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13 我慢できずに
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国王は、何の目的でここに来たのか。
いや、マリエとラファエルに関することなのはわかっている。福利厚生がどうのとかは、多分この国王は気にしないし、気にしたとしても、わざわざ訪ねてきたりはしないはずだ。
それはわかるけど……マリエとラファエルの何が気になってなのかわからない。
「なら、マリエとラファエルのことは?何を思っていれば、王妃の元に入れるんだ」
「二人が王族とは思えぬ扱いを受けていたので保護したまでです。ただ、放っておけなかった。それだけのことです」
「そうか」
国王は、まったく顔色を変えない。後悔しているのか、怒っているのか、それとも何とも思っていないのか、まるでわからない。
「その言葉だけを聞けば、まるで聖女のようだな」
「……どういう意味でございましょう?」
「私もこういう立場だからな。人の表情や動作の機微には聡いほうだ。お前の言葉、真実を語っていないだろう」
「私がお父さまを騙るつもりはございませんが」
「私には、そうしか見えんと言っただけだ」
「……ですが、私にはそのつもりはないのです」
ほんの数分、言葉を交わしただけなのに、もう疲れてきた。ため息をつきそうになったくらいだ。
侍女と話すのとは、訳が違う。私も王族という立場。少しばかり強く出ることはできるだろう。でも、そうなると、国王は私をどうするだろうか。
私には手出ししなかったとしても……お母さまや、マリエたちはどう扱われるか。
言葉の一つも間違えられない。五歳には荷が重すぎるよ。
「ならば、お前が動くのは何のためだ?王妃のためか?マリエとラファエルのためか?侍女のためか?」
「……強いて申し上げるのであれば、家族のためでしょうか」
私が福利厚生とか、侍女を叱責したりするのは、お母さまのため。
私が白星輝宮に泊まらせたり、一緒に散歩したのはマリエとラファエルのため。私は、大切な家族のために動いているだけだ。
そこに、この国王は入っていないが。
「そうか?私には、お前は自分のために動いているようにしか見えんがな」
「そのようなことは……!」
「なぜ否定しようとする?自分のために動くことの何が悪い?人は、自分勝手な生き物だというのに」
「……悪いと思っているわけではありませんが、少なくとも私は、お母さまや、マリエたちのために……!」
「ならば聞こう。それを、王妃やマリエたちがお前に頼んだのか?お前が勝手に判断して動いただけだろう」
「……!」
それを言われると、何も言えない。お母さまが夜中に泣いているのを見て、お母さまと国王の関係や、悪妃と呼ばれているのを知って、それを挽回してやろうと私が動いていただけだ。
最近も、お母さまに勝手に動いたことを怒られたばかり。
「お前は、とんだ偽善者だ。いや、偽善者も生ぬるいかもしれんな」
国王は、初めて笑った。それは、目の前の相手を見下すような笑みだ。
「知っているか?反逆や暗殺のような罪を犯すやつは、自分がやりたかったと認めん。国のため、民のため……対象は違えど、ほとんどは何かのためと一貫するものだ。自分が気に食わなかった。そう言えば済む話なのにな」
私は、何も言い返さない。話せば、止まらなくなりそうだったから。
というか、反逆とか暗殺なんて、五歳にする話じゃないでしょうよ。
「お前の心のうちは知らんが、発している言葉の意をそのまま受けとれば、お前はそれと同類だな。教師からの話では、賢いから教えることがなくなると言っていたが、どこが優秀なのかまるでわからん」
教師からの報告も国王のほうに行っていたのか。まぁ、私が優秀な姫だったら、いろいろと使い道はありそうな気がするから、報告を受けるのもおかしなことではないかも。
「少し言い負かされたくらいで何も言えないとは。やはりお前は、あの悪妃の娘だな」
そこで、もう我慢ができなかった。私は、ほぼ無意識のうちに、机をバンと叩く。
私のこの行動にも、国王はぴくりとも表情を変えない。そういうところも、腹が立つ。
「……否定はしません。マリエたちを保護したのも、あの扱いに、私が我慢ならなかっただけ。お母さまのためにいろいろとやっていたのも、お母さまの評判に、私が納得しなかっただけ。なので、自分のために動いているというお父さまの言葉は、間違いとは言えませんので、否定しません」
そこまで静かに話したところで、私は国王を睨み、「ですが」と言葉を続ける。
「私の自分勝手な行動だとしても、私にとって大切な存在を救うための行いです。そんな私欲しか考えていないような方々と同列にされるのは、不愉快でしかありません」
「救った気になっているだけだろう」
「お母さまのことはわかりませんが、少なくともマリエとラファエルは、私から片時も離れようとしません。それは、あの子達にとっては、私が救いであるという証明になるでしょう」
私は、前世の記憶持ちとはいえ、まだ五歳。マリエとラファエルから見ても、私は頼れるような存在には見えないだろう。それでも私についていこうとしたのは、それだけ追い込まれていたからだ。
そんな状況にしたのはーー目の前にいる、こいつ。
「ならば、あれはお前に任せるか」
「あれ……とは?」
予想外の言葉が出てきて、怒りがどこかに行ってしまう。
「翌日に白星輝宮に届けさせよう。マリエとラファエルにとっての救いというのならば、お前がやるべきことだ」
そう言って、国王は立ち上がった。どうやら、国王の用はもう終えたらしい。
国王は、出ていく直前に私のほうを見て言った。
「朱星輝宮の侍女たちの筆頭の名は、ダリア・ウォルフォリアだ」
国王は、それだけ言ってしまうと、今度こそ出ていった。
私は、しばらく呆然としたが、沸々と怒りが沸いてくる。
なんで……なんで……なんで知っていたのに、何もしなかったんだあのクソ国王ーー!!!
いや、マリエとラファエルに関することなのはわかっている。福利厚生がどうのとかは、多分この国王は気にしないし、気にしたとしても、わざわざ訪ねてきたりはしないはずだ。
それはわかるけど……マリエとラファエルの何が気になってなのかわからない。
「なら、マリエとラファエルのことは?何を思っていれば、王妃の元に入れるんだ」
「二人が王族とは思えぬ扱いを受けていたので保護したまでです。ただ、放っておけなかった。それだけのことです」
「そうか」
国王は、まったく顔色を変えない。後悔しているのか、怒っているのか、それとも何とも思っていないのか、まるでわからない。
「その言葉だけを聞けば、まるで聖女のようだな」
「……どういう意味でございましょう?」
「私もこういう立場だからな。人の表情や動作の機微には聡いほうだ。お前の言葉、真実を語っていないだろう」
「私がお父さまを騙るつもりはございませんが」
「私には、そうしか見えんと言っただけだ」
「……ですが、私にはそのつもりはないのです」
ほんの数分、言葉を交わしただけなのに、もう疲れてきた。ため息をつきそうになったくらいだ。
侍女と話すのとは、訳が違う。私も王族という立場。少しばかり強く出ることはできるだろう。でも、そうなると、国王は私をどうするだろうか。
私には手出ししなかったとしても……お母さまや、マリエたちはどう扱われるか。
言葉の一つも間違えられない。五歳には荷が重すぎるよ。
「ならば、お前が動くのは何のためだ?王妃のためか?マリエとラファエルのためか?侍女のためか?」
「……強いて申し上げるのであれば、家族のためでしょうか」
私が福利厚生とか、侍女を叱責したりするのは、お母さまのため。
私が白星輝宮に泊まらせたり、一緒に散歩したのはマリエとラファエルのため。私は、大切な家族のために動いているだけだ。
そこに、この国王は入っていないが。
「そうか?私には、お前は自分のために動いているようにしか見えんがな」
「そのようなことは……!」
「なぜ否定しようとする?自分のために動くことの何が悪い?人は、自分勝手な生き物だというのに」
「……悪いと思っているわけではありませんが、少なくとも私は、お母さまや、マリエたちのために……!」
「ならば聞こう。それを、王妃やマリエたちがお前に頼んだのか?お前が勝手に判断して動いただけだろう」
「……!」
それを言われると、何も言えない。お母さまが夜中に泣いているのを見て、お母さまと国王の関係や、悪妃と呼ばれているのを知って、それを挽回してやろうと私が動いていただけだ。
最近も、お母さまに勝手に動いたことを怒られたばかり。
「お前は、とんだ偽善者だ。いや、偽善者も生ぬるいかもしれんな」
国王は、初めて笑った。それは、目の前の相手を見下すような笑みだ。
「知っているか?反逆や暗殺のような罪を犯すやつは、自分がやりたかったと認めん。国のため、民のため……対象は違えど、ほとんどは何かのためと一貫するものだ。自分が気に食わなかった。そう言えば済む話なのにな」
私は、何も言い返さない。話せば、止まらなくなりそうだったから。
というか、反逆とか暗殺なんて、五歳にする話じゃないでしょうよ。
「お前の心のうちは知らんが、発している言葉の意をそのまま受けとれば、お前はそれと同類だな。教師からの話では、賢いから教えることがなくなると言っていたが、どこが優秀なのかまるでわからん」
教師からの報告も国王のほうに行っていたのか。まぁ、私が優秀な姫だったら、いろいろと使い道はありそうな気がするから、報告を受けるのもおかしなことではないかも。
「少し言い負かされたくらいで何も言えないとは。やはりお前は、あの悪妃の娘だな」
そこで、もう我慢ができなかった。私は、ほぼ無意識のうちに、机をバンと叩く。
私のこの行動にも、国王はぴくりとも表情を変えない。そういうところも、腹が立つ。
「……否定はしません。マリエたちを保護したのも、あの扱いに、私が我慢ならなかっただけ。お母さまのためにいろいろとやっていたのも、お母さまの評判に、私が納得しなかっただけ。なので、自分のために動いているというお父さまの言葉は、間違いとは言えませんので、否定しません」
そこまで静かに話したところで、私は国王を睨み、「ですが」と言葉を続ける。
「私の自分勝手な行動だとしても、私にとって大切な存在を救うための行いです。そんな私欲しか考えていないような方々と同列にされるのは、不愉快でしかありません」
「救った気になっているだけだろう」
「お母さまのことはわかりませんが、少なくともマリエとラファエルは、私から片時も離れようとしません。それは、あの子達にとっては、私が救いであるという証明になるでしょう」
私は、前世の記憶持ちとはいえ、まだ五歳。マリエとラファエルから見ても、私は頼れるような存在には見えないだろう。それでも私についていこうとしたのは、それだけ追い込まれていたからだ。
そんな状況にしたのはーー目の前にいる、こいつ。
「ならば、あれはお前に任せるか」
「あれ……とは?」
予想外の言葉が出てきて、怒りがどこかに行ってしまう。
「翌日に白星輝宮に届けさせよう。マリエとラファエルにとっての救いというのならば、お前がやるべきことだ」
そう言って、国王は立ち上がった。どうやら、国王の用はもう終えたらしい。
国王は、出ていく直前に私のほうを見て言った。
「朱星輝宮の侍女たちの筆頭の名は、ダリア・ウォルフォリアだ」
国王は、それだけ言ってしまうと、今度こそ出ていった。
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