家族に忘れられていた第五王子は愛され生活を送る

りーさん

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第一章 第五王子になりました

14. (ロナ視点)

 ジルフィオーレを寝かしつけたロナは、蒼星宮に割り当てられた自分の部屋に戻っていた。ロナの部屋の机の上には、一枚の手紙が置かれている。

「やっと返事を寄越したわね」

 疲れが溜まっていたのもあり、ロナは手紙を力任せに開封し、中身を確認する。その字はまるで虫が這ったかのようであったが、見慣れているロナはなんなく読み進める。
 手紙の相手は、ロナが騎士として推薦しようとしている男だ。内容は、ロナの提案を受け入れ、入団試験に合わせてこちらに来るとのことだった。
 彼ならば合格はほぼ間違いない。ここの騎士団はアリエンと共に見たことがあるが、彼の武術の腕はこの国の騎士団よりも上だ。それに加えて、魔法の腕もそれなりにあるので、受からない理由はない。
 だが、それは数年前のこと。今と同じ状態とは限らない。今の騎士団の状態を知ることができるのはよい機会だ。

(彼が来れば……私はジルさまの側にいるのは難しくなる)

 本来であれば、とっくに自分はジルフィオーレの専属を外され一介の下女としてでしか関わりを持つことはできなくなっていた。それほどまでに王子と下女の身分の差は大きく、共に過ごすのは難しい。
 これは、かなりの異例なのだ。ジルフィオーレの特殊な立場と国王たちの心配りによってこの状況がよしとされている。

 通常、王族の専属というのは、慎重に決められるものだ。実力があるのは当然だが、他にもその者の人間関係、派閥、性別、年齢、主との相性など多くの基準が設けられ判断される。
 専属というのは、常に王族の身近にいる存在となるため、王族の安全を図るためにも厳しい選定が行われる。

 その選定を行うのは、多くの場合は実の母親である。母が亡くなっている場合は父である国王が選ぶ場合もある。子どもに選ばせる場合もあるが、その場合も候補は親が決めている。
 だが、ジルフィオーレはその例には当てはまらない。母親としているエルルーシアが亡くなっているため、従来どおりであれば父親である国王が専属を決める。だが、問題はエルルーシアの実家であるローグワーツ公爵家と貴族派の者たちである。

 アズール王国には二代派閥である国王派と貴族派が存在しているが、ローグワーツはどちらにも属さない、中立を宣言している家だ。
 そう言えば聞こえはいいが、それは野心がないということではない。

 ローグワーツ公爵家は、王国で五つ存在している公爵家の中では、三番目に位が高い。貴族派と国王派にはそれぞれ二つずつの公爵家が属しているため、ローグワーツの立ち位置によって派閥の力関係は大きく変わる。
 王国の均衡を保つためということでローグワーツ公爵家は中立を宣言している。だが、ローグワーツは着実に自らの勢力を伸ばし、王国の第三勢力と揶揄されるほどに成長をしていた。エルルーシアが嫁ぐことにも繋がったほどに。

 そんなエルルーシアの息子とされているジルフィオーレが狙われない理由はない。利用するにしろ保護するにしろ、必ず接触を図る。
 もちろん、ジルフィオーレが簡単に利用されるとは思っていない。ジルフィオーレは悪意のある者たちや侵入者を『異物』として感知できるため警戒心を緩めることはないし、頭も回るので言葉巧みに誘導されるということもないだろう。
 だが、問題は強行手段に出てきた場合だ。ジルフィオーレの『空間干渉』の力があれば捕まらない。もし捕まったとしても逃げることができる。
 その点は問題ないが、人前で力を使うようなことがあれば、いずれ長老たちの耳に入るかもしれない。長老たちもバカではないので、ジルフィオーレの力がアリエンティルから受け継がれた一族特有のものであることに気づくのに、そう時間はかからないだろう。

 それを防ぐためには、ジルフィオーレが力を使わなければならない事態を招かないことが重要といえる。
 ロナは後ろ楯のない侍女ではあるが、以前の侵入者の騒ぎである程度の戦闘能力があることはエルンスト王子や国王に知られている。そのため、護衛騎士が決まるまでの間の仮の専属侍女としてロナはジルフィオーレの側にいることができていた。
 ロナを専属侍女にすることが、多くの者にとって都合がよかったのだ。

(侍女の当てはないのよね……)

 長老たちと対立していたアリエンの理解者となってくれる存在は、一族ではそう多くない。どこにいるかもわからない相手を探すくらいなら、ロナが後ろ楯を探してジルフィオーレの侍女となるほうがずっと現実的だ。
 だが、現実的ではあっても実現することは不可能に近い。だからといって、彼一人にジルフィオーレを任せるのも不安でしかない。彼は無骨なところがあり、ジルフィオーレの教育に悪影響を与えかねない。それに、そもそも王宮というのはある程度のマナーを要求される。そんな中であの男がふさわしくない振る舞いをしてしまえば、それは主であるジルフィオーレの評価になってしまうのだ。

(王宮に来たら叩き込んでやらないと)

 マナーだけでは足りない。王族の人間関係や派閥、貴族のことなど、ロナが知る限りのことを教え込む。それが、ジルフィオーレを守ることにも繋がるはずだ。

(ジルさまには……正式に決まってから伝えましょう)

 ジルフィオーレはまだ王子の暮らしに慣れているとは言いがたく、今も騎士団のことを学んでいる。その中で余計な情報を与える必要はない。
 それに、ジルフィオーレはふとした拍子に口を滑らせる可能性もある。一度やらかしてしまっているので、二度目がないとは言いきれない。

 ロナは手紙の返事を書き、窓辺に立つ。

「『風よ、運べ』」

 ロナがそう唱えると、手紙は宙を舞い、どこかへと飛んでいく。これはロナがよくやる情報伝達の魔術。相手の居場所さえわかっていれば、いつでもどこへでも相手に手紙や荷物などを送ることができる。

「次も遅れたら承知しないわよ」

 そん誰に言うでもないことを呟き、ロナは窓を閉めた。
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