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第二章 あくまでも一人でいたい
15. 剣の訓練 1
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ローゼマリー嬢とはその後も交流を続け、プレゼントを送る際はそれと一緒に花とメッセージカードを添えるという俗な形にするとかなり喜ばれた。
花はよさそうな花言葉を持つ花を選んだけど、前世とこちらの国の花は種類も違えば花言葉も違うため、覚え直すのに苦労した。
そんな日々を過ごしていると、ついに恐れていた日が来てしまう。
「メアリー、今なんて?」
「ですから、商会も設立し婚約者も決まりましたから、明日から授業を再開するようにと陛下の指示がありましたとお伝えしております」
「絶対に嫌だ!」
せっかくの自由な時間を満喫していたというのに!これは悪い夢だ……きっと今から寝て目覚めたら現実に戻れる……と思ったところでメアリーに阻止される。
「寝させませんよ?」
寝させろ!僕をこの悪夢から解放してくれ!
「ちょっと寝たらやるから!」
「なりません」
「なら午前だけか午後だけのどちらかにして!いきなり戻したら絶対に倒れる!」
こうなったら妥協するしかない。メアリーもわからず屋ではない。理由を説明すればそれなりに譲歩の姿勢は見せてくれる。
「かしこまりました。陛下にお伝えし、許可が降りましたらそのようにいたしましょう」
メアリーがそう言って部屋を出ていき、心の底からほっとする。
よし、この隙にちょっと仮眠をーー
「お眠りになられたら一日中お勉強です」
小さくドアを開けて、隙間から覗きながらメアリーがそう言った。
そのシチュエーションと声の低さに恐怖を覚えた僕はこくこくと何度も頷く。
メアリーは再びパタンとドアを閉める。どこかに歩いていく足音が部屋の中まで響いてくる。
メアリーが帰ってくるまで、僕はドアから目をそらすことはできなかった。
◇◇◇
無事に父上から許可が降りて、僕は半日授業を行うことになった。といっても、メアリーに僕の記憶力のことがバレてからは、座学は参考書を読んで終わりということが多くなったので、ほとんど実技しかやってないけども。
今日は剣の授業であり、久しぶりだからか騎士団の訓練に混じることになった。
騎士団となると当然あの人がいる。
「アレク、手合わせするか?」
「ジークフリート兄上とやったら一方的にやられて終わるので嫌です。他の騎士でお願いします」
ジークフリート兄さんはこの国の騎士団長。当然ながら騎士団の訓練には混ざっており、騎士たちに訓練を飛ばしたり、手が空いていそうな騎士と手合わせをしたりと、わりと団長っぽいことをやっている。
「……おい、アレク。失礼なこと考えなかったか?」
「いえ、兄上のカッコいい姿はあまり見ないなと思いまして」
「そ、そうか?」
ジークフリート兄さんは満更でもないような顔をしている。これが父上やクリストフ兄さん、シャルロッテ姉さんだったら普段はそうじゃないのかと突っ込まれるところである。
クローディル兄さんはだよねと軽い気持ちで同意しそうだけど。アリアドネは無反応だろうな。
他と比べて、ジークフリート兄さんは単純だから扱いやすい。
「なぁ、アレク。俺が嫌ならあいつと手合わせでもしたらどうだ?」
「あいつ……?」
兄さんが親指で指すほうを見ると、僕と同じくらいの年齢の子どもが副団長と剣を打ち合っている。
あれは……
「副団長の息子ですか」
「……会ったことあったか?」
「いえ。ですが、登城できる身分で副団長と打ち合うなど副団長の息子しかいないでしょう?僕と同い年という話も聞いていますし」
この国の騎士団長はフォルクナー侯爵家の当主であるヴォルフガング・ラウジニア・フォルクナー。
フォルクナー侯爵は武人の家系であり、代々この国の騎士団の副団長を勤めている。騎士団長は大体が王子だからね。
フォルクナー侯爵家には息子が一人いて、僕と同い年の十歳。この国は登城できる年齢は、国王の命令など特別な理由がない限りは十歳からと決まっているため、今までお城で会うことはなかった。
「アレクの言う通り、あいつはヴォルフの息子のフェリクスだ。剣の天才としてそれなりに有名らしいぞ」
有名なのにらしいぞなのか。まぁ、兄さんは噂話とかにはあまり興味がないタイプだからおかしくはない。
僕もその話は初耳だし。
剣の天才という噂が本物ならあまり手合わせしたくないけど……剣の授業で一度も剣を振らずに終わるわけにはいかない。
「では、彼と手合わせしますので、話を通してもらってもいいですか?」
「おう、任せろ」
兄さんは意気揚々と副団長の元に向かい手合わせをやめさせて話しかけた。
しばらく待っていると、話がついたのか兄さんはフェリクスを連れて戻ってきた。
フェリクスは僕の前に来るとその場に跪く。
「フェリクス・ライヒル・フォルクナーが第四王子殿下にご挨拶申し上げます」
「アレクシス・ラーカディア・スピネルだ。楽にして構わない」
僕がそう言うとフェリクスが立ち上がる。髪の色は炎のような赤色にグレーの瞳と色は父親であるフォルクナー侯爵に似ているけど、顔はあまり似ていない。侯爵夫人に似ているのだろうか。
「早速だが、手合わせを頼みたい」
「かしこまりました。ではこちらに」
フェリクスは僕を訓練場まで誘導する。僕が打ち合うからか、打ち合っていた騎士たちは僕たちから距離を取り始める。
万が一の事故が起こらないように、王子が訓練するときは他の騎士は訓練を中止するためだ。
「剣はあまり得意ではないから、手心が欲しいが」
「怪我は負わせぬように気をつけますので」
フェリクスはそう言うと剣を構える。言葉からして手加減するつもりはないらしい。そうこなくては。
「それなら安心できる」
僕はフェリクスと同じように剣を構えた。
花はよさそうな花言葉を持つ花を選んだけど、前世とこちらの国の花は種類も違えば花言葉も違うため、覚え直すのに苦労した。
そんな日々を過ごしていると、ついに恐れていた日が来てしまう。
「メアリー、今なんて?」
「ですから、商会も設立し婚約者も決まりましたから、明日から授業を再開するようにと陛下の指示がありましたとお伝えしております」
「絶対に嫌だ!」
せっかくの自由な時間を満喫していたというのに!これは悪い夢だ……きっと今から寝て目覚めたら現実に戻れる……と思ったところでメアリーに阻止される。
「寝させませんよ?」
寝させろ!僕をこの悪夢から解放してくれ!
「ちょっと寝たらやるから!」
「なりません」
「なら午前だけか午後だけのどちらかにして!いきなり戻したら絶対に倒れる!」
こうなったら妥協するしかない。メアリーもわからず屋ではない。理由を説明すればそれなりに譲歩の姿勢は見せてくれる。
「かしこまりました。陛下にお伝えし、許可が降りましたらそのようにいたしましょう」
メアリーがそう言って部屋を出ていき、心の底からほっとする。
よし、この隙にちょっと仮眠をーー
「お眠りになられたら一日中お勉強です」
小さくドアを開けて、隙間から覗きながらメアリーがそう言った。
そのシチュエーションと声の低さに恐怖を覚えた僕はこくこくと何度も頷く。
メアリーは再びパタンとドアを閉める。どこかに歩いていく足音が部屋の中まで響いてくる。
メアリーが帰ってくるまで、僕はドアから目をそらすことはできなかった。
◇◇◇
無事に父上から許可が降りて、僕は半日授業を行うことになった。といっても、メアリーに僕の記憶力のことがバレてからは、座学は参考書を読んで終わりということが多くなったので、ほとんど実技しかやってないけども。
今日は剣の授業であり、久しぶりだからか騎士団の訓練に混じることになった。
騎士団となると当然あの人がいる。
「アレク、手合わせするか?」
「ジークフリート兄上とやったら一方的にやられて終わるので嫌です。他の騎士でお願いします」
ジークフリート兄さんはこの国の騎士団長。当然ながら騎士団の訓練には混ざっており、騎士たちに訓練を飛ばしたり、手が空いていそうな騎士と手合わせをしたりと、わりと団長っぽいことをやっている。
「……おい、アレク。失礼なこと考えなかったか?」
「いえ、兄上のカッコいい姿はあまり見ないなと思いまして」
「そ、そうか?」
ジークフリート兄さんは満更でもないような顔をしている。これが父上やクリストフ兄さん、シャルロッテ姉さんだったら普段はそうじゃないのかと突っ込まれるところである。
クローディル兄さんはだよねと軽い気持ちで同意しそうだけど。アリアドネは無反応だろうな。
他と比べて、ジークフリート兄さんは単純だから扱いやすい。
「なぁ、アレク。俺が嫌ならあいつと手合わせでもしたらどうだ?」
「あいつ……?」
兄さんが親指で指すほうを見ると、僕と同じくらいの年齢の子どもが副団長と剣を打ち合っている。
あれは……
「副団長の息子ですか」
「……会ったことあったか?」
「いえ。ですが、登城できる身分で副団長と打ち合うなど副団長の息子しかいないでしょう?僕と同い年という話も聞いていますし」
この国の騎士団長はフォルクナー侯爵家の当主であるヴォルフガング・ラウジニア・フォルクナー。
フォルクナー侯爵は武人の家系であり、代々この国の騎士団の副団長を勤めている。騎士団長は大体が王子だからね。
フォルクナー侯爵家には息子が一人いて、僕と同い年の十歳。この国は登城できる年齢は、国王の命令など特別な理由がない限りは十歳からと決まっているため、今までお城で会うことはなかった。
「アレクの言う通り、あいつはヴォルフの息子のフェリクスだ。剣の天才としてそれなりに有名らしいぞ」
有名なのにらしいぞなのか。まぁ、兄さんは噂話とかにはあまり興味がないタイプだからおかしくはない。
僕もその話は初耳だし。
剣の天才という噂が本物ならあまり手合わせしたくないけど……剣の授業で一度も剣を振らずに終わるわけにはいかない。
「では、彼と手合わせしますので、話を通してもらってもいいですか?」
「おう、任せろ」
兄さんは意気揚々と副団長の元に向かい手合わせをやめさせて話しかけた。
しばらく待っていると、話がついたのか兄さんはフェリクスを連れて戻ってきた。
フェリクスは僕の前に来るとその場に跪く。
「フェリクス・ライヒル・フォルクナーが第四王子殿下にご挨拶申し上げます」
「アレクシス・ラーカディア・スピネルだ。楽にして構わない」
僕がそう言うとフェリクスが立ち上がる。髪の色は炎のような赤色にグレーの瞳と色は父親であるフォルクナー侯爵に似ているけど、顔はあまり似ていない。侯爵夫人に似ているのだろうか。
「早速だが、手合わせを頼みたい」
「かしこまりました。ではこちらに」
フェリクスは僕を訓練場まで誘導する。僕が打ち合うからか、打ち合っていた騎士たちは僕たちから距離を取り始める。
万が一の事故が起こらないように、王子が訓練するときは他の騎士は訓練を中止するためだ。
「剣はあまり得意ではないから、手心が欲しいが」
「怪我は負わせぬように気をつけますので」
フェリクスはそう言うと剣を構える。言葉からして手加減するつもりはないらしい。そうこなくては。
「それなら安心できる」
僕はフェリクスと同じように剣を構えた。
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