことを?」
「あのようなって?」
「ヒーストンさまを叱責なさったことです。今まであのようなことはなさらなかったので」

 やっぱりそこは気になるか。あのときも結構驚いてたもんな。

「僕は当たり前のことを言っただけだよ?」
「はい。アレクシスさまのおっしゃることは正しいです。ですが、普段はあのようにはっきりおっしゃることはなかったので……」

 メアリーは少し言いにくそうにしているけど、メアリーの言葉は何も間違っていない。
 僕は普段が普段だからか、周りからも少し舐められている傾向にあるので、ぞんざいに扱われるのは初めてではない。
 そのときは、王子として一応は注意しているものの、本当に遠回し。

『僕、一応王子なんだけど』

 こんな言い方しかしたことはない。相手も悪気がないことが多いため、そう言えば素直に謝罪して態度を改めてくれる。
 でも、あの場合は違う。一刻も早く離れたかった。そのためには、直接的に指摘したほうがいいと判断したまでだ。

「だって、あの公爵と一緒にいたくなかったし」
「……それは、ウェアルノフ公爵のことでしょうか?」
「うん。あの人とは関わらないほうがいいだろうから」

 僕がそう言うと、メアリーはますます困惑している。

「私の記憶違いでなければ、アレクシスさまとウェアルノフ公爵はあれが初対面のはずですが」
「そうだね」
「では、なぜそのように?」

 ウェアルノフ公爵は清廉潔白な人物として知られていて、使用人にも分け隔てなく接している。メアリーが会ったことあるかは知らないけど、もし会ったことがあるならなおさら警戒する理由などないと考えるだろう。
 公爵には後ろ暗い噂はないのだから。まったくといっていいほどに。

「あれは、僕と同類な気がしてならないんだよ」
「そうですか?ウェアルノフ公爵は勤勉で真面目な方ですし、アレクシスさまとは正反対な気がしますが……」
「それは僕が怠惰で不真面目だと言いたいの?大正解だけど」

 真剣な顔で失礼なことを言うメアリーに僕は同意を示す。
 確かに、僕は怠惰で不真面目だ。それは認めよう。

「自覚してるなら直してくれませんか?」
「いや~、どんな職人でも直せないんじゃないかな」

 直そうとしたことはある。でも、何を試しても僕の本質は何も変わらなかった。
 それならずっとこのままのほうがいい。ずっと、目を背けたまま、奥にしまいこんで、出てこないように。 

 誰にも、悟られないように。

「……アレクシスさま?いかがなさいましたか?」
「いや~、そろそろ眠くなってきたなぁって……」

 ふわぁと大きなあくびをすると、メアリーの目が据わる。死んだ魚の目のようとは、今のメアリーの目のことを言うのだろう。

「まだ太陽が天高く上っておりますが」
「うん。眠くなるよね、この時間って」
「……かしこまりました。では、部屋着に着替えましょうか」
「えっ、いいの?」

 さすがに予想外すぎて、僕は素で聞き返してしまう。
 メアリーはこういうときは全力阻止してくるというのに。

「はい、ですが、三十分までです。時間になれば起きてくださいね」
「わかった。努力はしてみるよ」

 努力はね。できるかどうかは別だ。

 そんな僕の心のうちを感じ取ったのかメアリーはにっこりと笑みを向けて歩いてくる。

「起きてこられなかった場合は私が起こしに行きますので」
「いや、いいよ!自分で起きるから!」

 メアリーの起こし方はかなり心臓に悪い。耳元で「起きてくださーい!!」と叫ぶのでいつも反射的に飛び起きてしまうのだ。
 いわば、歩く目覚まし時計である。

「そう言ってアレクシスさまが時間通りに起きたことがございませんので」
「いや、あるでしょ一回くらいは!」
「たった一回ではないも同然です」

 0と1の差は大きい。0パーセントと1パーセントの差は天と地ほどの差があるというのに。

「じゃあ僕が時間までに起きられたら僕の安眠のためにメアリーには一日休暇を取ってもらうからね!」
「かしこまりました。では、起きていられなかった場合は明日のおやつは抜きにしましょう」
「……わかった」

 城に勤めている一流のシェフが作るおやつはなかなかのもので、王子として生まれてよかったと思える要素の一つだ。
 メアリーは僕が生まれた頃から仕えているので、僕の楽しみにしているものもわかるのだろう。

 その後、メアリーに着替えさせてもらってからお昼寝をした僕は、結局起きられずにおやつ抜きとなった。
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