家族に忘れられていた第五王子は愛され生活を送る

りーさん

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第一章 第五王子になりました

16.

 ちょっとしたトラブルがあったけど、まだ視察は続いている。エルンスト兄上はジークハルト兄上に少し注意をしてからまた視察に戻った。ジークハルト兄上は僕のほうをチラチラと見るけど、話しかけたりしてくることはない。

 騎士団の人たちは訓練を始めたみたいで、ガキンガキンと剣がぶつかる音がそこら中から聞こえてくる。
 騎士たちが剣を振っている様子はとてもかっこよくて目がそらせない。

 ……あれ?

 僕は一人の騎士のある様子に気づく。普通に動いているように見えるけど、どこか変だ。じっと見ていると、変なところに気がついた。

「……右足」
「ジルベール殿下、どうされましたか?」

 僕の声が聞こえたのかロナが声をかけてくる。僕は騎士のほうを指差した。

「あの騎士、右足が変だから」
「何が変なんだ?」

 そう聞いてきたのはジークハルト兄上だった。何が変……と言われても、僕もよくわからない。どうして、あの人の右足に『異物』があるんだろう?
 

「わからないです。だから気になります」
「よくわからんが、直接確かめればいいだろ」

 ジークハルト兄上はそう言うと、騎士たちのほうに歩いていくと、右足が変だった騎士を連れて戻ってきた。騎士の人たちを引っ張られていて、ちょっと可哀想。なんか痛そうな顔をしてるし。
 訓練してたのに邪魔しちゃってもよかったのかな。

「ほら、こいつだろ」
「そうですけど……」

 訓練の邪魔をするのはやっぱりダメじゃないかな。

「第三騎士団所属、ロバート・フィロンが第五王子殿下にご挨拶申し上げます」

 騎士の人は、膝をおって低くなった。これ、跪くって言うんだよね。
 挨拶されたら確かこう言うんだっけ。

「楽にしていいよ」

 僕がそう言うと、ロバートさんが立ち上がる。跪くときも、立ち上がるときも、右足を痛そうにしていた。右足を動かしてなかったし、右足をケガしてるのかも。

「靴脱いで」
「えっ、はい……」

 ロバートさんは不思議そうな顔をしていたけど、僕の言う通りに靴を脱いでくれる。
 僕は『異物』がある右足の足首を確かめる。

「ここ、痛くない?」
「……確かに、痛みはあります」

 やっぱり痛かったんだ。右足があまり動いてなかったのは、痛くて動かせなかったんだろう。
 でも、赤くなったりとか、そういうのがないから、なんで痛いのかわからない。

「ロナ、わかる?」
「そうですね……」

 ロナもしゃがんで足首に触れる。

「ジルベール殿下はなぜ足首が気になるのですか?」
「う~んと……」

 僕は思わずジークハルト兄上とロバートさんに目を向けてしまう。ロナには『異物』のことは人に勝手に話したらいけないと言われている。でも、もし『異物』を感じたら教えてほしいとも言っていた。
 僕は、ロナの耳の近くで小さな声で言う。

「『異物』があるの」
「かしこまりました。詳しく見てみましょう」

 ロナはロバートさんの足首を掴む。痛かったのか、ロバートさんの顔が少し歪んだ。

「魔力栓ですね。軽度のものですが」

 魔力栓って、確か……

「魔力栓ってなんだ?」

 ジークハルト兄上が首をかしげる。僕は、ロナから聞いたことをジークハルト兄上に伝える。

「体を流れている魔力が詰まっちゃって、魔力の塊が体の中でできちゃうことがあるんですが、それを魔力栓と言って、痛みとか腫れが起こります。魔力の塊ができている状態なので、魔力を溶かす必要があります」

 魔力の多い魔術師によく起こるらしく、なかなか早いうちに見つけるのが難しいらしい。早いと魔力栓の大きさも小さいから、必要な魔力も少なくて、誰でも治せるけど、時間がたって重くなっちゃうと、それだけ多くの魔力が必要になるから、なかなか治療することができない。酷くなりすぎると、魔力を使えなくなったり、死んじゃうこともあるらしい。

「どこで知ったんだ、そんなこと」
「ロナに教えてもらいました」

 ロナは、前に僕の体にできた魔力栓を治してくれたことがある。その時に魔力栓のことを教えてくれた。
 僕の魔力栓も、僕が『異物』を感じ取って気づいた。

「ロナ、治せる?」
「はい、この程度なら可能です。治療しますか?」
「うん、お願い」
「かしこまりました」

 ロナはロバートさんの足を下ろして、魔力栓があるところに指を当てた。
 ロナが言うには、魔力栓に魔力の熱を通して溶かしているらしい。
 五秒くらいで指を離したので、治療が終わったんだろう。

「これで大丈夫です。魔力を消費しなければまたできる可能性があるので、しばらくは定期的に魔力を使用してください」
「は、はぁ……」
「ロバートさん、ちょっと立ってみて」

 僕はロバートさんの腕を引っ張るようにして立ち上がらせる。僕の力だけじゃ立ち上がらせることはできないから、ロバートさんが自分で立ち上がってくれたんだろうけど。

「どう?痛くない?」
「……はい、大丈夫です」

 ロバートさんは何度か右足で地面を踏むけど、もう痛そうな顔はしていない。右足もしっかりと動いていて、動きはとてもよくなっていた。やっぱり、魔力栓があったから痛かったんだ。

「よかった。それじゃあ、気をつけて訓練してきてね」
「はい、ありがとうございます」

 ロバートさんはペコリと頭を下げて、訓練に戻っていった。

「お前……ロナだっけ?」
「はい。何かご用でしょうか、ジークハルト第二王子殿下」
「お前、魔力栓なんてどこで知ったんだ?俺は聞いたことねぇぞ?」

 言われてみれば、どこで知ったんだろう?魔力栓という言葉は、僕が今まで読んだ本には書いてなかった。

「友人の親から聞きました。私の友人が魔力が多く、魔力栓もできやすい体質だったので、私も治療できるようにと教えてもらいましたので」

 その友人って、もしかしてかあさまかな?ロナからはかあさまの話はあまり聞かない。僕を生んでくれたこと、忘却の術を使ったことくらいしか、かあさまのことは聞いたことがない。
 かあさまが楽士として生活していたのも最近知ったことだしなぁ。

「治療方法はそこまで難しくはありません。魔力操作に長けた魔術師ならば誰でも可能かと」
「ふーん。俺は魔術はよくわかんねぇけど」

 ジークハルト兄上は魔術はあまり知らないのかな?王子ならば魔術のことも教えられると思うんだけど、そういうわけではないのかな。

「ならば、治療方法を伝えることはできるのか?」

 そう言ったのは、こちらのほうに歩いてくるエルンスト兄上だった。僕たちの話を聞いてたのかな。
 ジークハルト兄上も気になったのか、エルンスト兄上にたずねる。

「聞いてたのか?」
「途中からな。魔力栓というのは初めて聞いたが」

 エルンスト兄上も知らないんだ。それなら、魔力栓は誰でも知ってることというわけじゃなさそう?なら、ロナに魔力栓のことを教えてくれた友達の親はどうして知ってたのかな?

「伝えることはできますが、口頭で伝えるよりは体感してもらうほうが理解しやすいかと思います」
「体感?」
「相手の体に魔力の熱を通すというのは、言葉にすると簡単そうに聞こえますが、実際には魔力に熱を込めるというのは簡単な作業ではないので、それなりに魔力操作の訓練が必要になりますから」

 だから魔術師なら誰でもできるって言ったのかな。魔術師として生活できる人なら、魔力操作はそれなりにできるだろうから。

「相手に魔力そのものを流すというのは、魔力の流れを理解し、正確な位置に適切な量を流さなければなりません。少なすぎては意味がありませんし、多すぎても悪影響がありますから」

 少なすぎてもダメ、多すぎてもダメって、まるでお薬みたいだなぁ。

「ならば、そなたが直接教えれば問題はないか?」
「ご命令とあらば従いましょう」

 ロナはそう言いながら、僕を後ろから抱き締める。ロナに抱き締められるのは嬉しいけど、なんで今?

「私はジルベール殿下の侍女ですので、ジルベール殿下のご命令を最優先といたしますが」
「ああ、それで構わない」

 僕が見上げると、ロナが満足そうに笑っていた。第一王子であるエルンスト兄上に対して結構失礼なこと言ってたと思うんだけど、エルンスト兄上が特に驚いていなさそうなのを見ると、ロナはいつもこんな感じなのかな?
 ロナは僕の王子としての振るまいにいろいろと言ってくるのに、なんか不公平な気がする。

「エルンスト兄上、視察はおしまいですか?」
「そうだな。まだ少し団長と話すことがあるが、ほぼ終わっている」
「じゃあ、僕は帰ります」

 なんとなく、ここにいたくない。なんでかはわからないけど。

「ロナ、帰ろ」
「かしこまりました」
「エルンスト兄上、ジークハルト兄上。失礼いたします」

 僕はロナの腕を引っ張って、蒼星宮に帰った。
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